4000HIT記念SS

 

− LASミステリー劇場 −

シンジとアスカのラブゲーム

 

2003.02.04  ジュン

 

 

 

 

 

 

 

「何、これぇ?アイツ、こんなゲームしてんのぉ?信じらんない!」

 アスカは、シンジが忘れたままにしていたビデオゲームに気付いた。

 電源を入れるとモニターに出てきたタイトルが、

 

『ラブラブハイスクール』

 

「何、このベタなタイトルは!ぷっぷ!恋愛シュミレーションゲームじゃない!

 あはは、馬鹿シンジのヤツ、こんなのしてんだ。ばっかみたい!」

 アスカの大声に、シンジが慌ててお風呂から飛び出してきた。

「あ、何見てんだよ!人のゲームを勝手に見ないでよ!」

「アンタ馬鹿ぁ!何て格好で出てくんのよ!」

「え?うわっ!」

 1分後、急いでパジャマに着替えたシンジが、どこにそのCD-ROMを仕舞ったか、

 そ知らぬ顔を装いながら、アスカはちゃんとチェックしていたのである。

 

 

 

 そして、4時間後。

 午前2時過ぎである。

 音をさせないように自室から出てきた、アスカの手にはヘッドホン。

 そっと、ビデオゲームの準備をしている。

「はん!あんなに慌てているところを見ると、あのゲームに何かあるのよね。

 あ!もしかして、18禁ってヤツ?

 はは〜ん、初号機パイロットはあわれにも犯罪者になったのね。

 くっくっく…、あ、なぁんだ。違うんだ。それはそれで、面白くないわね。

 ふ〜ん、えっと、システム画面が出て…」

 作者のためだろうか、いちいち声に出してくれる今回のアスカ嬢は親切である。

 しかしながら、ヘッドホンをつけたまま喋ると、大声になることを彼女は承知してるのだろうか?

「このゲームの売りはマルチエンディング方式でありながら、

 ハッピーエンドは一つしかないところにある。

 ふ〜ん、じゃ、運命の二人以外の組み合わせじゃバッドエンドってわけか。

 へぇ…男でも女でもプレーヤーは選択でき、名前も変更できるのね。

 くっくっく、シンジは何て名前にしてんだろ。

 見てやれ。セーブしなきゃいいんだもんね。最終のセーブは、あ、これね。

 げ!早速出てきたわね、え〜!こいつがアスカなの?!」

 

『うるさいわね。私はアンタなんか大嫌いなんだから!あっちいってよ!』

 

「な、何?この下品な声。下品な口調。顔だって何よ、ツンケンしちゃってさ!

 えっと、こいつは何者?」

<学校一の秀才で、美人。但し、性格ブスで乱暴者。(CV:宮○○子)>

「何よ、これは!私の名前をこんなヤツにつけたな!馬鹿シンジのヤツ!

 許さない!絶対に許さないから!」

 

『私、シンジ君のこと、大好き。貴女こそ、向こうに行けばいいのよ』

 

「あ、何この冷静な口調。そこはかとなく、むかつくわね。

 ショートカットのおとなしそうな…、待てよ、馬鹿シンジのヤツ!もしかすると!」

<物静かな美少女。家庭が複雑なようで、いつも一人で本を読んでいる。(CV:林○○○み)>

「そんなことだとおもったわ。じゃ、こいつの名前は、はん!やっぱり、レイね。

 でも実物よりも可愛らしい声じゃない。私とはえらく違うじゃないよ!

 何か、あったま来るわね!

 で、シンジ様は誰やってんのよ。

 アイツ性格暗いから、自分と逆のキャラやってたりして。

 えっと、こいつか。はは〜ん、生真面目に自分に似たキャラにしてるじゃない」

<引っ込み思案で人の顔色を窺いがち。成績は良く、音楽が好き。(CV:緒○○美>

「あ、私、この人が良い!」

<美術の教師でテニス部の顧問。女子の人気を集めている、ナイスガイ。(CV:山○○一>

「ははは、そうよね、このキャラは加持さんよね。

 シンジもこのキャラの名前をリョージにしてるじゃない!

 へぇ、教師も攻略可なのか。面白そう…。

 私もしてみようかな…あ、でもシンジにばれるとイヤだから…

 この手のゲームは短時間でできないし…うん、やめとこ…」

 アスカは証拠を残さないように片付けて、自分の部屋に戻った。

 時間は午前3時30分になっていた。

 

 

 


 

 

 

「ふぁぁ〜」

 お日様はすでに頭の上、午前11時にベッドから起き出してきたのは、天下御免のアスカ様。

 百年の恋も冷めるような、大きな欠伸をしながら、リビングに登場した。

「なぁんだ。誰もいないの?」

 テーブルにはラップされたエビピラフと、置手紙。

「えっと、なになに。テストなので、本部に行きます。晩御飯には帰れると思います。

 お昼はピラフを温めて食べてください。シンジ。だって。ははは。主夫よね、アイツ。

 ん?てことは、今日は一人よね。ちゃ〜んす!」

 

 

 

 午後7時。

 テストを終え、晩御飯の買出しもしてきたシンジが帰宅した。

「ただいま〜!あれ?誰もいないの?」

 照明が点いていないリビングに入ってきたシンジは、

 ソファーにぼんやりと座っていたアスカに気がついた。

「な、なんだ。アスカ、いるんじゃないか。どうしたの?電気もつけないでさ」

「あ、シンジ…。おかえり」

「どうしたの?風邪?」

「ううん…なんでもない。ちょっと、考え事」

「悩み事?もしよければ、僕に話してみてよ」

「シンジ、アンタちょっと変わった?」

「え…」

「私のこと…心配…なの?」

「そ、そりゃ、アスカに元気がなけりゃ、心配だよ」

「あ、アンタ…そ、それ」

「はは、僕が言ったら変かな?」

 アスカは呆然とシンジを見つめた。

 透き通るような、シンジの笑顔を。

「だ、大丈夫よ」

「本当?」

「し、しつこいわね…大丈夫ったら、大丈夫よ。そ、それより、お腹空いたな」

「あ、ごめん。すぐに作るよ。あれ?ご飯炊いておいてくれたんだ」

「そ、それくらいできるわよ。私だって、さ」

 アスカはソッポを向いて、ボソリと言った。

「ありがと!今日は唐揚げにしたから、もう少し待っててね」

 アスカはソファーから、甲斐甲斐しく動くシンジを見つめ続けていた。

 そして、時々シンジがアスカを見ると、

 彼女は慌てて他方を向き、そしてまたすぐに視線をシンジに戻す。

 明らかにシンジを意識していた。

 もちろん、他人の目を気にしがちなシンジがそれに気付かないわけがない。

 ところが、いつもアスカの心に土足で入ってくるような鈍感大王が今日は何も言わない。

 逆に鼻歌交じりで、実に楽しげに食事の準備をしている。

 はぁ…。

 シンジの背中を見つめて、アスカが大きな溜息を吐いた。

 それでもシンジは気がついていない。

 

 

 

 


 

 

 

 

 いや、ここで真実を語ろう。

 シンジは気がついている。そして、すべてを知っている。

『アスカ…僕を見ているんだね。

 やっと、僕の存在に気を留めてくれたんだね。

 もう少し…あと一押しかな?

 いや、焦っちゃ駄目だ。僕の一生が掛かってるんだから』

 などと考えながら、シンジは料理を終えた。

 鳥の唐揚げに、ししとうとかぼちゃの揚げ物を添えて、

 サラダと味噌汁もきちんと作っている。

 さらに冷蔵庫から漬物と作り置きの金平を出して、晩御飯の準備は完了。

 二人は向かい合って、食事をはじめるのだった。

 アスカは無言でチラチラとシンジの様子を窺い、

 シンジの方は邪心のない笑顔を浮かべ、

 時々二人の視線が絡まると、シンジは極上の微笑を彼女に贈った。

 その度にアスカの頬は赤く染まり、肩が少し窄まる。

 シンジは笑顔の影で思った。

 よし、完全に恋する乙女のモードに入ってる。

 これは…21日目くらいの反応かな?エンディングまであと10日か…。

 

 

 

 やがて食事が終わり、片付けも終わった。

 珍しくアスカが紅茶を入れ、静かな時間が流れる。

 そのとき、アスカがごく自然に見えるように、シンジに質問した。

「アンタさあ、自分が付き合ってる、お、女の子が別の人を好きだったら…どうする?」

 シンジは心の中で小躍りした。

 そうか!もうそこまでクリアーしてたんだ。もう27日目じゃないか!

 でも、ここはオトボケに限る。

「え?それ誰のこと?僕に付き合ってる子なんかいないよ」

「ち、違うわよ。現実のことじゃなくて、ゲ、いや、仮定の話よ。仮定。うん」

 誰が見ても不自然なほど、アスカは動揺している。

 シンジは心の中でガッツポーズをしていた。

 アスカって、わかりやすいから作戦の進行度合いがよくわかるよ。

 嬉しいな。僕の思った方にしっかり進んでるよ。

「そうだな…。もし、そうだったら、あきらめちゃうかな…?」

「え〜!自分が好きなのに?」

 ぷっ!笑っちゃ駄目だ。

 でも、台詞がそっくり一緒じゃないか。

 アスカって、やっぱりのめり込むタイプなんだ。

「うん。だって、本当に好きな人がいるのに、無理に僕と付き合ってても、

 その子は幸せじゃないじゃないか。

 好きな子の幸せを考えるのが、本当に好きって事じゃないのかな」

 ニコッ!

 シンジの笑顔に魅入られたように、アスカは引き込まれていた。

「そ、そうなんだ。ふ〜ん、アンタはそんな風に考えてんだ」

 慌てて言うアスカの頬は赤く染まり、その視線は自分の膝元に落ちている。

 シンジは心の中でウイニングランをしていた。

 よし!この笑顔をどれだけ練習したことか。

 お風呂の鏡で練習し続けて、逆上せてしまったことだってあるんだ。

 ネルフの更衣室で練習してて、青葉さんが気持ち悪そうに見ていたことだって。

 マヤさんに試したら、コーヒー奢ってくれたんだぞ!

 ゲームの主人公に負けない笑顔になってるはずなんだ。

 でも…、こんな初々しいアスカって凄く可愛い!

 声だって、いつものアスカと違うよ。

 まるでゲームの声優さんが出してるみたいに可憐な声じゃないか。

 ああ!早くアスカを僕の彼女にしたい!

 駄目だ。焦っちゃ駄目だ。焦っちゃ駄目だ。

 シンジは暴走しそうな心を抑えて、

 シナリオ通りにアスカが自分の計画に陥るよう、さらに細心の注意を払うのだった。

 

「あのさ、明日もテストなんだよね」

「へぇ、日曜なのに?それはご苦労なことで…」

「うん、リツコさんが続けてデータを取りたいんだって」

 その直後、アスカはちらりとテレビの方を見た。

 明日もゲームをしようと考えたのは一目瞭然だ。

 自分の計算通りの行動をとっているアスカに、シンジはすっかり満足していた。

 

 

 

 シンジの計画はこうだ。

 まず、あの恋愛シュミレーションゲームをアスカに遊ばせるように仕向ける。

 アスカは好奇心の塊だから、僕が必死になってしているゲームだと気付かせるだけでいい。

 100%以上の確率で、こっそりゲームをしてみるはずだ。

 そして、アスカのことだから、自分に一番近いキャラクターで遊ぶことは間違いない。

 これまでアスカがしてきたゲームのやり方でそれは断言できる。

 そして、絶対に最初はあの加持さんみたいな先生を攻略しようとする。

 でもあの先生は攻略できない。同僚の女教師と結婚する設定になっているから。

 これも試してみたから間違いない。

 それで頭に来て、いろいろな相手で試してみるだろう。

 そして、シンジそっくりなキャラの男子生徒とハッピーエンディングになることを知る。

 攻略本とかで知識で知ることとは違い、実際にプレイして実感を伴ってみると、

 実際の生活とリンクして、現実と錯覚を起こしてしまうかもしれない。

 このゲームの設定は驚くほど実際の彼等の状況と似ているからだ。

 あのシンジに似たキャラクターがずっとアスカのことを好きだったという設定は、

 女の子なら涙にくれるのは間違いない。

 シンジですら思わず、なるほどそうだったんだって納得したくらいだから。

 しかも、ターゲットはあの単純なアスカである。

 ゲーム環境に同化する可能性は高い。

 駄目元で試してみるのも悪くない。

 つい最近になってアスカのことを好きだと気付いたものの、

 アスカに嫌われたくない一心で、何も言えないシンジにとっては、

 このゲームを使ってアスカの心を知ることは、実に巧妙で簡単な方法だったのだ。

 そして、もしアスカがこのゲームに魅入られてるのならば、

 ラストシーンと同じ状況でアスカと対決する!

 

「そこまでいけば、大丈夫だ。まず、断られないはずだ。

 別にアスカは僕に悪意は持っていないはずだから、

 アスカはゲームの雰囲気に酔ってしまって、僕に好意を持つんだ。

 大丈夫だ。絶対に大丈夫だ。

 ハッピーエンディングが、アスカとラブラブの毎日が、僕を待ってるんだ」

 

 

 

 翌日、シンクロテスト中もそのことだけを考えて、ダミープラグ内でニヤついている

 シンジの数値が上がるはずもなく、リツコは溜息を吐いていた。

 しかしながら、シンジにとっては都合のいいことに、今日のリツコはテストを中止しようとしなかった。

 その間、マンションに残っているアスカは、シンジの期待通りにゲームに没頭しているのだった。

 

 

 

 そして、ついにその夜。

 シンジはアスカに告げたのである。

「アスカ、明日の放課後に屋上に来てくれないか。大事な話があるんだ」

「はひ!わかつたわ!」

 思い切り裏返った声で、アスカは答えた。

 顔は真っ赤になって、タンクトップの裾を持ってもじもじしている。

 くぅ〜!可愛い!今すぐ抱きしめたい!

 シンジの男性本能が点火したが、彼は必死で鎮火した。

 ここですべてを台無しにするわけには行かない!

「あ、あの…、シンジくんは放課後にあの子と会うんじゃないの?」

 アスカが俯きながら問い掛けてきた。

 シンジは、代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームランを打って、

 ヒーローインタビューを受けているような気分になっていた。

 

『いやぁ、アスカがあの台詞を喋ったとき、これはいったなと確信しました。

 しかも、シンジくんですよ。くん

 声もゲームの声優さんみたいに、可愛らしい声になっちゃって。

 ゲームの環境に完全に同化しちゃったってことですよね。

 もうあとは楽勝ですよ。楽勝!』

 

 アスカはシンジが質問に答えてくれないので、上目遣いで様子を窺った。

 勝利に酔い流されそうになっていたシンジは、

 こっちの世界に懸命に踏みとどまって、ゲーム通りの答えをするのだった。

「ううん。僕は彼女とは別れたんだ。じゃ、明日屋上で。待ってるから」

「は、はい」

 アスカに微笑みかけて、シンジは自分の部屋に入り襖を閉めた。

 本当なら、この会話は教室でしないといけないんだが、これは仕方がないだろう。

 シンジは音が外に聞こえないように、無言&無音で、狭い室内を喜びのために暴れ狂っていた。

 絶対だ。絶対に、ハッピーエンディングだ!

 

 

 

 


 

 

 

 

 そして翌日。放課後である。

 優しげな微風と陽射しの中で、二人は向かい合っていた。

 アスカの美しい紅茶色の髪が風に靡いている。

 シンジは手を握って、開いて、また握った。

 やっぱりゲームと違って、現実だから、緊張している。

 セーブやリプレイができないんだから。シンジが緊張するのは無理もない。

 しっかりするんだ。ゲームの通りに言ったらいいんだ。あんなに練習したじゃないか。

 シンジは決断して、ついに口を開いた。

 

「アスカ、聞いて欲しい。僕は君のことが好きだ。

 僕はこんなに頼りない男だけど、君のことを想う力だけは世界中の誰にも負けない。

 お願いだ。僕と付き合って欲しい」

 

 ゲームの台詞そのままに、シンジは言い切った。

 

「私…」

 

 よし!言え!言うんだ、アスカ!あの台詞を!あの名台詞を!

 攻略おまけモードでこの名場面はシーン再生できるんだ。

 僕はあの台詞を何千回聞きかえしたことか。

 僕は知ってるんだ。

 アスカがこの声優さんみたいに、物凄く可愛い声を出すことができるのを。

 いつもの怒鳴り声やわざとらしい甘え声じゃない、普通の女の子の可愛い声を。

 シンジの握りこぶしに、ぐっと力が入った。

 

私、前に聞いたよね。付き合ってる人に別に好きな人がいたらって。

 シンジは別れて、その人の幸せを願うって言ったわ。

 私は違う。

 もし、シンジに好きな人ができたら…私は自殺するわ。

 ううん、その前にシンジも殺すわよ。

 私の愛はそれくらい激しいの。

 それでもいい?私でいい?

 好きなの…シンジ。

 アスカはあなたが好き!

 

 アスカは真っ直ぐにシンジを見つめていた。

 歓喜に沸き返るシンジの心は、

 今やぶっ飛んでしまいそうになっているシナリオを必死に思い出そうとしていた。

 

「だ、だ、だ、大丈夫だよ。アスカ、ぼ、僕は死んでも君を離さない!」

「シンジ!」

 

 アスカはシンジの胸に飛び込んできた。

 そして、シンジの胸の中でしゃくりあげて泣くのだった。

 シンジは優しくアスカの肩を抱いて、走り出して喜びを表現したい気持を抑えるのだった。

 

「シンジ、好きよ。大好き。一生、私を放さないでね」

「もちろんだよ。アスカ…」

 

 まさにゲーム其のもののハッピーエンディングである。

 これがゲーム世界なら、抱き合う彼らが止め絵になり、

 主題歌とエンディングクレジットが始まっていたことだろう。

 

 

 

『やったぜ!ケンスケ!君にもらったゲームで僕の人生はバラ色になったんだ!

 ありがとう!ケンスケ、何かお礼するからね!』

 

 

 

 

 


シンジとアスカのラブゲーム −終−

 

 

 

 


 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

ゲームでありがちな、エピローグ

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、本当にこれもらってもいいのかい?」

 

 ケンスケは袋を外側から触って、内容を確認しながら言った。

 その袋の中には、プラグスーツ姿の綾波レイの画像データが収録されたCD−ROMが入っている。

 ケンスケにとれば超お宝の画像である。

 個人的な趣味もさることながら、

 これをプリントして売れば、欲しかった交換レンズが買って、まだお釣りがくる。

 不安なことを言いながらも、頬が緩んでいる姿は情けないものだ。

 

「あとで綾波さんに酷い目に合わされないかな?」

 

はん!大丈夫よ!

 チャーシュー抜きにんにくラーメン3杯で買収してるから。

 それよりも、相田。わかってるでしょうね。

 今回のこと、他言したら、どうなるか」

「わ、わかってるよ、惣流」

「殺すとは言わないわ。ただ、ネルフの生物兵器の実験体になってもらうから。

 きっと死んだ方がましだって思うでしょうね…」

「だ、だ、大丈夫だよ。俺だって自分の身は可愛い。誰にも言わないよ」

「OK。取引は完了したわ。じゃあね」

 

 

 

 次にアスカが現れたのは、ネルフ本部のリツコの部屋。

 彼女はリツコの机の上にドサリと、

 ドイツから送ってもらった限定版猫グッズを投げ出した。

 その数100以上。

 

「ありがとね。世界でたった一つのゲームソフト。バッチリ、成功したわ」

「結構単純だったわね、シンジくん」

「そうね、シンジはすっかり私がゲームに感化されたもんだと思い込んでるわ」

「ふふ、私も面白いデータが沢山取れたわ。

 アスカって名前の子から、アスカの肉声で『シンジくん、好き』って、

 ゲームで言われたら、その気になっちゃうものなのね。

 催眠効果に応用できるわ。

 ねえ、彼のゲームの操作データはこっちで確認していったから、

 シンジくんの心の動きは手にとるようにわかるわ。見る?」

 アスカは肩を竦めた。

「いいわ。ファーストから私に心変わりしていった経過なんか見たくないもん」

「そう。じゃデータだけとって、あとは削除するけどいい?」

「もっちろん。証拠は残さないでよ。

 あ、それからファーストの声してくれた声優さんは呼び出せる?」

「いいわよ」

 リツコはインターホンに呼びかけた。

「マヤ、すぐ来てちょうだい」

『はい、先輩』

「マヤはどうやって口止めするの?変なこと考えてないでしょうね」

「ふふ、大丈夫よ。私がストレートに感謝して、御礼を言えば、

 彼女なら素直に受け取って誰にも口外しないわ。違う?」

「そうでしょうね、あの娘なら」

 

 

 

 愛するシンジの待つマンションに戻るため、一人リニアに座るアスカ。

 窓の外を夕焼けにつつまれた町が流れていく。

 満足げな微笑を浮かべながら、アスカは思った。

 

 私の生涯最大の作戦は大勝利に終わったわ。

 シンジの性格だったら、これでもう他の娘には絶対に目を向けない。

 一生、私を愛し続けるでしょうね。

 ふぅ…、でも危なかったな。

 やっぱり、あのお人形に気持が傾いてたんだ。

 まずファーストを攻略にいったんだもんね。

 やばい、やばい。

 この作戦を決行してよかったわ。

 どうも最近ファーストにベタベタしてるように感じたから…。

 女の勘は鋭いのよ。

 

 そうね、リツコを猫グッズで買収できたのが最大の勝因よね。

 それとあの一言が効いたのかな?

 『私とファーストのどっちに「お義母様」って呼ばれたい?』

 ファーストだったら「ばあさん」って言うわよね。

 リツコの立場じゃ、私を選ぶのは当然。

 自分の立場を決めると、さすがはリツコだったわ。

 システムは2日で完成したし、どう見ても市販のゲームソフトに見えるように、

 ROMや外装、取説も見事な出来に3日で仕上げて来たわ。

 CGも専門学生をバイトで雇って、突貫工事で仕上げさせた。

 音声も声優を雇って、フルヴォイスよ。私とレイのキャラだけは、こっちで吹き込んだけどね。

 この製作中に、使徒が襲来しなかったことも幸運だったわ。リツコが作業に没頭できたから。

 そして、シンジの心を私に靡かせる為の、世界で一つのゲームソフトは完成したの。

 私だけが幸せになる選択肢で、しかも私のシンジへの激しい愛を実感させるには、

 この方法しかなかったのよ。

 そうね、本当にゲーム音声の吹き込みには気合が入ったわ。

 自分の未来が掛かってるんだもん。

 

 でも普通は気づくわよね。

 他の名前ならすぐに合成音声だとわかるのに、

 『アスカ』が喋る『シンジ』だけは自然に流れていることに。

 だって、シンジは鈍感なんだもん。

 あれだけ見え見えでゲームをしていることを見せ付けても、

 全然不思議に思わないんだから。

 そこがシンジのいいところなんだけどね。

 ま、今回のことで、私のことを単純バカだなんて思ったでしょうけど、

 大事の前の小事よ。別に良いわ。

 とにかく、これで人類の平和が守られたのよ。

 私とシンジがラブラブにさえなれば、

 使徒でも何でも束になってかかってきても、へっちゃらよ。

 こうなったら、私は絶対に負けないから!

 私、世界で一番幸福な彼女、ううん、奥さんになるの!

 シンジ大好きよ!

 

 

 

浮気したら殺すからね。

 

 

 

 

シンジとアスカのラブゲーム −完−

 


<あとがき>

 こんにちは、ジュンです。4000HITありがとうございます!

 お楽しみいただけたでしょうか?

 古典ミステリーマニア(横溝、カー、セイヤーズ等々)の私としては、どんでん返しだけを考えて執筆した作品です。横溝の『本陣』じゃありませんが、内容もフェアに書いてあるはずです。作者のためじゃなく、シンジに聞かせるためにわざわざヘッドホンをつけて独り言を言ったり、リツコのテスト強行、声優さんの件、シンジがアスカを好きだと認識したのがつい最近だってこと、その他色々と伏線は張ってあります。

 因みにゲームでは、アスカ、マヤ以外はプロの声優にさせているという設定です。アスカの場合は作戦の内容上、絶対に本人じゃないといけないのですが、マヤに関してはアスカの監修の元にシンジがレイをあきらめたくなるような演技が必要なため、近場からセレクトした次第です。他のキャラは変に聞き慣れた声の場合、アスカとマヤの声に気付かれてしまうため、わざと違う声で声優を使ったのです。

 『鋼鉄』で簡単にマナに靡いたシンジ君ですから、ゲームにのめりこんで、可憐なアスカヴォイスで愛を囁かれれば、ひとたまりもないでしょう。愛に飢えている少年ですから。

 『鋼鉄のガールフレンド・2』、思い切りLASしてくれないかなぁ…。

 

 

2003.02.04  ジュン

 

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