「馬鹿シンジ、そのまま弾き続けるのよ」

 僕は目を開けた。
 その前には、アスカは椅子に座って静かに眼を閉じていたんだ。
 だから僕も気分よく演奏していたってわけ。
 おとなしく聴いているって事は酷い演奏じゃないって思ってくれているわけだし、
 チェロを弾いている人間としては気持ちがいいもんね。
 それが今は立ち上がって、腕を組んで顔だけぷいと横を向いている。

「えっ?アスカ、寝るの?」

「うっさいわね、アタシの勝手でしょ」

「寝るんなら弾かなくてもいいじゃないか」

「アンタ馬鹿ぁ?光栄に思いなさいよ。
 アンタの下手っぴいな音楽を子守唄にしてあげようって言ってあげてんじゃないっ。
 つべこべ言わずに腕を動かしなさいよっ」

「酷いよ、そんなの…」

「あ、念のために言っておくけど。
 アタシが寝付く前に曲が途切れたら、アンタ、ただじゃ済まさないからね!」

 アスカはそれだけ言い残すと、金髪を左右に振りながら部屋の方へ歩いていった。
 結局、僕とは眼を合わさないままだった。
 僕は彼女の理不尽さに溜息を吐きながらも、それでも従順に腕は動かし続けていた。
 ああ、あとどれだけ弾き続ければいいんだろ。
 なんてアスカは暴君なんだろうか。
 まあ、今日に限ったことじゃないけれど。

 アスカが部屋に消えてから30分は過ぎた。
 壁の時計は12時を過ぎたところだ。
 もう、いいかなぁ…。
 
「もういいかい?」

 僕は小さな声で呟いた。
 だって大きな声で叫んで、『まだ起きてるわよ!』なんて怒鳴られたら薮蛇だし。
 ドイツにもかくれんぼはあるんだろうか?
 とりあえず、この楽章が終わるところまで弾こうか。
 


チェロ弾きの少年

 


 

2007.12.04         ジュン





「シンちゃん、昨日はどうだった?」

「はい?昨日…ですか?」

 僕は首を傾げた。
 ミサトさんはにこにこ…というよりも、にんまりと笑っている。
 明らかにからかってきている感じだ。
 でも、質問の意味がよくわからない。
 だいたいアスカもそうだけど、女の人ってどうして“何が”とか“何を”とかを省くんだろう。
 僕一人早退してシンクロテストを受けた後、ミサトさんに休憩室に連れ込まれたんだけど、かなりハイテンションでさ。
 昨日のことばかり質問してくるんだ。
 
「えっと、日曜日だから、ずっと家にいましたけど…」

「あらン、ショッピングとか、そうね、遊園地とか行かなかったの?アスカと一緒に」

「はぁ?アスカと?」

 本当にわけがわからない。
 遊園地なんてデートじゃあるまいし。
 
「いいえ。アスカもずっと家にいましたよ」

「ふぅ〜ん、そうなんだ」

 ミサトさんはごくりと紙コップのコーヒーを飲んだ。
 それに釣られるように僕も紙コップを唇に近づける。
 ああ、やっぱりコーヒーじゃなくて、カフェオーレにしておけばよかった。
 ブラックなんてどうして選ぶんですか、ミサトさん?
 いくら奢りだって勝手に自分と同じものにしないで下さい。

「じゃあさ、晩御飯は何にしたの?シンちゃんの手作り?」

「ご飯だけは。後は冷凍ハンバーグとスープと“レンジでポテト”ですけど」

「あれっ、じゃ全部インスタント?」

「はい。いつも通り」

 僕は不満だった。
 だってそうじゃないか。
 家事を分担するだなんて嘘ばっかりで、全部僕がしてるんだから。
 普通の中学生の男子で料理が得意だなんているわけない。
 
「アスカは文句言わなかった?」

「いいえ。いつもと同じでしたけど?」

 何も言わずにむしゃくしゃ食べてた。
 ミサトさんは食べながらあれこれ喋るけど、アスカは案外無口な方だ。
 何となくイメージと違うんだけどね。
 あ、でもスイッチが入ったら食べるのはそっちのけで喋り続けるか。
 まあ、どっちにしても受け答えをする僕は積極的に返事はしないんだけど。

「へぇ、じゃお昼は?」

「カップラーメンです」

「じゃ、デザート!」

「そんなのなかったですよ。スーパーに行ってないから」

「ケーキも?」

「ありません」

 くどい。
 くどすぎる。
 でも、ミサトさんのからかい笑顔は少しずつ薄れてきていた。
 いったい昨日の食事がどうだっていうんだろう。

「そうなんだ。なぁんだ、せっかく昨日はお泊りしてあげたのになぁ」

 え、じゃ昨日は仕事じゃなかったの?
 でもどうして?どうして、わざと?わかんないよ。昨日に何かあったの?
 それでも僕は質問できなかった。
 いや、しなかったんだ。
 波風を立てずに生きていく。
 預けられたあの場所で、小さな僕が覚えた知恵だ。
 自己主張せずにじっとおとなしくしている。
 そうすれば誰に咎められることもない。
 そっとしておいてくれる。
 その代わり、誰も心から接してくれやしない。
 当たり前だよね。
 でも、この町に来て…。
 何かが変わりだした。
 ミサトさんやトウジたちはどうして僕なんかを相手にしてくれるんだろうか。
 全然、わからない。
 あのアスカだってそうだ。
 何が楽しくて僕なんかと一緒に住んでいるんだろうか?
 やっぱり僕をからかうのが面白くてかなぁ。

「ああっ!」

 その時、ミサトさんが大きく目を見開いた。

「な、なんですか!」

「ま、まさか、シンちゃん、アスカと…」

「は、はい?」

 ミサトさんがぐっと身体を乗り出してきた。
 そして僕のことをじっと見つめる。
 そんな目で見られると、居心地が悪い。
 まるで先生か何かに注意されているときみたいな感じだ。

「ごほん。ま、そんなことはないか。いつものシンちゃんだもんねぇ」

 ミサトさんは鼻で笑って、ちょんと指で僕のおでこを弾いた。
 本当に何なんだ?
 ここでそんな疑問を口にできるような僕じゃない。
 わけがわからなくてもそのままにしておくのが、やっぱり僕だってこと。
 
「そっか、てことは私だけってわけにもいかないわねぇ」

 また変なことを言い出した。
 ミサトさんは腕組みをして天井の方を見つめる。
 その視線を追ってみたけど、何の変哲もない蛍光灯の照明器具があるだけだ。
 
「ま、いっか。祝うようなもんでもないし、リツコとでも飲みに行くか」

「リツコさんと?」

「そっ、私ももうすぐ、あいつの仲間入りだからねぇ。はははっ、悔しいったらありゃしないわよ!」

 高笑いをしたミサトさんはコーヒーをぐっと飲み干して、空になった紙コップをぐしゃりと握りつぶした。
 うわぁ、何だか怖いや。
 でも、ミサトさんの奇妙な言葉はそれでおしまいだった。
 最後に千円札を1枚渡して、途中でケーキを買って帰れと言われたんだ。
 で、ミサトさんのリクエストは?って訊いたら、今日も帰れないから二人分だけでいいわよって。
 何なんだろ、たまにはケーキくらい食べろってことかな?



「ふぅ〜ん、で、これを買ってきたの?」

 アスカはちょんちょんとフォークでケーキの頭に乗っかっている苺をつついた。
 何にしようかと考えたんだけど、結局何の変哲もないショートケーキを買ったんだ。

「他のが良かった?」

「べっつに。まっ、ありがたくいただきましょうか」

「うん。いただきます」

「アリガト、ミサト」

 へ?
 今のアスカ、変じゃなかった?
 まあ、ご馳走になってるんだから、ありがとうでもいいんだけど、どこか調子がおかしかった。
 妙に真剣な感じっていうか何というか。
 でも彼女を見ると、いつものようにさっさとケーキを食べている。
 そして、アスカは顔も上げずに言ったんだ。

「何よ、アンタ、食べないの?」

「えっ、あ、食べるよ」

「食べないのなら、苺いただくわよ」

「だ、駄目だよ。とらないでよ」

 僕は慌ててフォークを苺に突き刺し、すぐに口の中に放り込んだ。
 ちっとアスカが舌打ちした。
 口の中に甘みと酸味がじゅわっと広がる。
 ふう、危うく強奪されるところだった。
 ほっとしながら苺の味を楽しんでいた僕だけど、お皿の上のケーキを見てがっくりときちゃった。
 だって、そこには苺のないショートケーキが真っ白な姿でぽつんといるだけなんだもん。
 アスカの方を見ると、彼女は苺の部分を残しながら他のところから食べている。
 僕だって普通はそんな感じで食べてるんだ。
 美味しいものは最後に食べたいもん。
 ああ、なんだか損した気分だ。

 デザートを終えて、リビングでぼけっとテレビを見ていた。
 お笑いタレントがゲームをしているバラエティ番組で、僕はいつもただ眺めているだけなんだ。
 すると、いきなり画面が消えた。
 びっくりしてアスカを見ると、彼女の手にはリモコンが握られている。

「馬鹿らしい」

「えっ、今のっていつもアスカが見ている番組だろ」

「うっさいわね、今日はそんな気分じゃないの」

「ふ〜ん」

 としか、言えない。
 アスカはリモコンをぽぉんと床のクッションに放り投げた。
 クッションでバウンドし、ころんと音を立ててリモコンは床に転がった。

「乱暴だなぁ、もう…」

「馬鹿シンジ、チェロ弾きなさいよ」

「ええっ、また?昨日もあんなに弾いたじゃないか」

「アンコール。名誉でしょうがっ。アンコールしてあげてんでしょ、さっさと用意しなさいよ」

「勘弁してよ」

「アンタね。アタシが寝るまで弾けって言ったわよね。
 すぐに弾くの止めてくれたじゃない?」

「じ、12時30分まで弾いただろ。アスカが寝たかどうかわからないじゃないか」

「ふんっ、確認もしないでさ。言い訳ってヤツね。アンタの負け。ほら、さっさと用意しなさいよ!」

 泣く子と地頭には勝てないって社会の授業で習ったばかりだけど、
 地頭のところをアスカって書き換えたい気分だ。
 どうせ逆らっても無駄なんだ。
 僕は不満だって身体中で表現しながら、部屋に向った。
 っていっても、肩を落としていただけなんだけどね。
 不満っていうより、落胆って感じかな?
 まさか毎晩弾けって言うんじゃないだろうなぁ。
 僕の下手なチェロなんかを聴いても面白くもないだろうに。
 あ、これってもしかして新しい虐め?
 
 





 ミサトさんの意味ありげな質問と、ケーキと、そして2日続きのチェロ。
 その3つが繋がったのは、それからかなり経ってからのことだった。

 アスカとふたりぼっちになって、それからみんなが赤い海から帰ってきて。
 でも、その中にお父さんとリツコさんとミサトさんの姿はなくて。
 これからどうしようかと途方にくれた僕たちを冬月さんが引き取ってくれた。
 まあ、冬月さんは名前だけの大家さんで実際には一緒に住んでいない。
 新築のマンションで僕たちの部屋は7階にあって、その両隣に知り合いが住んでいる。
 右側の部屋には新婚さんが家庭を築いていた。
 来年の春には三人家族になるので、ご主人の方は子守唄をギターで弾けるようにがんばっている。
 奥さんの方はせっかく伸ばし始めた髪を年明けにもまた短くするらしい。
 出産というものはその方がいいんだって。
 左側の部屋には、なんと綾波…じゃない、レイという名前の僕の妹が住んでいる。
 サードインパクトの後、真っ先に赤い海からぬっと出てきたのが彼女だったんだ。
 しかも真っ裸で。あの時、アスカにぶん殴られたっけ。あ、当然、僕が。
 レイは、サードインパクトの記憶をまったく持っていなかった。
 自爆したところからの知識がなくて。つまり、僕たちのよく知ってる、“綾波レイ”に他ならなかったんだ。
 で、アスカが根気良く、ああ、本当に根気良く、彼女はレイに教育をしてくれた。
 レイが僕の妹で血縁者なのだと、一生懸命に説明したんだ。
 まあ僕の方はあの光景を見てしまったわけだし、
 レイが母さんのクローン人間(?)みたいなものであることを素直に受け入れていた。
 そしてレイもあのいつもの調子で本心から納得しているのかどうかわからない様子で、『絆だから』の一言で了承してくれた。
 そんな妹のレイがどうして隣の部屋に一人暮らしをしているかというと…。
 僕たちの部屋の空気が嫌いなんだってさ。
 僕とアスカは男女の関係にだってなっていないし、キスだって…7回くらいしかしていないのに。
 だって冬月さんとの約束だから仕方がないんだ。
 正真正銘の恋人の関係になって離れて暮らすのと、清い関係のままで一緒に暮らすのとどっちがいいかって考えたら、
 二人とも答えは決まっていたわけで。
 そんな僕たちなのに、レイは『ピンク色の象が部屋の中を行進している』なんてわけのわからないことを言うんだよ。
 まあ、いいや。
 晩御飯とかは一緒に食べてるわけだし、レイの部屋はあの荒廃した団地とは大違いの女の子らしい状況になっている。
 洞木さんなんかは僕たちの部屋の方が余程殺風景だなんて言うくらいだ。
 そう、僕たちの友達たちはこぞってこの町に住んでいる。
 荒廃した第3新東京市から少し離れた町で、そこはどうやら近い将来に第4新東京市になるらしい。
 
 僕たちはまた以前のように大人のいない部屋で同居していたんだけど、前とは全然違った。
 エヴァに乗って使徒と戦うことをしなくてもいいからじゃない。
 部屋の中の空気が物凄く和やかなんだ。
 もうインスタント料理じゃなくてちゃんと調理してるし、何たってアスカも一緒に台所に立ってる。
 冬月さんが訪ねてくる時には、二人で頑張ってテーブルの上にご馳走を並べたりして。
 アスカと同じ高校に行きたいから、毎晩彼女に教えてもらっている。
 だって彼女は大学を卒業してるからね。でも国語と社会は二人で勉強してるんだ。
 本当に平和だ。
 もちろん、アスカとの口喧嘩は毎日のように起きている。
 でも、それが何故か尾を引かない。
 あのアスカが自分から「ごめん」って言うことだってあるんだ。
 信じられないだろ。あのアスカが、だよ。
 僕だって変わってるんだと思う。
 昔なら全部自分の中にしまっておいたんだけど、今は口にすることを覚えた。
 アスカは生意気になったって怒るんだけど、何だかそれが嬉しそうなんだ。
 ちゃんと相手をされているって感じるからだって一度口走ったことがある。
 そう考えると、昔の僕の方が生意気だったんじゃないかなぁ。
 自分の殻に閉じこもって周りの人の相手を真剣にしていなかったんだから。
 そりゃあ、アスカだっていらついたのは当然だよ。
 ただ、誰にでもこんなわけじゃない。
 本気で話ができるのはアスカだけかもしれない。
 他の人には本音を隠してしまうことがやっぱりある。
 でもそれは当然だと思うんだ。
 僕にとって、アスカは特別なんだから。

 あ、惚気じゃなくて、あの3つのことだったよね。
 繋がったのは赤い海のほとりでだった。
 もし誰も帰ってこなかったらどうしようかって僕が言いだして。
 するとアスカが馬鹿らしいって鼻で笑うんだ。
 死ぬまで生きていくだけよって。
 僕は素直に感心してしまったんだ。
 で、言ったんだ。
 何だか生まれ変わったみたいだって。
 これは本音だったんだ。
 たいした目標もないけど、とにかく生きたいと思ったんだ。
 今日を誕生日にしようかなって冗談なんかも言ったりして。
 するとアスカが訊ねて来た。
 僕の誕生日はいつかって。
 正直に6月6日だって答えたら、アスカは大袈裟に溜息を吐いた。

「仕方ないわね。じゃ、その日になったらお祝いしてあげるわよ」

「えっ、そ、そう?ありがとう。でも、アスカは?アスカの方が近いんじゃないの?」

「ううん。私のよりアンタの方が近いわ」

「そうなんだ。でも悪いなぁ。先に僕の方をお祝いしてもらうなんて」

「ふふん、残念でした。アタシはもうアンタにお祝いしてもらったもんねぇ」

「えっ、嘘だろ。覚えがないよ、全然」

 アスカはにっこりと笑った。
 そして、赤い海の方を見て少し寂しげな横顔を見せた。

「アンタにはチェロを聴かせてもらって。ミサトには一日遅れでケーキをご馳走してもらったし」

 その時だったんだ。
 あのミサトさんの質問とケーキとチェロが繋がったのは。
 鈍感な僕にしては見事な推理だろ。
 で、アスカにあの時のことかと質問したら、彼女は真っ赤になってこくんと頷いたんだ。
 一年前のあの時は誕生日を祝うってそれほど考えてなくて、単に思いついただけなんだってさ。
 まあ、その時は僕からのプレゼントって意味じゃなく、自分から自分へのプレゼント程度の意識だったらしい。
 つまりそこにいたのが僕だけだったってこと。
 それについては寂しくも何ともない。
 だってその当時は僕だってそうだったんだから。
 今は絶対にそうじゃない。
 アスカはただの同居人じゃないんだ。

 ミサトさんは帰れるものなら帰ってきたかったんだと思う。
 僕たちと本物の家族になりたいと本当に思っていたはずだ。
 でも、どんなに待ってもミサトさんはあの元気な姿を見せてくれない。
 きっとサードインパクトの前に、あの時に、僕をエヴァに乗せた時に、死んじゃったんだ。
 それがわかったのは、アスカと何度目かのキスをした時だ。
 アスカの口からふっとさくらんぼの匂いがして、夜に食べようって買ってあったのをつまみ食いしたのがわかったんだ。
 瞬間、僕は思い出した。
 最後にミサトさんが僕にしたキスの後味が何となくL.C.L.を連想したことを。
 あれは血の味だったんだ。
 あの時、もうミサトさんはどこかを撃たれてたんだ。
 口の中に血が溢れるくらいに。
 突然泣き出した僕にアスカは動転した。
 そんなにさくらんぼうが好きなのかって言われた時は、そんなことを思われる自分が情けなかったけど、
 ミサトさんのことを喋るとアスカもぽろぽろ泣き出してしまったんだ。
 もう絶対にミサトさんが帰ってこないことを理解して。
 まるで子供みたいに僕たちは肩を抱き合って泣いたんだ。
 お姉さんに置き去りにされた兄弟みたいに。
 それからしばらくして、僕はアスカに引っ叩かれた。
 ミサトさんと大人のキスをした罰だって。
 その後でアスカの命令で大人のキスをしたんだけど、
 どうやら口の中が切れてたみたいでアスカは顔を歪めて「キモチワルイ」って言うんだ。
 それほど強く横っ面を平手打ちしたのは自分だろ。
 まあ、いいや。
 今のところ、大人のキスは血の味だ。
 まだ僕たちは子供のキスでいい。
 あ、これは6月6日の話なんだ。
 レイたちも含めてみんなに誕生日を祝ってもらって、その夜にアスカからプレゼントを貰った。
 ちょっとよそ行き用って感じのカッターシャツだったんだけど、実はその色違いのシャツをアスカは自分で買っていたんだ。
 そのことを知らないでみんなで遊園地に遊びに行く時に「当然着ていくのよ!」と彼女に言われた。
 言われるがままに僕は寧ろ喜んでそのシャツを着ていったんだ。
 で、タンクトップを着ていたアスカは遊園地に行ってからバッグからシャツを取り出してきた。
 もちろん、にんまりと笑いながら、ね。
 ペアルックになってしまって恥ずかしいのなんのって。
 まあ、恥ずかしかったけど、やっぱり嬉しかった。
 アスカから貰った誕生日プレゼントだったんだからね。

 その後、アスカはアルバイトをはじめた。
 洞木さんと一緒にケーキ屋さんで働いているんだ。
 冬月さんにお小遣いまで貰っているのに、どうしてって訊いたら…。
 11月までにチェロを買いたいんだって。
 サードインパクトであのマンションと運命をともにした僕のチェロは確かにあれから買い直してなかったんだけど。
 で、僕もアルバイトを始めた。
 だって、こんなことを聞いたら、僕だってじっとしていられないだろ。

「今年もアンタのチェロを聴きたいのよ。アタシの誕生日にはさ。だから、アンタにチェロをプレゼントしてあげる。
 安物になっちゃうけど、ごめんね」

 僕がアルバイトを始める理由?
 そんなの当たり前じゃないか。
 今年の12月4日には、あの時よりもより一層心を込めた演奏と…。
 それから、何かプレゼントしたいだろ。
 この世の中で誰よりも大好きな女の子には。

 

<おわり>


 


<あとがき>

すみません。脈絡のない話になってしまいました。掲載する前に他の方々の作品を読んでしまったので、余計にがっくりきてしまいました。
以上、初回KOされたピッチャーのような気分のジュンでした。

 

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