アスカ  シンジ
 

 
シンジ  アスカ


        



2009.3.20

 

こめどころ


 

ほのぼのと温かい春の日差しの下。


「シンジ!今日は何の日か知ってる?」 

「えー?四月一日って何かあった?えーとえーと。」


顔をしかめるアスカ。とぼけおってこ奴。


「毎年毎年、あれだけおちょくられてて、どうして忘れていられるのかしらね。」 


大きく溜息。


「えーと、耳の日! は3月3日だし・・・」 

「もういいわよ。今日はエイプリルフール4月馬鹿、嘘ついていい日よ。」 

「そうだった。そう言えば毎年このにはアスカに馬鹿にされたりからかわれたりするんだ。」


覚えてないわけないだろ。中2で日本に来て、最初の中3の春からこの高3の春で4回目だよ。 

その声が聞こえたようにくるりと後ろを向くアスカ。 


「言っちゃったらその日騙したりできないでしょ。あんまり最近は流行ってないしね。」 

「そう言えば最近聞かないな。廃れた催しになったのかも。」 

「私達ももう高校3年、いつまでも馬鹿やってらんないわ。」 

「そっ、そうだよね。やめやめ!あー、よかった。」 


妙に浮かれた声を出した後ろからシャツを引っ張られる。

そこには俯き加減のアスカがいた。


「ひ、ひとりでもやる気のある人は嘘をついてもいいんだよね。」

「勿論だけど、え、意地張ってやるの?」 

「意地ってわけじゃないわよ。嘘に紛らせて実はって事だってあるでしょ。」

「アスカになら確かにあるかも。」

「やかましいっ!とにかく、だ。聞いてもらいたいのよ。あのね。」

「はぁ。」


ごっくん。


「わ、わたしさ、もしかしてシンジが好きかも、なのよね。」 

「な、何いってんのさ。嘘なんだろ?」 

「うるさいわね!はっきり言いなさいよ、答えははっきり!」 

「そ、それ疑問形なの? どう答えればいいのさ。」 

「どうなのよっ!」 


すでに頭の中は真っ白だ。


「ぼ、僕だってアスカをぜんぜん嫌いじゃないよ。」 

「どこが?なぜ?」 

「どこがって…色々文句もあるけど結局全部やることなすこと可愛いと思うし。」

「全部って…具体性に欠けるし、生意気で可愛くないけど、まぁいいわ。」

「そうだよ。好きなんだし。」

「うん。」


小さく答えて俯いたアスカはシンジの手をそのまま握って、静かにしている。 

だんだん心配になってきたシンジ。き、聴こえなかったのかな。


「ア、アスカ?」 

「なによ。」 

「僕、君のこと好きだよ。本気だよ。嘘じゃない。」

「うれしい。」 

「アスカ…」 


バッと上げた顔は、あっかんべの真っ赤な顔! 髪が見事に跳ね上がって広がった。

まるで悪漢がマントを広げて「わはははははぁっ!」て罠にハマったヒーローを笑う場面みたいだ。


「ざーんねんでしたぁっ!うっそっ!」 

「あっ、ひっひどいっ!」 

「迫真の演技だったでしょ、バーカ。去年も同じこと答えたこと憶えてないほうが悪いっ。」


身を翻してアスカはシンジの2m前、マンションへの坂を駆け上がっていく。


「待てよアスカ、こらーっ!」 


走っていくシンジ。

アフリカのトムソンガゼルが前を走っていく仲間の白い尾を追いかけるみたいに。

そういえば、去年まったく同じことを同じ展開でされたことをやっと思い出した。

悔しかったこと、がっかりしたことは忘れてしまうのがシンジの処世術だから。

逆に受けたことはいつまでもやるのがアスカ。相手が怒り出すまで止めない。

当然シンジもさすがにムカっとなっている。

バカか、僕は。だけど今年は違うぞ。シンジは思い切り地を蹴った。

筋肉がものをいう短距離走で同じような重さの鞄を持っているんだ。ハンデはアスカにある。

この一年間のシゴキに耐えた自信もちょっとはある。体育の成績も生まれて初めて5になった。

伸ばした手がアスカの肩を追い抜き、鞄を投げ出して後ろから抱き締めた。


「え、ええっ。」


追いつかれるなんて思ってもいなかったアスカ。

身体ごと引き倒されそうになる。鞄が地に落ちた音。つ、つかまったぁっ?こいつに?

追いつかれたぁっ!シンジなんかに。激しい息遣い。熱気。うわわわ。焦ってるあたし焦ってる。

マンションのエントランス前。桜並木の終わりの所で。

勢いで後ろから抱き締めたシンジの顔は、慣性で宙を舞った赤金色の髪に包まれた。

なんて優しい匂い。これはリンスの香り?それともアスカの身体の匂い?

シンジの息がアスカの首筋を包んでいる。こんな設定は想像の中に無かった。熱く弾む息。男の子の。

引き寄せられた腕、力強かった。抱きしめられた制服の胸は見た目より広かった。

思わずあがいて、振り払おうとしてた。だけど手が、手が動かせない。

結局そのままの二人。桜が降りかかる中で、現実が信じられないけど確かに影が一つに。


「に、逃げるなよな。」

「誰が逃げたってのよ。」

「いま。」

「あんたこそ、なに人のこと抱きしめてんのよ。後ろからなんて変態よ。」

「逃げるからだろ。」

「変なこと言うからでしょ。」

「なにが変だよ。」

「変なこと言った。」

「好きだって、言ったこと?」

「知らないわよ。いつまでも抱きしめてるんじゃないわよ。」

「いやだ。」


珍しくアスカの言うことに逆らった。いつもなら「ごめん」って離してた。


「アスカのほうが先に好きだって言ったんじゃないか。」

「あれは…」


エイプリルフールの冗談だといえばいい。嘘をついてもいい日なんだって。


「わかったわよ。」

「なにが。」


ちっと舌うち。こいつ今日に限って追及厳しいじゃん。しゃあない、認めてやろうじゃん。


「はいはい、あんたが好きかもって言いました。でも、かもだからねっ!」


「かも」を取れば、あんたが、好き。


なによ、なによこれ。

言った途端に身体が震えた。身体中に火がついたみたいに、なにこれ。なんなの。

またたび貰った猫みたいな感じってこんなの?


「僕はアスカが好きだ。ずっと前から。多分初めて会った頃から。」


うわ、言っちゃったよ。騙されても、からかわれても、わかってても。言い続けたのはそのため。

彼女の身体をぐるっと回して向かい合う。俯いてて髪で顔が見えない。もう薄暗かったし。

腕を両側にぴったりつけて、まるで包帯ぐるぐる巻きのミイラみたいな状態で僕の腕の中にいる。


「ね、返事は。」


少女は意を決して少年の顔を正面から見上げた。熱があるようなその表情。

街路灯の灯りが目の中に並んでいる。分裂した彗星が夜空に映っているように見えた。


さて、アスカはなんて答えるのか。 



途絶えた君の言葉 その声はどこからやって来る

霞んだ地平の向こうにある 星の群れがやって来るその中に

過去からも未来からも そして現在の心の中から 偽りなくやって来る

瞳に映る 変わらぬ君の姿 本当は時を超えた君の姿とは違う だのに同じに

花が舞う その中の君を覚えている その笑顔を 帽子に花を受ける姿を

その姿を忘れない その記憶は手放せない 君との大事な時間の記憶

銀色の水しぶきを上げた浜辺 梅雨の煙った小糠雨の中 どこまでも白い雪原

初めて指をつながせてくれた日の想い 斜め後ろを歩かせてくれる時の想い

凍えるような吹雪の中でも 灼熱のエナジーが逆巻く中でも 握った手は離さない

手を伸ばせば届く場所にいて いつも傍にいて 吐息が聞こえるほど近くに

探しに行く 見えなくなったら 取り戻す 誰からでも たとえ黄泉からでも

見つめていく 願いはいつでもわかってる 君は逃げて行っても そこに居る

僕は待っている 君は待っている 憎んでも 罵っても 絶交しても そこで

今 君の呟きがかすかな吐息が 待っていた言葉を紡ぐ 待っていた言葉を紡ぐ

揺れる月のひかりの中で 雪のような花の中で 降り積む中で 




じっとシンジを見つめたあと、アスカは不意にしゃがみ込んだ。

シンジも釣られてしゃがみ込む。びっしりと花の絨毯が敷き詰められたアスファルトの上に

アスカの指が動いて行った。


シンジ だいすき いつまでも好き 


顔をあげると2人の視線はもう一度絡み合う。


「…好きよ。」

「好きだ。」


見事なまでに言葉は重なった。そのことにも驚き、満足する2人だった。

立ち上がると鞄を拾い上げて歩き出す。


「あーあ。」

「なんだよ。」

「好きだ好きだ好きだって、もう少し気の利いた言葉ってないのかしらね。」


相変わらずだな、告白なんてしても。この強がりの意地っ張りの「彼女」は。


「今夜、煮込みハンバーグにするよ。」

「そ、それが告白ってこと?バカにしてっ。」


エレベーターの中だから、耳まで真っ赤になったのがわかっちゃうのに。

「彼」はにっこり笑った。釣り込まれて「彼女」も笑った。

素直ないい笑顔じゃないか。


「僕の彼女は世界一可愛い。」

「ええ?なんですって。」


わめいていたアスカは今日一番の言葉を聞き逃した。



                                           

  komedokoro


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こめどころ様へ

ご投稿ありがとうございます。
早い早い。
どんどん書いていかれるようで。
この勢いで次々書きましょう。
4月1日にあわせましょうかと問えば、今すぐにとのお達し。
了解、わかりました。
どんどん書かれるのですから、ストックする必要はないということですね(にっこり)。
次をお待ち申し上げますよ。うふふ。


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