100001HITしていただいたみどりさまのリクエストです。

お題は…。

「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」というお題を頂きました。

正直言って、このリクはきつい!さすがにお知り合い。私の弱点を熟知しておられる。

でもでも、天邪鬼ですから、私。例によって方向性を捻じ曲げるなんてお茶の子…ではないなぁ。このお題じゃ。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります、100001HIT記念SSは…。前中後編で終わらせるつもりが、もう少しかかりそう。

やっぱりタイトルどおり、一番長い日になりそう。

 

 


 

 ジオフロント内に設営されている病院。

 トウジは一般病棟に移されている。

 フォースチルドレンだったけどもうパイロットとしては考えられてないようだ。

 相変わらず冷たいやり方だと思う。

 アスカは…。

 特別病棟のさらに奥。

 黒服さんたちが何人もいる廊下を通っていかなければならない。

 散々チェックされてようやくたどり着いた扉には、面会謝絶の白い札。

 そして鍵がしっかり外側からかかっていた。

 どうしよう……?

 

 

 

The Longest Day

 

〜 接触 〜


100001HITリクSS

2003.11.29         ジュン

 

 

 

 

 普通ならミサトさんに頼むべきなんだけど、最近のミサトさんは怖い。

 怒鳴ったりされるわけじゃないけど、あの目が怖い。

 据わってるっていうんだろうか?何かをじっと睨んでいるような感じだ。

 それに、パイロットの健康管理はリツコさんの担当なんだろうし。

 やっぱりリツコさんに頼むしかないよね。

 ちゃんとリツコさんが納得できるように説明できるだろうか?

 あのリツコさんに。

 

「なぜ?面会謝絶って意味をわかってるわよね。

 人に会わせると病状がよくならないからそうしてるのよ。

 お見舞いなんて無意味。いえ、アスカの場合、悪化するわね。間違いなく。

 だからシンジ君がアスカに会う必要はないの。わかった?」

 

 はは…、論理的、かつ簡潔に拒否されたよ。

 それだけ言ってしまうと、リツコさんは僕の方から机に向き直った。

 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 アスカへの想いに目覚めたんだから。

「お願いします!アスカに会わせてください!」

「ダメよ。それに会ってもお互いが傷つくだけだわ」

「どうしてですか?」

「アスカはシンジ君のことを憎んでいる。まあ、あなただけではないけど。

 自分以外の人間を…いいえ、私が見たところじゃ、自分自身も憎んでいるわ」

「わかってます。それは」

「あの子のことだから、かなりきついことを言うわよ。シンジ君には耐えられない」

 リツコさんは机の書類を読みながら、そっけなく言う。

 それはそうだろう。

 昨日までの僕だったら、アスカに暴言を吐かれたら間違いなく落ち込んでしまう。

「大丈夫です。悪いのは僕ですから」

 その時、リツコさんが顔を上げた。

 ゆっくりと僕を見る。

 僕という素材を分析するように、冷静な目で。

 僕はその目をじっと見つめた。

 しばらくして、リツコさんの目が一瞬笑ったように見えた。

 その暖かそうな煌きはすぐに消え、元の科学者の目に戻る。

「そう…。でも、シンジ君?アスカは難しいわよ。

 自分で白と確信していても、意地だけで黒だと言い張る。あなたのような優しい子には…」

「僕は優しくなんかありません!自分のことしか考えていない、自分の身を守ることしか考えてない酷いやつです」

「あら、そう?標準装備で火口に飛び込んだのは誰だったかしら?」

「あ、あれは…」

 無我夢中でやったことだ。

 アスカが死んでしまうと思った瞬間に、勝手に身体が動いていた。

 視線を戻すと、リツコさんの瞳にまたあの暖かさが戻っていた。

「きっと、そのころから…。いえ、会った時からかもしれないわね。あなたたちは似ているから」

「え?僕とアスカが…ですか」

 リツコさんは頷いた。

 そんな馬鹿な。僕とアスカが似ているだなんて、絶対にありえない。

「まあ、いいわ。シンジ君にその覚悟があるのなら、アスカを助けられるかもしれない」

 その言葉に大きく頷く。

「とにかく、今は情緒不安定の最たるものよ」

 リツコさんはモニターを切り替えた。

 ずたずたに裂かれたシーツ。

 ベッド以外何もない6畳くらいの無機質な部屋だ。

 アスカはその部屋の隅に膝を抱えて座っている。

 表情まではわからないけど、何かブツブツ呟いているみたいだ。

「あんな感じ。それでも会う?」

「はい!今すぐ」

「シンジ君が入ったら扉の鍵を閉めるわよ。それであの部屋は密室状態。

 モニターがあるけど、もしアスカがおかしくなってあなたに危害を加えても間に合わないかもしれない」

 唇を噛みしめ、もう一度大きく頷いた。

「そう…。アスカは幸せね」

「はい?」

 リツコさんは立ち上がって、白衣のポケットに手を突っ込んだ。

 そして、天井を見上げてぼそりと言った。

「血かしら?一人の女しか愛せない、不器用な血。でも…」

 何のことだろう。

 今日のリツコさんは言ってることがよくわからない。

 いつもみたいに、明解、かつ端的な話し方じゃない。

 でも、何だかすごく…暖かい、感じがする。

 リツコさんは後は無言だった。

 さっさと扉の方へ歩いていく。

 慌ててその背中を追う。

 

 カチャリ…。

 静かな廊下に鍵を回した音が響く。

 すると部屋の中で急に物音がした。

「誰であっても落ち込んでる姿を見られたくない。アスカらしいわね。

 でもそういう見栄さえもなくなってしまったら、精神が完全に崩壊するわ」

 まるで理科の先生のように淡々とリツコさんは説明する。

 でも、その後に僕に向かってにこりと微笑んだんだ。

「がんばってね、シンジ君。ネルフの人間じゃなく一人の女として、アスカのことをお願いするわ」

「え…」

 今日のリツコさんは言ってることが難しい。

 よくわからないけど、とにかくがんばるしかない。

「はい、やります」

 リツコさんは軽く頷いて、ノブを回した。

 扉の向こう。部屋の奥でアスカが扉に背中を向けて立っている。

 僕が部屋の中に入ると、背中で扉がガシャンと閉まった。

 そして、鍵の音。

「はん!逃げないように鍵かけるってわけ?リツ…」

 振り向いたアスカの言葉が止まった。

 僕を見たからだ。

 不敵に笑っていた顔が引き攣る。

「アス…」

 ばしぃんっ!

 ベッドに転がっていた枕が僕の足元に炸裂した。

 体力、落ちてるんだ。

 今の、絶対に僕の身体を狙ったはずなのに。

「出てけっ!」

 どこから声が出ているのかと思うくらいの、絶叫が部屋に響く。

「出てけ、出てけ、出てけっ!」

「イヤだ」

 僕のはっきりとした返事に、アスカがはっとなった。

 でも、その表情は一瞬で消えた。

 そして、引き攣った…邪悪な感じの笑みを浮かべる。

「ふん。わざわざエースパイロット様がお見舞いに来ていただけたってことか」

 アスカは肩をすくめた。

「出て行ってよね。アンタの顔なんか見たくもないんだから。口もききたくないわよっ!」

「イヤだ。僕は、ここから、出て行かない」

 はっきりと言った。

 こんな言い方をすれば、アスカが怒るのはわかっている。

 案の定、アスカの眉がぐっと上がった。

「へぇ、ずいぶんご立派な態度よね。

 そっか、エースの自覚が出てきたって事ぉ?

 それで、落ちこぼれのパイロットを慰めに来たの?

 あ、それとも慰み者にでもするのかなぁ?」

 正直に言って、かなりむっと来た。

 相手が女の子なのに、頬を殴りつけたくなるような衝動に駆られた。

 ダメだ。抑えなきゃ!

「何よ、その顔。頭にきたって顔してんわよ。

 ホントのことを言われたから?

 どうせ、私なんかもうその程度の価値しかないんでしょ。

 はん!アンタになんか…ひっ!」

 僕が一歩前に進んだのに反応して、アスカの顔が歪んだ。

 じりじりと後ずさりして、壁に背中をつける。

 明らかにアスカは怯えていた。

 この僕に…!

 少しばかりの悲しみが僕を襲う。

 でも、それよりも、そんなアスカのことが可哀相で仕方がなかった。

「大丈夫だよ。何もしないから」

「う、嘘、嘘っ!」

 アスカは大きく頭を振ると、僕の横を走りぬけた。

 そして、扉を開けようとするが、鍵は内側からは開かない。

 がちゃ、がちゃっと空回りするノブ。

 遂にアスカはその両の拳でスチール製の扉を叩き始めた。

 ごんっごんっ!

「開けてっ!出してっ!怖いっ!」

 違う…。

 僕が知っているアスカじゃない。

 まるで子供みたいに…。

 あ…。

 そうじゃないか。

 僕もアスカもまだ子供じゃないか。

 大人への階段を上っていってるけど、まだ上り始めたばかりじゃないか。

 アスカは…。

 アスカはその階段を一気に走って上っていったんだ。

 だから、だから、その階段から転がり落ちたときにこんなに…。

 それだけじゃないと思う。

 きっと他にもいろいろな理由があるんだと。

 でも、僕と同い年であそこまでがんばってきたんだ。

 震えるアスカの背中を抱きしめたくて仕方がない。

 その気持ちを必死で抑えた。

 そんなことをすれば、アスカはさらに反発するだけだ。

「お願いっ!助けてっ!」

 いけない。

 あの調子で叩いてたら、拳を傷めてしまう!

 アスカの反応はとても怖かったけど、その手首を僕は掴んだ。

「きゃああああっ!」

 予想以上の反応だった。

 さすがに至近距離からの蹴りはこたえた。

 金切り声を上げ続けながら、キックの連打。

 やっぱり戦闘訓練を受けていただけのことはあるよ。

 もし体力が落ちてなかったら、僕なんてボロボロにされていたと思う。

 それでも、多分膝頭とかは…痣になってるんじゃないかな。

 痛いよ、やっぱり。

 叫ぶのと、身体を動かすのに疲れきった頃を見計らって、アスカの身体をベッドの方へ引っ張っていった。

 また、変な想像をされたらかなわないから、アスカを強引にベッドの縁に座らせると、すぐに扉の方に下がった。

 そして、扉を背にそこに座った。

 思わず、蹴られたところを点検してみた。

 ズボンの裾をまくると、うわっ!やっぱり痣ができてる。

 本当に遠慮なくやられたもんなぁ。

「はん!私の身体に触ろうとするからよっ!アンタなんてエヴァに乗ってなければ、ただの冴えない、情けないヤツじゃない!」

 はは…、その通りだ。

「何笑ってんのよ!おっかしいんじゃないっ!いつもへらへら笑ってさ。

 どうして、アンタなんかがシンクロ率が高いのよっ!」

 ベッドに座ったまま、アスカが毒づく。

 僕を睨む目が鋭い。

 逃げ出してしまいたい…。

 だけど、ダメだ。逃げちゃダメだ。

 アスカの思ってることを全部吐き出させる方がいい。

「何とか言いなさいよ!そんな顔で私を黙って見るなっ!」

 自分の顔を触ってみる。

 そんな顔ってどんな顔?

「だ、だって、話したくないって」

「アンタ馬鹿ぁ?そんなとこに座り込まれてじっと私の顔見られてる方が気持ち悪いじゃない!」

 気持ち悪い…か。

 そうだろうなぁ、きっと。

「はん!慰めに来てくれたんでしょ!さっさと何か言えば?!」

「え、えっと…慰めるって、そんなんじゃなくて」

「じゃ、やっぱり身体が目的ぃっ!」

 アスカが表情と身体を硬くした。

「と、と、とんでもないっ!」

「何よ、その反応はっ!はん!どうせ私の身体なんか、アンタにゃ全然魅力ないんだ!」

「あるよ!あるに決まってるじゃないかっ!」 

 まずい…。

 反射的に叫んでしまった。

 これじゃ、身体が目的だって誤解を上塗りしてしまうじゃないか。

 ほら、アスカだって目を丸くしている。

 あ、でも、あの表情。

 少し前の、元気な時のアスカの…。

 だけど、すぐにそんなアスカは引っ込んでしまった。

 また、元のように硬い表情。すべてを敵と見なしてるような鋭い目。

「へぇ…、やっぱりそうなんだ。もう私なんてそれくらいの利用価値しかないんだ」

「ち、違うってば!身体だけじゃない!」

 ああ、僕の馬鹿。

 やっぱり、馬鹿シンジだ。

 身体も目的だって完全に認めてしまってるじゃないか。

 何とか言わないと!

「僕はアスカの心も身体もすべてが欲しいんだ!」

 ……。

 しまった。

 確かにそう思ってるけど、こんなことを言ったら…。

「アンタ、あのスケベ使徒と一緒っ?!」

 アスカは立ち上がって、腰に手をやった。

 そうくると思った。

「ち、違う…」

「何が違うのよ!アンタ、今自分で言ったじゃない!

 私のすべてが欲しいってさ!身体だけじゃなくて、心もだなんて図々しいっ!

 馬鹿シンジの癖にっ!

 それって、自分だけの私にしたいってことよね。

 それって…」

 アスカが口ごもった。

「それって…、それって……」

 ああ、もう我慢できない。

「好きなんだっ!アスカのことが!」

 言ってしまった。

 これじゃ、アスカを混乱させているだけじゃないか…。

 告白はしようと決意していたけど、こんな顔を合わした早々だとは考えてなかった。

 でも、心の痞えが消え去ったような、少しすっとしたような気持ちになった。

 いや、ダメじゃないか、自分だけすっとしてどうするんだ。

 アスカのためにここに来ているんじゃないか!

 本当にダメなヤツだ、僕って男は。

 アスカは仁王立ちして、僕の顔を睨んでいる。

 ほら、アスカの顔。

 完全に、怒って………ない?

 

 

 

 

 

 

 

〜強奪〜 へ続く


<あとがき>

 タイトルが強奪から接触に変わってしまいました。次回が強奪となります。

 ということは、少し話が長くなりそうな予感。

 で、話がシリアスから離れて行ってるような…って、まあ私の作品ですから。

 

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