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先に500HIT記念SS「行け!アスカ 宇宙を越えて」を読んでね!

この作品は続編になります。

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80000HIT記念SS

惑星LAS建国記

−その弐−

 

2003.10.11   ジュン

 

 

 

『ここはあなたたちの星。名前だって自分でつけたらいいの』

「え?それってどういうことなのよ」

『ああ、そういうことになるね。君たちはこの星の神になるんだ』

「はい?」

「か、神様?」

 愛する二人の希望の星と信じて着陸した星で、いきなり神様になるのだといわれたアスカとシンジ。

 唖然とした二人の横で、ガヴァが目を閉じて寝息を立てだした。

 

 困惑する二人にカヲルとレイは説明をした。

 レイというのはもう一人の妖精(?)である。

 命名者はこれまたシンジ。

 従兄妹の女の子に似ているからだそうだ。

 で、その二人(?)がこの星における神様がどういうものか説明を始めたのだが、

 カヲルは饒舌すぎてわかりにくい。

 レイの方はぽつりぽつりとしか喋らないので、やはりわかりにくい。

 とりあえず、地球では最高峰の頭脳を持つアスカと(少し劣る)シンジが必死に話の整理をした。

 こういうことである。

 この星では、神様になった人間がすべてをつかさどる。

 気象から生物の創造まで。

 つまり神様の意のままに何でもできるわけだ。

「それって、凄いんじゃない?というより、そこまで権限持っちゃっていいの?」

「うん、そんなに責任が重いとちょっとね…」

『そうだねぇ、大抵どこかで面倒見切れなくなってね』

「ちょっと、それってどういう意味よ」

『深い意味はないわ。ただもし貴方達が神様になるなら…、25代目になるわ』

『そうだね。僕たちが24代目だったからね』

「えっ!アンタたち、神様だったのっ?!」

 シンジは楽である。

 疑問に思ったことはすべてアスカが先に喋ってくれる。

『そうだよ。僕たちは神様さ』

「じゃ、今この星はアンタたちの意のままってこと?」

『ふふ…、今は何もしてないよ。もう疲れちゃったから』

「疲れたって、そんな無責任な」

『そうね、無責任ね』

 レイがカヲルを睨みつけた。

「何かあったみたいね。この子達」

「うん、そうみたい」

 凍りつきそうなレイの視線だったが、カヲルは平然としている。

「彼とどうかしたの?」

『女の子…だけじゃないわ。男の子でも気に入った相手を見つけたら追いかけるの』

「あ、色魔っ!」

『心外だねぇ、女の子や男の子を追いかけるだなんて…』

 へらへら笑いながら、カヲルはシンジの肩に舞い降りた。

『違うとでも言うの?』

 シンジと並んで立っていたアスカの肩に、レイが降り立つ。

 アスカは気を利かせてシンジの肩に自分の肩をくっつけた。

 これで手を伸ばせば届く距離にカヲルとレイがいることになる。

『ああ、違うよ。少々年増でも美しければ…』

『浮気者!』

 レイはぼそりと呟くと、顔色も変えずにカヲルの頬を平手で叩いた。

 ぱしん!

『酷いなぁ、暴力は嫌いだよ。君がそんな風だからみんな戦いを止めないで滅んだのかもしれないね』

 ぱしん、ぱしん!

 往復ビンタである。

『いくら僕と君が夫婦でも…』

「へぇ、アンタたち夫婦なんだ」

 アスカがそう言うと、レイは色白の顔を真っ赤に染めた。

 そして、こくんと頷く。

「か、可愛いや」

 シンジは失言をした。

 いや、その素直な感想にレイ自身は喜んだのだが、この時アスカは肩を密着していたのだ。

 聞き逃すはずも、許すはずもない。

「今の何?」

「え?今のって?」

「アンタ、レイのこと可愛いって言ったわよねぇ」

「えっと……そうだっけ…?」

 シンジはごまかそうと試みたが、不可能なことだ。

 危険を察知したレイとカヲルが素早く飛び去る。

「よくもまぁ、奥さんの前で他の女性を可愛いだなんて言ったわねっ!」

「お、奥さんって、僕たち結婚してないじゃないか」

 シンジは失言を上塗りした。

「あ、そうなの。シンジは私を奥さんにするつもりはないんだ。結婚する気がないんだ。

 そっか、そうなのか。この星で新しい恋を見つけるつもりなのね」

「そ、そんなこと言ってないじゃないか。それにこの星には人間がいないんだし」

 どうしてシンジはこうも言い訳が不得手なのだろうか。

 喋るたびにアスカへ攻撃のネタを提供している。

「あ、なるほど、人間がいたらそうするつもりなんだ」

 アスカは一歩前に進んだ。

 シンジは彼女に敬意を表して二歩後退する。

「やっぱそうなんだ。私から逃げるつもりなのね」

「ち、違うよ。アスカの顔が怖いから」

「うきぃぃぃっ!私の顔が悪いんですって!」

「違うってば、悪いんじゃなくて怖いんだよ」

「ああっ!もう、限界っ!」

 アスカはシンジの胸倉を掴んだ。

 そして…。

「あ、そうだ」

 アスカは首を横に向けた。

 空中をふわふわ浮いているレイとカヲルに、彼女は問い掛けた。

「ねえ、神様って、夫婦なの?」

『そう、男神と女神のつがいなの』

『まあ、夫婦ってことにしないと信仰上よくないからね』

「それって何か儀式がいるわけ?」

『それって、結婚に?』

『何もいらないさ。神様が自分たちなんだから、それも自分たちで決めたらいいのさ』

「なるほど…」

 アスカはニンマリと笑った。

 その笑顔のまま胸倉を掴まれているシンジは、生涯最大の危機感を覚えた。

 これまでに体験した最大の危機感など、今の状況に比べればなんてことはない。

 


 

 そう、あれは4129年ほど前のことだ。

 もちろん、地球時間での話である。

 集団腹痛の発生で、男子のパイロット候補生のうち唯一人難を逃れたシンジが長官室に呼び出された。

 そこに待っていたのは、長官以下のお歴々と、仏頂面で窓のところに立っているアスカだった。

 その部屋で最初に聞いたアスカの声は、

「はん!アンタがそのブービー野郎ってわけぇ?冴えないヤツ…」

 そして、シンジの周りをグルグルと回りながら次々と言葉を浴びせた。

 ここがアスカの正念場だったのだ。

 手の者を使いせっかくシンジがパイロットに選ばれるように画策したというのに、

 当のシンジが辞退などをされてしまったらすべてが水の泡となってしまうからだ。

 有無を言わさずに邪魔の入らない宇宙空間へ連れ出さねばならない。

 この爺さんたちに変な言葉を掛けられてシンジが辞退するとか考えてみるとか言ってしまえば、計画自体が延期になる可能性がある。

 だからこそ、アスカは喋り捲った。

「でもアンタって運のいいヤツよねぇ。このエリート中のエリートの天才美少女の私と大宇宙に飛び立つんだから!そうよねっ!」

「あ、う、うん…えっと、それは…?」

「つまりだね、碇君」

「つまり、アンタ以外のパイロットは一人もいないってことなのよ!み〜んな、病院でうんうん唸ってるわ。

 だから、アンタがパイロットになるしかないのよっ!」

「ぼ、僕が?」

「そうなんだよ、碇君。だか…」

「だから、アンタはラッキーだっていうのよっ!ブービーの成績なのに、パイロットになれるんだから。

 あ、そっか。ラッキーなヤツがパイロットの方が良いですよね。ね!長官!」

「ああ、それはそうだな。いくら成績がよくても運が悪いとな」

「そか、そっか。よし、アンタは宇宙船が事故を起こさないように、その運の良さをフル活用しなさいっ!」

 アスカは真っ向からシンジの顔を指差した。

 そして、シンジは思わず返事をしてしまった。

「う、うん」

 アスカは心の中で小躍りした。

 しかし、ここで攻撃の手を緩める彼女ではない。

「はん!仕方がないから、アンタをパイロットに認めてあげるわ。光栄に思うことね!」

「あ、ありがとう」

「よし!じゃ、これから特訓よ!」

「え?特訓って?」

「惣流君、発射まであと3日しかないのだよ。いまさら…」

「いいえ、キールと違って、彼は自分がパイロットになって飛び立つとは思っていませんでした。

 私との作業の連携の問題もあります。短い時間しかありませんが、パートナーとして息を合わせられるように特訓すべきです」

 アスカは真剣な表情で長官たちに訴えた。

 お偉いさんたちは少女のやる気と使命感の強さに感動すら覚えていた。

 さすがは主席の惣流・アスカ・ラングレーだ、と。

 実際は、シンジを3日間どこにも行かさないようにしたいがためだけだったのだ。

 一応<彼女>のマナなんかを見舞いになど行けば、優しいシンジは『僕は地球に残るよ』などと言ってしまいそうだからだ。

 このようにして、アスカはシンジ隔離作戦にまんまと成功したのだ。

 その間、アスカはシンジを甘やかしたりはしなかった。

 わざと使命感を煽るように厳しく接したのである。

 シンジも周囲の期待に応えられるように頑張った。

 そんな一生懸命なシンジの姿に、アスカはさらに恋心を募らせていたのだ。

 

 そして3日後、宇宙船が大気圏を突破した時、アスカの頬が急に大きく緩んだ。

 シンジは驚いた。

 厳しく冷淡で傲慢なアスカしか、この数日見ていなかったためである。

 一度校庭で会ったときとはえらく違うとは思ってはいたのだが…。

 それでも、この変化はあまりに異様だった。

「ど、どうしたの?惣流さん」

「くぅぅ〜っ!」

 顎の辺りで両手を握り締め、ガッツポーズをするアスカ。

「あ、あの…」

「やっと、二人きりねぇ…」

「そ、そうだね」

「もう、戻れないのよね」

「う、うん。帰れないね、もう」

「くっくっく…」

 アスカは顔を覆って、奇妙な笑い声を立て始めた。

 狂った…のかもしれないとシンジは思った。

 地球に二度と戻れないから、精神に異常をきたしたのかも…。

 この宇宙船という限られた空間で、狂人と二人きり。

 シンジはぞっとした。

 この時、である。

 シンジがその生涯で最大の危機感を覚えたのは。

 だが、その危機感は10秒後に解消されたのだったが。

 シンジにとってそれは長い長い10秒だったと思う。

 奇妙な笑い声を止めたアスカは顔を上げると、シンジを見つめ、それからぴょんと頭を下げた。

「ごめんなさい!」

「はい?」

「これまでのこと、ぜ〜んぶ私の仕業なの!」

「へ?全部って、何?」

「シンジがパイロットになって、今ここにいること」

「あ、なんだ。そのことか…」

 シンジは納得した。

 そうか、みんな惣流さんの仕業だったんだ。

 ……。

 みんな…。

 みんな?

 みんなって、みんな?

 アスカはにっこり笑ってシンジを見つめている。

 シンジはやっとその意味を了解した。

 自分をパイロットにするために、他のすべての候補生をあんな目にあわせたのである。

「あ、あのね、てことは、つまり…」

「うん、私シンジのことが好きだから、一緒に宇宙を飛びたかったの!」

 こんなに素直に微笑みながら、重大犯罪を自白されては、シンジに何ができるのか。

 引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。

 死ぬまで一緒。

 この自称天才美少女と。

 まあ、確かに天才だし、美少女だってことも間違いない。

 その彼女が僕と一緒にいたいがために、とんでもない犯罪を犯したのだ。

 もう逃げられない。

 シンジは観念した。

 観念しなくても、ここからは逃げようがないのだ。

 ここは地球の大気圏外。

 もう、地球より、月の方が近い。

「あ、ありがとう…」

 シンジのその感謝の言葉を聞いて、アスカは素晴らしい笑顔になった。

 


 

 そして、今。

 アスカは再び素晴らしい笑顔をシンジに向けている。

「私、神様になるわっ!」

「えっ!そんなに簡単に決めちゃ…」

「うっさいわね!なるってったら、なるの!」

『おめでとう、これで君たちは神様だよ』

『そうね、もう引き返せないわ』

「ちょっと待ってよ。僕は…」

『もう遅いよ。彼女が神様になるって決めたんだから、僕はOKしたよ。これで僕たちは神様から開放されたってことだね。嬉しいよ』

『そうね、もういいわ、神様なんて』

「でも、僕は一言も…」

『ああ、彼女は神様になった瞬間に決めたよ。君も神様になるって』

「えっ!アスカ、本当?」

「えっと…その…へへへ…」

「へへへって、僕は人間だよ。そんな、神様なんて!」

「だってぇ、私だけ神様になったら、アスカは一人ぼっちになっちゃうんだもん」

 アスカは上目遣いでシンジを見つめた。

『似合わない…』

「ちょっと、レイ!アンタ、、ぼそっと気に障ること言ったわね」

『言ったわ。だって、似合わないもの』

「ひっどぉ〜い!シンジもそう思ってるわけぇ?」

「えっと…」

 シンジは考えた。

 一生懸命に考えた。

 アスカは神様なのだ。

 神様に逆らうと祟りに見舞われてしまう。

 もはや自分も神様化しているということに、この時点では気づいていないシンジだった。

「ぼ、僕は…」

「僕は?」

「元気なアスカが好きかなって…ははは…」

 女神様は瞬間的に顔を真っ赤に染めた。

 随分と初心な神様である。

『ふふふ、可愛らしい神様だねぇ』

『そうね、可愛いわ』

 アスカは思い出したかのように、二人の元神様を見た。

「ねえ、アンタたちはこれからどうするの?」

『さあね、それは僕たちが決めることじゃないのさ』

『そう、すべては神の思うが儘に…』

『もう僕たちは神様を引退しているからねぇ』

「でもさ、希望とかないの?」

『ないよ。僕たちは随分長い間生きてきたからね。今すぐ消えてなくなれって言われても従うよ』

『そう…それが運命…』

「馬鹿ね。じゃ、人間になる?それとも神官?」

「アスカってば、また簡単に決めてしまう!よく考えようよ」

「シンジは慎重すぎるのよ」

「ダメだよ。決まりごとは思いつきでしないほうがいい。

 ほら、何かに書いてそれを法律にしたらいいんだよ」

「面倒くさいなぁ…」

「仕方がないだろ。神様になったんなら、ちゃんと責任も取らなきゃ」

「あっ!」

 突然大声を上げたアスカに、シンジはびっくりした。

「な、何?」

「ごめん、シンジ。私勝手に決めちゃったことがあるの」

「えっ!何を?」

「神様は浮気禁止って」

「あ、えっと、それは…」

 シンジは恥ずかしそうに俯いた。

「それはそれでいいよ。僕は…」

 アスカはニンマリと笑った。

「やったっ!さすがはシンジ!」

『おやおや、そんなに簡単に決めてしまっていいのかい?何なら、同性が相手なら浮気にならないって決めても良いんだよ』

 カヲルが微笑みかけた。

「へ?」

 その気が全くないシンジが理解不能な顔をする。

 そして、その意味を理解する前に、カヲルの頬をレイが叩き、アスカは宣言した。

「この星では同性愛は禁止!浮気も禁止!一夫一妻が基本!それでいいでしょ、シンジ」

『し、シンジ君。簡単に決めちゃ駄目だよ』

「いいよ、それで」

『あ、ああっ!』

 カヲルの悲痛な叫びが木霊した。

『それで、いいの…。じゃ、私たち、人間になるわ』

 レイがニッコリ微笑んで、アスカにそう告げる。

「神官とかじゃなくていいの?人間は寿命があるわよ」

『いいの。この人と一緒に時間を過ごしたいから。限りのある時間を…大事にしたい』

「ふぅ〜ん、そうなんだ。わかるような気もするわ」

『でも貴方たちは神様だから…、不老不死なの』

「あ、そっか。ま、いいわ。ね、シンジ」

「えっと…もう、なっちゃったんなら、どうしようもないんじゃないの?」

「ははは、そうよね」

「でも、神様が二人と人間が二人しかいないよ、この星」

「あっ!」

 アスカが素っ頓狂な声をあげた。

「アスカって天才なのに、どこか抜けてるんだよね」

「ぐっ!」

「どうしたらいいの?教えてよ」

 シンジは人間候補の元神様二人に教えを請うた。

『簡単さ。君たちを素にするんだよ』

「素って?」

『違うよ。遺伝子操作とかそんな科学的なものじゃない』

 心の中を見透かされたアスカは少しむっとした。

「じゃ、何よ。何も無いとこから命を生み出すわけ?そんな、神様じゃあるまいし」

『くすくす。神様なのに…』

『笑っちゃ駄目だよ。まだ初心者というか、神様見習いなのさ』

「何か、むかつくわねぇ」

 アスカは唇を尖らせる。

「仕方がないよ。僕たち、何も知らないんだから。で、どうするの?」

『決めるのさ。どんな生き物にするか。そして、それを生み出す』

『今この星に生きている生き物の姿を変えてもいいの…』

「そんなのダメよ。せっかくその姿で生きてるのに」

『ご自由にどうぞ。神の意の侭に』

「じゃあねぇ…」

「ストップ!また勢いで決める」

「だってぇ」

「ゆっくり決めようよ。みんなで話し合ってさ」

 少し膨れながらも、アスカは頷いた。

 確かにシンジの言う通りだ。

 こういうところを考えると、この二人は巧く調和が取れているのかもしれない。

 そう考えて顔を見合わせて微笑みあう、カヲルとレイだった。

 

 

 

 

惑星LAS建国記 −その弐− おわり

 

その参に続く

 


<あとがき>

 ああ!7万HITには間に合いませんでした。すみません。

 ようやく8万HITに持ってくることができましたが、これって後何話続くんだろう?

 終わろうと思えばすぐにでも終わらせる用意はできてるんですが…。

 とりあえず、次は9万HIT?

 

2003.10.11  ジュン

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