「じゃ、綾波さんは惣流さんの隣に座ってくださいね」

 そうくると思ったわ。私は隣の空席を恨めしげに横目で見た。

 ますます運命は私を雁字搦めに縛っていくわ。

 アイツは教壇から降りて、ゆっくりと私の方に歩いてくる。

 アンタねえ、ちょっとは微笑みなさいよ。

 そしたら可愛いんだから…。すぐにファンがつくわよ。今のままじゃ、ファンどころか回りは敵だらけよ。

 なんとかしなきゃ、ね。

 アンタのためじゃなくて、アンタの身体に宿っているシンジの心のためにね。

 

私が愛した赤い瞳


第3話 「レイのハートをゲットせよ!」

 

 

 1時間目の古典はおじいちゃんの先生が勝手に授業を進めていくから、ゆっくり考え事が出来るわ。

 隣のアイツを見ると、へぇ〜結構真面目なんだ。ノートをきっちり取ってるよ。

 真面目な横顔は、うん…凄く理知的で…あれ?ちょっとだけ、シンジに似ているような…。

 気のせいよね。うん、気のせい。シンジはこんなに冷淡じゃないもん。

 優しくて、暖かくて、とっても…やめとこ。これ始めると授業終わっちゃうもんね。

 今は今後の対策を練らなきゃね。

 う〜ん、まずはこの冷血お人形美少女と仲良くならなきゃ。

 はぁ…、どうしたらいいんだろ?

 趣味は…なかったんだよね。そこから攻めるのは無理か。

 それじゃ…部活動…は、私もしてないんだったっけ。

 勉強…どれくらいできるんだろ?真面目にノートしてるんだから、この方面は案外有望かも。

 あ、家事はどうかしら?確かシンジが一応出来るレベルとか言ってたわよね。

 そうだ、ママにお弁当預かってるんだし、この辺から突付いてみたらいいかもね。

 

「ねえ、アンタ。お昼はどうするの?」

 休み時間になった途端に私は攻撃を仕掛けたわ。

 アイツは首だけをこっちに向けて、昨日と同じ冷淡な口調で返してきた。

「あなたに関係ないわ」

「それがあるんだな…」

 あ!不敵に笑う私に少し表情が動いたわ。今のは何だろう?

 怯え?嘲り?不快感?う〜ん、材料不足だわ。

「実は、私はこういうものを持ってきてるのよ」

 そう言って鞄からママのお弁当を出したの。

「それはお弁当」

「そうよ」

「今食べるのは駄目。禁じられてるわ」

 はは〜ん、そうきたか。反応の読みづらい相手よね。

「残念でした。このお弁当はアンタのなの」

 あ!今、二度瞬きをしたわ。戸惑ってるのね。

「ママから預かってきたのよ。それとも自分で作ってきた?」

 私の疑問にアイツはふるふると首を振ったわ。

 ちょっとだけ、可愛らしさが出たような気がする。

 よし、この調子よ、アスカ。

「じゃ、これはアンタのよ」

 私はアイツの机の上にお弁当を置いた。

 アイツは呆然とした目をお弁当に落としている。

 そして、ボソリと、小さな、本当に小さな声で言ったの。

「ありがとう…」

 私はまさかそんな言葉が返ってくるとは思ってなかったから、ドギマギしちゃった。

「べ、別にいいのよ。お礼なんて。作ったの、ママだし」

「でも、持ってきてくれたのはあなた…」

 また小さな声で彼女は返事をした。

「も、持って来るくらい…」

「あんなに冷たい態度をとったのに…」

 アイツ…いや、レイ。この時から、私は彼女をレイと名前で呼びたくなったの。

 そのレイはさらに顔を俯けたわ。

 そのとき、私にはあの時の彼女の気持が理解できたの。

 あの時、彼女は恥ずかしかったんだ。

 夜中に気を失って倒れてしまうことを見ず知らずの同年代の女性に突然知られたんだもん。

 しかもその見ず知らずの人間の胸の中で目覚めたんだから、対応が不自然でもおかしくないんだ。

 私の方が事情を知っていたもんで、変に色々なことを言ったから…。

 なんだ。はぁ…、いつものように、悪いのは「いのしし座」の私か。

 そうとなれば、こっちも素直になるか。

「ううん。悪いのは私。突然アンタを抱きしめてたんだから…」

 その瞬間、私は後々までこの発言を後悔することになったの。

「えええっ!」

 数人のクラスメートが息を潜めて、私と彼女のやり取りを聞いていたのよ。

 そんな状況で、私が彼女を胸に抱いていたなんて言ったものだから、大騒ぎになっちゃった。

「ふ、不潔よぉぉ!」

 と絶叫したのは、私の親友でこのクラスの委員長をしている、洞木ヒカリ。

 彼女の大声の所為で、私の発言はあっという間にクラス中に広まってしまったの。

 数分後には、尾ひれがいっぱい付いた話となって、隣のクラスへ。

 お昼休みには、多分全校に広まっていたと思う。

 だって、前も後も扉からたくさんの人の顔が覗くんだもの。

 その中で、彼女は完全にマイペースを維持していたわ。

 机を引っ付けて並んでお弁当を食べたんだけど、好き嫌いが多いのよ。

 とくにお肉が駄目みたい。ママの美味しいアスパラベーコンもアスパラだけ食べるんだもの。

 で、私に余ったお肉を食べさせるのよ。

 遠めで見ていた連中はどんどん妄想を膨らましていたことでしょうね。

 あとでヒカリに聞いた話じゃ、校内を駆け巡ったこの話題のタイトルは、

 『不沈戦艦アスカ、神秘の転校生に屈す!』なんだって!

 もう勝手にやってなさいよ、って感じ。

 

 レイは…寂しかったのかもしれない。

 そりゃそうよね。

 見ず知らずの国にたった一人でやってきて、一人暮らしをして、学校へ通わないといけないんだもん。

 それはもう、パンパンに肩を突っ張っていたんだと思う。

 そんなことに気が回らなかったなんて…やっぱりシンジのことで気が動転していたのかな?

 それに、このレイ本人はシンジが心を支配しているときと違って、感情表現が苦手なのよ。

 微笑むことも出来ない、無表情だから、無愛想に見えるってわけね。

 ま、感情表現は苦手でも、お人形じゃないってことは、このことが証明してくれたわ。

 それは…。

 

「寄り道したら駄目と、生徒手帳に書いてあるわ」

「はん!寄り道して悪いことをしたら駄目なのよ。だから別にいいの!」

「駄目。禁じられていることはしてはいけない」

「何よ。せっかく出会った記念におしるこでもご馳走してあげようと思ったのに…」

「ご馳走…?それは美味しいもの?私の食べられるもの?」

 くくく、釣れたわ。この娘ったら、胃袋がウイークポイントなのね。おもしろ〜い!

「そうよ!おしるこ、食べたことがないの?」

 レイは、その特徴的なふるふると首を振る仕草で私に応えた。

 でも、どことなくその動きに熱が篭っているのを私は見逃さなかったわ。

「おしるこってのはねぇ、それはそれは甘くて美味しいものなのよ。

 減量で苦しむ女子高生がつい手を出してしまうくらい。

 ま、日本の女子高生の定番アイテムって感じよね。

 ああ、もちろん、おしるこには肉なんか入ってないわ。安心なさい」

「……」

 ふふふ、苦しんでるわね。校則違反という良心の呵責と己の欲望の狭間に。

 無表情で苦しんでるってのを見通すのもなかなか読解力がいるわよね。私ならではの高等技術よ。

 これも、シンジに恋して、ず〜とシンジを観察しつづけた賜物。

 さて、そろそろ切り札を出しますか。

「もし、アンタが美味しいと思ったら、お代わりしてもいいわよ」

「!」

 レイは赤い瞳にきらめきを見せて…、墜ちた。

 

「ば、馬鹿ね。5杯も食べるからよ。だから止めたのに」

「く、苦しいわ。これは…何?この気持は何なの?」

「はいはい、それは胸焼けっていうの。食べ過ぎて消化不良起こしてるの。

 好きなものでもほどほどにしなくちゃ。わかる?」

 高台の公園のベンチで胸を押さえて苦しむ、レイの背中を擦ってあげながら私は諭していたの。

 でも、この光景をシンジやママが見たら信じられないでしょうね。

 あの誇り高き、惣流・アスカ・ラングレー様が他人の面倒を見ているなんて、ね。

 う〜ん、でもこういうのもいいかもしんない。

 シンジのことがなくても…、この娘とは波長が合っていたのかも…。

 変かな?こんな無表情な、どこかずれてる娘なのに。

 無表情で苦しむ姿っていうのも……、おもしろいわね。私って、ひょっとして、

 そうそう、これってチャンスかも!

 この娘のハートをしっかり掴めるかもしれないわ!

「いい、レイ。あ、これから、アンタのことをレイって呼ばせてもらうわね。

 アンタも…レイも、私のことをアスカって呼びなさいよ。いい?」

 レイは胸を押さえながら、苦しげに頷いたわ。

「それから、私の言うことはきちんと聞くこと。

 ね?あんなに美味しかったおしるこだったのに、

 私の言うことを聞かずに5杯も食べたから気分が悪くなっちゃったでしょ。

 3杯でやめていれば美味しく満ち足りた食後感覚のままで、幸せに一日を送ることが出来たのよ。

 (私の財布にも響かなかったし…)

 アンタは世間知らずなんだから、私が何でもきちんと教えてあげるから、ね?

 わかった?レイ。これから私の言うことを聞く?」

 レイは涙目で私を見上げて、頷いたわ。

 よっぽど苦しいのね。

 でも、胸焼けって特効薬なかったわよね。

「OK!でも、この苦しみはすぐには収まらないのよ。天罰ってヤツかも」

「あ、アスカ…に、逆らうと罰を受けるの?」

 レイが不安げな眼を私に向けたわ。

 ちゃ〜んす!ここで絶対服従の関係を築き、レイは私の奴隷と化すのよ。

 そして、この美少女にあんなことやこんなことを……あのね、私はそんなキャラじゃないってば。

 ホント、女子高なんて行ってると感覚がずれてきちゃうわよ。

「はん!罰なんか受けないわよ。私とアンタは友達なんだから」

「とも…だち?」

「そう、何なら親友になってあげてもいいわ。うん」

 それは<勢い>ってのかもしれなかったわ。でも、その気持に嘘はなかった。

「アンタのこと、結構好きかもしんないから」

「私のことを…好き…?」

「ええ、そうよ。あ、勘違いしないでね。この好きというのは、LIKEでLOVEじゃないんだからね。

 女同士はLIKEなんだから。ここんところはよく覚えておくのよ。女子高っていうのは怖いんだから」

「わかったわ。私はアスカの親友。アスカは私のことを好き。それはLIKE…」

 アンタね、いちいち復唱しないでよ。まあ、わかりやすくていいけど。

 

 結局、レイの胸焼けが収まるのは30分くらい掛かっちゃった。

 最後は膝枕させてあげたのよ!シンジにもさせてあげたことないのに!

 でもって、色々と今後のことを取り決めしたの。

 といっても、私が提案して、レイが了解する図式なんだけどね。

 まず、食事は我が家−惣流家でとること。

 朝・昼・晩の三食すべてね。学校のお弁当もママの担当。ママ、ごめんね。

 でも、レイったら、わかりやすいというのか…胃袋が誘惑に弱いのよ。

 間違いなく食べ物で釣られて誘拐されるタイプだわ。

 ママの料理の旨さをお弁当で実感しているから、簡単にOKしたわ。

 で、晩御飯を食べたら、レイの部屋…ホントはシンジの部屋なんだけどね…に行って、お勉強。

 レイはどうも真面目なタイプみたい。私のような天才型じゃないのね。

 まあこれを機会に私も勉強に身を入れますか。

 これでシンジが変心しても大丈夫。

 レイも安心していた。いつ気を失っても私が面倒見てくれるってわかったからね。

 

 これからどうなるのか、私にも見当つかないけど、当分はこれで行くっきゃないわね!

 

 さすがはママ。

 展開を全てお見通しって感じよ。

 家に帰ったら、ちゃんとレイの食器やおはしが準備されてたの。

 晩御飯のときは、まだママに馴れていないからレイは少しぎこちなかったわ。

 言葉が少ないのはもちろんだけど、かなりぎこちなかったの。

 人見知りするタイプなのね。それが無表情だから不遜な態度に見られるのよ。

 う〜ん、これは教育し甲斐があるってもんよ。

 

 でもって、午後11時過ぎ。

 変心のお時間ですよ。

 だから、シンジ。早く出てきて…お願い。

 ベッドに腰掛けさせていたレイが、突然がくっと首を前に落としたの。

 並んで座っていた私は慌てて、レイの首を抱き寄せちゃったの。

 だって、床に落ちそうだったんだもん。

 しばらくして…も何も起こらない。

 不審に思った私はレイの顔を覗き込んだわ。ひょっとしたら寝てしまったのかもしれないと思って。

 すると、レイは私の胸で真っ赤になってニヤニヤ笑ってるの!

 ば、馬鹿シンジのヤツ!

 わ、私の胸を楽しんでたな!

「この、エッチ、スケベ、変態!」

 やっぱり素手で殴れないから、枕で思い切り後頭部を叩いてやったわ。

「いたいなぁ…アスカ、酷いよ…」

 だ、だから、レイの顔でその表情しないでよ。

 可愛いんだから…。

 はぁ…、お願いだからレイにその表情の出し方を教えてあげてよ。

 でも、シンジだ。シンジがそこにいるんだ!

 そう思うとたまらなく切ない気持ちになっちゃうよ。

 早くもとの身体に戻ってくれないかな…?

 あれ?そうなると…レイはどうなっちゃうんだろう?

 私は単純な疑問にようやく気が付いた。

 レイって何者なの?

 

第3話 「レイのハートをゲットせよ!」 −終−

 

第4話に続く 


<あとがき>

 おいおい!

 年明けどころか、もっと早いペースで第3話を更新です。

 書き出したら止まらない…。

 シンジハートはアスカの胸の感触を楽しんで枕攻撃を受けただけ。

 おい、シンジ。君は…。

 今度こそ、今度こそ第4話掲載は年明けは間違いない。絶対に来年!2003年!

2002.12/30 ジュン   

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