聖ネルフ学園1年の学習旅行の日程は4泊5日。

 京都、奈良、神戸、大阪で1泊ずつ泊まって帰ってくるんだけど、泊まるところはどこも一流ホテルか旅館。

 さすが聖ネルフ学園よね。

 新幹線の車中では散々駅弁を食べ続けたレイだったけど、

 京都ではどうするのかしらね。

 マヤちゃんが甘味処デートを狙ってるのよ。

 

私が愛した赤い瞳


第8話 「レイちゃんの食いしん坊万歳!古都編」

 

 

 京都駅に到着して、この凄いセンスの駅舎の中で点呼をしたの。

 よくもまあ怪獣に壊されたのに再現できたものね。

 京都では基本的に団体行動なのよね。

 バス移動ってやつね。

 有名な寺社の間をバスに詰め込まれて京都を東西南北に走り回るってわけ。

 まず、西本願寺を出て金閣寺と竜安寺。

 バスで移動して、銀閣寺と平安神宮。

 またバス移動で、清水寺。

 はっきり言って、もうクタクタよ。

 ここから2時間自由行動って言われても、清水寺の中でブラブラしてる方が…。

「アスカ、行くわ。私」

 はぁ…、甘味処ね。マヤちゃんか。

 今日は随分おとなしめだと思ったら、マヤちゃんはここに全力を費やすつもりね。

 仕方がない。世間知らずのレイをマヤちゃんと二人きりにさせるのは危険だわ。

 私もついていきますか。

「あら、惣流さん。顔色が悪いわよ。大丈夫」

「はい、大丈夫です」

 軽いジャブの応酬を交わしてから、3人で清水の坂を降りていったの。

 左右にズラリと土産物屋さんが並んでいるから、レイの歩みは遅い遅い。

 店頭のお饅頭が目当てね。初日で土産物を山のように買う気かしら。

 いやいや今晩の夜食のつもりね、これは。

 マヤちゃんの目的地まで時間までにたどり着けるのかしら。

 

 私はレイを引きずるようにして進んだわ。

 それから清水坂を右に折れて産寧坂に入ったの。

「ここはね、三年坂とも呼ばれてね。ここで転んだら3年後に死ぬって言うから気をつけてね」

 どてっ!

 お茶屋さんに気をとられたレイが敷石につまづいて、私の腕につかまったものだから、

 二人ともものの見事に転んでしまった。

「ちょっと、レイ!アンタ、何てことするの。

 転ぶなら一人で転びなさいよ。ど〜して私を道連れにするのよ!」

「アスカ、冷たい。私に一人で死ねって言うのね。哀しいわ、しくしく」

「あのね、声で“しくしく”って言われても、同情はしないわよ」

「二人とも大丈夫?怪我してない?」

 仕方がない、マヤちゃんも道連れにするか…。

「先生、手を…」

「え?はい、つかまって…きゃっ!」

「そう、これで先生も死ぬのね。しくしく」

「惣流さん、馬鹿なことしないで」

 こんなことを坂の途中でしていたものだから、大勢の観光客にくすくす笑われてしまったわ。

 その上、厄除けだって近くの瓢箪屋さんでひょうたんを買う羽目になっちゃった。

 これはレイの300万円から払わせてもらうわよ。

 ハードスケジュールだから銀行なんて行ってる暇がなかったのよね。

 

 先生のお奨めの甘味処は高台寺の石段の下にあったわ。

 白玉ぜんざいとわらび餅がお奨めですって。

 やっぱりこういう場所で食べると味も格別ね。

 風情はあるし、床几で食べるなんて東京じゃほとんどないもん。

 私がこのお茶屋さんの環境を満喫してる横で、ひたすら食欲を満足させている娘がいたわ。

 ま、たしかにこのわらび餅は絶品よね。

 シンジにも一口食べさせてあげたいから、トイレに立った振りしてお土産を買う私って健気ね。

 あ、この旅行中のことはシンジとよく打ち合わせしてるの。

 絶対に11時までに寝るってことはありえないから、変心した後はレイの言動を装うようにしたわ。

 この数日練習するシンジはおかしかった。すぐ例の口癖の“あ、ごめん”を言ってしまうんだもん。

 ヒカリも同室なんだから、気を付けないと駄目なの。

 ま、危なくなったらひたすら食べてなさいって言っておいたけどね。

 

 清水寺へ戻る間も、例はあちこちの土産物屋さんに顔をつっこんでいくの。

 中には木刀持って、新撰組の法被を着て、コレを買うって言うんだもの。

 どういう了見が問いただしたら、アニメで見たんだって。

 ああ、あの沖縄に修学旅行に行くって、ギャグアニメね。

 家で晩御飯を食べてるときに、ケーブルテレビで写ってたっけ。

 私的にはいいとは思うけど、さすがに木刀を持って集合するわけには行かないから、

 マスコット人形で手を打ったわ。

 食べ物以外で買ったのは、この人形だけ。

 さすがにレイが買い漁った名物お菓子をこのまま持って移動するわけには行かないから、

 最後のお店に頼んで私の家に送ってもらったの。

 木刀と法被も一緒に買っちゃった。もちろん、二人分ね。

 あ、ちゃんとママにも電話しといたわ。

 そうしないと、帰宅したときには木刀と法被だけが残ってたってことになりかねないからね。

 マヤちゃんも奈良の自由行動も約束を取り付けたからウキウキしてる。

 こんどはみたらし団子と吉野葛だってさ。

 あまり凄いのばかり食べちゃ、東京で貞雪庵のが食べられなくなっちゃうよ。

 

 問題の夜。

 今夜の宿は老舗の大旅館。

 完全に貸しきり状態なの。

 想像通り、午後11時に寝る人間は一人もいなかった。

 ただし、部屋から出て廊下をうろうろすることは禁止されているから、

 私の部屋にいるのは、ヒカリとレイの3人だけ。

 委員長のヒカリの策謀で唯一の3人部屋をゲットできたんだから、ヒカリに感謝!

 最近は変心するタイミングを察知できるようになってきたから、巧く誤魔化せると思う。

 ところが今夜はなかなかシンジに変心しないのよね。

 こんなの初めてだったから、だんだん不安になってきちゃった。

 まさかシンジの心が消えちゃったってことないわよね。

「ちょっと、アスカどうしたの?顔色が悪いわ。真っ青よ」

 ヒカリが心配そうに覗き込んでくれてる。

「う、うん。大丈夫。ちょっと疲れたのかも…」

「アスカ、食べ過ぎ…?」

「まさか、綾波さんじゃあるまいし」

「私は食べ過ぎ?」

「そうよ、その点じゃ綾波さんの方が心配だわ。ね、アスカ」

「そうね」 

 そうよ。レイの身体と心が心配なのよ。

 シンジが…シンジの心が消えちゃったら…、

 この世からシンジの存在がなくなっちゃったら、

 私、生きていけない。

 

 結局、その夜、シンジの心は現れなかった。

 私は一睡もできないまま、夜を明かしたの。

 シンジ…。

 窓際に置かれた籐の椅子に座って、私はぼんやりと外を眺めていた。

「アスカ…?」

「あ、レイ…。おはよ…」

「アスカ、泣いてたの。目が赤い」

「え…」

 レイの言う通りだった。

 いつの間にか泣いていたみたい。

 涙の通った後が乾いて、ちょっとひりひりする。

「アスカ…」

 レイが表情を曇らせて、私のそばに来た。

 私の横に立って、髪の毛を撫でてくれてる。

 レイって優しいんだ…。 

 そのとき、私はほろりとなりそうになったの。

「きっとお腹がすいたのね。可哀相なアスカ」

 身体中の力が抜けたわ。

 ごめんね、シンジ。アンタのことが一瞬忘れられたの。

 ある意味、凄い能力をもっているわ。綾波レイは。

 

 翌朝、定番の朝御飯を食べてから、やっぱりバスで奈良まで移動するの。

 今朝のレイのおかげで緊張感が切れたせいか、私はバスの中でぐっすり睡眠をとらせてもらったわ。

 奈良公園の近くの駐車場からぞろぞろと歩いて東大寺へ。

 鎌倉の大仏様と違って、建物の中だから威圧感が凄いわね。

 あれ?レイはどこ?

「アスカぁ〜」

 はい?レイの声。どこ?何かすごく低いところから聞こえるけど…。

 げっ!

 大きな柱の下からレイの上半身が生えてる!

「えぇ〜、この穴は大仏様の鼻の穴と同じサイズです。

 高さ30cm、幅37cm、長さ120cmですので、私のようなナイスバディにはちょっち辛いんだけど。

 あれぇ?だめだった?えっと、このように途中でつかえちゃうと、その人は嘘つきと言われています」

 は、鼻の穴…!

「ちょっと、レイ!早く出てきなさいよ!」

「だめ、動けないの」

 はぁ…、サイズは大丈夫だからレイ本人がとろいってことね。それじゃ!

「レイ、あっちに美味しいものが売ってたわ」

「どこ?」

 わ!もう抜け出ててるよ。この娘ったら。

 絶対に出てくるとは思ってたけど、こんなに素早く出てくるなんて。

「えぇ〜、このように抜け出たら賢くなると言い伝えられていますが、

 このお嬢さんのように逆さまに抜けると馬鹿になると言われています」

「あ〜あ、レイ、アンタ馬鹿だって。よかったわね」

「馬鹿でもいい。美味しいものってどこ?」

 

「美味しくない」

 レイが私をじろりと睨んだわ。

 はは、私も一口食べたけど、これは駄目ね。

「はん!レイには不味くても、鹿さんにはご馳走なのよ!」

 私は一口かじった鹿せんべいを近くにいた鹿にあげた。

「私は鹿にはなりたくない」

 膨れっ面のまま、レイは残りの鹿せんべいを鹿に振舞ったわ。

 それでも、レイって絵になるわね。鹿を周りに集めてる姿なんて、凄く可愛らしいわ。

 鹿に喋ってる内容は情けないけど。

「あなたたちは可哀相ね。世の中にはもっと美味しいものがあるのに。

 今度生まれ変わるときには人間にしなさい。私は今日はみたらし団子なの」

 

「美味しい!」

 隣のレイは力強くうなずいている。

 貞雪庵とは味付けも焼き方も違うわ。

 しつこい味じゃなくて、これならレイは軽く10本以上…。

 もう、15本は食べ終わった串がお皿に置いてあるよ。

 吉野葛も美味しい。

 一心不乱に食べてるレイと、ニコニコ笑ってみているマヤちゃんは自分たちの世界に置いといて、

 私はお茶を啜りながら、シンジのことを考えたの。

 シンジの心と再会して、こんなことは初めてだった。

 時間になってもシンジに変心しないなんて。

 30分くらいの誤差はあっても、シンジに変わらないなんて…。

 私が最悪の結果を想像したのも仕方がないわ。

 でも、ここでやきもきしても仕方がないもんね。

 今晩。そう、今晩がどうなるのか。それを待つしかないわ。

 

 今晩の宿は、ホテルだった。

 今度は貸切じゃなかったけど、3フロアは聖ネルフが独占してたわ。

 そして11時過ぎ。

 あ、来る…。

 私は変心の予感を覚えたの。良かった…消えたんじゃなかったんだ。

「アスカ、食べるものはない?」

 この馬鹿シンジ。早速かっ!食べる話題なら大丈夫っていっても、いきなり話す内容がこれ?

 ま、だからシンジらしいって感じだけど。

「はん!あるわ。昨日の京都で買っておいたわらび餅よ」

「嬉しい。全部食べてもいい?」

 う〜ん、何か違和感があるわね。

 シンジの心でレイトークをしたら、そう、感情が入りすぎるのよ。 

 まあ、食べさせておけば喋らなくてすむから、ヒカリにばれる心配がないんだけどね。

「アスカ、今日は顔色いいわね。やっぱり昨日は疲れてたの?」

「そうよ!このお馬鹿のせいでね!」

 私はわらび餅を食べているレイの方を顎で示した。

「そうね、わかるような気がする」

 私はレイのためにお茶を入れてあげたわ。

 ホント変よね。レイのときは水分無しでもどんどん食べるのに、

 シンジの心になった途端にお茶が要るんだもん。

 光栄に思いなさい。まったく、シンジがアメリカに行くまで、こんなことしてあげたことなんかなかったのに。

「あ、ごめん…」

 ぎろっ!

「なさい」

 お湯飲みを渡したとき、いつもの口癖が出たけど、私の一睨みで慌ててフォローしたわ。

 ヒカリは気付かなかったみたい。

 そして、ヒカリが手洗いに立った間に、私はシンジを締め上げることにしたの。

「ちょっと、アンタ。昨日はどうしたってのよ」

「うん、よくわかんないんだ」

「わかんないじゃないわよ。おかげで心配したんだからね」

「あ、ごめん」

「ごめんじゃないわ…よ…」

 あ、駄目。涙が出てきちゃう。

「消えちゃったんじゃないかってぇ…思って…ぐすっ…し、心配して…」

「な、泣かないでよ。アスカ」

「だ、だってぇ…」

「ほら、洞木さんが戻ってきたら変に思うじゃないか。ね、アスカ」

「ぐすっ」

「ほら、僕はここにいるから…」

 そして、レイはニコッと微笑んだの。

 あ…駄目よ。その笑顔見たら余計に…。

 レイの笑顔って、シンジの笑顔とダブって見えるんだもん。

 二人とも、どうしてそんなにいい笑顔なんだろ。

 ああ!もう我慢できない!

 私はベッドに潜り込むことにしたわ。

 だってすぐに泣き止むことができないもん!

『あれ?アスカは?』

『あ、そ、その、まだ気分が少し悪いって』

『へぇ…鬼の霍乱かな。さしずめアスカは赤鬼ね』

『プッ!』

『あれ?綾波さん、そんなにおかしかった?へぇ…綾波さんでも吹き出すことがあるんだ…』

 ちょっと、馬鹿シンジ!変な対応したらばれるでしょ!

 それに赤鬼で吹き出すとは何事よ。東京に戻ったらお仕置きしてやるから。

 おかげで涙が止まっちゃったわよ。アスカ、復活!

 私がしっかりフォローしてあげないと、すぐに尻尾を捕まれちゃうわ。

 シンジには私が必要なのよ。

 そして、私にも、ね…。

 

第8話 「レイちゃんの食いしん坊万歳!古都編」 −終−

 

第9話に続く 


<あとがき>

 ジュンです。

 第8話です。学習旅行の2回目ですが、今回はあまり食いしん坊させてません。

 で、次回で学習旅行が終わりますが、ついに彼が出てきます。

 大阪といえば…。そう今宮サッシ!違う違う。彼はアルミちゃんに任せておいて。

 そう、大阪人からすれば凄く変な大阪弁を喋っていた、ヒカリの彼氏です。

 因みに今回名無しのガイドさんが大仏殿で登場しましたが、友情出演ってやつでノンクレジットです。そう紫髪のあのお姉さんでした。

2003.1/18 ジュン   

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