この作品は、<The Epistles>様にてご掲載していただいた「あなたの傍に」シリーズの後日譚です。
当サイトにも他に2本の後日譚があります。先にそちらをお読みいただいた方がよりお楽しみいただけるかと…。
ただ、何分デビュー作ですので、恥ずかしいことこの上ないのですが。まあ、成長もしていませんけどね(苦笑)。

 

あなたの傍に…

− 間奏曲 −

「お月見」


500000HITリクSS

キリ番をお踏み戴いたえびはら様に捧ぐ

2005.02.01         ジュン











「わあっ!ほら、ママっ!すっごくきれいだよ!」

「まんまるっ!」

 ベランダから子供たちの声がする。
 お店を閉めて片づけを終えてへとへとだったけど、子供を邪険にはできっこない。
 私はぐっと身体中に気合を入れたわ。
 ふふ、表情の方は別に気合を入れなくても大丈夫。
 あの子たちの声を聞いたら…顔を見たら、自然に笑顔になってしまう。
 まったく子供なんか絶対に要らないなんて思っていたのは、どこの誰だっけ?
 あの頃の私に出会えたら背中をぱんっと叩いてやりたいわ。
 アンタ馬鹿ぁ?ってね。

 この子たちはまだ小さいんだけど、我が家はお店をしているからどうしても夜の時間が長くなってしまう。
 生活サイクルってやつね。
 親子揃っての団欒っていうのを親の方も子供の方も求めてるものだから、
 子供たちは自己防衛策として長めに昼寝をする習慣があるのよ。
 で、小さな子供としては夜中みたいな午後9時でも平気なわけ。
 4歳のレイなんかお兄ちゃんよりも目がらんらんとしてる。
 シンイチが少し眠たげなのは仕方がないのよね。
 お昼寝の時間を削ってガールフレンドとランデブーしてるから。
 もっともそのガールフレンドと一つ布団でお昼寝してるときもあるし。
 あの歳で既成事実ってまずいんじゃないの?
 ま、キョウコちゃんなら姑として鍛え甲斐のある根性たっぷりな子だから楽しみだけどさ。

 さて、その二人の子供が私を呼んでいるのは、二階のベランダから。
 お店の真上にあるベランダ。
 道路からそこがよく見えるから「洗濯物とか干したら台無しじゃない」って
 ミサトたちによく言われてるけど、こっちのベランダが南を向いているんだから仕方がないじゃない。
 逆に洗濯物が干してなかったら今日はサボったんじゃないかって思われちゃうから、主婦としては大変なのよ。
 そのベランダから子供たちが叫んでる。
 まったくもう、冬の夜遅くに風邪ひいちゃうわよ。

「なぁに?」

 部屋に入ったとたんに身体がぶるっと震える。
 そりゃそうだ。
 お店は営業中は暖房が入っていたし、その後は掃除とかでずっと忙しかったんだもん。
 早く全部終らせて子供たちとの時間をとらなきゃいけないからね。
 で、ベランダからの冷気が部屋の中をすっかり冷蔵庫状態にしてる。
 温かかった私の身体に足元から冷気が襲いかかってくる。

「わっ、寒っ!ちょっと、アンタたちこんなとこにいたら風邪…」

 ひくわけなかった。
 ベランダの二人とも完全装備。
 厚めのジャンバーを着込んで両手に手袋、シンイチはマフラーを首に巻いている。
 レイの方はその上にすっぽりフードを被っていた。
 ああ、あったかそう!
 こっちはシャツ一枚だっていうのに!
 カーディガンでも着てくれば良かったって、思わず自分の身体を抱きしめる。
 するとシンイチがぱっと部屋の中に飛び込むとばたばた足音をさせて扉を開けて出て行く。
 その後姿を見送り、私はそ知らぬ顔でベランダに出た。
 うううううっ!寒いっ!
 12頭だてのトナカイが牽くそりが全速力で背筋を走り抜けたわ。

「ママ、さむい?」

 大きなフードの中からレイの瞳が私を見上げる。
 私はレイに微笑んだ。

「大丈夫よ。お兄ちゃんが走っていったからね」

 小首を傾げるレイ。
 私は膝を曲げて娘の目と同じ高さに。
 
「お兄ちゃんはママが寒そうにしていたからあったかくなる物を取りに行ってくれたのよ」

 レイの瞳がぱっと輝く。
 そして、自信ありげにこっくりと頷くと、ベランダから中へ一目散。

「こらっ、つっかけを脱ぎ散らかしたらダメでしょ……って、もういないじゃない」

 サッシ窓のところに二色のサンダルが飛び散っている。
 青いのがお兄ちゃんでピンク色の方が妹。
 そのサンダルを綺麗に揃えて、私は待った。
 ぶるぶる震えながらね。
 しばらくするとダウンジャケットに可愛い足が2本生えて歩いてくる。
 前見えてないだろうな、あれは。
 
「こっちよ、わかる?」

「うんっ!」

 よろよろちょこちょことこっちに歩いてくる煉瓦色のダウンジャケット。
 声に誘導されてやっとのことで私のところへ到着。
 
「はい、ママ」

「アリガト」

 ダウンジャケットを取り上げるとその向こうから笑顔が見えた。
 少し得意気にニコニコ笑っている。
 早速私はダウンジャケットを着込む。

「わぁ、暖かいっ!」

 これは本音。
 だって本当に寒かったんだもん。
 この私の心からの声が息子をさらに破顔させた。
 シンイチは気が利くと言うか、優しい子だ。
 きっと私に似たんだと思う。

 う、そ、よ。

 さて、もう一人のちょっぴり無器用な方の我が子は?


「あれ、どうしたの?寒いなぁ」

 レイが引っ張ってきたのは愛する夫。
 確かにこっちは心から暖まるわ。
 私と同様にシャツ一枚の姿を見て、またシンイチがどたばたと部屋を飛び出していった。
 その後姿を見送って私はおかしくてたまらなかった。
 そして、こっちも得意そうに微笑む娘を私は抱き上げた。

「アリガトね、レイ」



 子供たちが見せたかったのは、夜空にぽっかり浮かぶお月様。
 きれいな満月。
 寒いせいか星空もいつもより透き通って見える。

「ホント、きれいねぇ」

「ねえ、ママ。お月見しよ」

「え?」

「お団子食べたい」

 シンジに抱っこされているレイもそう訴える。

「月見団子はさすがに売ってないなぁ」

「あのね、お月見って秋にするものなのよ」

「どうして?」「?」

 あらま、どうしてだろう?
 困ってシンジの顔を見たら、頼みの夫も首を捻っている。
 リツコに訊こうとも思ったけど、多分彼女もネットで調べるに違いないから、自分で調べてみることにした。
 その結果を知ってもみんな「ふ〜ん」とだけ。
 そりゃあ七夕みたいにドラマチックな話がくっついていないものね。
 中国から伝わった風習で元々はサトイモの収穫祭だという説が有力……。
 やっぱり食欲の秋ってことになるのかしら?
 まあ、月に不老不死の女仙人が住んでいて女性は月を見て願い事をかけていたって話もあって、
 男の方はその願掛けに対抗して月見酒とばかりに酒宴を催していたのが今のスタイルに変形していった…。
 う〜ん、なんだかあまりによくありそうな話すぎて面白くない。
 まあ、ともかく秋に月見っていうのはずっと昔からの風習なんだと子供たちを納得させた。
 ううん、あの子達が納得したのはお団子の代わりに揚げジャガをつくってあげると言ったから。
 じゃがいもを生地に包んでカラッと揚げる。ほくほくしてもう美味しいのっ。
 で、シンジがそれをつくっている間……私だってちゃんとつくれるわよっ!……、私は子供たちとお話。
 話題はあのベランダで恒例行事になってるお月見のこと。
 自分たちが生まれる前からずっとお月見をあそこでしていたと聞いて、二人とも驚いていたわ。
 お月見は子供たちのための行事じゃないのよ、もう。
 で、最初のお月見はいつかって訊かれて…私はこのお店をはじめるときの話をすることにしたの。
 帰国したのはあの年の8月だった……。
 






 
 2026年の夏。
 日本の夏は、それはもう我慢できないくらいじとっとしていた。
 パリと、そして帰りにもう一度立ち寄ったミュンヘンではもっとカラッとしていたのに。
 これが本来の地球の気候だって言われても、
 セカンドインパクト世代の私たちにはピンと来ない。
 まあ、雪塗れの毎日だったドイツのことを思うと、あそこに夏がやってきてよかったと思う。
 こんなに明るい場所だったっけって見違えたくらいだったもん。
 
 はいはい、正直に言うわよ。
 気候の所為もあるけど、何処に行っても素晴らしい場所に思えたのは、
 私の隣にいつもシンジがいてくれたおかげなのよっ。
 ふんっ、これでいいでしょ!
 この私も素直になったもんだわ。

「アスカ、おかえり」

「はんっ、帰ってきてあげたわ。シンジがどうしても日本がいいって駄々捏ねるものだから」

 そう嘯く私のおでこはみんなから寄ってかかって、つんつんとつつかれてしまったわ。
 ミサト、リツコ、マヤ、ヒカリ……そして、レイまでが。
 相変わらず、素直じゃないわねって。
 うん、確かに素直じゃない。
 私も日本がいい。
 ここには、みんながいる。
 私と、そしてシンジとともに過ごした時間を共有したみんながね。
 
 さて、私とシンジには帰る家がない。
 ずっと借家だったし、二人とも意外なほどに私物が少なかったわけ。
 嵩張るものといえばシンジのチェロぐらいだったものね。
 私の衣類?
 馬鹿言わないでよ、私の美貌は着飾る必要がないんだもん。
 たとえ職人服でも「アスカはいつも綺麗だよ」ってシンジが…。

 はいはい、惚気はやめて先に進めればいいんでしょ。
 とにかく荷物はというとみんなにお土産を配分したら、残ったのがほんの少し。
 衣類とか必要最小限のものと、
 それから喫茶店をはじめる為の資料とか道具ばっかりなんだから。
 だけど、向こうから船便で店用のインテリア一式を送ったって聞いて、
 みんなはさもありなんって感じで苦笑していた。
 ただ、慌てていたのはミサト。
 送り先にミサトの住所を指定したって言ったからね。
 到着予定日までに店を見つけなさいよ!なぁんて大騒ぎ。
 まあ、加持さんと兄一人姉妹二人の三人兄妹で家の中は目茶苦茶でしょうから、私もそのつもり。
 でも、そんなに簡単に見つかるもんじゃないしねぇ。
 もし見つけられなかったら倉庫を借りなきゃ。

 で、私たちが向ったのは、ネルフの社宅。
 そう、社宅なの。
 ネルフと社宅って、なんだか物凄い取り合わせだと思わない?
 だけどネルフも財団法人なんだから普通に福利厚生施設を充実しておかないといけないわけなのよね。
 そこに住んでいる人間が、ちょっと問題なんだけど。
 まず、ミサト&加持さん一家。
 まあ、これは一応5人家族なんだからいいけど。
 次に青葉夫婦。
 こいつはどうも社宅に住みたいって言うのが奥さんの意向みたい。
 普通なら、ああ一戸建てが欲しいから倹約するのねっと感心したいところだけど…。
 マヤが足繁く通うのは1フロア上の部屋。
 そこの表札には“赤木”と“綾波”の二つの名前が並んで書かれているの。
 ホントに、アンタたち仮にも部長クラスなんだから持ち家にしなさいよ、まったく。
 それでも一般の職員の家族も別に気にせず入居しているようだから、これでいいのかもしれないけどね。
 私たちはその社宅の二階の一室を11月いっぱいまで借りることにしている。
 だって、開店予定日が12月4日だから。

 問題はまだ店の場所を決めていないってことなんだけど。
 
 日本に戻って3日。
 私たちは動き出した。
 頼みもしないのに、リツコがMAGIで第3新東京の物件リストを作ってくれていた。
 素直じゃない私は軽く「アリガト、助かるわ」ってお礼を言ったわ。
 彼女のことだから絶対にリスト化してるって予想はしてたけどね。
 リツコは少しだけ微笑んで、すぐにモニタの方に向き直った。
 相変わらず、素っ気無いこと。
 レイはそんなとこ見習わないでよね。
 だけどね、レイに聞いたら、二人の時には結構フレンドリーなんだってさ。
 ちょっと想像できないけど。
 ま、そんな面もなかったらマヤが懐くわけもないか。
 青葉さんには可哀相だけどね。
 私のシンジにはそういう思いはさせないからねっ。
 ヒカリの家に遊びに行ってもすぐ帰ってくるから。
 って、お店を始めたらそんな余裕はなくなっちゃうか。

 ミサトの車は遠慮して、マヤの小さな車を借りる。
 シンジは私に運転をさせてくれない。
 運転中にシンジの方を見ながら、ボディランゲジも満載の会話をしながらハンドルを握るからなんだって。
 信用ないんだから、もう。
 まあ、運転しているシンジの真剣な顔をずっと見られて話もできるから別に構わないんだけどさ。
 ただ、こっちを向いてくれないのが気に入らない。
 信号で止まったら私の顔を見てくれるけど、走行中は見向きもしてくれない。
 ここで、惚気を一発。

 アスカの顔を見たら見蕩れてしまって事故をしてしまうからね。

 だってさぁ……。
 レイに惚気たら、「嘘も方便」って一言で片付けられちゃった。
 ぷふぅっ。嘘なんかじゃないのにっ。
 アンタたちのいないヨーロッパで、どれだけシンジに可愛がってもらったか。
 新婚旅行でパリにやってきた青葉夫妻が辟易してたみたいだから。
 二日目も晩御飯をご馳走してあげるって言ったのに、もうごちそう様ですって。
 晩婚の二人に正しい夫婦のあり方を教えてあげたのにねぇ。

 おっと、脱線脱線。
 リツコのリストに基づいてお店の予定地を巡るの。
 当然二人とも真剣に候補を検証していくんだけど、私は少しデート気分。
 だって2年半ぶりの日本だからね。
 ただ、思うようなお店はなかなか見つからない。
 繁華街とかロードサイドにお店は欲しくないもん。
 だって、住まいも一緒にするつもりだからね。
 かといって完全な住宅街の真ん中にお店を作ったら、こっちが食べていくことができない。
 結構難しいのよ。
 で、5日も経過すると若干焦りも出てくる。
 見つからなければ最後の手段で新築で作ることになるけど、それじゃローン塗れの人生になってしまう。
 大学に入ってから今まで、二人でこつこつ貯めたお金が800万円。
 やっぱり働きながら修行したのが正解よね。
 ドイツじゃ家賃も要らなかったし。
 それとネルフから貰っていて手付かずのお金を加えたら、なんとかなるはず。
 物件さえ見つかればね。





 その日も私たちは3軒の無駄足をして意気消沈していたの。
 そして、お昼を食べようとレストランを捜していた。
 
「あれ?ここらあたりって…」

「うん、確か。あそこの角を曲がったら…」

「そうよ!ほら、あのお店よね」

「お昼はあそこで食べようよ。カレーがいいよね」

「シンジ、あそこのカレー好きだったわよね」

「アスカだって」

 そうだった。
 ここのお店のカレーが大好きで、シンジにコピーしろってお願いしたっけ。
 結局真似できなくて、毎週のように通ってた。
 今でもあそこのカレーと同じ味は出せないでしょうね。
 悔しいけどさ。

「じゃ、あそこでカレー食べよう。なっつかしいなぁ」

 心がわくわくして、口の中に唾液がわいてきた。
 何年ぶりだろ…。
 
 ところがあの懐かしい味とは再会できなかったの。
 お店の扉や窓には板が打ち付けられていた。
 私とシンジはその前でただ呆然としていたわ。
 
「やめちゃったんだ」

「うん、いつ閉店したんだろうね」

「最後に来たのいつだっけ?」

「大学の2回生…くらいじゃなかったかなぁ」

 そうだった。
 大学に入ってからこっちにはなかなか足を向けることがなかったんだ。
 講義とバイトの毎日で、時間が足りないって叫んでたもん。
 ヨーロッパへの修行資金を必死になって貯めていたものね。
 ここのお店は私たちの通っていた高校からさらに反対側。
 つまりマンションからは凄く離れていたの。
 ちょっとした用事でこの近くまで来た時に、住宅街の中にぽつんと建っていた喫茶店を見つけたの。
 で、自転車を止めてちょっとお茶をしたってわけ。
 お店の中もさっぱりとしていて煩い音楽もかかってなくってさ、ゆったりとした時間を過ごせたのよね。
 紅茶も、それから料理の方も美味しかった。
 雑誌とかモニタとかもなくて、音楽もイージーリスニングやクラシックが流れてた。
 でも読書はOKみたいで、よく隅の席で文庫本を読んでいるメガネの女の子がいたっけ。
 隠れ家的なお店でけっこうそれでも流行っていたように見えていたんだけどな。
 ちょっと無愛想そうなマスターの雰囲気も良かった。
 あれでもっとツッケンドンだったら司令そっくりだって、よくシンジをからかったっけ。
 自分たちも同じ仕事をしようとしているだけに、このお店が閉まっていたのはけっこうショックだったわ。

「やっぱり人通りの多いところじゃないとダメなのかなぁ」

「う〜ん、違うわよって言いたいとこだけど、そうなのかしら」

 二人とも弱気の虫に取り付かれそうだった。
 隠れ家的なお店じゃ生計が成り立たないのかなぁ。
 でも、ファーストフードとかフランチャイズみたいなお店にはしたくないし…。
 なんだか途方に暮れた私たちが言葉もなく立ち尽くしていると、

「あの…ごめんなさい」

 素早く振り返る!
 だって、若い女の声なんだもん。
 私のATフィールドは今やシンジ専用の武器。
 いや、防御壁って感じかしら。
 そこに立っていたのは黒髪のメガネ美人。
 アンタ、目が高いわねっ。
 私のシンジを瞬間で見抜くとは。
 でも、絶対に渡さないわよって、話しかけてるのは私にだった。

「間違っていたらごめんなさい。もしかして、うちによく来ていただいていたお客様じゃありませんか?」

「は?うちって、まさかここ?」

 私は閉鎖されている扉を指さした。
 メガネの女性は微笑みながら頷いた。
 
「あ、君っていつも本を読んでた。痛っ!」

 振り向きもせずに私はシンジのわき腹に肘打ち。
 ホントにこのろくでなしは日頃は超鈍感なくせに、こ〜いうど〜でもいいことだけはよく覚えてんだからっ。
 まったく油断も隙もあったもんじゃない。

「じゃ、アナタってここの娘だったの?」

 はい、と微笑を浮かべて頷く。
 心なしか頬が赤くなっているのもしっかりチェック。
 人の亭主にちょっかい出したら、コロスわよ。

「ええ、サクラで座ってたんです。父はバイト料をくれませんでしたけど」

 彼女は悠然と微笑む。

「私、お二人に憧れていたんですよ。いつも凄く楽しそうで」

 あはは、照れるわね。
 ま、私とシンジの二人を見てたら当然だけど。
 って、妙な自慢をするには少し大人になっちゃったかな?
 まあ、この娘さんがここの子だったとは気づかなかったわねぇ。
 
「あの…いつやめたんですか?」

 当然、何度も顔を合わしていたけど会話をするのは初めての人にタメ口で喋るわけない。
 私だって礼儀知らずじゃないんだもん。

「1年前です。2年前に父が死んで…」

「あのマスターが?」
 
 ええ、と頷く娘さんに私たちはお悔やみを言った。
 マスターとは世間話などしたことなかった。
 注文と代金のやりとりだけ。
 いらっしゃいませ、ありがとうございました。
 この二言ぐらいしか記憶にない。
 またお越し下さいとかいう愛想の一つも聞いた覚えがなかったわ。
 でも、無愛想なのは死んじゃったシンジのパパで慣らされてたからかな?別に不快じゃなかった。
 そんなマスターが死んじゃったなんて凄く悲しい。
 娘さんは微笑みながら私たちを家に誘った。
 玄関から入って、お店の方に足を進める。
 カーテンがしっかり閉ざされていた部屋に明りが灯ると、あの頃のそのままのお店が目の前に。
 一年前にやめたって言っていたのに、物凄く綺麗に掃除されている。
 今すぐにでも営業できそうなくらいに。
 そのことを口にすると、自宅の方のキッチンからコーヒーを運んできてくれた娘さんは少し恥ずかしげに笑った。

「変ですよね、もうすぐ取り壊されるっていうのに」

「えっ、取り壊されちゃうんですか」

「はい、今不動産屋さんと話をしてまして。駐車場にしたいって方が…」

 私は次第に言葉少なになっちゃってた。
 だって、ここは思い出の場所だから。
 シンジと二人で見つけて。
 二人だけの秘密の場所にしておこうねって誓い合ったのに、馬鹿シンジがあの二人に教えちゃって。
 ま、私もレイとヒカリに喋っちゃってたけどね。
 それからは6人の溜まり場みたいになってた。
 でも、高校ともなればみんなそれなりに忙しくて。
 やっぱり二人でここにいることが多かったわね。
 レイなんか誘っても「遠慮しとく」なんて言われたりして。
 そういや、相田がこっぴどくレイにふられちゃったのもここだったっけ。
 あぶれ者同士でなんて考え方がイヤってね。
 そんな言い方してたけどレイも相田の気持はわかってたと思う。
 好きだということだけは伝えたくて、玉砕覚悟でけじめをつけたかったってことだけは。
 レイはいい加減な気持で人の付き合いができない子だからなぁ。
 もしかすると、私が喫茶店をしたいって思ったのはこの店の存在があったからかも。
 シンジもそうかもしれない。
 お店を見つける条件がこの店に類似していたから。

「あの、どうでしょう?このお店を僕たちに譲ってもらえませんでしょうか?」

 耳を疑った。
 私が思い出に浸っている間に、シンジが真剣な口調でそんな事を言い出していたの。

「どういうことでしょう?」

 娘さんが微笑んだ。
 シンジったら、真剣な表情でしっかりと喋りだした。
 私にはわかる。
 滅多に入らない、男気モード。
 そこの娘さん、アナタは幸せ者よ。
 こんなに真剣なシンジはアナタの生涯ではもう二度とお目にかかれないんだから。
 って、問題はそれじゃなくてっ。
 
「シンジ、本気?」

 私の呟くような問いかけに、シンジはきっぱりと私を見た。
 うわっ……って、ダメよ、うっとりしちゃ。

「ああ、アスカもそうだと思うけど僕だってここのお店のことが頭にあったんだ」

「あの…譲って欲しいと申されますと、まさか貴方がたはここを…?」

 はっきりと頷くシンジ。
 それから、シンジは私たちの計画のことを彼女に説明したの。
 彼女はすべてを聞き終わると静かに微笑んだ。
 
「お譲りします」

 うん、それはもうあっさりと。
 自分の耳を疑ったくらいに。
 私は念を押すようにもう一度説明した。
 それでも彼女はまったく同じ返事をした。

「でも、もう決まっているんじゃないんですか?」

「お断りしますよ、あちらの方は。私にとってはこのお店をそのまま使っていただける方を優先します」
 
 きっぱりと彼女は言い切った。
 柔和な表情の癖に断固として。

「しばらくお待ちくださいね」

 彼女は静かに席を立った。
 そして、母屋の方にゆっくりと歩いていく。
 その背中を見送って私たちは顔を見合わせたわ。

「ねぇ、シンジ。どうしよ」

「どうしよって、どうしよう?」

 さっきまであんなに男らしかったシンジの表情がいつもの少し頼りなげな感じに戻っちゃってる。
 自分から言い出したくせに、この男ったらもう!
 私が眉を顰めると、彼女の声がかすかに聞こえてきた。
 電話をしているらしい。
 で、その言葉の中に「申しわけないですがお断りさせていただきます」って聞こえた。
 それを聞いて、また顔を見合す。
 そして、何故か声を潜めて会話をする。

「ちょっと、どうするのよ。お金のこと話してないんでしょ」

「う、うん。全然」

「すっごい金額だったらどうするのよ。ここって…」

 不動産屋さんじゃないから、見当がつかない。
 中古だからっていってもこの街自体がセカンドインパクト以降なんだから、それほど老朽化してるわけじゃない。
 しばらく考えて、そして私は覚悟を決めた。

「決めた。いくらって言われてもそれで決める。値引きの交渉もしない。いいわね、シンジ」

「えっ。言い値で買うの?」

「あったり前じゃない。アンタが言い出したんだから」

 この頃の私が“アンタ”と呼ぶのはほんの少しの人のみ。
 シンジとミサトとリツコ、それにレイ。
 よく考えたらその4人だけだった。
 ヒカリたちは名前か苗字で呼んでいたしね。
 
「よくわかんないけど、あの娘さんは私たちのことを信用してくれたんだから、それに応えなきゃ」

「アスカ…」

 シンジがくすくすと笑った。
 そういう笑い方をしたらレイそっくり。
 
「何よ、変な笑い方して」

 わざと膨れてやる。
 もっともこの攻撃は今となってはほとんど効き目がない。
 そりゃあまあ夫婦になってもう7年。
 お互いの身体どころか心の隅々まで知り尽くした二人なんですものねっ。
 ああああっ、子供欲しいっ!
 我慢に我慢を重ねてるんだから。
 お店をするって決めたときからの約束だもんね。
 だからなんとしても喫茶店を軌道に乗せないといけないのよ!
 そのためにはお店自体が要るんだけど…。
 あの娘さん、ホントにこの店を譲ってくれるんだろうか?
 まったく夢みたいな話なんだもんね。
 家付きのお店をそのままってなかなかない物件なんだもの。
 でも、問題は値段なのよね。
 シンジには言い値で買うって宣言したけどさ。
 碇家の主婦としてはやっぱりねぇ。
 高いよりは安い方がいい。
 でも「もう一声!」なんて商談できっこない。
 プライドが高すぎるのかなぁ、私って。
 ミサトあたりに商談させた方がいいのかも。

 そうこうしている間に、娘さんが帰ってきた。
 向かい側の椅子に座ると、にこにこと笑った。

「不動産屋さんはきちんとお断りしました。
 あとは…。あら?こういう場合はどうするんでしょう?
 あの…ご存知ですか?」

 ご存知のわけない。
 娘さんに断って、ネルフに電話。
 困った時のリツコ頼み。
 と〜ぜんリツコにはそんな知識があるわけないけど、どこに問い合わせたらいいかの交通整理はお手の物。
 で、ネルフ専属の司法書士の先生が飛んできてくれたの。
 そして、数分後にはその先生は天井を仰いだ。
 譲渡価格が全然決められていなかったから。
 何故って、ずっと平行線なのよ。
 両方が言い値で買う、売るの一点張りで。
 柔和な顔していて、この娘さんってすっごい頑固者なのよ。
 先生にお願いしてここの評価額を出してもらおうってシンジが言い出して、戦闘は一時休戦。
 3日後に再交渉することになったけど、ホントにまいってしまったわ。
 
 結局、私たちはかなり手ごろな価格でこのお店を買うことになってしまったの。
 この山岸マユミって娘の商売上手……じゃない商売下手には匙を投げてしまったわ。
 先生の出した評価額に文句をつけてどんどん下げてしまうんだもの。
 結局私たちの用意していた金額にまで強引に下げさせられてしまった。
 評価額の半分近くにまで。
 まったく喜んでいいのやら…。

 そして、彼女はさっさと荷物をまとめると、風のように北へと嫁いで行ったの。
 綺麗に片付いた、すっからかんの家とお店を残して。 
 最初はさすがに二人とも途方にくれちゃった。
 でも、頼んでいた荷物がミサトのところに届き、
 即行で助手席にミサトが乗った運送トラックがお店に横付けされてからはそうは言ってもいられなくなったの。
 放っておいたら外野からああだこうだとありがた迷惑な助言が山のように来ちゃうんだもの。
 まあ、いい意見ならちゃんと拝聴するけどね。
 メニューを各国の言葉でも書く。マヤ、アリガト。
 食材がなくなればメニューから消す。ヒカリ、アリガト。
 常連さんだけビールを飲むことができる。ミサト、開店記念に呼ばないわよっ。
 そんなこんなで準備が大変だから、11月末までって頼んでいた社宅も引き払って家の方に移ったの。
 9月の10日だったわ。引っ越してきたのは。
 
 それから、数日は大変だった。
 元が何もないだけに、ちゃんと日常生活が送れる家にするためにいっぱい買い物しないといけなかったのよ。
 ま、それが楽しいんだけどね。
 そうして、むかえたのが15日。
 その日も凄く忙しかったわ。
 設計事務所の人とお店の中の造作をああだこうだと。
 少し落ち着いた夕方のことだった。
 お店の方の扉は閉まっているから、家の玄関の鍵を開けて入ってきたのね。
 レイがニコニコ笑いながらお店の方に顔を覗かせたの。
 すっと音もなく白っぽいのが入ってきたから、正直びびった。
 マユミさんが安い価格で売ってくれたのは幽霊のせい?なぁんてね。
 で、ひとつ訊きたいんだけど、アンタ合鍵をどこで手に入れたわけぇ?
 リツコの仕業だって見当くらいはつくけどさ。
 近親者が合鍵を持つのは常識よって、レイ。
 まあ、いいわ。夜中はキーチェーンするし。
 それでもその気になったら突破してきそうだから怖いけどね。
 そのレイが手にしていたのは、ススキの穂と風呂敷包み。
 
「私、月の使者」

 だって。

 風呂敷包みの中は月見団子。
 どうせならついでに日本酒も持ってきてくれたらいいのに。
 すぐにシンジが自転車を酒屋さんに走らせる。
 帰ってきたときには前の籠に酒瓶2本と三方を載せていた。
 甘酒と純米吟醸酒“米処”。
 あ、甘酒がシンジ。
 少し辛めの“米処”は私とレイ用。
 よしよし、シンジ。いいわよっ。
 お月見するなら、やっぱり三方に団子を積まなきゃね。
 違った。供えなきゃね。
 徳利には甘酒でも入れておきなさいよ。
 “米処”は二人で全部空けちゃうから。

 ベランダに小さなテーブルを引っ張り出して、そこに三方を置く。
 その隣には花瓶にススキの穂を立てておく。
 ちょうど、ベランダから見える夜空にぽっかりと浮かんだまぁるいお月様。

「ね、団子はまだ?」

「アンタね、もうちょっと風流を楽しみなさいよ。日本人でしょっ」

「レイ、我慢しなよ。ほら、あんなにお月様が綺麗だよ」

 お酒をぬるめに燗して、3人で酒盛り。
 シンジはお猪口で甘酒をちびりちびり。
 私とレイはすぐにお猪口をコップに代えちゃった。
 お団子が酒の肴なんてなんか変だけどまあいいわ。
 楽しいんだもの。
 レイはそのうちに、ソファーによりかかるように眠ってしまっていた。
 仕方がないから、私は客間にお布団を敷きに行った。
 この客間は将来の子供部屋。
 早くお店を軌道に乗せて、この部屋で赤ちゃんの健やかな寝顔が見たい。
 この客用お布団の第一号はレイか。
 シンジにお姫様抱っこされてきたレイを見て、私はちょっと嫉妬。
 レイにお布団をかけた後は、シンジにせがんで…脅迫して、リビングまでお姫様抱っこしてもらった。
 そして、二人きりでお月見の続き。
 
「気を使ったのね、レイ」

「え?そうなの?」

「相変わらずの馬鹿シンジね。レイは誰よりお酒に強いじゃない。わざとよ。タヌキ寝入り」

 シンジの胸に頬を摺り寄せて、私は断言した。
 あとで団子と冷酒を供えに行ってあげよう。
 赤いお目目のうさぎさんへ。
 ただし、それはずっと後で。
 せっかく気を使ってくれたんだから、もう少しシンジに甘えることにする。
 お酒が入っているから、少しじゃすまなくなるかもしれないけどね。
 壁に耳あり、障子に目あり、うちの客間にはレイありだから、シンジが暴走しないようにしないと。
 明日の朝にくすくす笑われたくないもん。

 ベランダに放ったらかしにされたままのススキが微かに風に揺らいでいた。
 ゆらりゆらりと。
 ああ、幸せ……。

 






 



 後半のお姫様抱っこでリビングへ帰ってきてからのことは当然子供たちに話したりしない。
 ただ、お団子の話も出たせいか、二人の唇の端に涎らしきものがちらちらと。
 まったく意地汚いんだから。
 って、実は私も。
 さっきから、シンジのつくっている揚げジャガがいい匂いを漂わせてるんだもん。
 あああっ、もう我慢の限界!
 私の両隣に座っている子供たちとそれぞれアイコンタクト。
 二人とも瞳をきらきらさせている。
 私が頷くと、タイミングを合わせたようにぴょんとソファーから飛び降りる二人。

「パパ、できたぁ?」

「!!!!」

 私も子供たちの背中を追う。
 追い越してしまわないように注意注意。
 
「できたよ」

 と、シンジが振り向くと私たちがテーブルに勢ぞろい。
 おかしそうに笑いながら、シンジはその真ん中にお皿を置く。
 待ちかねていたみんなが一斉に、これはと思う揚げジャガの真ん中にぐさりと割り箸を突き刺す。
 割り箸が刺さったところから湯気が漏れるように上がってくる。
 わあっ、美味しそう!

「熱いからね、気をつけて。まあ、みんなわかってると思うけど」

「ふあふっ!」

 口の中が火事!
 慌てて、口をほふほふさせる。
 大きく頬張りすぎたわっ。
 大変大変!
 ふはぁ、火傷してないかな…って、愛する夫と子供たちが白い目で私を見てる。

「ふぁにひょ、その目あ」

 心配してくれるどころか、完全に馬鹿にしてくれてる。

「だって、ママいっつも同じことするんだもん」

 お兄ちゃんの言葉にうんうんと頷くレイ。
 二人の揚げジャガを見ると少しだけかじられている。
 私のを見ると、わっ、凄い歯形!
 一気に半分くらい食べてる。
 だ、だって、美味しいんだもん。
 私の胃袋って学習機能がないのかしら?
 いや、脳髄が胃袋に支配されていたりしてね。
 私は再びアツアツの揚げジャガに立ち向かう。
 今度は口の中でほふほふできるサイズで噛み付く。
 そんな私を見て、シンジが嬉しそうな顔で笑ってる。
 決定。
 深夜0時をもって、碇シンジを討伐する。
 反撃されないようにしなきゃ。
 ベッドの上じゃ時々亭主関白になっちゃうからね。
 ま、子供たちに急襲されないようにしっかり寝かしつけよっと。

「こら、レイ。そんなに飲むとおねしょしちゃうわよ」

 冷たいミルクを飲む娘に注意。
 娘は唇を尖らせて、父親に救いを求める。

「はは、寝る前にちゃんとトイレに行くんだよ」

 こくんと頷くレイ。
 
「ねぇ、ママ。さくらんぼ食べたい」

「馬鹿ね、さくらんぼはまだよ」

 唐突に言い出した息子を私は微笑みながらたしなめた。

「でも、スーパーに売ってたよ」

「あれは輸入物。うちのさくらんぼは……」

 あ、そういや、言ってなかったっけ。
 
「さっきお話したこのお家を売ってくれた女の人がね、さくらんぼを送ってくれてる人なのよ」

「えっ!」

 驚く子供たちを見て、シンジが「話したの?」と目で問いかけてくる。
 うんと頷き、寝室に葉書を取りに行く。
 今年の年賀状。
 マユミからのね。
 そのポストカードの写真を子供たちに見せたの。

「あ、このお姉さ…」

「そうよ、このおばさんがそうなの」

 シンイチの言葉にかぶせるようにして、おばさんを強調する私。
 あったり前じゃない。
 いくら年下でもマユミだけはお姉さんなんて言わせない。
 だってねぇ…。
 私の視線の先でレイが可愛い指を折っていく。
 そして、私に向って4本の指を立てて見せた。
 私はレイの頭を撫でながら、写真のマユミのお腹を指差した。
 小学生を筆頭に4人兄弟に囲まれた幸せそうな夫婦。
 その奥さんのふっくらと膨らんだお腹を。

「ここに5人目が入ってたのよ。それで、ここにこう書かれてるの」

 私はマユミの字を辿った。

「12月26日。三男が誕生しました。命名は年明けになる予定です、だって」

 レイは手を一杯に広げて5本の指に見入った。
 
「凄いね、ママ。子供が5人もいるんだ。えっと、女の子が2人と、男の子が3人!」

 お兄ちゃんの驚きにレイはさらに輪をかけたわ。
 で、シンジの腕を掴む。

「なんだい、レイ?」

「イモウト、ホシイ」

「あっ、ダメだよ、レイ。次は弟の番だよ」

「こ、こら、アンタたち!うちは二人でおしまいなの!」

「ええっ?弟欲しい!」

「イモウト!」

「困ったなぁ」

「こらっ、馬鹿シンジ!困るなっ。3人目なんて無理、ずぇったいに無理っ!」

「ママ、お願いっ!」

「オネガイ!」

「ダメったらダメ!お店がやっていけなくなるから!」

「僕手伝うもん!」

 私も、と自分を指さすレイ。

「だ、ダメだってば」

「キョウコちゃんだって弟が欲しいって言ってたよ。
 でも、キョウコちゃんとこはママがいないから…」

 くわっ!泣き落とし?

「シンジ、アンタからもなんか言いなさいよっ!」

「え、う、うん。あのね、子供はお父さん一人じゃ…」

 ばこっ!
 痛いとおでこを押さえるシンジ。
 今のは強力二本指のデコパッチン。
 幼児に性教育するんじゃないわよ、この馬鹿。
 ぐさっ。
 私は二個目の揚げジャガに割り箸を突き刺した。
 やっぱり、お仕置きが必要ね。






 3ヵ月後、山形県寒河江のさくらんぼ畑から、今年の第一便が届いた。
 顔を輝かせて、さくらんぼを頬張る子供たち。
 早速、私は送り主にお礼の葉書を書いたの。
 
 ……予定日は11月です。産まれたら、ご報告しますね。それでは。碇アスカ

 


〜 おわり 〜

 


<あとがき>

50万HITのキリ番をいただいた、えびはらさまのリクエストです。
@「あなたの傍に…」シリーズでシンジ、アスカの新婚時代のエピソード
Aお月見or秋の味覚狩り
B超激甘LAS
(え〜っと例えるならばマックシェークのストロベリーにお徳用蜂蜜1本とコンデンスミルク1本を混ぜて一気飲みしたような甘さでお願いします(^^)V)

ごめんなさい、3番目がダメでしたねぇ。

また、この間、Whoops!様のサイトに投稿したケンスケのお話は実はここの部分から生まれました。

>そういや、相田がこっぴどくレイにふられちゃったのもここだったっけ。
>あぶれ者同士でなんて考え方がイヤってね。
>そんな言い方してたけどレイも相田の気持はわかってたと思う。
>好きだということだけは伝えたくて、玉砕覚悟でけじめをつけたかったってことだけは。

かわいそうにケンスケのアスカへの恋心はまったく通じてなかったんです。
その前にこういう話があったってことを作品にしておきたかったんです。
何しろアスカの一人称ですから、気付いていないって事をここで文章にはできませんから。
密かにあの作品も『あなたの傍に…』の番外編ということで。
ちょうど『認知』のあたりの頃かと。少し矛盾があるのは目を瞑ってくだされ。
何しろあれはデビュー作。ってことで許してもらえませんか?

 

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