33333HITしていただいたhammerさまのリクエストです。

お題は…。

「アスカとシンジが初対面」「コミック版第4巻がベース」「シンジが来日してくる」というお題を頂きました。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります。33333HIT記念SSは…。前後編のはずが…なんと中編です!

 

 

 


 



 スクリーンに映し出された映像を見て、アスカは恥ずかしくて堪らなかった。
 来日してから初めての敗戦。
 対使徒戦はこれで3勝1敗。
 その憎らしい第7使徒は国連軍のN2地雷でとりあえず沈黙。
 反省というよりも対策のために大画面で映像を流したのだが、
 結果的にアスカの敗戦を全員で確認したに過ぎない形となった。
 アスカは唇をぐっと結んだ。
 屈辱…。
 でも、私の読みは正しかった。
 使徒はもっと強くなっていく。
 だからこそ、隣に緊張して座っているお馬鹿を育てないといけないのよ。
 しかも大急ぎで。
 そのためには私はなんだってするわ!

 


33333HIT記念リクエストSS

 

シンジ、来日!

中編

 

ジュン

 

 


 アスカは冷静にあの時のことを振り返っていた。
 ここはアスカが住んでいるホテルの部屋である。
 ベッドに仰向けになって、天井を睨んでいる。
 あんなの反則よ…2体に分裂するなんて。
 あれに勝つためには…。
 ううん、それはミサトに任せておけばいいわ。
 それよりも、私にはやらなければならないことがあるのよ。
 シンジを立派なエヴァのパイロットに仕立て上げること。
 碇シンジか…。
 情けない臆病者だったはずなのに…。
 アスカが戸惑っているのには理由があった。
 あの時、一度は倒れたはずの使徒が分裂してアスカに突進してきた時のことだ。
 2体に挟まれそうになり、もうダメだと思ったその瞬間。
 初号機が突進してきて使徒に体当たりをした。
 弾き飛ばされた使徒はすぐに体勢を立て直したが、
 その数秒の間のおかげでアスカは絶体絶命の危機からは逃れることができた。
 最終的には、2機のエヴァンゲリオンは折り重なって倒されてしまったのだが、
 機体の損傷は驚くほど少なく、アスカとシンジも軽傷ですんでいた。

「あれって、馬鹿シンジのおかげなのよね…」

 天井を睨みつけたまま、アスカは声に出してそう言った。
 シンジが飛び出してこなければアスカは下手をすれば命を落としていたかもしれない。
 あの使徒から逃げ回っていた映像だけなら信じられない行為である。
 どうしてあんなことができたのか?
 後で問いただしてみても『わかんないよ』というはっきりしない返事が返ってきただけだった。

 アスカは熟考していた。

 そのままの姿勢で38分後には、熟睡していたのだが。



 

 

 翌日、アスカはリツコの部屋を訪れていた。
 シンジのデータを見たかったのだ。
 含み笑いをしながらリツコが見せたそのデータには、シンジの驚くべきシンクロ率が記入されていた。

「なによ、これ!レイよりも高いじゃない!」

「そうね、しかも乗るたびに高くなっていってるわ」

「信じらんない!これならもっと巧く戦えるはずじゃない!」

「そうね。そのはずよ」

「うっ…」

 唇をかみ締めたアスカは決意を固めた。
 これだけの資質を持っているのに、あの馬鹿は!
 こうなったら、私流であの馬鹿を私並み…ううん、それ以上のパイロットにしてやるんだから!
 アスカは燃えていた。

 そして、請求書の山に埋もれたミサトの元を訪れたアスカは驚くべき提案をしたのだ。

「だ、ダメよぉ!そんな!アンタたち、まだ中学生なのよ!」

 目をむいて叫ぶミサトにアスカは冷ややかな視線を送った。

「あのねぇ、ミサト。
 私は何もダブルベッドにしろなんて言ってないじゃない。
 ツインの部屋にして、あの馬鹿と寝泊りするって言ってるだけでしょ」

「そ、それがダメなんじゃない!男と女なのよ。アンタたちは」

「大丈夫よ。アイツが何かしてきたら、殺してやるから」

「あのねぇ、命を賭けてでも男はね」

「ああっ!もういいっ!ミサトには頼まないわっ!」

 アスカは部屋から飛び出していった。
 その扉が完全に閉まるのを見計らって、部屋の陰に身を潜めていた加持が出てきた。

「アスカも思い切ったことを言うな」

「もう、なにが何だか。シンジ君のことを気に入ったわけじゃないと思うけど」

「いや、これは使えるぞ」

「何が?」

「今度の使徒に対する作戦さ。それに、シンジ君を成長させることもできる。
 おい、葛城。案外、アスカの方が作戦部長に向いてるんじゃないか?」

「あのね、わかるように説明してくれる?」

 加持はわかるように説明した。
 そして、ミサトも一石が二鳥にも三鳥にもなりそうなその作戦に同意したのだ。

 


 

 

 数時間後、シンジはミサトに連れられて、ネルフ本部の通路を歩いていた。
 
「あ、あの…僕はどこに…」

「ふっふっふ…。とってもいいところよぉ。シンジ君にとっては天国かも」

「そんな…」

 そんな風に言われてその通りだった事はない。
 それがこれまでの人生での経験である。
 シンジは泣きたくなった。
 父さんの息子に生まれたからこんな目に合うんだ。
 僕なんか、エヴァのパイロットに向いてるわけないんだ。
 僕は…。

「はい、ここよ」

 扉が開いた。
 そして、その扉の向こうは文字通り天国が待っていたのだ。

「遅かったわね。入んなさいよ」

 黄色いワンピースのアスカがニッコリ微笑みながら立っている。

「あ、あの…」

「はい、ミサトは邪魔よ。じゃあね」

 ミサトの鼻先で扉は閉まった。
 中には14歳の少年と少女だけ。
 ミサトは軽く首を振って、肩をすくめた。
 ま、なるようになるでしょ。
 アスカを信用しますか。

「ようこそ、私たちの部屋に」

「私…たち?」

「そうよ、今日からここが私とアンタの部屋」

 アスカが軽く言ってのけたその言葉の意味を了解するのに、たっぴり15秒はかかった。
 
「えええっっ!!!」

「やっとわかった?はい、じゃまず荷物の整理。そこにアンタの荷物届いてるから」

 アスカの指差した先には男子寮に会ったはずの荷物が積まれていた。

「アンタ、チェロ弾くの?」

「う、うん。そんなに巧くないけどね…」

「じゃ、巧くなれるように練習することね。
 はい、アンタのクローゼットはあそこ。机は左のを使いなさいよ。それから…」

 テキパキとシンジに指示をするその姿に、シンジは見とれていた。
 憧れのアスカさんと同室……。
 同室!
 
「あ、あの…、惣流さんの部屋は?」

「は?さっき、二人の部屋っていったでしょ。
 この空間がすべてよ。あとは、キッチンとバス、トイレ。
 少し大きめのワンルームマンションってとこね」

 その説明を聞きながらシンジの視線は、部屋の隅に並んでいる2台のベッドのあたりを彷徨っていた。
 アスカはその目の動きを鼻で笑う。

「あ、スケベなことしたら、すぐに誰かが飛んでくるわよ。ほら」

 アスカは天井を見上げた。
 その視線を追うと、ビデオカメラが設置されていた。

「ま、誰か飛んでくる前に、この私がアンタを再起不能にしてあげるけどね」

 アスカは腕組みをしながら断言した。
 アスカは凄んだつもりだったが、シンジにはその表情も素敵にしか思えない。
 何しろ、アメリカでの研修という名のしごきの毎日の中で彼女の存在だけが支えだったのだから。
 まだ逢った事もない、憧れの君。
 そのアスカが目の前にいる。
 しかも、これから毎日同じ部屋で暮らす。
 まさに天国である。


 ビデオカメラはそんなニヤけたシンジの表情をしっかり捉えていた。

「シンジ君。だらしがないな」

「ああ…」

「どうなんだ。これで巧くいくのか?」

「ああ…」

 冬月は首を振った。

「わからんということか」

「ああ…」

 じっとモニターを見つめるゲンドウには、もはやアスカだけが頼りだった。
 日本で訓練しても思うようにシンクロ率が上がらず、訓練にも身が入っていない。
 甘えをなくすためにアメリカ支部に2年間預けたのだが、
 訓練の成績はいいのに実戦になると腰が引けてしまうという情けない結果だけが残った。
 シンジの初号機を中心に使徒を迎撃するはずの構想が根底から覆されてしまったのだ。
 従って、ゲンドウは政治的手腕をフルに生かし、ドイツからアスカを奪い取った。
 そのアスカは期待通りに3体の使徒を倒したのだが、この先は彼女とレイだけではまずい。
 初号機が必ず必要になってくる。
 そのために碇ユイは自ら初号機のコアになったのだ。
 それをあの馬鹿息子は…。


 


 

 

 アスカは荷物の整理をはじめたシンジを部屋に残して、ヒカリと待ち合わせした場所に向かった。
 しばらく学校にいけないということを伝えるために…という名目で、本当は気分転換が目的だったのだが。

「ええっ!その男の子と暮らすの?同じ部屋でぇ?」

 至極まともな反応である。
 ヒカリは親友の大胆な発言にソフトクリームを落としそうになった。
 わ!危なかった。まだ2口しか食べてないのよ。もったいない。
 主婦的発想のヒカリは、男女のことについては聞けずに、つい日常生活について質問してしまった。

「じゃ、アスカが主婦するの?アスカって台所できたっけ?」

「失礼ね!できるわけないじゃない!」

「じゃ、その碇君だっけ。彼ができるんだ」

「はん!私にできないことをあの馬鹿シンジができるわけないでしょ」

 勝手な理屈である。
 実にアスカらしいとは言えるが。

「それじゃ、どうするの?あ、誰かに作ってもらうのか」

「違うわ!馬鹿シンジが作るのよ!」

「え?だって、その子もできないんじゃ…」

「できなきゃできるようになればいいのよ」

 それは正論なのだが、何かが間違っているような気がする。

「それに、私の食べるものを作らせてあげるのよって言ったら、頑張るって喜んで言ったわ」

「あ、あのね…アスカ」

「だから、今日はカレーを作りなさいって言って出てきたの」

「アスカ。カレーは一日置いた方が美味しいのよ」

「ええっ!そうだったの?」

「そうよ。深みが出て、美味しくなるわ」

「ああ…どじった。ピラフにすればよかった」

 ヒカリの感想も少しずれている。
 ただし、アスカは自分が楽をするためにシンジに料理を押し付けたわけではない。
 彼の頭の中から“できない”“できるわけがない”という意識を取り除こうとしたのだ。
 料理はその第1歩。
 5日後にはあの分裂使徒とリベンジマッチをしないといけないというのに、
 こんなに悠長なことをしていていいのだろうか?
 実は内心アスカも焦っている。
 ただ、ここで自分が焦っていることを見せてしまうとシンジには悪い影響しか与えない。
 しばらくは、完璧美少女で頑張りますか…。

「ねえ、アスカ。何、頷いてるの?」

「は?ま、色々あるのよ」

「色々、ね」

 ソフトクリームのコーンをかじりながら、ヒカリは思った。
 さっきのアスカの横顔。とても綺麗だった。
 どうして綺麗に見えたのかはわからなかったのだが。


 


 

 

 3時間後、部屋に戻ったアスカを待っていたのは、ダイニングテーブルで突っ伏して眠るシンジだった。
 部屋の中にはカレーの匂いが立ち込めている。
 匂いはカレーよね。
 警戒しながら、アスカはキッチンに入った。
 電子コンロの上にあるお鍋にはカレーが出来上がっていた。
 ま、インスタントなんだから、ちゃんと作り方を見れば大丈夫よね。
 そう思いながら、恐る恐るお玉で味見する。
 味は…普通のカレーだった。少し甘口。
 甘口か。アイツらしいな…。
 そして、お玉で鍋の中の具を確認する。
 ふっ…、にんじんもジャガイモもカレーにしたら大き目ね。まるでシチューみたい。
 続いて、アスカはシンクに目を移した。
 シンジの悪戦苦闘の歴史がそこには残っている。
 かなり中にまで食い込んでいるにんじんやおじゃがの皮。
 一度目は失敗したのだろう。ナイロン袋の中にカレー状のものが封印されている。
 そして、バンドエイドの袋がいっぱい散らばっていた。
 アスカはふ〜んと唇を尖らせてから、テーブルのシンジのところへと足音を忍ばせて近寄った。
 シンジの指にはバンドエイドがいくつも貼られている。
 そんな指先を見つめていると、アスカは何だか胸の奥に暖かいものが溢れてくるような気持ちを覚えた。
 馬鹿シンジ、私のために頑張ったんだ。

 カレーの出来は良かった。
 但し、ライスに問題があった。
 さすがに洗剤で洗うなんてことはしなかったが、水加減が多かったのだ。
 少し粥状になったライスを見て、シンジは世にも情けなさそうな表情になった。

「さ、食べますか」

「でも、これ…こんなのに…」

「明日…」

「はい?」

「明日もこんな御飯だったら怒るわよ。間違いは二度と繰り返さない。わかった?」

「うん!明日はもっと…ううん、明日はちゃんとした御飯作るよ」

「よし!それならOKよ。さあ、食べましょう」

 おそらくこの夜のお粥カレーを二度と食べることはないだろう。
 だが、アスカとシンジには一生忘れられない食事になったことだけは確かに言える。

 
 食後、アスカとシンジは並んで後片付けをした。
 シンジは自分ですると言って聞かなかったが、その主張は却下された。
 アスカはシンジを奴隷にするつもりはないからだ。
 そんなのにしてしまったら、自分で判断できない人間になってしまう。
 エヴァのパイロットなんだから、変化する状況に対応できないといけない。
 使徒はこっちのマニュアル通りに動くわけないからだ。
 従って、シンジには自分の判断で動ける人間になってもらわないといけない。

「源氏物語か…」

「何、それ」

 二人の部屋のモニターを見ながら、ミサトとリツコがコーヒーを飲んでいる。
 主要な部屋でモニターはできるようになっている。
 このリツコの研究室でも音はミュートされてはいるが、画像は見ることができるのだ。

「ミサト。あなた大学出てるんでしょ」

「源氏物語は知ってるわよ。それがどうして今出てくるのよ」

「内容は知ってる?」

「忘れちゃった」

「アスカのしようとしていることって、光源氏が若紫を育て上げたことに似ているわ」

「光源氏って主人公よね」

「得意そうな顔しない。若紫はわからないんでしょ」

「えっへっへ」

「美少女を自分好みの女に育て結婚するの。アスカがシンジ君を…」

「それは違うと思うなぁ」

「あら、そうかしら?」

「育ててるのは事実だけど、アスカってシンジ君を自分好みに仕立てようとはしてないと思うわ」

「自信あるの?」

「まあね。アスカってさぁ、自分を持ってない人間は嫌いよ。
 でも、自分を持ちすぎていてもダメ。あの娘って、難しいんだから」

「そうね、それは言えるかもね」

「でも、リツコの言うことも一理あるかもね」

「あら、反対じゃなかったの?」

「ううん、シンジ君の素質を見抜いたってこと。
 あのシンクロ率の高さを知る前に、拒否するより育てる事を考えたんだもん」

「なるほどね。さあ、どうなるかしら?」

「賭ける?シンジ君が成長するかどうか。えびちゅ1ケースでどうよ」

「賭けません」

 その提案をリツコは一言ではねつけたが、実は彼女は知っていた。
 アスカはシンジの素質を見抜いたわけではなかったことを。
 何故なら、その証拠がリツコの部屋で生きていたからだ。
 今も美味しそうにお皿のミルクを舐めている。

 その猫を拾ってきたのはアスカだった。

 シンジと出会って2日後。
 あの界隈を一人で歩いていたアスカは、
 ふと立ち寄ったソフトクリームの屋台に繋がれている子猫を見た。

「ちょっと可哀相じゃない。こんなに小さいのに」

「ああ、それはそうだけどな…俺の猫じゃないし」

「なんだ、預かってるのか。ね、ソフトクリームは舐める?」

「ダメだ。腹こわすぞ」

「ふ〜ん、そうなんだ」

「そうだ、姉ちゃん、この猫飼わねえか?」

「何よそれ。預かってんじゃなかったの?」

「ま、行きがかりってヤツかねぇ…」

 人の良さそうなオヤジさんが話したことは、アスカにある少年のことを連想させた。
 この公園の前の道で車に轢かれそうになったこの子猫を助けた少年がいたこと。
 命を張って助けたものの子猫になつかれて困ってしまっていたこと。
 見るに見かねたこのオヤジさんが引取り手が見つかるまで預かると約束してしまったこと。

「で、おじさん、困ってんの?」

「う…まぁな。店やってるときはいいんだが、アパートじゃ飼えないんだよ」

「そっか。じゃ、ソフトクリームただにしてよ」

「へ?」

「私がもらってあげる」

「おっ!姉ちゃんが飼ってくれるのかい?」

「残念。知ってる人。猫好きだからきっと飼ってくれるわ」

「そうかい。じゃ、今日は奢ってやるよ。よかったなぁ、お前」

 子猫の額をつつく親父さんを見ながら、アスカはシンジがその時にカードを落としたんだと直感した。
 本当に馬鹿ね、馬鹿シンジだわ。
 そして、子猫を抱いてリニアで本部に向かう途中、
 この猫を見かけたときあの馬鹿がどう思うかとそればかり考えていた。

 まだ、シンジはあの子猫がリツコの部屋にいることに気付いていない。
 知っているのはアスカとリツコだけ。
 今はそれよりも、エヴァのパイロットとして独り立ちしてもらわないと。

 


 

「シンジ、私、先にバスルーム使うわよ」

「あ、うん。どうぞ、惣流さん」

「あ!それ、やめてよね」

「はい?」

「私がシンジって呼んでるんだから、アンタもアスカって呼びなさいよ」

「えっ!そんな、惣流さんに失礼だよ」

「あのね、私とアンタは仲間なの。エヴァのパイロット同士。上下関係じゃないわ」

「でも、僕は…」

「はいはい。言いたい事があるなら、明日ね」

 バスルームの扉に手をかけて、アスカはシンジを振り返った。

「覗いたら、殺すわよ」

「そ、そんな、覗いたりしないよ」

 慌てて首を振るシンジをジト目で睨みつけて、アスカはバスルームに消えた。
 シンジは大きく息を吐いて、肩を動かした。
 ふぅ…疲れたぁ…。
 憧れの人とこんなに長時間近くにいるのって、結構気疲れしちゃうんだな…。
 でも、これが毎日続く…。
 その時、シンジは気付いた。
 自分がエヴァのパイロットだから、惣流さんはこんなに親切にしてくれるんだ。
 もし、僕がパイロット失格になったら、二度と惣流さんと話もすることが出来なくなってしまう。
 シンジは自分のベッドに仰向けになって天井を見つめた。
 この天井…。
 これからも毎日、この天井を見つめて過ごしたい。
 そのためには……。

 その頃、アスカは湯船に浸かっていた。
 明日からのユニゾン訓練。
 シンジは着いてこられるだろうか?
 苦しくても着いてくるほど、私に魅力を感じてくれているのだろうか?
 大体、覗きませんって誓ったけど、
 命を賭けてでも覗こうとするくらいの気持ちじゃないんだ。
 何か少し癪に障るわよねぇ。ま、覗いたら、速攻で殲滅してあげるから。
 そうだ、殲滅って言えば、もしあの使徒を殲滅したらキスしてあげるとか…。
 ち、ちょっと!今、私とんでもないこと考えてなかった?
 キスはダメよ。まだ早いわ。
 いや、早いんじゃなくて、どうして私がアイツとキスしないといけないのよ。
 馬鹿シンジが私に憧れている気持ちを利用してやる気を出させるんじゃない。
 そうよ、それが本来の方策だったんじゃない!
 キスはやりすぎよ。ま、デートくらいならしてあげてもいいけどね。
 とにかくそれは先の話。
 当面はユニゾン訓練を完遂させなきゃ。
 私たちの未来のために!
 ……。
 私たちって、人類のことよね。
 でも…。

「私って猫なみってことか…」

 シンジに命を救われた二つの命を考えて、アスカはクスクス笑い出す。
 そして、お湯を両手でバシャバシャ叩き始めた。
 何がおかしいのか自分でもわからなかったが、無性におかしくておかしくて堪らない。
 そして我慢できなくなって、湯船に沈んでお湯の中で笑い転げた。
 何故笑い声を外にいるシンジに聞かれないようにそうしたのか、アスカは考えもしなかった。

 湯上りの二人がいい子でおやすみした事を確認して、ミサトはモニターの電源を切った。

「おやすみ。明日から頑張ってよね。可哀相だけど、アンタたちに人類の未来がかかってるの」
 

 ユニゾン訓練。
 翌朝6時より開始。

 アスカのシンジ育成はその時より本格的に始まる。
 
 
 



 

 

シンジ来日!中編 おわり

 

2003.07.13


<あとがき>

 hammer様よりいただいた、33333HIT記念リクエストSSの中編です。前後編でもまとまりませんでした。とほほ…。

 今回はユニゾン特訓に入るまでの間奏曲になります。さっさと進ませようとしたのですが、シンジのシンクロ率の高さだけでアスカがシンジを見込むというのでは、LASにはつながりませんよね。臆病者にもかかわらず、シンジが自分の身体を省みずに突進する時がある。それは暴走でも自暴自棄でもない。その事を知ったから、アスカはシンジを真剣に育てようと考えたんです。

 さあ、いよいよ第7使徒との決戦。

 では、前中編をお楽しみいただけた方は二〜三週間後の後編をお楽しみに…。と言おうと思ったのですが、できるだけ早く仕上げようと思います。

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