33333HITしていただいたhammerさまのリクエストです。

お題は…。

「アスカとシンジが初対面」「コミック版第4巻がベース」「シンジが来日してくる」というお題を頂きました。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります。33333HIT記念SSは…。前後編のはずが…前中後編に化けて、やっと後編です!

 

 

 


 



 この日からユニゾン訓練が始まった。
 第7使徒に対する、2点同時荷重攻撃。
 そのために2機のエヴァンゲリオンが呼吸を合わせて攻撃する必要がある。
 零号機は修復待機中。
 従って、この作戦はアスカとシンジによって遂行される。
 エースパイロットのアスカと、ダメパイロットのシンジ。
 その技量に雲泥の差がある二人が息を合わさないといけない。
 アスカは決意を固めた。
 この闘いだけじゃない。
 この5日間で私たちの未来が決まるの。
 だから、何としてもこのお馬鹿を超速教育しなきゃ!

 

 


33333HIT記念リクエストSS

 

シンジ、来日!

後編

 

ジュン

 

 


 

 

 シンジは完全にへばっていた。
 音楽に合わせて踊る。
 ただそれだけなのだが、巧く踊れない。
 音痴なわけはないのだ。
 チェロを弾けるのだから…。
 しかし、アスカと並んで踊るとぎくしゃくしてしまう。
 いや、一人で踊っても微妙にずれてしまう。
 その光景を見て、ミサトは少し青ざめている。

「ミサト。頼むから、顔に出さないで」

「ご、ごめん。でも…」

「アイツ馬鹿だから、アンタのそんな顔見たら落ち込んじゃう。
 作戦を成功させたいなら、そんな情けない顔しないで」

「わかった。アスカ、大丈夫?」

 心配げなミサトの横で、腕組みをしてシンジの動きを追っているアスカの視線は真剣そのものである。

「任せなさいよ。人類の未来も、アイツの教育も、全部私が責任持つから」

「アスカ…」

 14歳の少女に責任を持たれても仕方がないのだが、ここはアスカを信じるしかない。
 ミサトはアスカの肩をポンと叩いて部屋から出て行った。
 残ったのは、お揃いの服を着た少年と少女だけ。

 アスカはさっきまでの厳しい顔を崩した。
 この馬鹿シンジは、私じゃない。
 私なら歯を食いしばって必死に頑張るけど、シンジにそれを要求しても逆効果だ。
 プレッシャーになって、余計に結果が出てこない。
 まず、このがちがちに張った肩の力を抜かなきゃ。

「シンジ、お腹空いたから、御飯作ってよ」

「え?」

 汗びっしょりになったシンジが怪訝な顔をする。
 それはそうだろう。
 朝6時に叩き起こされて、人類の命運を担った作戦だと脅されてたのだ。
 しかも、憧れの惣流さんとの共同作戦である。
 シンジとしては最大級に頑張っているのだ。
 それなのに、訓練をやめて御飯を作れとアスカは言う。

「まだ、朝御飯食べてないわよ。お腹空いたなぁ、私」

 にっこり微笑むアスカの笑顔に、シンジはあっさり陥落した。
 すぐに食事の準備をしようとする彼に、アスカはまずシャワーを浴びるように言った。
 気持ちは嬉しいけど、あんなに汗びっしょりで働かせるのは可哀相だもんね。

 朝食はトーストにハムエッグ。それに紅茶。
 シンジはアスカが話す紅茶の好みを必死に覚えようとしていた。
 葉の種類、濃さ、ミルクの量、砂糖の有無…。
 アスカもそれを教えようとして、シンジにそれとなく話している。
 別に自分が楽をするためではない。
 自分から覚えようとする態度や習慣を自然に身に付けさせようとしているのだ。

「お昼は何を食べようかなぁ?」

「あ、でも、昨日の…」

 言いかけて口をつぐむシンジ。
 アスカはシンジが何を言おうとしたのかわかっていた。
 それでも、知らぬ顔をしていたのだ。

「何?」

「あ、あの…」

 早く言いなさいよ、昨日のカレーが残ってるって…。
 しかし、シンジはそのまま目を伏せた。
 言えなかったのだ。
 もし、アスカの機嫌を損ねたら…。
 その気持ちの動きを察して、アスカは残念だった。
 本当なら叱り飛ばしてやりたいところだが、今はそれができない。
 まだ、無理か…。

 
 ユニゾンの訓練は食後も続いた。
 だが、一人で踊っても、アスカと踊っても、やはり巧くいかない。
 
「アンタ、私を気にしてない?」

「そ、それは、あ、当たり前じゃないか」

「あのね、アンタの方が私に合わせる必要はないの。
 アンタはまず自分なりに踊ることを考えなさいよ」

「で、でも…」

 アスカにはシンジの気持ちがわかっている。
 アスカの足手まといになりたくない。
 迷惑を掛けられない。
 その思いが巧く踊れない最大の原因だ。
 どうしたものか…?
 アスカは教師でも心理学者でもない。
 ましてや、これまで人の気持ちなど考えたこともなかったのだ。
 唯我独尊。
 自分が頑張れば、結果はついてくる。
 ついてこないなら、結果の方を手繰り寄せる。
 そうすれば、みんなが誉めてくれる。
 このシンジのように、私をアイドルのように思ってくれる。

 そんなのもうどうでもいい。
 今、この瞬間の私の望みは、シンジを一人前のパイロットにすること。
 ただ、それだけ。

 お芝居で泣いて訴えようか?
 貴方の力が必要なの…。
 はぁ…ダメダメ。私のキャラじゃないわ。
 じゃ、ビシバシスパルタ教育する…。
 これもダメね。
 自分の殻に閉じこもっちゃう。
 地球の平和はアンタに掛かってんのよ!…なんてプレッシャーかけても逆効果だろうし。
 ああ、なんて難しいんだろ?

 アスカの悩みは続いた。
 といっても、ずっと考え込んでいたわけじゃない。
 踊りながら、話しながらなんだから、アスカの能力はやはり人並みはずれている。

 こうして1日目は終わった。
 この様子をモニターで見ていたミサトはがっくりと肩を落として、背後の加持を睨みつけた。

「ちょっと!全然ダメじゃない!」

「そうだ、な…」

「アンタがこれはいけるって!」

「まだ初日じゃないか。何とかなるって」

「ならなかったらどうするのよ!」

「そうだな…、そうなったら結婚でもするか、なぁ」

 一瞬それはいいかもと思ってしまったミサトである。
 そして、その隙に加持は姿を消した。

 

 その頃、二人の部屋では…。
 
「どうして、アンタだけカレーなのよ?」

「えっと、ほら、もったいないし」

「じゃ、どうして私にも食べさせないのよ?」

「だって、惣流さ…」

 アスカの眼光に気付いたシンジが慌てて訂正する。

「あ、アスカがスパゲティを食べたいって」

「はん!アンタ、1日置いたカレーが美味しいのを知っていたんでしょ。
 それで独り占めしようと思ったんでしょ」

「ち、違うよ。ただの残りものを処理しようと…。ほら、こんなの美味しくなんか…」

 スプーンで一口食べたシンジの顔が唖然とした。

「美味しいや…」

「ほらね、アンタはそれを知ってたの。私に特訓された仕返しを考えたんだわ」

「ち、違うよ。誤解だよ」

 シンジは真っ青になった。
 もし、この場にヒカリがいたならば、間違いなく肩をすくめて言った事だろう。
 アスカったら、また始めた…と。

 そう、アスカはわざと喧嘩を吹っかけたのである。
 まだまだシンジが打ち解けていない。
 アスカのことを偶像視して、仲間とは思っていない。
 そんなことでは、ユニゾンが巧くいくわけがない。

「じ、じゃ、これ食べてよ。僕がそのスパゲティを食べるからさ」

「ふ〜ん、そうなの。私の食べさしを食べて間接キスしようって魂胆なの?
 それにアンタの食べたカレーを私に食べさせようとも考えたわけね。
 馬鹿シンジって意外と知能犯ね」

「違う!違うよ!」

「何が違うのよ?」

「そ、そんな、き、き、キスなんて考えてないよ」

「なんだ、私なんてキスの対象と考えていないんだ」

 アスカの青い瞳がキラリと煌いた。
 その瞬間、シンジのハートが飛び上がった。

「そ、そんなことない!」

「何が?」

「あ、あ、アスカは…、世界中で一番美しいんだから、そ、そんな人にキスなんて!」

 このシンジのあまりにストレートな心の叫びは、アスカを驚かせた。
 世界中で一番美しい……?
 綺麗とか可愛いとかはよく言われていたが、美しいなんて形容詞は始めてである。
 しかも世界で一番である。
 もっとも、毎日火あぶりにされているラブレターの中ではそんな言葉が散々書かれていたのだが、
 それはあいにくアスカの目には入ってない。
 従って、アスカのことを世界中で一番美しいと宣言した栄誉は、
 情けなきダメパイロット・碇シンジに授けられることになったのである。
 さすがにその言葉はアスカにかなりのダメージを与えた。
 いくらエヴァのエースパイロットといっても、14歳の少女である。
 目の前で世界中の女性の中で一番美しいと真剣に言われて、気持ちが動かないわけがない。

「そ、そんなお世辞なんか言っても…」

 やっとの思いで反撃しようと振り絞った言葉だったが、
 アスカの様子など全く目に入ってないシンジには全く効果がなかったらしい。

「アスカは僕の女神様なんだ。そんな人をキスの対象として考えるなんて、冒涜だっ!」

 め、女神…!
 ついにアスカは神様にまで祭り上げられてしまった。
 思わずうっとりとしてしまったアスカだったが、その時ようやく気付いたのである。
 自分の仮説が正しかったことを。
 そんな雲の上の人として考えられていたのでは、二人の息が合うわけがない。
 となれば、なすべきことはひとつ。

 女神降臨。

 偶像から、生身の14歳の少女になるしかない。

 アスカはテーブル越しに手を伸ばしてシンジの首を引き寄せると、
 その唇にすっと口づけた。
 ほんの一秒くらいのキスだったが、シンジは目を見開いたまま固まっている。

「情けないわねぇ。こら、馬鹿シンジ、目覚めろ!」

 頬を容赦なくペタペタ叩くアスカ。
 桃源郷から引き戻されたシンジは、目の前のアスカの顔を見て赤面した。

「あ、あああ…」

「はぁ…ファーストキスはカレーの味、か」

「ふぁ、ふぁ、ふぁあ…」

「そうよ、今のが私のファーストキス。アンタとするなんて思いもしなかったけどね」

「ど、ど、ど」

「どうしてかって言われてもわかんないわ。そうね、暇つぶしみたいなもんよ」

「そ、そ、そ」

「だってシンジは仲間でしょ。それとも、私とキスしたの迷惑だった?」

 シンジは首を左右に何度も振った。
 
「ね、この続きを楽しまない?」

 アスカは悪戯っぽく微笑んでウィンクした。


 慌てたのはミサトである。
 
「まったく、人の食事を眺めてたって楽しいわけないわよねぇ。ああ、ビール飲みたいっ!」

 大きな独り言を叫んだその瞬間、アスカがシンジの唇を奪ったのである。

「ええええっ!」

 椅子を後ろに転がして、ミサトはモニターの枠を掴んだ。

「こ、こら、アスカ!アンタ、何すんのよ!」

 そしてミュートにしていた音量を復活させると、アスカの声が飛び込んできた。

 『ね、この続きを楽しまない?あそこで』

 そして、二人の後姿はバスルームへ消えた。

「あぁっ!あぁっ!そ、そんなっ!ま、まだ、早いわよっ!」

 ミサトは慌てた。
 そして猛ダッシュで二人の部屋へ走る。
 アスカのヤツ、何考えてんだか!
 14歳の癖に!私だって20歳過ぎだったんだぞ!
 走りながら、ミサトの妄想はどんどん膨らんでいった。
 扉を開け、バスルームの前に到着したミサトはノブを廻すのを一瞬躊躇った。
 な、何て言ったらいいんだろ?
 その時、二人の声が聞こえてきた。

『アスカ、どう?』
『気持ちいいわぁ、物凄く』
『ほ、本当?嬉しいな、僕』
『こんなに気持ちいいなら、もっと前からしてもらうんだった』
『こ、こんなことでアスカが喜んでくれるんなら、僕毎日でもするよ』
『本当?じゃ、毎晩してもらおうかな?』

 ミサトはあまりの衝撃に身体が震えた。
 口をパクパクさせて、大きく唾を飲み込むと、
 殺人犯が立て篭もる部屋に突入する刑事のように意を決して中に飛び込んだ。

「アンタ達、子供の癖にそんなこと……!」

 バスルームの中にある洗面台の椅子にアスカが腰掛けて、シンジが一生懸命肩を揉んでいる。

「しちゃぁ、いけ、な、い……」

「肩揉みを?」

 アスカが平然と問い返した。
 ミサトは何も言えなかった。
 そして、そのミサトの顔を見て、アスカが吹き出した。
 お腹を押さえて笑い出す。
 シンジも我慢できなくなって、床に座り込んで大声で笑い出した。
 二人の子供に笑いものにされて、ミサトが怒らないわけがない。

 しばらくして、学校でもあるまいに、部屋の前の廊下に二人は並んで立たされてしまった。

「ああ、面白かった」

「僕、一生忘れられないよ。あのミサトさんの顔」

「そうねぇ、声なんか裏返っちゃってさ。もう最高!」

「こんな悪戯したの、生まれて初めてだよ」

「そう?私は…」

「アスカはしょっちゅうしてるんでしょ。ほら、僕のIDカードにも…」

「私、何かしたっけ?」

「あぁ!酷いなぁ。ほら!」

 シンジは自分のカードを取り出した。
 顎鬚が書き加えられた写真に、『落とすじゃないわよ、馬鹿シンジ』という落書き。
 アスカが忘れるはずはない。
 しかし、アスカはわざと惚けた。

「さあ…覚えがないわねぇ」

「ああ!惚けるんだ!くそっ!いつかきっと仕返ししてあげるからね!」

「何するの?」

「うぅ…、寝てる間に髭を書く」

「つまんない。ありがちよね」

「アスカの紅茶に砂糖を3杯入れる」

「そんなことしたら、殺すわよ」

「シャンプーの中身をケチャップに替えておく」

「こら、私がドイツ人だからってウィンナー扱いするな!」

 そして、アスカは笑い出した。
 廊下に座り込んで、大声で笑う。
 シンジも隣に並んで座って、お腹を抱えている。
 
 どうやら、女神様は無事降臨できたようだ。

 シンジが持っていたアスカの偶像は砕けはしなかったが、ずいぶんと身近なものになった。
 アスカの狙いどおりに。
 ただ、この後、訓練の疲れが出て、
 この廊下で肩を寄せ合って眠ってしまったことまでは計算していなかったのだが。
 そのあまりの微笑ましさに起こすことが出来ず、ミサトは毛布を掛けてあげるだけに留めた。
 その時、彼女には何故かこの作戦が巧くいくような予感がしたのだ。



 


 

 

 

 2日目。
 廊下でミサトに叩き起こされた二人は寝ぼけ眼を擦りながら、ジオフロントの中をランニングさせられた。
 そして、その後は、ユニゾンの訓練など全くなしに、筋力トレーニングに突入させられた。
 
「ひ、酷いや。起き抜けにこんな…」

「ミサトのヤツ、昨日の悪戯を根に持ってんのね!」

「ほらそこ!無駄口叩かずに、もっとスピードアップする!」

 真面目な顔つきで指示しながら、ミサトは心の中で微笑んでいた。
 アスカ、まずはおめでと。
 シンジ君の本当の笑顔が見られたじゃない。
 それに…アスカだって、まるで普通の女の子じゃない。

 

 朝食を作ってあげようというミサトの申し出を丁重に断って、
 二人はトーストとミルクだけを何とか用意した。

「ねぇ、どうして断ったの?僕、もう身体がバラバラになりそう」

「私の得た情報によると、ミサトの料理って凄く個性的らしいわよ」

「個性的?」

「そ、個性的。私、大事な身体だから、遠慮したの」

「はは、じゃ僕も遠慮しとくよ」

「その方が賢明ね」

「あ、今晩はミートソース使わないといけないから、それ系の料理にするよ」

 そのさりげない一言は、アスカを喜ばせた。
 表情には出さないように努めたが、昨日のシンジとは明らかに違う。
 これならいけるかも。

「ねぇねぇ、それよりさ、ミサトにリベンジしない?」

「え?悪戯?」

「あったり前じゃない。このままじゃ、腹の虫が収まらないわ」

「アスカって執念深いんだ」

「そうよ!負けるの嫌いだもん。アンタも協力するのよ」

「え!僕も?」

「だってアンタとはもう運命共同体じゃない。一人で逃げるのは許さないわよ!」

「え、えっと…」

「逃がさない!」

「あの…」

 その時、アスカがポンと手を叩いた。

「あ、オムレツをミートソースで食べるってのはどう?」

「ああ、それはいいかも。オムレツってどうやってつくるんだろ?」

「知らないんなら、情報収集!ミサト以外の誰かに聞いてくる!」

「う、うん!あ、食堂の人に聞いてみるよ」

「うん、じゃ任せた。美味しいの作ってよね」

「わかった!頑張るよ!」

 


 この日のシンジの調子は昨日とは比べ物にならないほどよかった。
 アスカとの踊りもおどおどしたところがかなり減ってきたのが、誰の目にも明らかだった。

 そして、晩御飯の時、招待されたミサトのためにわざわざ超激辛オムレツが作られた。
 だが、『美味しい!』と連呼する彼女の姿に二人は脱力してしまった。
 味覚で悪戯するのは無理だったようだ。
 しかし、ミサトが満足げに帰った後で、シンジが口惜しいと騒いだ。
 その姿を見て、アスカは嬉しくて仕方がなかった。
 しかも、もう一度料理で悪戯したいと言い出したとき、アスカは笑い転げてしまった。
 意外としつこいんだ、馬鹿シンジって。
 

 だが、シンジがどんなに頑張っても、
 アスカがどんなにシンジに合わせてもユニゾンは巧くいかなかった。
 いい線まで行くのだが、微妙にタイミングが崩れる。

 

 


 

 

 

 4日目の夜が来た。
 あと一日…いや、もう残りは時間単位になっている。
 
 明らかにシンジの表情に焦りの色が見られた。
 本当はアスカだって焦っていた。
 だけど、シンジにはそんな顔を見せられない。

 

 


 

 そして、その夜アスカとシンジはロストした。


 

 

 

 


 

 

 

 ゲートを出た形跡はなかったのだが、ジオフロント内で見つからないため捜索は街中にも向かった。
 
「シンジ君だけならわかるけど、どうしてアスカもいないのよ」

「シンジ君を追いかけていったかな?アスカは責任感強いから」

「どうすんのよ、アンタそんな平気な顔してるけど」

「俺が見たところ、あとはタイミングなんだけどな」

「タイミングって?」

「あの二人、互いを意識しすぎてるんだ。合わせようとしてね」

「加持…?」

「何だ?」

「それがわかってたら、どうして教えないのよ!」

「すまん」

「すまんじゃすまないわよ!どーしてくれんのよ!いつ使徒が動き出すかわかんないのよ!」

 悲痛なミサトの叫びが中央作戦司令室に木霊した。
 その叫びを聞いてもゲンドウは何とかいつもの姿勢を維持していた。
 不屈の精神力で。
 あの馬鹿息子め…。

 

 

 その馬鹿息子は、猫と戯れていた。
 そして、その横でアスカはにこにこしながらその光景を眺めている。

「ミサト、怒ってるわよ」

「だって、あれ以上訓練しても仕方ないじゃない」

「そうね、100%になるまで必死になって訓練させられるわね」

 アスカは小声で言った。

「そんな状態になったら、シンジが潰れちゃう。自分の所為だと余計に調子が狂っちゃう」

「それよりは、今の状態を持続する方がいい。そういうことね」

「そう。あとは出たとこ勝負するしかないわ」

「それも一つの手かもね。でも、ここに隠してることがわかったら、私どうなるのかしら?」

「さあね、勝ったら問題ないでしょ」

「負けたら?」

「人類滅亡でそれも問題なし」

「そうね。じゃ、コーヒー飲む?」

「紅茶がいいなぁ」

「缶モノで良ければ買ってくるけど?」

「面倒だからいいわ。シンジもいいでしょ?」
 
 シンジの方を見もせずに、アスカが言う。
 そしてシンジも、猫と遊びながらあっさり答える。

「うん、いいよ」

「ふ〜ん」

 アスカがリツコを見つめた。
 ずいぶんと意味深に聞こえたからだ。

「今の何?」

「別に…」

 リツコは素っ気無く言い、シンジに目を移した。
 
「シンジ君?」

「はい」

 シンジはリツコを見て、返事をする。
 その動きを見てリツコは微笑んだ。

「その子、可愛いわね。助けてくれてありがとう」

「いや、そんな…」

 照れて真っ赤になるシンジ。
 そんなシンジを見て、アスカは何故か少し腹立たしくなった。
 どうしてそんな不快感を持ったのか、この時のアスカにはまったくわからなかったのだが。
 そのアスカの表情を横目でちらりと確認したリツコは、若いっていいわねぇと思う。
 私がアスカくらいの時って男の子に興味なんかなかったわね。
 勉強、勉強の毎日で…。馬鹿な私……。

「あ、あの、名前つけたんですか」

「ええ、つけたわよ」

 リツコはすっと子猫を抱き上げ、優しく撫でた。
 気持ちよさそうに身体を伸ばす子猫。

「この子の名は…GT853β912よ」

「「はい?」」

 一瞬顔を見合わせ、そしてリツコを見るアスカとシンジ。

「何よその名前」「何ですかそれ?」

 今度は顔も見ずに、一呼吸置いて同時にリツコに抗議する。

「かわいそう、普通の名前にしなさいよ」「ちゃんと普通の名前を付けてあげてください」

 リツコがニッコリ笑った。

「あぁ!からかったのね!」「酷いなぁ!からかわないでくださいよ」

「この子の名前は、アリスよ」

 二人とも同じタイミングでため息を吐いた。

「貴方たち、息がピッタリね」

 膝の上の猫を撫でながら、白衣のリツコがあっさりと言う。
 それを聞いて、アスカとシンジは顔を見合わせた。
 そして、アスカが真剣な表情で発言した。

「そうなの。こんなに息が合ってるのに、ユニゾンになったら合わなくなるの。
 ホントに微妙なんだけど、何か少しだけ…」

「意識しすぎてるんじゃないの?」

「え?」

「シンジ君、この子を助けた時どうだった?車の前で動けなくなってなかった?」

「あ、はい、そうでした」

「猫って、敏捷なのに車に轢かれちゃうのよね。
 あれって、車を意識してしまって動けなくなってしまうみたい」

「普通にしていたらすっと逃げられるのにね。
 まあ、人間でも同じだと思うけど…」

 その時、アスカが立ち上がった。

「リツコ、アイマスクない?」

「あるわよ。実験用のでよければ」

「貸して!」

 リツコは子猫を椅子の上に置いて、アイマスクを取りに歩いた。

「さ、シンジ、立って!」

「うん」

「目を隠して踊るの。相手を信頼して、自分を信用して」

「できるかな…?」

 少し不安げになるシンジの肩に、アスカは手を置いた。

「できるわよ。アンタと私なら!」

 アスカの目には自信が漲っていた。

「私は、シンジを信用してる。アンタにこの命を預ける」

 シンジは、真っ直ぐに見つめるアスカの瞳から目を逸らさなかった。

「わかった。やってみるよ」

「OK!」

 

 
 アイマスクを手に部屋から出て行く二人の背中を見送って、リツコはミサトを呼び出した。

「二人とも部屋に戻ったわよ」『○■△×□●×!』

「これから練習するみたいだから邪魔しないようにね」『●△◎×□×▲!』

「あら、もう3時。私、寝るわよ」

 自分の言いたいことだけ言って、リツコは通信を切った。

「ありがとう…か」

 部屋を出て行くとき、アスカはリツコにそう言った。
 来日してきてから、初めて聞くアスカのその言葉。
 シンジ君だけじゃなくて、アスカも変わったわね…。

「さ、いっしょに寝ましょうね」

 抱き上げられた子猫は、軽く欠伸をした。

「私のゲンちゃん…」

 アリスの本名は別にあったようだ。

 

 ミサトは慌てて、モニターのスイッチを入れる。
 すると、カメラを睨みつけているアスカがいきなり写った。

『ハイ!ミサト!これから私たち特訓するから邪魔しないでよね!』

「あ、アンタたち!」

『じゃあね!おやすみ!』

 アスカの投げキッスと共に、アスカの手から何かが飛んだ。
 そして、モニターは砂の嵐。

「アスカ、カメラ壊したわね……」

 ミサトは大きくため息をついて椅子の背もたれに身体を預けた。
 
「ま、いっか…。逃げたんじゃなかったし」
 
 そして冷えてしまったコーヒーカップを手にして一口啜ろうとした時、自分の仕事を思い出した。

「わわっ!連絡、連絡!」

 

 


 

 

 
 夜が明けた。
 

「目標0地点に侵入!」

「エヴァは?」

「発進準備中です!」

 マヤが振り返る。

「しかし、パイロットがいません!」

「はい?」

「何度も呼び出してるんですが、二人とも応答しません」

「あの馬鹿どもぉっ!」

 ミサトは司令室を飛び出した。

 

 突入した部屋の入口でミサトは悲鳴を上げた。

「ぎゃああっっ!あ、あ、アンタたち!起きなさい!」

 アイマスクをしたまま、床に並んで眠っている二人。
 そして、その手はしっかりと繋がれていた。

 ミサトは二人のアイマスクを引っ剥がすと、背中を持ち上げて怒鳴る。

「警報鳴ってるでしょうがっ!起きろっ!」

「眠い…」「もう少しだけ…」

「うがぁっ!起きろ!目を覚ましなさい!もうそこまで来てるのよっ!」

 まだボケっとしている二人の背中をミサトはバシバシ叩く。
 ようやく目を覚ました二人は、叫びつづけているミサトを尻目に暢気に挨拶をした。

「おはよ、シンジ」

「おはよう、アスカ。何食べる?」

「ハムエッグ。卵2つにしてね」

「うん、わかった」

「ああああっ!何言ってるのよ!早くプラグスーツに着替えなさいっ!」

 二人はボケっとした目をミサトに向けた。

「ほら、ほら!急いでよ!」

「何だ。もう来たの」

「そうよ!防衛ライン突破してるんだから!」

「そう…じゃ、片付けてきますか。……ね、ミサト?」

「何よ!」

「やっつけて、朝御飯食べたら、寝ていい?」

「あ、僕も…。いいですか?」

「あああ、いい!いいわよ!好きなようにしなさいよ!」

「じゃ、これからもずっとこの部屋で教育していい?この馬鹿を」

「ああ!いいからいいから!早くしてよ!」

「わかった!」

 アスカはすくっと立ち上がった。

「行くわよぉ!馬鹿シンジ!」

「うん!」

 シンジも元気よく立ち上がる。

「じゃあね、ミサト!62秒で片付けてくるわ!」

「行ってきます!ミサトさん!」

 お揃いの服で駈けて行く二人の背中をミサトは床に座ったまま呆然と見送った。
 何?あの自信は…。
 しかも、シンジ君まで…。

 我に返って、ミサトが司令室に戻った時、作戦は終了していた。

 

 アスカの宣言通り、62秒で使徒は殲滅。

 

 但し、初号機は着地に失敗。
 2機のエヴァは折り重なったまま、バッテリー切れで動けなくなった。

 

「アンタ馬鹿ぁ?着地ミスったわね」

「ご、ごめん。やった!って思ったら気が抜けちゃって…」

「ホントにもう…私のパートナーとしてはまだまだね」

「ごめん」

「ま、いっか。これから毎日特訓してあげるから」

「本当?」

「あったり前でしょ。あ、料理もしっかり覚えなさいよ」

「うん!」

「今日はハンバーグ食べたいなぁ…」

「じゃ、つくりかた調べとくね…」

「シンジ…」

「何…?」

「ハムエッグ、もう少し、あとで、いい、わ……」

「ありが、と…アス、カ……」

「「おやすみ…」」

 

 

 マヤが振り返った。

「二人とも眠ったようです」


「碇、なんとかなりそうだな」

「ああ…」


「でもこれからも、あの二人同室にするのか?」

「私、約束しちゃったのよ…さっき、勢いで」

「おいおい、さすがに本部でそれは…」

「仕方がない。私のマンションに住まわせますか。私が監視役ってことで」

「おい、シンジ君に家事をさせようとしてないか?」

「へへっ。わかった?シンジ君のオムレツ美味しかったのよン」


「さあ、ゲンちゃん。お祝いのミルクよ」

 みゃあ…。



 そして…、

 
 エヴァンゲリオン弐号機、最優先で修復中。
 同・初号機、平行して修復中。
 同・零号機、未だ修復待機中。


「私、出番、ない……」


 
 
 



 

 

シンジ来日!後編 おわり

 

2003.07.14


<あとがき>

 hammer様よりいただいた、33333HIT記念リクエストSSの後編です。やった!勢いで書き上げてしまいました。

 この後の二人はどうなったでしょうね。完全なるLASの方向へ向いてますが、シンジ育成計画をアスカは途中でやめてしまうと思います。自分に都合のいいシンジは本当のシンジじゃありませんから。それがわからないような馬鹿アスカじゃない。ま、アスカの相手をさせてもらっていたら、スーパーにはならないけど、普通の男性にはなるはずです。イメージ的には日向さんって感じかなぁ。

 この世界では、リツコは片思いで終わってしまいそうですね。まあ、実は面倒見のいい彼女のことですから、出番のないレイのフォローをしてくれることでしょう。でも、レイに<ゲンちゃん>のことを鋭く突っ込まれたりして…。

 実はこの子猫。コミック版のあの彼に首を締められていた猫のつもりです。あんなの可哀相ですから。

 さて、いかがでしたでしょうか?リクエストに合った作品に仕上がりましたでしょうか?次の55555HITはいかがなりますでしょうか。

 hammer様、いいお題をありがとうございました!

ジュン

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