ザワザワ・・・ガヤガヤ・・・

この日、ここ第二新東京市にある第弐高校の2−Aの教室では転校生が来るとのことで、ある話題で持ちきりであった。

「アスカはどっちだと思う。」

アスカと呼ばれた少女は特に興味もなさそうにその質問に答えた。

「別にどっちでもいいわ、ヒカリはどう思うのよ。」

「私?私は女の子だったらいいな・・・。」

ヒカリという名の少女は自分の希望を答える。

教室の至るところでこのような話題がされている。

つまり転校生の性別は男か女かどちらであるか。

中にはそれをネタにトトカルチョをしているグループもいた。

「(なんで転校生くらいでここまで盛り上がれるのかしら・・・。)」

そのトトカルチョをしているグループを見て、不思議に思うアスカであった。





アナタの微笑みもう一度

by シン




キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪

ガラガラ・・・

チャイムが鳴ると同時に先生が入ってくる。

先生が来たので騒いでいた生徒達も自分達の席に戻った。

「起立、礼、着席。」

委員長である洞木ヒカリの号令により、朝のSHRが始まった。

「ええ〜っ、皆さんも知っていると思いますが転校生が来ましたので紹介します・・・入ってきてください。」

初老の教師の言葉で教室のドアがガラガラと開け入ってくる転校生。

身長は180cm位あり、顔も中々の美形である。

そのこともあり教室がざわめき始めた。

もっともざわついているのは女子だけで男子はしらけているが。

転校生はそれを気にする様子も無くそのまま教師の左隣まで歩いてくると生徒の方を向きながら立ち止まった。

「それでは挨拶してください。」

「・・・・碇シンジです。」

無表情で名前だけ言うとそのまま黙ってしまう。

あまりにそっけない自己紹介にクラスの全員は驚いてしまう。

「それでは、碇君の席は・・・・惣流さんの隣が空いていますね。それじゃあ碇君はあの席に座ってください。」

シンジは教師の指す席に何も言わず無言で向かうと鞄を机に引っ掛け席に座る。

「アタシ、惣流・アスカ・ラングレーっていうのよろしくね。」

「・・・・・・・・・・・よろしく。」

隣の席ということでシンジに自己紹介するアスカだが。

シンジの方は無表情でそうポツリと言うと会話は終わった。

「(な、なによコイツ!普通アタシみたいな美少女に話しかけられたら嬉しがるものでしょ、なによその反応!!)」

この時点でアスカのシンジに対する評価は最低レベルにまで落ちたのである。


シンジが転校してきて三日経った。

あの後、シンジに生徒達が色々と質問を答えるには答えたがすべて素っ気ない態度であった。

そのせいか今ではシンジに話しかけるという人物は誰もいなかった。

シンジも別に気にしてるわけではなく、休み時間はいつもSDATを聴くか文庫本を読み、昼食の時間も一人で食べていた。

つまりクラスの中から浮いている存在になっているのである。

ちなみにアスカも例外ではなく話しかけるなどの行為はいっさいしていなかった。


しかし、そんなある日・・・・・

それはアスカが委員会で帰るのが遅くなった日のことであった。

「ちょっと遅くなちゃったわね、早く帰らなきゃ。」

アスカが曲がり角を曲がると、そこにはシンジが道の端にある箱の前でしゃがみ込んでいた。

箱の中には子猫がいた、どうやら捨て猫らしい。

「・・・・君も独りなんだね。」

シンジは猫を抱き上げると優しく頭を撫でる。

猫は気持ち良いのか目を閉じ、されるがままになっている。

「僕と一緒に暮らそうか。」

猫はシンジの言葉が分かっているのかどうか分からないが嬉しそうに「ミィー。」と鳴く。

シンジは優しい微笑をするとそのまま猫を抱きかかえ去っていった。

そんな光景をアスカは信じられないといった顔で見ていた。

「ア、アイツってあんな顔もできるんだ・・・。」

いつも学校で見る表情は無表情の一つしかない。

怒っている顔も見たことなければ、泣いた顔も見たことない。

ましてや笑っている顔など皆無であった。

「・・・・・綺麗な微笑みだったわね。」

それがアスカの素直な感想であった。

今まで見たことのない、透き通るような微笑みであった。

その時からかもしれない、アスカが自分にもあんな微笑みを向けて欲しくなったのは。

そしてアスカの心の中を占めたのは。


その翌日・・・・

放課後になりシンジが校門を出ようとしたとき、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。

シンジが立ち止まり後ろを振り返ると、そこにはアスカの姿が。

「・・・・・・何か用?」

「用があるから声をかけたに決まってんじゃない。アンタって第三から引越してきたんでしょ?」

「・・・・・だから、何?」

「アタシが第二を案内してあげるわ。さぁ行くわよ!」

アスカはシンジの答えも聞かずに腕を掴むと強制的に連れて行く。

シンジは少しとまどいの表情を見せるがとりあえず連れて行かれることにした。

これが二人の初デート?となった。





アスカが街を案内して以来、様々なスポットでデート(シンジがそう認識しているか謎)を重ねた。

その結果シンジの心も少しずつだがアスカに対して開き始めてきた。

最初は惣流さんと呼んでいたが今では惣流になり、アスカの方も碇からシンジと呼ぶようになった。

そして年が明けてもう少しで新学期が始まるという冬休みのある日のことであった。

「はぁ、はぁ・・・・ごめん、待った?」

シンジが少し息を弾ませながらやって来た。

「良いわよ、アタシが早く来ただけのことだし。それより切符。」

シンジはアスカに差し出された切符を受け取ると礼を言う。

いつもは近場しか行っていなかったが、今日は少し遠出してスキーに行くことにしたのである。

セカンドインパクトがあって以来、季節はずっと常夏であったが、

去年、突然地軸が傾き元の季節を取り戻したのだ。

「それじゃあ、Let's GO!」


二人がスキーウェアに着替えてゲレンデに出ると一面銀世界であった。

「・・・・綺麗だね。」

「ホントねーー、さて時間ももったいないから早速滑るわよ。」

「うん。」

二人はリフトの長い列の最後部に並び始めた。

「そういえば、シンジってスキーやったことあるの?」

「ううん。」

シンジが首を横に振る、普通は滑ったことの無い人の方が多い。

「それじゃあ、アタシが教えてあげるわ。」

アスカは日本に引っ越してくる前はドイツにいたのでスキーも上級者とまではいかないが、中級者レベルにまで達している。

「うん、じゃあよろしくね。」

「大船に乗ったつもりでいなさい!」


上に着くとシンジは早速アスカに滑り方などを教わる。

シンジは元々運動神経が良かったのか、すぐに滑れるようになった。

そして二人で気分よく滑っているときに事件が起きた。

「くっ・・・・・。」

シンジは前方のスキーヤーを避けるため方向転換をするがバランスを崩してしまいそのまま雪の上に転倒した。

アスカは慌ててシンジの元へ駆けつけた。

「シンジ、大丈夫?」

「う、うん・・・・・・・うっ!」

転倒したときに足を捻ってしまったのか、シンジは立ち上がることができずに足を反射的に押さえてしまう。

「と、とりあえず下まで戻らないと、立てる?」

アスカは聞いてみるが、シンジの様子を見るとそれも無理そうであるのは明白であった。

「ほら、肩貸してあげるわ。」

「・・・・ごめんね。」

シンジはアスカの肩を借りると寄り添いながら山を下山して行った。

怪我は軽い捻挫で大事には至らなかったが、結局その日は帰ることにした。

この出来事によりシンジの心はまた一つ開くことになった。






それから月日が経ち、シンジとアスカも三年生へと進級した。

もちろんクラスも一緒である。

そして、進級してすぐの日曜日、いつも誘われているシンジが初めて自分からアスカを誘った。

アスカはシンジからの初めての誘いに喜ぶがその時のシンジの神妙な表情が気になっていた。

シンジが誘った場所は中央公園、きちんと管理されている公園で今の時期は桜が綺麗である。

アスカが待ち合わせ場所である公園の前に行くと既にシンジが待っていた。

「シンジ、お待たせ。」

「ううん、今日は無理に誘ってごめんね。」

「そんなこと無いわよ。」

「今日はさ、アスカに話があってさ・・・・・どうしても聞いて欲しかったんだ。」

「ふ〜〜ん、で、その話って?」

「少し歩こうか・・・。」

シンジは桜並木の方へと歩いて行った。

アスカはシンジの話というのも気になるが、とりあえずシンジの後を追った。


「桜が綺麗だね・・・・。」

「そうね・・・・・。」

二人は肩を寄り添いながら桜並木を歩いた。

初めて見る桜はどれも満開で綺麗であった。

「あっ・・・・・・。」

シンジは何かを見つけたのかその場所へと駆けて行った。

アスカはどうしたんだろうと思いながらもシンジの後を追った。


「この樹だけ・・・・・まだ咲いてないね・・・。」

その樹は他の桜はみな綺麗に咲き誇っている中で唯一、まだ花を咲かせてはおらず蕾なままでいる遅咲きの桜であった。

「そうね・・・・・。」

「まるで・・・・・・僕みたいだね。」

その時、シンジの言葉をかき消すかのように春風が二人の間を駆けた。

「えっ、なに言ってるの?」

アスカはシンジの言葉の意味が分からなかった。

「教えてあげるよ・・・・・僕が第二新東京市に来た理由を・・・・。」

アスカはシンジの言葉に驚いた。アスカは前から気にはなっていたがシンジが一言も話さなかったので聞かなかったのである。

「僕は、4歳の頃父さんに捨てられてある人のところで世話になったんだ。
そして16歳になって父さんの仕事を手伝うために第三新東京市へと呼び出されたんだ・・・・。
アスカはエヴァって知ってる?」

「知ってるわよ、あの第三新東京市を襲った使徒って敵を倒すための兵器・・・・・も、もしかして。」

「そう、僕はエヴァのパイロットだったんだ・・・・僕は一人でも頑張って使徒を倒したよ・・・いつかきっと平和な世界が来るってことを信じて。しばらくすると、もう一人パイロットが選出されたんだ・・・・そのパイロットは僕のクラスメイトで親友でもあった。

でも、そのエヴァが使徒にのっとられたんだ、僕は倒すのを拒否したよ・・・・人が乗ってるのに攻撃なんてできるわけなかった。でも僕の意思とは無関係に急にエヴァが動き出したんだ・・・。そして使徒は殲滅されたよ、・・・・親友を犠牲にして。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

アスカはシンジの話を驚きの表情で聞いていた、まさかシンジがあのエヴァのパイロットだったとは・・・・。

驚かないわけが無い。

さらにシンジの独白は続いた。

「僕はパイロットを辞めたかった。でも、一人しかいないパイロットを辞めさせてくれるわけがなかった。結局説得されてまた乗ることになったんだ。

そして使徒との戦いも残り一体となったとき、また別のパイロットが選出されたんだ。名前は渚カヲル、すぐに親友になれたよでも、彼こそが最後の使徒だったんだ、僕は信じたくなかった・・・・・・だけど、殺したんだ。僕が彼を握り潰したんだ。

使徒の戦いが終わったかと思うと、次は戦自そしてエヴァの量産機が攻めてきたんだ。その頃には僕の心は壊れそうになっていた・・・・でもなんとか戦いには勝利したんだ。

戦いが終わって一緒に住んでいた保護者の男の人に言われたんだ・・・・もう用は無いって。
僕は捨てられたんだよ・・・・僕は自分が守ろうとしたものに裏切られたんだ。

アスカは何故シンジがあんなに他人と関わろうとしなかったのか分かった。

裏切られなくなかったのだ、他人とさえ関わらなければ裏切られることもない。

シンジはそういう結論に行き着いたのだろう。

「だから・・・・僕なんてこの桜の樹と同じ・・・・そこにいるだけで迷惑な存在なんだ。」

「違うわ!!」

シンジの言葉のすべてを否定するかのようにアスカの鋭い言葉。

アスカは後ろを向いていたシンジを無理矢理振り向かせると肩を強く掴んだ。

アスカの真剣な視線がシンジの目にぶつかる。

「違う、違うわ!シンジは咲かない人間じゃない!迷惑な存在なんかじゃないわ!」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「この樹だって花は咲くわ!それが他の樹より少し遅いだけよ!」

「で、でも・・・・・例え咲いたって・・・。」

「良いのよ!周りなんて気にしなくって・・・・・時期じゃないのに咲いて色も香りもなかったら意味ないじゃない!
シンジは、シンジのペースで咲けばいいのよ!!」

その言葉を最後に二人の間に沈黙が流れた。

「・・・・・・ありがとう。」

アスカの最後の言葉がシンジの凍り付いていた心に暖かい風を吹き込んでくれた。

アスカは自分がシンジの肩を強く掴んでいるのに気づくと慌てて離した。

「何時咲けるかは分からない・・・・・けど、いつか綺麗に咲けるように頑張るよ。」

シンジはあの猫にしたような微笑みをアスカに向けた。

それはやはり透き通っていて綺麗な微笑みであった。

「(アンタはもう咲いてるわ、それもとっても綺麗な花をね。)」

「それじゃあ、何処か行こうか、惣流「ちょっと待ちなさい!」」

シンジの言葉を遮るアスカの表情は不満気であった。

その表情を見て、何か悪いこと言ったかなと考えるシンジ。

その答えはアスカの次の言葉で分かった。

「いい?シンジは生まれ変わったんだから呼び名も変えて。
これからは惣流じゃなくってアスカって呼んでよ。」

「ええっ!・・・・わ、分かったよ、ア、ア、アスカ。」

やはり初めて呼ぶのでぎこちない、しかしアスカは満足していた。

「よろしい、それじゃあ喫茶店にでも行こ。」

「うん。あっ、その前にちょっとスーパーに寄ってもいい?」

「なんで?」

「実は僕、猫飼ってるんだ。だからミルク買って帰らないと・・・。」

アスカはシンジの言葉であの時の猫のことだと分かったが、あえて知らないふりをする。

「へ〜っ、猫飼ってたんだ。名前はなんて言うの?」

「名前はレイ。半年くらい前だったかな・・・・学校の帰りに捨てられてたのを見つけて拾ったんだ。」

「ふぅ〜ん、それじゃあレイのためにも早くミルクを買わないとね。」

「うん。」

頷くシンジの表情は満面の笑顔であった。

それからシンジはどんどん変わっていった。

いや、変わってきているのではなく本来の自分を取り戻そうとしているというのが正しい。

すぐにクラスに溶けこむ事ができ、友人もたくさん出来るようになった。

何より、笑顔を見せるようになったのだ。


そして、月日が流れ、とうとうシンジ達三年生が卒業する日となった。

その日、アスカはシンジにこの後すぐに卒業式を控えているのに屋上へと呼び出された。

「ごめんね、急に呼び出しちゃったりして・・・。」

「別に良いわ、それより何の用?」

「僕さ・・・・・あの日から思っていたんだ。
確かに捨てられた・・・・けど、今考えてみると捨てられて良かったと思うんだ。」

あの日とは、シンジが昔の自分と決別した日である。

「・・・・・・・・・・・・・。」

アスカはシンジの話を黙って聞く。

「だってさ・・・・・捨てられなかったらアスカに出会えなかった・・・・。
アスカにとっては、僕なんてたくさんいる友達の中の、ただの変な一人かもしれない・・・・。
けど、僕には、僕にはアスカしかいないんだ!」

「シ、シンジ・・・・・・。」

「僕はアスカのことが好きだ。アスカがいたらこそ僕はここまでやってこれたんだ。
これからもずっと、アスカと一緒にいたいんだ!」

「・・・・・ありがとう・・・アタシもね、シンジのことが好きよ。
最初は別に気にしてもなかったわ・・・・・でもある日シンジの微笑みを見たときからずっと惹かれてたの・・・。」

アスカの答えを聞き、シンジは少し涙を浮かべながら今までで最高の笑顔になる。

アスカもシンジに負けないくらいにとびっきりの笑顔を見せる。

「これからも、ずっと、ずーーっと一緒だからね。」

「うん!・・・・・あっ!」

シンジは何かに気づいたのか大声を出す。

「どうしたの、大声なんか出しちゃって?」

「も、もう卒業式始まってる・・・・。」

「・・・・・良いじゃない、さぼっちゃえば。
卒業式に出るよりも・・・・こうして二人でいる事の方がずっと大切よ。」

「・・・・そうだね。」

こうして二人の高校生活は幕を閉じた。

そして今、中央公園に見事に咲いている一本の桜の樹があった。

まるで二人の未来を祝福するかのようにそれは満開に咲き誇っていた・・・。


<終わり>


<後書き>

どうも初投稿のシンです。

まだまだ未熟ですが、いつか見事な花を咲かせたいものです。

この設定ではシンジは中学生のときでは無く高校生のときに呼び出されています。

特に理由はないんですが、そっちの方がなんとなく良いかな?と思いまして。

あと保護者の男の人は、別に加持ではございません。別のキャラだと思ってください。

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。

もし感想があればなんでもいいのでメールください。

絶対返信しますので。

では!


 作者のシン様に感想メールをどうぞ  メールはこちら

<アスカ>シン様の当サイトでの第1作目よ!
<某管理人>おおきに、ありがとさんです。
<アスカ>くそっ!
<某管理人>へ?どないしはったんでっか?ハッピーエンドでよろしおましたやないでっか。
<アスカ>私がエヴァに乗ってないじゃないっ!
<某管理人>ああ、そうでしたなぁ。綾波はんもとちゃいまっか。ミサトはんたちもいはらへんようやし。
<アスカ>レイたちはいいのっ!私がいたらシンジにこんな辛い思いをさせなくて済んだのに…。
<某管理人>あ、ああ…。そっちの方の話ね…。
<アスカ>そうしたらシンジを散々利用した連中に後足で砂をかけてあげられたのに、残念で残念で…。
<某管理人>怖っ。目が据わっとるわ。退散退散…。

 
 
さぁて、シン様1作目。
 何とネルフに女気がない!
 組織に女気がないからこんな殺伐としたことになっちゃうのよ。ホントに可哀相なシンジ。
 まあ、これからはその分私が……(略)。
 はん!どんなことをしてあげるかは秘密よ。ヒ・ミ・ツ。
 さぁて、あのニャンコは元気にしてるかな?レイって名前でもすぐに仲良くなれそう!
 あ、でも、行った途端にジト目で見られたら…。ぶるるっ、変な想像はやめてシンジのおうちにGO!

 シン様、素晴らしい作品をありがとうございました!
  

 

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