「ほら!さっさとお風呂沸かしなさい!」

頭越しに命令しても・・・・・・・・・・・・

「わかったよ」

ニコニコしながら言う。

「あたしの分片付けといてね」

なんて、言ってみても・・・・・・・・・・

「いいよ」

ニコニコしながら言う。

そんな顔を見たら恥ずかしいがために素直になれない自分が馬鹿らしくなってくる。

台所でシンジが食器を洗っているときに、「手伝おうか?」言おうとしようとして、シンジの振り向いた顔と向かい合わせになると、

「余所見してる暇があるならさっさとしたら?」

言おうとしていた言葉を吐き出せずに悪口になってしまう。

シンジと向かい合わせになると、シンジの顔を見ているだけでなんか顔が赤くなり、恥ずかしさがこみ上げてくる。

馬鹿らしい。

シンジの顔を見ないとき、傍にいないとき、何回も思う。

なんて馬鹿なんだろう。

優しい言葉。

シンジの近くまでは言おうとその言葉を考えて言おうとはしているのだが、シンジの前に来ると悪口に変わる。

別に魔法やなんやらの不可視な力が働いているわけでもないのに、搾り出す言葉は悪口ばかり。

アスカは寝返りを打った。

ふわっ、と包み込むように布団の感触が全体に走る。

ごろごろごろ、右に少し。

ごろごろごろ、左に少し。元に戻る。

布団を優しく抱きしめてみる。

日差しを浴びた布団からは、やわらかい感触と、春の匂い、そして・・・・・・・・・・

かすかに残るシンジの匂い。

ぼん。

枕を頭から被る。

「私・・・・・・・・・・・・シンジのこと・・・・・・・・・・・」

アスカはどう思っているのだろうか?

アスカは動かない。

まるでEVAが電力配給が切れたかのように動かない。

部屋の外ではシンジが忙しく家事をこなしている。

いつもよりそわそわしているのは、いつもこの時間にアスカが文句を言いに来るからだろうか?

理由なんて何通りもある。

いつもの連続テレビドラマが最終回だから、とか、今日は特別な日。だからとか・・・・・・・・

シンジのそわそわの理由なんてわらない。

アスカが動かなくなった理由なんて解らない。

シンジのこと・・・・・・・・・・の先もわからない。

ただ、わっているのは・・・・・・・・・・・・・

シンジは家事をこなしながら、ちらちらとアスカの部屋を見てることと、

アスカが顔を真っ赤にしながら目を見開いたまま固まっていたと言うこと。

暖かい春の日差しに照らされていると言うこと。

いったいいつまでそうしているつもりだろうか?

外ではお日様が真っ赤に染まりだし、空にまでその影響が出てると言うのに、

全国の良い子すぎる子供たちが帰り始めてるというのに、

いったいいつまでそうしているつもりだろうか?

シンジはまだ、家事をしながらアスカの部屋をちらちら見てるし、

アスカはいいかげんその枕くらいどけてもいいのに、顔を真っ赤にしながらまだ固まっている。

お日様ももう沈んだと言うのに・・・・・・・・・・・・・・・

いったいいつまでそうしているつもりだろう?

今日もまた春から夏へと、少しずつ、変わってゆく。




「 春 」





「じゃ、僕は学校に行ってくるけど・・・・・・・・・・・・・・・・」

そこでアスカの方を振り返り、心配そうな顔で、

「大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫、今は収まってるしね、あはは・・・・・・・・・・・・・・・」

作り笑いをしているところがいかにも怪しい。

だが、シンジがアスカを疑うはずなく、

「無理しないでね」

と、優しく言う。

アスカは、顔が少しだが赤くなった。

「ほんと大丈夫?顔が赤くなってきたよ」

あんたのせいよ!!

とっさに言いたくなる言葉を抑えて、

「大丈夫よ、ほら早く行け、ただでさえギリギリなのに」

「大丈夫・・・・・・・・・・・なんだよね?」

「くどい」

「はは、じゃ行ってくるよ、できるだけ早く帰ってくるから」

そういって、シンジはアスカに背を向けて走り出した。

あのシンジの横にはいつも自分がいるんだな・・・・・・・・・・・・

アスカはシンジの後姿を見ながら思った。

「ふぅ」

一息ついて、シンジから目を離す。

玄関を上がり、自分の部屋へまっすぐ向かう。

きぃぃ、とドアをあけると自分の部屋。

真っ先にベットに飛び込んだ。

ふわっ、と包み込むような感触は今だ健在だ。

頭上に、ぶっきらぼうに置いてあるサンドバック兼枕を抱きしめる。

そして、右へごろごろ、

左へごろごろ。

アスカは自分の机の上を見た。

綺麗に整理された机の上には写真立てだけがぽつんと立っていた。

中には、シンジが制服姿で笑っている写真が入っている。

二日前・・・・・・・・・・・・・・・





『はい、アスカ、これ』

『ん?なに?これ』

ヒカリがあたしに一枚の写真を差し出した。

『碇君の写真よ』

写っているほうを見ると、確かにシンジの写真だった。

制服姿で笑っている写真が・・・・・・・・・・・・

『なんで、このあたしに馬鹿シンジの写真なんか渡すのよ』

強がりだ。

実際とても嬉しい。

シンジと一緒に暮らしている以上、写真の一つや二つ造作はないのだが・・・・・・・・・

「シンジ、写真とろ!」変に思われる。

何かの時に、「シンジあんたも入りなさい!」隣に呼ぶ勇気はない。

忍び込んで寝顔を撮る。とる前に見惚れてそのまま眠ってしまう(だろう)

という理由から却下。

結局一枚もない。

渡されたのに素直に喜べないのは、やはり恥ずかしいから、

『またまた、アスカったら、嬉しいんでしょ!』

『な、なに言ってるのよ!そんなわけないでしょ!』

説得力のない真っ赤な顔でアスカは首をぶんぶんと横に振り否定する。 『じゃ、返してもらおうかなー?』

ふふふ、と意地悪そうな笑いかただ。

『え、いや・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・』

『ん?なんなの?』

『えっ?いや・・・・・・・・・・それはちょっと困るかなーと・・・・・・・・・・・』

『くくくくく・・・・・・・・・・・・』

ヒカリはお腹を抑えながら必死に笑いを堪えている。

『な、なに笑ってんのよ!』

『い、いや・・・・・・・・・・アスカがさ・・・・・・・・・・可愛くって可愛くって』

そこまで言ってまた、くくくくく、と抑えたような笑いを漏らす。

『なに、からかってんのよ!』

『あははははははは』

ヒカリはついに声をあげて笑い出した。

我慢の限界だったのだろう。

ヒカリがわらいこけている間、アスカはバツが悪そうに真っ赤な顔をうつむかせていた。

暫くしてようやく笑いが収まってきた。

『くくく・・・・・・・ひっく・・・・・・・・ほんと可愛いよ、アスカ。もう、碇君もいちころね』

『そうかな・・・・・・・・・・・・・』

アスカは少し照れくさそうに頭を掻いた。

『そうそう、アタックしたら絶対OK、碇君も絶対アスカに気があるもん』

『だけど・・・・・・・・・・・・』

『だけど、なかなか言い出せない。』

ヒカリがアスカの言葉を遮り言う。

アスカは驚いたような顔をしてる。

図星らしい。

ヒカリはそんなアスカを見て微笑む。

先ほどみたいな笑いではなくて、優しく、姉のような微笑だ。

『アスカは言いたいんでしょ?』

アスカはこくこくと首を縦にふる。

『アスカ、明日学校サボりなさい。そして、練習しなさい。碇君を思い浮かべながら、もしくは写真を見ながら、そしたら、本人の前でもいえるようになるから』

『そうかな・・・・・・・・・・・』

『そうよ、ほら、どうせアスカのことだから早く帰って練習したいんでしょ、今日の掃除当番は私がやってあげる』

ヒカリが優しく言うと、アスカは少し考えたが結局お言葉に甘えることにした。

『ありがとね!ヒカリ!』

アスカはすぐさま帰る用意を済ますと全速力で教室を出て行った。

とちゅう、どん!という音と共に「痛ったー」という言葉が聞こえたのは無視した。

『ふふふ、いいわねぇ、あの2人』

ヒカリは微笑んでいる。

そして、誰もいない教室の宙に向かって言葉を投げかける。

『いったい、いつから乙女の会話を聞くほど野暮になったのかしら?』

どて、という音が掃除箱の中から聞こえてきた。

そして、中からきぃー、と扉が開くとトウジが姿を表した。

長い間いたのか、腰を痛そうに擦っている。

『すまん、聞くつもりはなかったんや!』

トウジは手を目の前で合掌させて謝る。

ヒカリはそれを見て、はぁとため息をつく。

『まったく・・・・・・・・・・・』

ヒカリは頭を抱える。

『なぁ、委員長・・・・・・・・・・・・・』

『ヒカリ、でしょ?』

ヒカリはトウジの言葉を遮り言う。

トウジはすぐさま、

『ああ、すまんヒカリ。・・・・・・・・・・・聞いたついでに口挟んでもええか?』

『なに?』

トウジはグランドから校門へ出ようとしてるアスカと肉眼では見えないが、シンジを見て、

『無理して言わへんでも、あいつらあの関係が今は一番いいんちゃうか?』

『そうよ』

『そうよって・・・・・・・だったら・・・・・・・・・・』

トウジは少し驚いている。

『大丈夫よ、アスカは絶対言えないから』

『は?・・・・・・・・・・・・・』

トウジは「なんでそんなことわかるんや?」と言おうとして、開きかけた口を戻した。

ヒカリの顔が妙に穏やかで、確信のある顔をしていたから・・・・・・・・・・・・

未来なんかわからない、人の心も他人には、もしくは自分ですらわからないだろう、なのに、この顔は・・・・・・・・・・・・

(ほんま、惣流のことならなんでもわかってるっちゅう顔やな・・・・・・・・・ん?ただ単に惣流が、馬鹿で単純っちゅう訳か?)

別に貶してるわけでもなく、ただそう思った。

『さて、私たちもとっとと済ませて帰りましょう』

『ん?そやな』

トウジは文句もいわず従った。

トウジとヒカリ、2人だけで教室を掃除していく。

2人はなにも喋らない。

聞こえてくる音は、ほうきではわく音、机を移動する音、外の部活動の生徒たちの叫び声、そして・・・・・・・・・・

実際に見えないが、2人の目には、確かにシンジの写真の前ですら「好き」という言葉を言えずに真っ赤な顔のまま固まっているアスカの姿が見えていた。





アスカはがばっ、と起き上がり何故か正座する。

そして、そのままの姿勢でシンジ(の写真)と向き合う。

そのままの姿勢で暫く・・・・・・・・・・・・・・・

頑張って口を開いているようだが、顔を赤くして再び口を閉じる。

その作業が数十回繰り返される。

言うだけだ・・・・・・・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・って、

そう、言うだけだ。

なのに口に出しかけると、顔が赤くなり、まともに口が動かなくなり・・・・・・・・

まるで、実際にシンジが今自分の目の前にいるんじゃないか?と思えてくる。

そう思わなければいい。

何回もそう考えた。

だが、行動はそう簡単ではない。

考えてるのに、そう思っているのに、目の前にはシンジがどうしても見えてしまう。

それも、自分を助けてくれたときの顔が・・・・・・・・・・・・・

「ったく!馬鹿シンジのくせに!馬鹿シンジのくせに!馬鹿シンジのくせに!・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・」

ため息をつく。

悪口は言えるのに何で好きっていう言葉だけいえないのよ?

ぱたん、後ろにそのまま倒れるように寝転がる。

好き、たった二文字なのに、まるでその言葉をいえないようだ。

す、と、き、ひらがなでもたった二文字。

普通の言葉であり、魔法の言葉でもある。

す、き、この二文字をいうためにアスカは二時間格闘した。

心の中にシンジを思って、

二時間後アスカは眠りについた。

好きといえないまま・・・・・・・・心の中にシンジを思ったまま・・・・・・・・・・・・・





がばっ、

アスカは飛び跳ねるように起きた。

「やばっ、寝ちゃった!」

アスカは時計を確認する。

4時、学校はチャイムの音と共に終わりを告げる時刻だ。

30・・・・・・・・・・いや、15。

アスカはシンジが帰ってくるまでの時間を算出した。

普通なら30分かかるだろう、だが、今は自分がいる、15分で帰ってくる。

そう考えた。

わざわざ早く走って帰ってくるのだから、シンジもアスカに気があるに違いないのに・・・・・・・・・・

第三者がいれば必ずそう言うだろう。

だが、アスカの頭はそんなことを考えるはずもなく、素早く着替えて準備をしている。

「やばい、結局言えないままだなんて・・・・・・・・・・・」

なら、今度にすればいいのに・・・・・・・・・・

第三者がいればそう言っただろう。

アスカは意外と意地っ張りなのでやる、と決めたらやりとおす性格だ。

ちゃくちゃくと準備をはじめている。

寝癖を直し、髪を整え、さすがに着替えはしなかったが、服のしわを手でできるだけなくした。

準備はOK、後はシンジが帰ってくるのを待つだけだ。

あと、大体10分。

何故か自室のベットに正座をしている。

胸が高鳴るのをアスカは感じていた。

実際、いわゆる告白という奴をするのだから高鳴るのは当たり前かもしれない。

十分。

アスカにとって長いようで短いように思える。

逃げ出したいようでそうじゃないような・・・・・・・・・

がちゃ、がちゃ、と鍵を外す音が聞こえる。

来た。

一瞬の永遠とでもいうべき時間に終わりを告げる音。

アスカは腹を決めた。

ゆっくりと立ち上がり、シンジの入ってくる玄関へと向かう。

シンジの姿がそこにあった。

言おう。

決めたはずだ。

おずおずと、開き辛い口から出た言葉は・・・・・・・・・・

「あのね・・・・・・・・・・シンジ・・・・・・・・・・」

「なに?アスカ、あっ!もしかして気分が悪いとか?」

「違うの、聞いて、シンジ」

「えっ?なに?」

ここまではスムーズだ。

次だ。次。

病気を押してまで・・・・・・・・・そう思っているのか、真剣にアスカの話を聞こうとしているシンジに・・・・・・・・・・

「あの・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やき」

「は?」

シンジが気の抜けた声をあげる。

もう、駄目だ・・・・・・・・・・・・

そう思いつつも、再び試みる。

「だから・・・・・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・・・・・・・・・やき」

「あ、なるほど、わかったよ、今夜はすき焼きにするよ」

終わった・・・・・・・・・・

アスカはなんとなく、そう思った。

自分の春は終わったのだと・・・・・・・・・・・

「う・・・・・・・・ん、ありがと」

「?大丈夫?まだ気分が悪いとか?すき焼き食べれるの?」

シンジが心配そうに聞いてくる。

「大丈夫・・・・・・・・・・・じゃないかも・・・・・・・・・・・寝る・・・・・・・・・・・すき焼きは食べるから」

アスカはとぼとぼと、自室へと戻っていった。






アスカは寝返りを打った。

布団がそのたびにふわっ、と自分を包み込む。

右へごろごろ。

左へごろごろ。

元の場所に戻る。

布団を優しく抱きしめてみる。

日差しを少しだけしか浴びてない布団でも、やわらかい感触、春の匂い、そして・・・・・・・・・

シンジの匂い・・・・・・・・・・・・・

シンジが作ってくれた今日のすき焼きは美味しかった・・・・・・・・

なんとなく、些細なことだがそれだけでなんか心が温まる。

外は春だ。

夏へ変わりゆくというのに、今だ春独自の暖かさが残る日々。

アスカの心の中にも、今だ変わり行くことのない春が居続けている。

 

 


愚者の後書き

どーも、やたらと投稿してる割には終わってない作品の多い河中です。

今回は一話完結。安心して読んでください。(読んでる人がいれば)

今回、テーマは「春」です。(そのまんま)

自分の友達が今、彼女といい感じなので、よく、「春爛漫」と言うのですが、何故に春?

という疑問とともにできた作品、ジュン様の10000HIT記念SSです。

鹿児島は熱いです。熱いので部活が激しいです。

僕の心は「夏」熱血!根性!勇気に希望!来たれ和己軍団!(僕の所属しているサークルらしき暇人集団。某中学でひっそり何もせず活動中)

ではでは


 作者の河中様に感想メールをどうぞ  メールはこちら

<アスカ>河中様から、10000HIT記念SSを頂いたわ!
<某管理人>うわっ!おおきに。ありがとうございます。
<アスカ>河中様もテツ様と同様でアンタの作家デビューのときからのお付き合いよね!
<某管理人>はいな。ターム様のサイトでの同時デビューですわ。
<アスカ>やっぱり、親子ほど年が違うくせに!
<某管理人>でへ!孫爺ほど違うよりいいでしょう。
<アスカ>ほら、さっさとアップの準備してきなさいよ。いつまで番茶啜ってんのよ!
<某管理人>ぐげっ!ぎゃっ!い、行きますってば!

 はぁ、やっと行ったわね。

 さて、河中様からの作品。とっても私の気持ちをよく表現してくれてるわね。ホントに、アリガト!
 言い出したくてもいえない。ヒカリになんかには完全に見抜かれちゃってるしね。
 それでも、こんな風な関係が当分続いていくっていうのもいいもんだと思うわ。
 もちろん、最後には私とシンジはラブラブになるのが大前提だけどねっ!
 

 河中様、ホントにいいお話をありがとうございました!
  

 

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