200000HIT記念投稿

馬乗り ロープで 責任重大


2004.02.12         テ ツ


 

 

今晩、アタシは非常に機嫌がよろしくなかった。

なにもすることがない時程イライラすることはない。
ふとアタシの部屋を見渡せば
シンジに買わせたクッションに、
シンジに買わせたキーホルダー、
そしてシンジに夜食用にと作らせたおいたサンドイッチ、
と、いつも通りの光景が広がっていた。

アタシはこれが気にいらなかった。なんら変わった様子を見せないアタシの部屋が。


アイツに買わせたクッションを引きずりながらリビングに出た。
特にすることもないのでとりあえずテレビをつけたりした。

なんと形容していいかわからない気持ちだった。
特に見るあてもなくチャンネルを回した。映る番組が次々に変わっていく。

アタシはこれがまた気にいらなかった。リモコン操作に素直に反応するテレビが。


今度はお風呂を覗いた、シンジが用意してくれた湯船に手をつけてみた。
ちょうど良い湯加減、とっても良い香りの入浴剤。

もちろんアタシはこれも気にいらないに決まってる。文句のつけようのないこのお湯が。


あの時家に居たのはアタシ一人。もう午後の9時を過ぎているにも関わらず。
なんだか面白くない。

リビングに戻ってクッションを引きずりながら今度はソファーに横になった。

「・・・。」

暇だった、本当に暇だった。寂しいとも言うのかもしれない。

テレビを見ているアイツの邪魔をしてやりたい!でもシンジがいなかった。

お風呂の温度や香りについて文句を言ってやりたい!でもシンジがいなかった。

ソファーでゴロゴロしながらワガママを言いたい!でもシンジがいなかった。



しばらくすると暇で暇で死にそうなアタシのところに「ただいま〜。」と、ようやくシンジが帰ってきた。

もっとも暇だったのはココまでで、この日は物凄い刺激的な日になった。

「アスカ、ただいま。ゴメン、実験が思ったより長引いちゃって遅くなっちゃった。」

と、シンジはアタシに言った。そんなことは判っている、アイツの実験の日だった。それくらいわかってた。
だから返事もしてあげなかった。

でも次のシンジの言葉を聞いたときは正直に言ってとても嬉しかった。

「ミサトさんは実験の事後処理とかなんとかで今日は帰れないって。」

ミサトが帰って来ないということは今夜は二人きり、思いっきりシンジにイタズラができると思った。            
アタシは頭も良い。最高に面白いことを思いついた。その時までは少なくともそう思ってた。

とりあえず、

「ねぇ?アスカ?聞いてる?」

なんて間抜けな質問に

「うっさいわねっ!!聞こえてるにきまってるでしょーがっ!」

と思いっきり大声で答えてやった。

ご近所の迷惑を心配するシンジが面白かった。



次に、アタシはテレビを見ているシンジの傍に行き、

「ねぇ、この番組つまんないから別のに変えてよ。」

と言った。

「え、そうかなぁ・・・」

と、しぶしぶチャンネルを変えようとするのがおもしろい。

最初にバラエティー番組をつけたので

「品がないのは嫌。」

と言ってやった。

「それなら・・・これは?」

と次はニュース番組をつけたので、

「堅苦しいのも嫌。」

と言ってやった。

「それじゃ・・・アスカが直接選べばいいんだよ。」

と言って今度はリモコンを手渡してきたので、

「アンタ、女の子が喜ぶ番組も選べないの?」

と言ってやった。
道理に合わないことを言っているのはわかる。
でもシンジが真に受けてふてくされるのがおもしろくて何度もやってしまう。

でも、疲れて帰って来たところをいきなりワガママに付き合せて悪かったかもしれない、
でも帰りが遅かったシンジも悪い。アタシはとても寂しい・・・いや、とても退屈だったのだから。

次はお風呂のことでいじめてやろうと思い、

「シンジ?まさかお風呂の準備はできてるんでしょうね?」

と言った。もちろん準備ができているのは知っていた。なにかしらケチをつけてやるつもりだった。
しかし、アイツの返答は予想外のものだった。

「そりゃもう、『誰かさん』のために出かける前に準備したよ。」

・・・『誰かさん』なんて少し嫌味な言い方をしてくるとは思ってなかった。
でも多少はこういうやりとりも面白い。

「入浴剤も入ってるんでしょうね?」

「あぁ、『誰かさん』が僕のお金で僕に買わせた『お気に入り』とかいう入浴剤が入ってるよ。」

「・・・何よ?その言い方は?文句でもあるわけ?」

「いや、ただ僕が言いたいのは『お気に入り』の入浴剤入りのお風呂が調度良い温度で仕上がってるよ、ってこと。
 ちなみに言えばまだその時の代金を貰っちゃいないんだけどさ。」

「へぇ。そうなんだ〜。」

「まぁ、その『誰かさん』を信じちゃった僕も悪いんだろうけど?」

「次からはその綺麗で、頭が良くて、スタイルも抜群な『誰かさん』に騙されないようにすることね♪」

「あぁ・・・アスカ、残念だけどそれは違う人だよ。僕が騙された『誰かさん』ってのは
 性格が悪くて、乱暴で、仁王立ちが得意な人だよ?」

性格が悪くて、乱暴で、仁王立ちが得意な・・・ここまで言われるとは予想していなかった。
シンジは思ったよりできる。

「へ、へぇ・・・そんな人がもし!もしよっ!?居たとしたらビックリよねっ!?」

「ホントだよ、もしそんな人が僕の近くに居たりしたらご飯や風呂の準備まで僕がやることになるんだろうね?
 まったく参っちゃうね?アスカぁ?その人自分でできないのかなぁ?
 まぁどんな天才にも苦手なことがあるんだろうね?」

青筋が何本か浮かび上がってたと思う。アイツのどこか得意げな笑みが鼻についた。

「どうしたの?アスカ?気分でも悪いの?『誰かさん』の話はしない方がよかったかな?」

「そんなことないわよ?だってアタシには関係のないことだもの。」

顔は笑顔だったけどきっと額は青筋だらけだったろうし、拳に込められた握力も全開。
いつ殴りかかってもおかしくなかったと思う。でも殴りかかったら喧嘩に勝っても勝負に負ける。
それだけは出来なかった。このアタシがアイツに負けるなんてありえないことだから。

「そうだね、アスカにはまったく!関係のない話だもんね。」

「そうね、じゃアタシお風呂入るから。」

「わかった、いつもみたいに僕のことなんて気にしないで遠慮なく長風呂してよ。
 それから温度が気に入らなかったら言ってね?いつもみたく。」

それには答えず青筋だらけの額と共に脱衣所に入った。
非常にムカついた。とにかく頭にきたことだけは確かだ。
ニヤニヤした顔で話すシンジは実に腹立たしい。

今回はアタシが残念ながら不利な形で終わったが次は返り討ちにしてやろうと思う。

それに日本語のボキャブラリーがまだ少ないから綺麗な言葉で言えないけれど。
なんとなく楽しかった気もする。こういうのも悪くないと思う。

でもそれとこれとは別。せっかくゆっくり入れと言ったのだから
思いっきり長風呂してやった。文句だって言いまくった。

体がふやけるほど入ってから出た。入浴剤の香りが皮膚に染み込んだ感じのこの時間が好きだ。
早速体を拭いてドライヤーで髪を乾かす。リビングの方からは相変わらずアイツがテレビを見ている音がする。

ここで唐突に

『・・・もし停電したらアイツはとても困るだろう。さっきのお返しだ。』

なんて考えが浮かんでしまった。なんでこんなこと思いついたんだろうか。

ドライヤーをもう一つコンセントにさし、スイッチを入れた。

プツン。とブレーカーが落ちた音がした。

一気に部屋が真っ暗になり、リビングでテレビを見ていたアイツがビックリする声が聞こえた。

『ふふふ、ざまーみなさいっ!』と思ったのもつかの間。真っ暗じゃアタシも非常に困ることに気付いた。
遅い。アタシはバカだ。まだ髪の毛も生乾きだし、服だって着ていなかった。バスタオルを体に巻いただけ。

『この格好は非常に不味い。何か不味い。いつも風呂あがりはこの格好だけど、何か不味い。』
と思った。

そこに、

ミシ。

と足音がした。一瞬ビクッとした。アイツがブレーカーを探して歩いていたらしい。

テレビも消えてしまったからアイツの足音がよく聞こえた。心なしかこっちに近づいている気もした。

闇は男を大胆にするといった話も聞いていたし、もしかするともしかするかもしれないと思った。

腕力じゃ敵わないだろうとも思った。アイツも一応男だし、当然アタシは女の子だから。
しかしアタシとしてはそういうことの前にハッキリさせておきたいことがあるわけだし。
一応抵抗はしよう。でも駄目ならその時はその時だ。責任だけはしっかりとってもらおう。

・・・なんて事まで考えてしまった。とても恥ずかしい。

深呼吸をして覚悟を決めて待った。



『さぁ、来るなら来なさいっ!シンジっ!』



と。

・・・とにかく混乱してたんだろう。あの時のアタシはどうかしてた。
たとえ、お風呂上りにバスタオル一枚でその上真っ暗であっても相手はあのシンジ。
なにが起こるはずでもないのに。

結局シンジは脱衣所の前を当然のように通り過ぎた。

安心すると同時に少し不満に感じた自分が恥ずかしい・・・。
少し真っ赤になって固まってしまった。

大体、ちゃんとお互いの気持ちをハッキリさせてからそうした・・・その・・・行為?
には臨むべきだと思う。


脱衣所の前を当然のように通り過ぎたシンジが唐突にアタシを呼んだ。

「アスカぁ?」

と。

「ヒャッ!   な、なにっ?」

まだその時アタシは真っ赤になって固まっていた最中だったので『ヒャッ』なんて言ってしまった。
そんな声を聞かれるなんて悔しい。

暗くてよくわからないので懐中電灯を持ってきてくれと言われた。
たしかキッチンの方に置いてあったはずなので早速脱衣所から出ようとしたところで気付いた。

バスタオル一枚でどうやってキッチンに出ろと?

だが仕方ないので結局キッチンには向った。調度真っ暗だし、どうせ見えないだろう。と思ったし、

その時は・・・その時だ。責任は取ってもらおう。とも思った。

暗いと考えが大胆になるのはアタシの方だ。今考えるとかなりヤバイ。


緊張した面持ちで脱衣所から出た。真っ暗で何も見えないので手探りでキッチンへ向った。

ミサトが非常用にと、水やら缶詰やらをしまっておいた棚にラジオ付きの懐中電灯もあるはず。
まあミサトにしては良い心がけだと思う。伊達にセカンドインパクトを経験したわけではないらしい。

しかし懐中電灯を見つけスイッチをいじくってもまったく反応しない。
後でわかったことだが電池が切れていたらしい。もし本当の非常事態になったらどうする気だったのか・・・。


いくらがんばっても明かりがつかないので懐中電灯は諦めた。
他に蝋燭もあったはずだから。まさか使うことになるなんて夢にも思わなかった代物だ。

早速蝋燭を探したが、蝋燭なんて触ったこともないのでいくら探しても見つからなかった。

代わりにロープが出てきた。とりあえず傍に置いておいた。

・・・ただ、この時ロープを傍に置いておくべきじゃなかった。

大体、なんでこんなものまで用意してあるのになぜ懐中電灯の電池は切れてるのだろう?
ミサトの頭の中はいったいどうなっていることやら・・・。

「アスカ?まだ?」

と暗闇の中からシンジの声がした。

灯りを持ったアタシがそっちに行ってないんだからまだに決まっている。
あいつはバカだ。もう大バカ。決定。

「うっさいわね、懐中電灯がつかないのよっ!」

「え?なにやってるんだよ、しょうがないなぁ。」

そう言うとアイツはこっちに向ってきた。
なんでアイツはこの暗闇の中、入り組んだ部屋の中を動き回れたのだろう。
もしかしたらもう目が暗闇に慣れていたのかもしれない。

そこでアタシはまた緊張した、暴走に近い妄想もした。
目の利かない闇の中、アタシはバスタオル一枚。

『まさか』と思いつつも同時に『もしや』と疑わずにはいられない。

それからシンジがかなり傍に来て

「ねぇ?懐中電灯渡してくれる?」

と言った。

どうして男という生き物は自分で触ってみないと気がすまないのだろう?
アタシがやって灯りがつかないのに、自分ならできると思っているのだろうか。
よく理解できない。

しかしそれよりもその時のアタシはシンジが近くに居るということに参ってしまっていて
まともに返事をしたり、ましてや懐中電灯を手渡せるような状況じゃなかった。
とにかく胸が張り裂けそうで。




・・・結果この様。
なんとかぎこちない動きで懐中電灯を渡そうとしたアタシの体からバスタオルが落ちて・・・。
それにビックリしてついシンジを・・・まぁ突き飛ばすか何かをしたのだろう。

気がつくとアタシはうつ伏せに倒れたアイツの上に馬乗りになるような格好になっていた。
どうやら結果的に押し倒すような形になったらしい。

アイツの上に裸で馬乗り・・・。

本当に心臓が弾け飛ぶかと思った。ドキドキしすぎて肋骨が歪んだ気もする。
太ももにアイツの体温をもろに感じた。見えないだけに太ももとお尻の感覚がすべて。

アイツは倒れた時にどこかに頭をぶつけたらしく軽い気絶のような状態だったようだ。
動かないので初めは心配した。

動けないアイツの上に馬乗りになるのはそりゃ恥ずかしいが、同時に支配してるような錯覚も覚えた。
これはこれで気持ちがいいかもしれないと思った。


でもそんなことを考えてる暇はなかった。

いきなりパッと部屋の明かりがつき、同時に

「なにをしているのっ!?」

と、叫ばれた。声した方を振り向くとそこには帰ってくるはずのないミサトがいた。

意外とはやく事後処理が終わったため早めに帰ってきたらしい。
しかも最悪のタイミングで。

その上ミサトはアタシ達を見た途端泣き出してしまった。最低。怒られた方がずっと良い。

「シンジ君は貴方に好意を持っていたのよっ?」だとか、「貴方は我慢というものを知らないのっ?」だとか、
「私の監督不届きの所為で・・・」だとか。
他にも色々と言われた。ミサトは泣いていたけど泣きたいのはこっちの方だ。

まあ、仕方ない面もあるかもしれない。
家に帰ったら停電していて、ブレーカーを治して灯りをつけたら
伸びたシンジの上にアタシが裸で馬乗りになっているのだから。
ご丁寧にロープまで準備して。
なにより相手はあのミサトだから。

その後、ミサトの誤解を解くのにはしばらく時間を要した。
すっかりアタシがシンジに襲いかかったと決め付けていたものだから。
「ロープまで準備しておいて決定的じゃないのっ!」
とまで言われた。

まったく失礼な話だと思う。女の子がそんなことできるわけないのに。普通逆だ。
少なくともアタシはそんなことは絶対にしない。ミサトはそういう目でアタシを見ていたらしい。
大体押し倒したシンジをロープで縛って?それから?ミサトの考えつくことはまったく理解できない。
普通そうは考えないだろう。

その後、すぐに目を覚ましたシンジは一応病院へ。
停電の原因がアタシの所為だということでミサトには結局酷く叱られた。
本部にまで連れて行かれた。そしてミサトに叱られた後、副司令にミサトと一緒にまた叱られた。

ミサトは監督不届きということで厳重注意。結局、今晩ミサトは家に帰って来れそうもない。

そしてアタシはようやくお説教が終わって自分の部屋。今日はとても疲れた。
色々あってまだ混乱してるけど一つだけハッキリしていることがある。

シンジは絶対許さない。

アタシが本部まで連れて行かれて怒られた所為で本部内では

『シンジの上に裸で馬乗りになったアスカ。』

『まさに尻に敷かれたシンジ。』

というのが有名になってしまった。これは一応事実だから仕方ないが誤解を招く表現だ。

アタシの名誉は崩れ去ったも同然。これではもう加持さんのお嫁さんは無理。

絶対シンジに責任とって貰おうと思う。シンジには悪いがこれは仕方のないことだ。
覚悟してもらいたい。

                                      fin






ここまで読むと流石に頭痛がしてきたのでここで読むのをやめにすることにした。
押入れの掃除をしていてこんな物が出てくるだなんて想像もしていなかった。

「・・・それで、今また責任を取らされてるわけか・・・。」

もう結婚して4年もたつが妻の日記帳を覗いたのは初めてだった。
しかしこれを最初で最後にしようと心に誓う。

素直でなくて、二人きりだと酷くわがままで。
頭も切れるが、どこか抜けていたり、常人の理解を超えていたり。

もし、自分の日記を覗かれたなんてことを彼女が知ったらどうなることか。
婚約以前から主権は彼女にあるのだ、どんな仕打ちを受けることやら。
また何かしら『責任』を取らされるに違いない。彼女と出会って10年とちょっと。
今までに何度理不尽な『責任』を取らされたことか。

日曜日は日々、仕事に追われ妻にも追われる彼にとって大切な時間。少しくらいはゆっくりしたい。
・・・せめて昼間のうちだけでも。暗闇は彼女をより大胆にするから・・・。

シンジは大急ぎで日記帳を元に戻し、アスカにじゃれつかれる前に今夜の食事の買出しへと出かけて行った。

 


             

 
 
             


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<アスカ>テツ様から、200000HIT記念SSを頂いたわ!
<某管理人>うわっ!おおきに。ありがとうございます。
<アスカ>久しぶりよねぇ。去年の3月以来だから。
<某管理人>わしはもう見捨てられてしもうたのかと…。
<アスカ>ま、アンタは何も成長してないからねぇ。
<某管理人>はぁ…。年なもんで、特に冬場は血圧が…って、何言わせるんでっか。

 年寄りはうっちゃいときましょ。
 さて、この私に何てことさせるのよ。
 タイトル見たときに私思わずがんばってやらなきゃっって覚悟してたのに、
 そういうオチだったのね。せっかく借りてきた参考書返しとかなきゃね。あ、貸主はRね。
 あれは絶対シンジの策略だったのよ。私がそういうことをするんじゃないかって、電池を古いのに換えておいて、ロープも用意して。
 まあ、蝋燭まで取り出さなかったのは私が天才だからに他ならないわね。誰?蝋燭がわからないって書いてあるって突っ込みいれるのは。ぶつわよ!
 何よ、人の日記読むなんて、シンジ最低!責任、取らせてやる!(にやり)

 テツ様、ホントにいいお話をありがとうございました!
  

 

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