前作の設定を引きずっております。前作からお読み頂ければ幸いです。
 タヌキ
 

 

LASから始まる
 
新たな戦い
 

 


 

タヌキ        2004.07.02

 

 










「シンジくん、学校に行きなさい」


 いつものようにアスカの餌付けをしていたシンジは一瞬何を言われたのかわからなかっ
た。


「なんでしょうか? リツコさん」


 シンジはきょとんとした顔をし、口を開けてご飯をねだっていたアスカは露骨に
邪魔よと言わんばかりに表情をゆがめている。


「まったく骨抜きになるにもほどがあるわ。もう一度中学二年生をやるつもり? 」
 アスカの病室を訪れたリツコは冷たい目でシンジを見つめる。

「いいこと、あなたはアスカの看病のためとはいえ、三ヶ月以上学校を休んでいるのよ。
使徒戦争の疎開や、エヴァのパイロットだったという事情もあるから、なんとか学校も
三年生に進級させてくれることになったけど。条件が付いているのよ。
もう一日でも休んだら落第」

「いいですよ、僕は別に中学校卒業できなくても、アスカが居てくれれば」


 リツコの言葉にシンジが平然と応え、


「そうよ、くだらない詰め込み教育なんか受けているよりは、このアタシ、世界的天才美
少女の世話をしている方が有意義に決まってるじゃない」


 アスカも確たる声で応援する。

 見ているうちにリツコの眉がつり上がっていく。


「アスカ、シンジくんを中学中退にしたいの? 将来就職ができなくなるわよ。
ネルフだって中学もでていない人間を雇うほど余裕はないわ」

「はん、ご心配いただかなくて結構。アタシが働くから。
シンジには家事をしてもらえばいいんだし。お互いに得意な分野で補い合う。
まさに人類補完よね、シンジ」

「そうだね、アスカ」


 アスカとシンジが顔を見合わせてうなずき合う。すでに習慣とかしているのだろう、
見つめあった二人の顔が近づき、唇が触れそうになる。

 ものすごい音をたててリツコが病室の扉を平手で叩いた。シンジがびくっと体を震わ
せてアスカから離れ、アスカは平然としながらも恨めしそうにシンジの唇を目で追う。


「子供が生意気言うんじゃないの。義務教育なのよ、シンジくん、あなたは明日から学校
にいく。放課後までこの病棟への立ち入りは禁止」


 胸の前で腕を組んで仁王立ちになったリツコは怒りをあらわにしている。


「そんなあ、ひどいですよ、リツコさん」

「そうよ、横暴じゃない」


 シンジとアスカの抗議はリツコの一睨みでつぶされた。


「卒業するまで出入りできないようにだってできるのよ。いえ、永遠も可能よ」


 MAGIを操作すれば、シンジのIDを使えなくするのは簡単だ。パスを無効にされたら、
病室の扉さえ開けられない。


「リツコ、そんなに死にたい? 」


 声が一オクターブ低くなり、アスカの顔から表情が消える。


「アスカ、だめだよ。興奮したら、体に悪いよ。リツコさん、わかりました、行きます」


 危険を感じたシンジがアスカをとどめた。


「だったら、一度ミサトのマンションへ戻って、制服とか勉強道具とか用意してきなさい。一度も帰ってないでしょ」

「うげっ、魔窟に戻っているわね。ミサトのことだから。遭難しちゃだめよ、シンジ」


 アスカが心配そうな顔をして、シンジの手を握る。


「うん。気をつけるよ。アスカ、ゴメンね。1時間ほど会えなくなる」


 シンジがその手を軽く握り返し、そっとほどく。


「寂しいよ、シンジ。アタシのこと忘れないでね、帰ってくるのを、いつまでも
いつまでも、待っているから」

「忘れないよ。絶対に。じゃ、これ以上いると別れるのがつらくなるから、行くね」


 背中を向けたシンジにアスカが手を伸す。


「待って、シンジ。必ずアタシの元へ帰ってくるって約束のキスぅ」


 とても甘いとは言えないどん欲な接触はリツコの忍耐が無くなるまで続いた。


「さっさと行きなさい、この色ぼけガキ」


 切れたリツコによってシンジは無理矢理アスカの病室から排除された。




「いま出たわ、先行班と同行班に追尾班の三チームでサポート」


 取りだした携帯電話にリツコが命じるのを聞いたアスカがベッドの上に起きあがる。


「で、リツコ、シンジを追いだして、アタシになんの話? 」

「シンジくんが居なくなると、人間が変わるわね。やはりあなたは優秀だわ」


 アスカの豹変ぶりにリツコが驚いた顔を見せた。


「あったりまえじゃない、この惣流アスカラングレーさまは、天才なのよ。
でも、シンジの前では、かわいい女の子になっちゃうのよね」


 自分で言いながらアスカがほんのりとほほを染める。リツコが天を仰いだ。


「あきれて物も言えないわね。まあいいわ。察しの通り、シンジくんに関わることよ」

「シンジに? 」

「ええ。その前にアスカ、あなたエヴァがどうなったか知っている? 」

「知らないわ、いえ、アタシの弐号機が、もうどうしようもないということは
わかっている」


 アスカが辛そうな表情を浮かべる。弐号機に母親が居ることを知ったときには
もう遅かった。あの辛い戦いを思いだしたのだ。
 リツコが言いにくそうに口を開く。


「……そう。その通りよ。弐号機は大破、コアを遺して廃棄されたわ。
そして量産型エヴァは、すべて塩になった」

「初号機はどうなったの? 」


 アスカの問いにリツコが顔を引き締めた。


「初号機は無事よ。ただ、わたしたちの手の届かないところにあるだけ」

「どこよ? 」

「地球の衛星軌道上。つまり宇宙にあるの」

「なにそれ」

「サードインパクトのせいよ」

「なんでもサードインパクトのせいにしてるんじゃないわよ」


 アスカが苦笑いした。


「そうとでも考えないとどうしようもないわ。エヴァに飛行能力はない、ましてや大気
圏突破能力なんてあるわけない。しかし、現実初号機は宇宙を漂っている。
それもほとんど無傷の状態でね」

「世界でただ一つのエヴァが宇宙に。エヴァを手にしたものが世界を制する……」


 アスカの目が光った。


「なるほど。初号機をもう一度地球に戻そうとする連中が居ると言うことね」

「ご明察だわ」


 リツコが感心した口調でアスカを褒める。


「有人ロケットにシンジを乗せて、宇宙でエントリーさせ、ATフィールド全開で
大気圏に突入させる。初号機を地表に降ろすにはこれしかないわね。
となると有人宇宙船を持っている国がシンジを狙って居るわけか。
アメリカ、EU、中国、ロシアね」

「アスカ、あなた作戦部長をやってみる気ない? 」


 リツコが今度は驚きの目でアスカを見た。


「それがわかっていて、なぜ、このセキュリティ完璧な病院からガードしにくい中学校へ
シンジを通わせるの? 」


 アスカがリツコに不審の目を向ける。シンジのこととなると見境が無くなるのだ。


「使徒戦を終えたネルフは無用の長物。でも、ネルフにすがって生きている人間が多い
からそう簡単に解散できないのはわかるわね」


 リツコの言葉にアスカが顔をゆがめた。


「わかるわよ。アタシもその一人だから。それとシンジを中学校に行かせるのに
どういう関係があるわけ? 」

「世論がうるさいのよ。少年虐待だって。ネルフは使徒が来なくなったというのに、
パイロットの少年を学校にも行かせず、怪しい実験を続けているとね」

「その通りじゃない。でも、いつからネルフがそんな根性無しになったの。
今までなら問題ないの一言ですませていたことなのに」


 アスカが皮肉げな口調で笑う。その一言で死にかけた経験なら不足しない。


「仕方ないの。今のネルフにかつての影響力は微塵もないのよ」


 リツコがいつもとは全く違う、力のない声で言った。


「仕方ないわね。シンジのガードは完璧にやりなさいよ」


 明晰な頭脳を持つアスカがその事情を理解するのはたやすい。声だけは厳しいが、
了承した。


「わかっているわ。シンジくんを狙うあらゆる物理的手段に対抗する措置は執ってあるわ」


 リツコがまかせなさいと言わんばかりに言い切った。


「ところでさ、アタシはどうなのよ。いくつもの国がアタシの価値を認めて狙って
居るんでしょ」


 アスカが自慢げに胸を反らした。闘病生活で大きく減ったふくらみがかろうじて
寝間着を盛り上げる。


「全然」


 リツコの応えは冷たい。


「ド、ドイツ支部はどうなのよ。そ、それに、アタシはアメリカ国籍よ。
アメリカ支部は? 」


 リツコの態度にアスカの声がうわずる。


「両国ともサードインパクトのすぐ後にアスカの帰還を要求してきたけどね、
病床のアスカを見せたら、黙って帰ったわ」


 リツコが淡々と言った。唯一シンクロできる弐号機を失い、自我を崩壊させた少女の
面倒を押しつけられるのは嫌だとばかりに、ドイツは解雇通知をアメリカは国籍剥奪
宣言を送ってきたことはさすがにアスカに知らされていない。


「ちっ。アタシの値打ちをわからない連中なんてこっちから願い下げよ。
こうなったら、アタシが初号機にシンクロして見返してやる」

「無理ね」


 リツコがあっさり首を振った。


「どうしてよ。アタシとシンジはシンクロしたんでしょ。だったらアタシも初号機と
シンクロできるはずじゃない」

「天才とはいえ、色だの恋だのには、まだ子供ね」


 リツコがあきれたように肩をすくめる。


「どういう意味よ」


 アスカがまなじりを裂かんばかりに憤慨した。


「あなた、初号機のコアがシンジくんのお母さん、ユイさんだと言うことは
知っているわね」

「ええ。アタシにとってお義母さまになる人」

「で、あなたはシンジくんの恋人」

「…………」


 その言葉にアスカがうれしそうにうなずく。


「それって、かわいい一人息子を奪っていく憎い女ともいうのよ」


 リツコがさらっと言ってのけた。


「えっ」


 アスカが絶句する。


「それも息子に尽くしてくれるどころじゃなくて、家事はすべてさせる上にわがまま
言い放題で息子を下僕扱い。当然母親としては良い気分じゃないわ」


「あのときは、自分の気持ちに気づいてなかっただけで、悪気があったわけじゃないのよ」


 アスカがあわてて言い訳をしたが、声に力がない。


「ユイさんが許すと思う? シンジくんを守るために暴走した初号機を
覚えているでしょ。並の女じゃないわ。嫁姑の争いをエントリープラグの中で
やってみる? それこそシンクロした途端に精神汚染されるわよ」

「うっ」

「初号機は、あきらめなさい」


 リツコが淡々と言い放った。


「やっぱり、アタシは要らない人間なのね」


 アスカが沈んだ。ぶつぶつ呟き始める。リツコが大きくため息をつく。


「そうかしら。耳を澄ましてご覧なさい。アスカを必要としている人が帰ってきたようよ。
まったく、病院の廊下は走っちゃいけないことぐらい知っているはずなのに。
うらやましいわ」


 楽しそうにリツコの頬が弛む。


「アスカ、シンジくんはまたも大人の都合という新たな戦いに巻きこまれるわ。
身体も心も傷つくかもしれない。そうなったときに支えてあげて。
これは私やミサトじゃできないもの」


 リツコが真剣な顔でアスカに頼んだ。


「あなたはシンジくんの家族になるんでしょ」


 リツコにそう言われて、下を向いていたアスカは顔を上げてゆっくりと首肯した。


「さて、私は帰るわ。熱いのを見せられるのは独り者には辛いから。ねえ、アスカ」

「なによ」

「シンジくん、2時間で良いから貸してくれない? 」


 リツコの顔に妙な笑いが浮かぶ。


「だめ、絶対にだめ。シンジはアタシ専用なの」


 アスカが大声でわめくのを見てリツコが柔らかい笑みを浮かべる。


「元気でたようね。じゃ、学校へ行くシンジくんの邪魔しちゃだめよ」


 出ていくリツコと入れ替わりにシンジが病室へとびこんできた。


「アスカ、ただいま」


 両腕いっぱいに荷物を抱えている。シンジは寝起きしているこの病室から学校へ通う
つもりなのだろう。教科書も制服もなにもかも持ってきていた。


「遅い。馬鹿シンジ」


 アスカの頬が膨れる。


「ゴメン、なんだか妙に交通事故が多くてさ、
目の前でトラックはぶつかるし、空からヘリは落ちてくるしでさ、大回りしちゃったよ」


 シンジの言葉を聞いたアスカの顔がゆがんだ。


「そう、でもアタシに寂しい思いをさせた罪は重いのよ。さあ、真心のキスで償うの」


 アスカが唇を突きだし、まぶたを閉じる。


「いつも心からのキスなんだけど……」





 二人が一次的接触を果たしている病室の前で、リツコがミサトと立ち話をしていた。


「学校の方は大丈夫? 」

「ええ。保安部から体育教師として二人、情報部から生活指導として一人、保健教諭とし
て一人送りこんだわ。あと、病院から学校までの通学路には、100メートルごとに保安
部の人間をペアで配置、学校周囲にも車に乗せた保安部を待機させている。
対空戦闘も考えて屋上にバルカンファランクスも設置したわ」


 リツコの問いにミサトが応えた。


「ねえ、リツコ。私たちの手で初号機を回収することはできないの? 」


 ミサトがリツコに訊いた。そうできれば、問題はなくなる。


「いかにネルフといえどもロケットは持っていないわ。日本もそう。
宇宙開発をあきらめてエヴァ建設をしたから、日本がネルフの本部になれたこと
ぐらいは知っているでしょ。無理言わないの」


 リツコがなだめるように言う。


「防衛戦ってあんまり得意じゃないのよねえ。あたしはどっちかというと打って出る
のが好みなのよねえ」


 ミサトが大きなため息をつく。


「シンジくんというカードがあるだけましよ。ゲームに参加できるんだから」

「世界覇権というゲームね」


 ミサトが真顔になった。


「すべての物理的攻撃を無にするATフィールド、S2機関内蔵で無限の活動時間と
回復能力、初号機一つで世界を相手に戦える。これがどういうことかわかっているわね」

「わかってるわ。シンジくんを敵にまわすわけにはいかない。そうなるなら……」


 ミサトがゆっくりと首を縦に振った。その目が酷薄に光る。


「アスカは私たちを許さないわね」


 リツコが悲しそうな色を浮かべて病室に目をやった。


「万一のための計画があると知られただけでも、間違いなく殺されるわ。
それも思い切りむごい方法でね」


 ミサトが唇をつり上げ、あきらめたような表情を見せる。


「そのときは一緒に逝ってあげる」


 ミサトの背中にリツコは手をやり軽く抱きしめる。美女二人の抱擁は怪しくも美しい。
 だが、その嘆美は長く続かない。リツコの白衣のポケットから「ネコ踏んじゃった」
が流れた。


「あら、マヤからだわ」


 リツコが白衣のポケットから携帯電話を取りだす。


「なにかあった? そう、わかったわ。監察部から4チーム選抜しておいて、
すぐに戻るわ」

「リツコ、なにがあったの? 」

「お客さんのおでましよ。明日付で4カ国からの留学生が第三市立第一中学校へ
編入してくるわ」


 リツコはミサトをうながして歩きだした。





 新制ネルフは冬月司令代行を中心に葛城ミサト副司令兼作戦部長、赤木リツコ副司令兼
技術部長の体勢で大幅に組織改編をし、国連の一機関ではなく、日本国をバックに戦自の
一部をその傘下に取り入れ、エヴァの技術を応用したオーバーテクノロジー研究提供機関
として生き残りをはかっていた。

 各支部に設置されていたMAGIタイプの人工知能は、オリジナルのハッキングでクラ
ッシュさせた。独自の戦力を失った各支部はそれぞれの国家に吸収され、ネルフの支部同
士の提携は途絶していた。
 MAGIを潰され、リリス、アダムを失い、新たなエヴァの建設が不可能となった今、
各国にとって一機残ったエヴァの価値は、計り知れない。
 4カ国が宇宙ロケットの発射準備に入っていることは周知の事実であった。


「先輩、お帰りなさい」


 破壊されたジオフロントの代わりに生き残った兵装ビルを改築して作られた本部に戻っ
たリツコたちをマヤが真顔で出むかえた。


「情報出せる? 」


 差しだされたコーヒーを受け取りながらリツコが尋ね、首肯したマヤが指でMAGIに
命じる。モニターに光が入った。


「まずアメリカからの留学生です。マリア・マクリアータ。
 ボストン出身の14歳で両親は健在、父の仕事の都合で第三東京市へ来たことに
なってます」


 マヤの説明をバックにメインスクリーンに顔と全身像が映る。入国管理局の監視カメラ
が撮った映像である。背筋を伸ばし、大股で歩く姿は活発なヤンキー娘そのままだ。


「次」

「つづいて、中国です。呂貞春。南京出身。14歳。身寄りを失い、日本在住の親戚を
尋ねて第三東京市に移住」


 あたりに絶えず目を配っている様子がカメラからでもわかる。かなり神経質そうな
感じである。


「次」

「ロシアです。イリーナ・カルバチョフ。モスクワ出身。13歳。日本の大学への進学を
希望しての留学です。両親は健在ですが、日本には来てません」


 自分の魅力がどこにあるのかよくわかっているのだろう。胸を大きく張って歩く
ロシア娘は、周囲の注目を集めていた。


「なんなのよ、こいつら。アスカにひけを取らない美少女ばっか」


 ミサトが唖然とした。


「それに13や14の小娘の体じゃないわよ。ロシアのこいつなんて、
あたしより胸有るんじゃない」


 ミサトの科白をうけて、リツコがマヤに訊く。


「MAGIの推測データーは? 」


「はい、先輩。三人だけ先にだします。登場の順です。
 157センチで上から81−56−85
 155センチで上から79−58−84
 159センチで上から85−55−86
 うっ、勝負にならない」


 マヤの最後のうめきを無視してリツコは、4分割されたモニターの三つを占めている
娘たちに冷たい目を向けた。


「三人を先にだしたと言うことは4人目はもっとたちが悪いのね」


 リツコの問いにマヤがしっかりとうなずく。


「見てくださればわかると思います。だします」


 モニターの最後の一区画に灯が入り、声なきどよめきが作戦司令室を揺るがす。


「EUというか、フランスです。フランソワーズ・立花・ウオルター。13歳。
日系のクオーターです。父親が技術者として日東重工業に招聘されての来日です」


 あっけにとられた皆を気にすることなくマヤがデーターを読み上げた。
 そこには、廻りの視線に耐えられないのか気弱そうに下を向いているパリジェンヌ
がいた。


「アスカ? マヤ、間違いじゃないわね」


 最初に反応したのはミサトであった。


「間違い有りません」

「そっくりだわ。よく見れば目の色とか髪の色が違うけど、全体的な印象は同じね」


 リツコも驚きは隠せないようだ。


「4人とも怪しいところは無いわね」

「はい。調べられる限り履歴も追いましたが、きれいなものです。
一切ネルフや軍との関係は見られません。また、レントゲンスキャナでも
異常はありません」


 リツコの確認にマヤはしっかりとした口調で応える。


「一番の強敵はフランスね」


 リツコが一人ごちた。その声は作戦司令室のざわめきに消され、誰の耳にも
届かなかった。


「これって、リツコ、やっぱり……」


 リツコに後をまかせるように、ミサトが言葉を途中で止める。


「ええ。間違いないわね。色仕掛けよ。単純だけど思春期の男の子には効果的ね」

「色仕掛けって、そんな前近代的な」


 マヤの隣にいた日向が驚いた顔でリツコを見あげた。


「日向くん、色仕掛けは立派な心理戦よ。それもかなり効果的な。
あなたも男だからわかるでしょ。あんな女の子に迫られたらどうなるかしら。
一緒に国に帰って結婚しましょうと言われたら、日向くん、拒否する自信ある? 」


 リツコが冷めた目で日向に問いかける。


「今ならできますが」


 ちらと日向がミサトに視線を送る。モニターに釘付けになっている
ミサトはそれに気づいていない。


「中学高校の頃なら、保ちませんよ。キスだけで言いなりになりますよ」


 落胆したのか、日向が力無く肩を落とした。


「日向さん、不潔」


 マヤがそっぽを向く。


「シンちゃん、モテモテってか。アスカにしれたら殺されるわね」


 なにごとも茶化さないと気の済まない性格のミサトが興奮気味にはしゃぐ。


「ふざけないで。ミサト。でもアスカがあの状態で禁欲生活をおくらされている
シンジくんには、辛い毎日になりそうね」


 明日からの低レベルな戦いに思いをはせたのか、リツコが小さく呟いた。





 世界覇権戦争が中学校を舞台に始まろうとしていた。




            続く
 

 


 

 

後書き
 前作をお読み頂いた皆様、ありがとうございました。続きをとおっしゃって
くださった方がいらっしゃったのと、ジュンさまのご厚意に甘えて続編です。
 一回で終わりませんでした。全く文章の構成力というか、先読み能力が無い
というか。情けないことです。




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 タヌキ様の当サイトへの2作目。
 何とこの展開はっ。
 そうかわかったわ。
 世界から集まってきた美少女をこのアスカが一人ずつ片付けていく…。
 なぁんてバイオレンスな展開にはならないでしょうけど。だって私まだ動けないもん。
 え?動けたら?そんなの速攻で殲滅よ。
 ただフランス小娘(ドイツ人はフランス人には自然に反感持っちゃうのよ!)が気になるわよねぇ。
 おしとやかなアスカ?やばっ!シンジ、そんなニセアスカに騙されちゃダメよっ!
 続きがすっごく楽しみっ!
 ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、タヌキ様。

 

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