God be with you

AzusaYumi

いつも通りの朝、僕は普段と変らない生活を始める。
ベッドから起きて、歯を磨いて顔を洗って。
でも、今日はいつもと違う。
そう、今日はサードインパクトの起きた日なんだ。
綾波や、ミサトさんや、リツコさんや…
…父さんがいなくなった日。
ミサトさんは、僕を戦略自衛隊から守って、エヴァに乗せるために死んだ。
リツコさんは…知らないけど、全てが終った後にいなくなっていた。
父さんもそうだ。全てが終った後にいなくなっていた。
後から聞いた話だけど…父さんは母さんに会いたかったらしい。
全てを犠牲にしてまで母さんに会いたかった父さん。
父さんは母さんに会えたのだろうか?
…会えて、話が出来たのかな?
綾波は…あの時、そう、サードインパクトの時に会ったような気がする。
でも、気が付くといなくなっていた。
…あの後に残っていたもの…。巨大な綾波のような顔をしたモノ。横顔を半分に埋もれさ せて今でも海に横たわっている。
アスカは…あの後、僕の横にいた。
一緒に暮らして、一緒に戦っていた子。
彼女はあの出来事があった直後に唯一僕の一番側にいた"ヒト"だった。
そしてしばらくしてから様々な人たちが赤い海から還ってきた。

あれから一年…。
あの時一番側にいて、そして一緒に暮らしていたアスカは今だ第3新東京市にいるけど、 今は僕と一緒じゃない。一人で暮らしている。
そして僕もアスカ同様、一人で暮らしている。
同じ同居人で保護者だったミサトさんがいなくなったから。
今、一応冬月さんが僕と…そしてアスカの保護者になっている。冬月さんは全ての事象の 後始末に追われている。
そして僕らは"チルドレン"でなく、ただの中学生になった。
疎開していたみんな…ケンスケも、委員長も、そして…怪我をしていたトウジも、この街 に帰ってきた。
トウジの足は義足ながらなんとか動けるようになっていた。最初は僕はトウジに話しかけ づらくてギクシャクとしていたけど、トウジは「自分から望んでエヴァに乗ってそしてこ うなったんやから、碇のせいやない」と、許してくれた。
そしてトウジとは前以上の親友になった。
ケンスケとは…前ほど仲良くしてなかった。
最後にケンスケからかかってきた電話…
あれが尾を引いていた。
そう、僕は途中でエヴァのパイロットを降りようとした。
ケンスケは前々からエヴァのパイロットにあこがれていて自分こそパイロットになりたい と言っていたから、エヴァのパイロットを降りると言った僕が気に入らなくて当然だと思 った。
結局、あのままケンスケとは仲直りというか…上手くいかずに、ただ軽く話すだけの仲に なってしまった。
結果、僕はケンスケよりもトウジと一緒にいることが多くなり、トウジにからかわれたり、 つるんだりしてそれなりの中学生生活を送っていた。
でも、そんな中学生生活も、もうすぐ終わり。明後日には卒業。


僕は朝食を作ろうと思って台所に立った。
キーンコーン
ドアのチャイムが鳴った。
…こんな朝早くに誰だろう?
僕は不思議に思って玄関のドアを開けた。

「おはよう、シンジ。」

アスカが制服姿で玄関に立っていた。
アスカがこんな朝早くに僕の部屋まで来るなんて…どうしたのだろうか?
正直、アスカとは最近ほとんど話をしてない。
そう、あの赤い海で隣り合わせに横たわっていた時以来。
いや、本当はそれよりずっと前からだけど…。
アスカが通っている学校は今だ僕と同じ第壱中学。
でも、今のアスカはいつも誰かと話そうとしないでただ、教室の窓の外をじっと眺めてい るだけでいることが多かった。
前の強気な口調も、態度も、鳴りを潜めていた。
疎開から帰ってきたあの委員長とすら、前ほど話したりしない。
当然、僕とはほとんど口を聞かないでいた。

「こんな朝早くにどうしたのさ?」

僕は不思議に思ってアスカに聞いた。

「ん…たまには朝ごはんでも作ってあげようかと思ってさ。来たのよ。」

そしてアスカは玄関のところから台所の方を覗き込んだ。

「まだ作ってないようね。
 いいでしょ?」

アスカは穏やかな顔つきでそう言った。

アスカは手馴れた様子で朝ごはんの準備をした。
ご飯の方は昨日の夜から僕が炊飯器にタイマーを入れてセットしておいたから焚けていた けど、アスカは他の物…味噌汁とか、玉子焼きとかを作っていた。
そして作り終わってアスカは僕の部屋の小さなテーブルに置いた。
僕達は両手を合わせて合掌してから早速朝ごはんに手を付けることにした。

「…おいしいね。アスカって結構上手なんだ。」

「何それ?
 私が全然出来ないとでも思っていたワケ?」

僕の言葉にアスカはちょっとむくれたような顔つきになった。

「えっ…、あの…、ほら、僕、アスカが作ったところとか見たことなかったしさ…
 それに、アスカってドイツ生まれだからお味噌汁とかは作るの苦手かなって…」

僕が言い訳がましく言っているとアスカが穏やかな声で言った。

「分かってるわよ。アンタと一緒に暮らしてた時、私、全然作らなかったもんね。
 そういう風に思われて当然よね。」

そしてアスカはここで言葉を区切ってから再び言った。

「ネットで調べたマニュアル通りの作り方なんだけど…、
 でも、おいしいって言われてうれしいわ。」

僕はこの言葉を聞いて前のアスカとは全然違う様子に驚いた。
…アスカ、どうしちゃったんだろう?

「ねぇ、アスカ。なんで今日、朝ごはんなんか作りにきてくれたのさ?」

僕は疑問に思ったことをそのままアスカに尋ねた。
アスカはそんな僕の質問に遠くを見るような目をしたけど、一息ついてから言った。

「前にアンタに作らせてばかりいたからよ。
 そのお礼。たまにはいいじゃない?」

…僕はアスカのその答えに納得しずらいものがあったけど…
アスカはただ、ずっと穏やかな顔をしていたので僕はそれ以上何も聞けなかった。

「シンジ。何考え込んじゃってるのよ?
 もたもたしてるとご飯、冷めちゃうわよ?」

アスカは笑顔でそう言った。
その言葉を聞いて僕は慌ててご飯を口の中に掻き込んだ。

朝食の後片付けをアスカと一緒にしてから、僕は学校へ行くために彼女と一緒に外へ出た。
外は晴天。でも、何故だか今日の青空は暗くて重く見える。
僕とアスカは学校までの道を歩いていた。
それ自体かなり久しぶりだったのだけど、道の途中で彼女は別の方向に向かって歩き始め た。

「あれ? アスカ。そっち、学校の方向じゃないよ?」

「あ…、うん。ちょっとね。
 悪いんだけど、シンジ。私、今日学校休むから…。」

アスカはそう言って学校とは別の方角の方へ歩き始めた。
僕はそんなアスカの後ろ姿を見て…どうしようもなく気になった。
あの日以来、あまり口を聞かなくなったアスカ。
確かに前のアスカと比べて変ってしまったけど…。でも、なんだか今日のアスカは変だ。
僕は少し悩んだけど…、アスカの姿が少し遠くになったところで、僕は彼女の後ろをつい ていく事にした。

僕はしばらくアスカの後ろを分からないように気をつけながら歩いていった。
ちょうど商店街に差し掛かったところでアスカは途中の花屋の前に立ち止まった。
何か、店の人話をし始めて…、そして白いバラの花束を受け取って、お金を支払っていた。
そして再び、アスカは歩き始めた。
アスカは商店街を通り抜けた先にあるバス停までやってきてしばらくバス停の前に立ち止 まった。
…どうやらバスを待っているみたいだ。
僕はしばらく、アスカと一緒にバスに乗るかどうか迷ったけど、どうやらバスは混んでい るようだったから、人に紛れればわからないかな? と、判断して乗り込むことに決めた。
僕はなるべく人に紛れるようにしながらアスカから離れた席に移動していった。
時々僕はアスカの方をチラチラと見たけど、アスカは買ったバラの花が人込みで潰されな いように大事に持っていて回りにあまり気を配ってなかった。
そのおかげで僕が同じバスに乗ったことにもアスカは気が付いていなかったようなのでと りあえず僕は一安心した。

しばらくバスはあちこちの停留所に止まりながらどこに向かうのか分からないけど走って いった。
僕は、アスカはこのままどこに行くつもりなのだろうと考えていたけど、バスが市街地や 住宅地を抜けて、海の見える場所まででてきた時にハッとした。
海岸沿いの道を走っているバカの中から大きな人の形をしたもの…、綾波の横顔がはっき り見えたからだ。
なんでアスカはこんなところまで来たのだろう?
僕は様々な疑問を持ちながらバスに揺られていった。
そしてしばらく経って、アスカは降車のボタンを押した。
バスは降車ボタンを押されてからしばらくして停留所のところまで来て止まった。 アスカが降りるために立ち上がった。そしてバスの前方の出入り口からアスカは降りた。
僕も慌ててバスの後方の席から降りた。
バスはそのまま発進して行った。アスカはそのバスを見送るようにじっと眺めてから… 急に僕の方を振り向いた。

「バカシンジ。後をついてくるならもっと上手くやりなさいよ。
 …モロバレよ?」

僕は一瞬、ギクっとなった。

「ご…ごめん。
 その…アスカの様子が気になって…」

だけどアスカはそんな僕の様子を見て、穏やかな笑顔をして言った。

「…安心しなさいよ。怒ってないから。
 でも、アンタもせっかくここまで来たんだから一緒に来なさいよ…。」

アスカはそういうと、僕の側まで来て、僕の手を掴んだ。
僕は手を掴まれた瞬間にドキっとなったけど…アスカの方はそんなことはお構いなしと言 わんばかりに僕の手を引く。
正直、僕はこれだけでかなりうろたえてるのだけど、彼女はそういったことは気にしてい る様子は伺えなかった。

「さあ、早く。」

そう言ってアスカは僕の手を引いて歩き出した。
こっちはかなり気にしているのに、彼女の方は気にもしないでずんずん歩くのを見て、僕 は寂しいような、残念なような、そんな気分になった。

僕らはしばらくバス停の側の砂浜を歩いていった。
砂浜からはあの、綾波の横顔がよく見えた。
最初に見たときは赤い海に沈み込んで、まるで生き物のような生々しい様子だったあの顔 も今は石か何かのような、無機質なものに変ったように見えた。
僕らは砂浜を越えて、海沿いの並木道を歩いて、そして海の見渡せる場所…、あの、海に 半分埋もれている綾波の巨大な横顔がよく見える少し小高い崖までやってきた。
崖の上は海風が強く吹いていた。
僕は改めて綾波の横顔を見て、何か寂しいような、悲しいような気持ちに囚われた。

綾波の横顔…あの巨大で、それでいて不思議なモノは、何かを象徴しているように見えた。
何かの象徴、サードインパクト以来、会えなくなった人たちそのものを表す何か。
会えなくなった人たちは…多分、生きてないような気がする。
…じゃあ、あれは…墓標…?
…あの出来事が起きて、赤い海から還らなかった人たちの墓標…。

僕はアスカの後ろ姿を見た。
アスカはずっと無言で崖の高い場所に立ったまま、海の方をじっと見詰めていた。
そしてアスカは何を思い立ったか、持っていた花束の包装を解いて白いバラの花束を崖か ら海の方に向かって風に乗せるように宙に手放した。
白いバラは花びらを散らせて風に乗って海の方に向かって舞っていく。
僕はそんな様子に魅入っていたけど、アスカは散っていくバラの花びらを見ながら悲しそ うな、寂しそうな声で囁くように言った。

「さよなら…」

僕はアスカのその言葉に、胸が苦しくなるような、なんとも言いがたい気持ちになった。
アスカは…アスカは、今日、弔いに来たんだ…。
綾波…ミサトさん、リツコさん? 分からない、分からないけど、あの日以降会えなくなっ た"誰か"とお別れしにきたんだ。

海から強い風が吹く。
花びらが空高く舞い上がる。
そしてアスカの金色がかった赤い髪も一緒に舞い上がり、揺らめく。


今日の空は晴天。
でも、僕には暗く、そして重く感じた。

To be continued...

2005.6.12 掲載




       AzusaYumi様の当サイトへの初投稿っ!
       ありがとねっ。
       AEOEのお話ね。
       アタシっていう世界に誇る天才美少女をみすみす引越しさせったってわけぇ?
       ちょっとシンジ、アンタ何考えてんのよっ!
       ふんっ。これだからアンタってヤツはアタシが傍にいないとダメなのよ…。
       ちょっと矛盾してるかもしれないけどさ。
       さあ、このあとアタシとシンジはどうなんのかしら?
       ま、二人の関係…(ぼふっ)…は、永遠だから…、ああっ、暑いわっ、今日は暑いっ!
       さて、アタシは誰に「さよなら」を言ったのでしょうね。
       それは後編のお楽しみ。
 
       ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、AzusaYumi様。




       AzusaYumi様のサイト・
Instrumentality of Mind-The Geme of Shinji & EVA はこちらです


       
SSメニューへ