サードインパクトは起きたが、なんやかんやありながらも世界は元通りになり、エヴァ
も無くなって平和な日々が訪れた。
 人間、暇になるとろくな事をしない。今日もミサトは同居している少年少女をからかう
ことに執念を燃やしていた。
 

 

40万ヒットお祝い無理矢理プレゼントSS

「本物は誰だ?」

 


 

タヌキ        2004.08.12

 







「さって、今日も遊ぶわよん」


 ミサトの宣言にアスカ、シンジともに露骨に顔をゆがめる。
 全てが終わった後、それこそ顔中をべとべとにして泣きながら、お互いに告白しあって、
やっと恋人同士になった二人である。せっかくの土曜日の夜を30そこそこの嫁き遅れに
邪魔されたくない。


「嫌そうな顔ねえ。いいわよん、あたしをのけ者にしたいなら、保護者辞めてもいいん
だから。そうなったら、未成年の男女二人で一緒にいることは世間様が許さないわよねえ。
ちょうど、ネルフの独身寮男女ともに空きがあるのよ」


 ミサトのにやりと笑った顔にアスカとシンジはあきらめのため息をつくしかない。
確かに思春期の、それも男女が一緒に居ることは社会的に問題なのだ。


「わかりました、ミサトさん、で、何をするんですか? 」


 降参したシンジがミサトの顔を見る。


「今日はお祝いだから、派手に行くわよ」


 ミサトが一人で盛り上がっている。


「お祝いって、僕の誕生日は過ぎましたし、アスカとミサトさんの誕生日には早いですよ。
あっ、ミサトさん、加持さんからついにプロポーズしてもらったんですね」


 シンジがミサトに笑顔を見せる。


「ばぁか。加持さんなら、先月、ドイツ時代に手出ししていたイライザに捕まってヨーロ
ッパに行っちゃったわよ。子供までいたらしいから、もう逃げられないんじゃない? 」


 アスカがさらっとシンジの知らないネルフの秘密をばらす。


「えっ」


 シンジがミサトの顔を伺う。さっきまで無かった青筋が眉間に浮かんでいる。


「シンちゃん、明日晩ご飯作らないでいいからね。久しぶりにあたしがカレーラーメン
作ってあげるから」


 ミサトの声が妙に明るい。アスカがあちゃあ、という顔をみせ、シンジが震える。


「やっぱり僕はいらない子なんだ。母さん、もうすぐ会えるよ」


 シンジがまた暗夜行路にはまりこんだ。


「で、いったいなんのお祝いなの? 」


 話が進まないことに業を煮やしたアスカがミサトに訊いた。


「祝40万突破よ!!」


 ミサトが高らかに宣言する。


「えっ、40前30突破記念? 」

「アスカ、同じことリツコの前で言ってみる? 」


 ミサトにすごまれたアスカが精神汚染される。


「死ぬのは嫌、死ぬのは嫌、死ぬのは嫌ああ」


 やっと復活したシンジがアスカを抱いてなだめる。

「ちゃんと聞きなさいよ。この定期昇給でついに、この葛城ミサト三佐のお給料が額面
40万円を超えたのよ」


 ミサトの勢いに二人は脱力した。


「そんなことなの? 」


 ユニゾンで言う二人にミサトが不満そうな表情を見せる。


「いい? 公務員で30歳前に、30歳にならずして、三十路を越えずして、給与が40
万円を超えるというのは凄いことなのよ。あたしが有能なことの証明なんだから」


 ミサトが、やたら30未満を力説する。

「わかったけど、野球拳はもう嫌だからね」


 アスカが拒否の姿勢を表に出す。ミサトがやろうとしているのはセカンドインパクト
前にはやったというお座敷ゲームなのだ。


 先々週の土曜日は野球拳であった。そう、じゃんけんをして負ければ一枚脱いでいくと
いう奴。もちろんやったのはミサト対アスカである。お互い下着を入れて4枚ずつでスタ
ート。勝負事となると目先が見えなくなるアスカの性格をミサトはよく知っている。
まず二連勝してアスカを下着姿にすると、そこからわざと負け始め、


「あっちゃあ、お姉さん、ブラまで取られちゃったわ」


 公称Eカップの見事なバストを支えている紫のブラジャーを外しかける。そこは思春
期の男の子、おもわず身を乗り出すシンジ。まさに隠されていた頂上が見えるかという
瞬間、アスカが我慢できなくなった。


「だめえ、アタシ以外の女の身体を見ちゃ駄目」


 シンジの頭を胸に抱くようにして視界を遮ったのはいいが、ブラ一枚しか無い状態で
同年代の少女とは格段に違う膨らみに顔を埋められたシンジが鼻血を出し、真っ赤に
なったアスカによって殲滅されるという事態を招いた。


「でも、ちょっとは進んだでしょ、二人の仲」


 ミサトが思い出し笑いをしながら言う。
 そう、つきあいだしたはいいが、最悪なファーストキスの記憶に縛られてまともなキス
さえできなかった二人だったが、あれ以来キスすることをためらわなくなっている。


「被害者は誰だ? は無駄ですからやめましょうね」


 先週はこれだった。そう、食べ物の中に芥子やわさびなどを入れたとんでもないのを
参加者の誰かが食べるという奴だ。普通の物を食べた人間と同じように何ともないという
顔をして解答者をだませたら参加者の勝ち、ばれたら解答者の勝ちというゲーム。
 どういう構造をしているのかわからないが、ミサトの味覚でこれは意味がない。
 シュークリームにカラシをいれても平気だし、しゃりの代わりにわさびを使ったにぎり
寿司もばくばく食べる。
 そんなミサトに敵愾心を燃やしたアスカが同じようにトマトケチャップの代わりに
タバスコを使ったオムライスをほおばって吐き出し、後かたづけに四苦八苦したのは
記憶に新しい。


「そんなに警戒しなくたっていいじゃない」


 ミサトがちょっと膨れた。とてもここにいる子供たちのダブルスコア年齢だとは
思えない。


「今日は特別だから、参加者もたくさん用意したわ。みんな、入ってきて」


 ミサトの声にレイ、リツコ、マヤがリビングへと現れる。


「こんなにたくさんの人でなにをするんです? 」


 シンジはミサトのやる気にあきらめの声をあげた。


「本物は誰だ? よ」


 本物は誰だとは、参加者の中から解答者に一人を選ばせるものである。たとえば、
手だけだしてその感触で恋人をあてるというようなものだ。


「これだけの美女をそろえたことからもわかるでしょうが、解答者はシンジくんよ」


 珍しく酒を飲まずにミサトがゲームの開始を宣言する。


「いい、まずは、耳で彼女をあてるのよん。さっ、女性陣はこの特設段ボールの穴から
耳だけ出してね」


 どこで集めてきたのかいくつもの段ボールをガムテープでくっつけて壁のように大きく
したものがリビングの真ん中にたてられる。それには中央よりちょっと高いところに
5センチ角ほどの穴が開いている。もちろん、シンジからはその穴の向こうがどうなって
いるかは一切見えない。


「さて、シンちゃん、あなたは、この5つの耳の中からアスカのものと思われる耳にむか
って愛を囁くのよ。心配しなくても大丈夫。罰ゲームはないから」


 ミサトの声が段ボールの向こうから聞こえる。


「間違えたらひどいからね」


 アスカの声がシンジを脅した。


「罰ゲームの方がいいかも」


 シンジはぼやきながら左側の耳に目をやった。


「アスカはピアスの穴を開けていない。これは違うな」


 次の耳に移る。


「アスカの耳たぶにほくろなんてなかったよね」


 こうやってあらためて耳を見てみると、普段彼女の耳をよく見ていないことに気づく。
 シンジは三つの耳は違うとわかったが、どうしても残り二つの違いがわからない。


「さあ、シンちゃん、答えを」


 ミサトが時間切れを宣言する。
 シンジが思い切って真ん中の耳に向かって囁く。


「好きだよ」


 途端に段ボールの壁が取りのけられる。シンジの前には愛の告白に真っ赤になっている
レイが、そしてその右隣には、怒りのあまり赤鬼になっているアスカがいた。


「碇くん、そう、わたしと一つになりたいのね」


 ぽっと頬を染めてシンジを見つめるレイ。


「しんじぃ」


 洞窟の奥から吹きだしてくる風のような声のアスカ。




 二回戦が始まったのは、30分後である。蹴りを入れられたシンジが回復するのを待っ
ていたのだ。


「じゃ、二回目よん。今度はここにあるビールのプルトップを指輪に見立てるの。そして
左手の薬指だけだしている中からアスカの指を選んで指輪をはめてねん」


 ミサトは一回目が思い通りの結果になったことが嬉しくてたまらないのだろう。浮き上
がるような声である。


「シンジ、わかっているわよね。今度間違えたら折檻フルコースだからね」


 アスカの声がシンジを震え上がらせる。


「アスカの指って細いよね」


 シンジも必死である。触ることは禁止されているから、目で見るだけ。それも明かりを
わざと落としているので非常に見えにくいのだ。
 シンジは緊張のあまりいろんな事を口に出している。


「これは、この毒々しいマニキュアは、リツコさんだな」


 この一言で明日の実験台が決まり、


「ちょっと肌に張りがないよね」


 これでシンジの来月の小遣いは半減した。


「ああ、やっぱり二つの内どっちかがわかんないよ」


 シンジが悩んでいるところにミサトの時間切れの声がかかる。


「さっ、エンゲージリングをはめて」


 せかされてシンジはより細い方へとプルトップをはめた。
 再び段ボールが取り払われる。左指にはまった銀のプルトップを見つめてマヤがトリ
ップし、その二つ向こうで真っ赤なオーラを背中にアスカが仁王立ちしている。


「シンジくん、いけないわ、私は歳上よ。でも、シンジくんなら考えても良いわ。報わ
れない恋に終止符を打てるのね」


 妄想に落ちているマヤ。


「しんじぃ」


 最後の審判のラッパより重いアスカの声。




 三回戦開始までは1時間の休憩があった。


「ミサトさん、もう勘弁してください。僕、死んじゃいますよ」 


 シンジの泣き声にミサトが仕方ないわねという風に頷いた。


「じゃ、最後にしてあげるわ。最後はやっぱりこれしかないっしょ。最後は唇よん。
この中からアスカの唇を選び出して、熱いベーゼをあげてねん」


 シンジは最後の出題に固まってしまった。


「他の女にキスなんかしたら、アンタをコロシてアタシも死ぬ」


 アスカのこの声だけで使徒は逃げだすに違いない。
 シンジは余りの恐怖に一瞬意識を飛ばす。


「じゃ、始めるわよん」


 ミサトの声で三回戦が開始される。毎度のように左から近づいたシンジは、最初の唇に
迷わずキスをした。


「シンジ」


 アスカが段ボールの壁を突き破ってシンジに抱きつく。


「あちゃあ、一発かあ」

「男と女はロジックじゃないわね」

「アスカさん、うらやましい」

「こういうときどういう顔をすればいいの? 」


 4人はそれぞれに感想を述べ、ため息をつく。


「シンジ、シンジ、やっぱりアタシのこと見ていてくれたんだ」


 アスカがシンジの首にぶら下がるようにしてシンジの胸に顔をすりつける。


「シンジ君、どうして耳と指はわからなかったのに、唇はわかったの? 」


 リツコが問う。


「今日のお昼餃子だったんです」


 シンジの言葉にミサト、リツコ、レイ、マヤが、動きを止めた。空気が凍り付く。


「しんじぃ」


 首に巻き付いていた手に力が入っていく。シンジの顔色が青くなる。


「アタシを見つけたのは口臭かあ」 


 アスカはシンジを押し倒し、馬乗りになって首を絞めた。

「キモチワルイ」


 目覚めたシンジは、絞められていた首がゆるめられたことによる急激な脳血流変化で吐
きそうになっている。


「あちゃあ、シンちゃんの顔色悪いわ。アスカは真剣に怒ってるし。ちぇ、これじゃあ
しばらくは二人で遊べないじゃない。仕方ない。次は50万を超えるまで辛抱するしか
ないわね」


 ミサトがぐっとビールをあおった。




 

 

後書き

 まずは、JUNさま、40万ヒットオーバーおめでとうございます。
 これからもおもしろい作品を作り上げていかれることを期待しております。

 さて、お読み頂き感謝してます。またお馬鹿なものです。
 しかし、本編を書かずになにやっているんだろ?


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 タヌキ様の当サイトへの5作目。
 40万HITのお祝いだって。アリガトっ!
 う〜ん、でもこれはまずいわよねぇ。
 何がって?
 だってシンジは私のこと、全然わかってないじゃない。
 こいつは大問題だわ。
 今日から特訓しなきゃね。
 身体の一部分を見るだけ、ううん、私が半径500mにいるだけでわかるようになってもらわなきゃ。
 ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、タヌキ様。

 

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