100001HITしていただいたみどりさまのリクエストです。

お題は…。

「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」というお題を頂きました。

正直言って、このリクはきつい!さすがにお知り合い。私の弱点を熟知しておられる。

でもでも、天邪鬼ですから、私。例によって方向性を捻じ曲げるなんてお茶の子…ではないなぁ。このお題じゃ。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります、100001HIT記念SSは…。まずは、プロローグです。

 

 

 


 

「嫌い、嫌い!みんな嫌い!大嫌い!」

 

アスカがおかしくなった。

あれから。

どうしてあんなにまでなってしまうのか、よくわからない。

使徒に心を覗かれたっていっても、身体を汚されたわけじゃないのに。

あのあとは声をかけても全然返事もしないし…。

わけがわからない。

 

 

 

The Longest Day

 

〜 覚醒 〜


100001HITリクSS

2003.11.26         ジュン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミサトさんは全然帰ってこない。

 アスカは病院に収容されたままだ。。

 一人ぼっちの家。

 静かだ。

 もともと騒がしいのは好きじゃない。

 ミサトさんやアスカが馬鹿騒ぎをしているのだって、正直辟易していた。

 そっとしておいて欲しかった。

 干渉しないで欲しかった。

 一人で静かにしていたかったんだ。

 その望みは今叶えられた。

 でも。

 寂しい。

 誰もいない家。

 僕が何かしない限り、何の音もしない。

 ペンペンだっていつの間にかいなくなっている。

 ふと気が付いて餌をあげようとしたら、どこにもいなかったんだ。

 ミサトさんがどこかに預けたのかな…?

 常夏で決して寒くはないはずなのに、足元から寒々とした空気が上ってくるみたいだ。

 食事はもちろんインスタント。

 しかも2人がいないんだから、御飯だって炊く必要なんかない。

 お風呂だって、アスカがいないのに湯船にお湯を張ろうとは思わない。

 シャワーで充分だ。

 それから見る気なんて全然ないのに、テレビをつけている。

 なんだかお笑い番組みたいだけど、面白くも何ともない。

 こんな時期にこんな番組をしているのも変な話だけどね。

 まあ、僕が当事者だから余計にそう思うんだろう。

 番組の内容なんかどうでもいいんだ。ただ寂しいから音が欲しいだけ。

 音楽だけじゃダメなんだ。

 人の話す声が聞きたい。

 

 その夜、部屋の扉を開けて寝た。

 

 学校には行く気がしない。

 ネルフにも。

 呼び出されてはいないんだから。

 アスカのお見舞いには……。

 行ったってどうせ喜ばないだろうし、やめた。

 それにあそこにはトウジが入院しているし…。

 あれからトウジとは顔を合わしてない。

 何て喋ったらいいかもわからない。

 洞木さんに会うのも辛い。

 毎日、トウジのお見舞いに来ているらしいけど。

 ということは、洞木さんはトウジのことを好きだったんだ。

 そのトウジの脚を僕が…!

 そんな彼女にどんな顔ができるっていうんだ。

 学校に行きたくない理由は何も知らない洞木さんに会いたくないからなんだ。

 

 チェロを弾いた。

 でも、3分も経たずに手を止めてしまった。

 弦を弾いても、心は弾まない。

 

 居場所がない。

 どこにも。

 

 いつの間にか、アスカの部屋にいた。

 ベッドを背にして顔を覆った。

 そのままどのくらいの時間が経ったんだろう。

 気が付いたら、もう窓の外は夕闇に包まれている。

 よろよろと立ち上がって、台所に向かう。

 カップラーメンに湯を注ぎ、呆然とそれを眺めていた。

 そして、10分以上過ぎた頃、とても食べられたものじゃなくなっているその代物を流しに捨てた。

 もういいや。

 あの時はおなかが空いていたのに、もう満腹みたいな感じになってる。

 そのあと、わき目も振らずにまたアスカの部屋に戻った。

 今度はベッドの上に脱ぎ散らかされていた制服が目に入る。

 おかしいな。さっきは全然目に入ってなかったのに。

 きっと学校帰りに招集がかかって、そのまま出てきたんだ。

 そのあと、アスカは一度もこの部屋に帰ってこられなかった。

 なんだか、その制服が主の帰りを待っているような妙な感じがする。

 このままにしておいた方が、アスカが帰ってくるような…。

 でも、もし帰ってくるならば、すぐに横になれるようにしておいた方がいいかもしれない。

 はは…、考え過ぎなんだろうな、いつも。

 苦笑しながら制服をクローゼットに片付けようとした。

 こんなとこを見られたら、また「変態!」とか叫ばれるんだろうな。

 それでもいい。何でもいいから、叫んで欲しい。

 アスカ…。

 無意識に彼女の制服を抱きしめている自分に気が付いた。

 かすかにわき上がってくる、アスカの香り。

 どんな香りかなんて表現はできないけど、アスカの香りだ。

 どうしてかわかんないけど、涙が出てきた。

 寂しいの、かな…?

 元気なアスカに構って欲しいの、かも…。

 ああ、いけない、制服に皺がいっちゃうよ。

 慌てて、クローゼットの扉を開く。

 空いてるハンガーを探していると、あの服が目に入った。

 ユニゾンの時のお揃いの服。

 その服がビニールに包まれてハンガーにかかっている。

 とても大切にしているように見えるのは僻目だろうか。

 僕の方の服はどうしただろうか?

 覚えていない。

 確かあの後、洗濯して…アスカの分と並べてベランダに干した。

 そして…それから…どうしたっけ…?

 制服をハンガーにかけて、自分の部屋に戻った。

 あの服を探す。

 箪笥の中。他に入れてそうな場所。

 ない。どこにもない。

 まさか、処分なんかしてないはずだ。

 散々探したけど、やっぱりどこにもない。

 おかしいなぁ…。

 首を捻りながらアスカの部屋に戻って、アスカの方の服を眺めた。

 すると、ようやく僕の服の行き先がわかった。

 クローゼットのビニールの中の服は2枚重なっていたんだ。

 アスカがどうして?

 わからない。

 自分のだけじゃなく、どうして僕のまであんなに大事に…。

 そう。やっぱり大事に保管してあるようにしか見えない。

 記念…?

 保管してあるんだから、なんかの記念なんだろうな。

 だけど、あんなのがどうして記念になるんだろう?

 他の服にはビニールなんか入ってないし、僕のと一緒に…。

 はは、まさかね。

 ふと浮かんだ考えを即座に打ち消した。

 そりゃあ、いつかのように遊びでキスしたことはあるけど、僕とアスカは…。

 アスカは暇つぶしだって言ってたよね。

 僕の方は…。

 アスカのことをどう思ってるんだろう。

 考える時間は腐るほどあった。

 いつの間にかその場で眠り込むまで、2人の関係を漠然と考え続けていたんだ。

 

 

 翌朝。

 目覚めたとき、朝日が窓から差し込んでいた。

 その明るさと同じくらいの存在感を見せているものがクローゼットの中に見えた。

 しょぼしょぼする目を擦ってよく見てみると、それはあの黄色いワンピースだった。

 あの時のアスカ。

 自信満々で、会った途端に僕のことを振り回した。

 アスカ。

 惣流・アスカ・ラングレー。

 ドイツから来たセカンドチルドレン。

 大学にまで行ってる、自称天才美少女。

 確かに頭はいいし、顔だって綺麗だし、スタイルもいい。

 性格は、唯我独尊だけど、もちろん子供っぽいところもある。

 ドイツにはお母さんがいるくらいのことしか知らない。

 親戚や友達のことも聞いたことがない。

 日本では洞木さんと友達だけど、何故か綾波とは仲が悪い。

 あ、綾波の方はわかんないや。アスカのことをどう思ってるかは。

 とにかくアスカは綾波のことを毛嫌いしているように思える。

 それから…。

 加持さんのことを好きなんだよな。

 加持さんか…。

 どこにいっちゃったんだろう?

 あんなカッコいい人と僕なんて…月とすっぽんどころじゃないや。

 あれ?どうして、加持さんと僕を比べるんだ?

 比較にならないのに。変な僕。

 

 何ヶ月も一緒にいながら、僕が知っているアスカのことといえばそれくらいのことだけだった。

 あんなに一緒にいたのに、知っていることは上辺だけ。

 知ろうとしなかったから?

 僕がそんなことをしたら、アスカがきっと怒るから?

 怒られるのがイヤだから?

 違う。

 怒られるからじゃなくて、そこまでして知ろうとは思わなかったんだ。

 話したいことなら話すはずだもの。

 僕だって…そうなんだから。

 

 あ…。

 もしかして、アスカも僕と同じ?

 話すと自分が惨めになるだけだから話さないのかな?

 同情されるのがいやなんだ。

 僕だって褒めて欲しいけど、同情なんか…。

 褒めて、欲しい…?

 

「すごいでしょ!」

「ほら見て!」

「やだ!そんなのカッコ悪い!」

「ばっかみたい!」

「馬鹿シンジ!」

「ママ…」

「嫌い、嫌い、みんな嫌い、大嫌い!」

 

 その時、ようやく思い当たった。

 あの使徒はそんなアスカのすべてを覗いたんだ。

 アスカが隠していることまで。

 僕やミサトさんに見せたくない、話したくないことまで。

 そんなものを洗いざらい見たんだ。

 そのことに気がついた途端に、突然胸が苦しくなった。

 そして、あの使徒を…あいつを激しく憎んでいる自分を見つけたんだ。

 もう影も形もなくなってしまっているあいつの事を。

 アスカのすべてを知っているあいつを許せない。

 知られたくないことまで知っているあいつを。

 そして、もう一人のことも憎んだ。

 いや、軽蔑した。

 僕のことだ。

 心の底まで覗かれたアスカの苦しみ、悲しみを理解することが出来なかった僕のことを。

「よかったね、アスカ」

 何がよかったんだ。

 アスカの心までまったく考えてなかった。

 表面上の慰め。

 心のまったくこもってない、おざなりな言葉。

 僕のあの言葉は、アスカの心の傷をさらに酷くしたに違いない。

 くそっ!

 くそっ!くそっ!

 碇シンジの大バカ野郎!

 今流れている涙は、僕のためじゃない。

 一緒に暮らして、一緒に戦ってきた仲間の僕にまで傷つけられたアスカのために。

 生まれて初めて、他人のために流した涙。

 そして、不甲斐ない僕のための悔し涙。

 

 

 行こう。

 病院へ。

 アスカのところへ。

 多分、僕のことを受け入れてはくれないだろう。

 でも、それでもいい。

 僕にはそうしなければいけない義務がある。

 許してもらうんじゃない。

 そんなのは自分の心を慰めるだけのものだ。

 それより、アスカを救いたい。

 元気なアスカに戻って欲しい。

 そして、アスカともっと話をしたい。

 いろいろなことを話したいんだ。

 そう…。

 アスカのことを知りたいと思ったから。

 僕のことをもっと知って欲しいと思ったから。

 

 つまり…つまり……。

 

 その朝。

 アスカが心を覗かれてから2日目の朝。

 そのアスカを好きだということにやっと気がついたんだ。

 

 今日は、僕にとって、一番長い日になるだろう。

 

 

 

 

 

The Longest Day  〜覚醒〜  おわり

 

2003.11.26

 

〜強奪〜 へ続く


<あとがき>+<いいわけ>

 みどり様よりいただいた、100001HIT記念リクエストSSの前編です。やっぱり、1作ではまとまりませんでした。

 リクエスト内容は、「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」

 以上のお題でした。

 そしてもうひとつ、隠しお題がありました。

 シンジ一人称の中に<僕は>を使わないこと、というお題が入っていたのです。

 僕は、を多用することでシンジの弱い部分を表現していたので、このお題はつらい!気軽に受けたのがまずかった。

 ということで、このお話は当然のごとく続いちゃいます。ここで切りたいところなのですが、許してくれないでしょう。

 まあ、後の展開は予想がつくとは思いますが、もう止まらない。

 アスカ崩壊なんてぶっ飛ばせ!壊してなるものか!23話なんかないことにしてやるもんね。

 って、また本編準拠の方にお叱りをいただくだろうなぁ。

 ま、お題の通りに最初だけは22話のラストに準拠して…るつもりなんですが。私なんてこんなもんです。はい。

 因みに「The Longest Day」は映画「史上最大の作戦」の原題ですね。(もちろん、C・ライアンの原作もこっちです)

 ロンメル将軍がやがて来襲するはずの連合軍のことを考え、上陸作戦のその日がドイツ軍にとっても連合軍にとっても「一番長い日になるだろう」と言った言葉がそのまま題名になっています。映画では将軍がその言葉を発した時に、ベートーベンの「運命」がかかるんです。この作品ではそういう想像はしないでくださいね。みっともなくて恥ずかしいですから。(じゃ、そんな題名つけるな!って反論はこっちの棚に置いといて…)

 では、次回。「The Longest Day 〜強奪〜」へ続きます。

 

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