100001HITしていただいたみどりさまのリクエストです。
お題は…。
「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」というお題を頂きました。
正直言って、このリクはきつい!さすがにお知り合い。私の弱点を熟知しておられる。
でもでも、天邪鬼ですから、私。例によって方向性を捻じ曲げてしまいました。
ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります、100001HIT記念SSは…。第六幕となります。もうすぐ終わります。
アスカを愛したおかげで、何だか少しだけ大人になれたような気がした。
椅子を並べ、テーブルに置かれたアスカの白い腕に自分の手を重ねる。
どんな事実であっても、ともに受け止めていく。
僕の役目はそれだ。
だから、僕にはより強い意志の力が必要なんだ。
アスカと僕はリツコさんの言葉を待った。
The Longest Day
〜 開放 〜 100001HITリクSS 2003.12.15 ジュン |
リツコさんはタバコをもみ消した。
まっさらな灰皿にぽつんと1本の吸殻。
「アスカ。さっき言ったことは理解してくれた?」
「弐号機にママがいること?」
「そう。それとお母さんが手を貸してくれなかったわけと」
アスカがぎこちなく頷いた。
「それなら話は早いわ。だからシンクロ率が落ちていったということね」
「リツコ。それがわかっていたんなら、どうして手を打たなかったわけよっ」
「それを言われると辛いわね。コアのことは極秘事項だったし」
「父さんの指示ですか!」
「そう。司令の命令」
「そんな!そのことがわかっていれば、僕やアスカは!」
「そうね、もっとエヴァとの連携もうまく行っただろうし、こんな目に遭わなくても済んだ。
そうじゃないの、リツコっ!」
「そうね。その通りだと思うわ」
「じゃ!どうしてっ!」
「言えないことにいくつかの理由が推察できるわ。ただし、一番大きな理由は…」
「零号機のコアが何者かってことかもしれないわね」
「零号機のコア…」
「綾波の肉親?」
リツコさんが自嘲するかのように笑った。
「それは後で説明する」
そうリツコさんはきっぱりと言い切った。
「それよりも、今はアスカの方が大事でしょう。
アスカは母親に捨てられたという意識の下で、母親以外のものを求め続けた。
自分の中で自分以外のものを求める我が娘。
彼女の気持ちはどうだと思う?」
アスカがぐっと拳を握り締めた。
その拳を両手で包む。
すると、アスカは掌を返して僕の手を固く握り締めてきた。
指と指を絡めて。二度と離さないかのように。
「シンジ君にはそういう気持ちがなかった。
だからエヴァは操縦者の能力以上の動きをしてくれた。いえ、操縦者を守ろうとさえしたわね。
まさに母の愛。そのものね」
アスカの横顔が少し歪む。
リツコさんの言い方じゃ、アスカには母親の愛が向けられていなかった事になる。
「それはあれでしょ。アスカが拒絶していたからじゃないの?だったら今は違うんじゃない?」
ミサトさんの絶妙のフォローが入った。
そう、過去じゃなくてこれからが問題なんだ。
「そうね。理由がわかったのだから、シンクロ率が変わってくる可能性はあるわ」
「アスカ、やってみない?」
ミサトさんの問いかけにアスカの指に力が入った。
「でも…」
もし、お母さんが応えてくれなかったら…。
アスカが躊躇う気持ちはよくわかる。
「……」
アスカが僕の方をチラリと見る。
不安なんだ。
そうだ!
「あの…。僕が一緒に乗ったらダメですか?」
「それじゃテストにならないわ」
「まず2人で乗ってみて、アスカがお母さんに呼びかけてみるんです。
それからアスカ一人で…というのは?」
「どうよ?リツコ」
「ロジックじゃないけど、やってみてもいいわね。どう?アスカ」
アスカは頷いた。
「シンジと一緒なら、もし…ママが何も返事してくれなくても…、シンクロ率が上がらなくても…。
パニックにならなくて済むかもしれない」
アスカはゆっくりと、自分に言い聞かせるように話した。
大丈夫だよとは言えなかった。
黙っている僕にアスカは弱弱しく微笑んだ。
「アンタ少しだけ変わったね」
「そう?」
「うん。私に上っ面だけの言葉をかけなくなった」
「はは…そうだね。あの時はごめん」
「そうよ。あの時アンタがくれた言葉、最低だった」
「うん、僕もそう思う。最低なヤツだった」
「そんな最低なヤツに自分を委ねるんだから、私も最低よね」
アスカは自嘲しようとしたみたいだけど、そうは見えなかった。
むしろ、楽しげにさえ見える。
L.C.L.の中でどうして会話が出来るんだろう?
最初の頃に不思議に感じたことを思い出してしまった。
今はそうは思わない。
いや、不思議だとは思うけど、それよりも話が出来るってことに感謝している。
こうしてアスカと話が出来るってことが。
『いい?二人とも』
ミサトさんの声がする。
明るく、僕たちを励まそう、不安感を除かせようという気持ちがよくわかる声だ。
それはアスカにもよくわかっているみたいだった。
「もっちろん!いつでもOKよ!」
『それじゃ、始めるわ』
リツコさんの冷静な声。
僕の願いは唯一つ。
アスカにお母さんを感じることが出来れば…。
それだけを念じて、アスカの背中を見つめた。
『シンクロテスト開始します』
マヤさんの声を聞いて、思わずアスカの肩に手を置いてしまった。
その手をアスカは払いのけようとはしなかった。
僕の手の上に優しく左手を重ねる。
L.C.L.中でもアスカの手のぬくもりが伝わってくるような気がする。
そして、アスカが僕に微笑みかけてくれていることも。
顔は全然見えないんだけどね。
『シンクロ率上がっています。35…40…』
『凄いじゃない。数日前にはほとんど上がらなかったのに』
『まだ上がります。50…55…60』
アスカの手が少し強さを増した。
このシンクロ率がアスカと弐号機じゃなくて、僕とアスカの関係を示すのだったらいいかもってちょっとだけ思う。
いや、今はそんなことよりもアスカの心の方が大事じゃないか。
本当に僕って少し気を緩めると自分勝手になっちゃうよね。
上がれ、上がれ、上がれっ!
『シンクロ率80を超えます!』
『アスカの最高っていくつだっけ?』
『あなた作戦部長でしょう?知らないの?』
『ははは、ちょっち度忘れ、かなぁって。教えなさいよ』
『ダメよ』
『ケチ』
『シンクロ率100%!』
『まだ上がる?』
『いえ、100で安定しました』
100%!
アスカにとっては完全に未知の数字だ。
でも、アスカは興奮も動揺もしていない。
いや、そんな風に見えるだけなのかもしれない。
このとき、ふとあの使徒のことを考えた。
あいつならアスカの心の中まで覗くことが出来た。
そうなりたいのか、お前は?
アスカの心の奥まで知り尽くしたいのか?
答えはYESだ。
知りたい。
アスカのすべてを知りたい。
……。
だけど、それじゃいけない。
絶対にいけないんだ。
アスカの心は僕のものじゃないんだ。
アスカの心はアスカのもの。
でもって、その心が僕の方を向いてくれてさえいれば…。
って、随分いいカッコしているみたいだけど、もしそれでアスカが他の男の方を向いたら…。
『シンクロ率落ちます』
へ…?
『95…90…85』
『原因は?』
『わかりません』
あわわっ!ひょっとして、僕?
アスカが好きだ。好きだ。大好きだ。
アスカの心を疑うなんて、馬鹿だ。馬鹿だ。大馬鹿だっ!
アスカの肩に置いた手に力が入る。
その手をアスカはずっと優しく包んでくれている。
『82で止まりました』
『シンジ君?』
「は、はい!」
『何か考えた?』
「はい…少し…」
穴があったら入りたい気分だ。
「シンジ、何考えたの?」
アスカの背中が問いかける。
「ご、ごめん。アスカが僕以外の男性と…ってちょっと考えたら急に」
「はい?それで数字が落ちたの?」
「そうみたい…ごめん」
「ははは、じゃ100ってのはシンジのおかげってことか」
「あ、あの…」
「いいよ、それでも。82でもいい数字じゃない」
『そうね。アスカ一人でこの数字が出せれば…』
あ、アスカの背中が不機嫌になった。
「ちょっと、リツコ。この中の会話をそっちで聞かれないように出来ないの?」
『無理ね。そういうシステムになってないもの』
「うううぅっ…」
あのね、アスカ。
その唸り声はやめた方がいいと思うよ。せっかく可愛い顔してるんだからさ。
「ま、いっか」
あらら、珍しくあっさりあきらめちゃったよ。
でも、アスカはそういった後、ゆっくりと僕を振り返ったんだ。
ああ、あの笑顔。
思い出した。
オーバー・ザ・レインボーで使徒を見たときの顔だ。
『ちゃ〜んす』って、この顔をして言ったんだ。
きっと何か思いついたんだ。
しかも絶対にとんでもないことを。
「アンタ、ワーグナーは知ってる?」
「知ってるよ」
「どのくらい?」
「えっと、ワルキューレとかさ…」
「とか?」
「えっと…それくらい、かなぁ」
何なんだろう?いきなり、ワーグナーなんて。
ドイツの作曲家だから…って、そんなのいっぱいいるよね。
「ふぅ〜ん、じゃ歌劇なんか見たことも聴いたこともないよね」
「うん。『ベルサイユのバラ』をテレビでちょっとだけ…」
「何それ?そんなオペラあったっけ?」
うっ…オペラだったんだ。ここは知らぬ顔で行こっと。
「なぁんだ。CDとかDATで持ってたら借りようと思ってたのになぁ」
「あ、じゃ、探してみようか?」
「いいわ。ただの気まぐれだから」
嘘だ。
絶対に気まぐれなんかじゃない。
その証拠に僕の返事を聞いて凄く嬉しそうにしているもん。
でも、ワーグナーとか歌劇とかCDに何の関係があるんだ?
「そうそう、今日帰ったらさ」
「え?アスカ帰っていいの?」
「ああっ!私に帰ってきて欲しくないんだ」
「そ、そんなことないよ」
「じゃ、ちゃんと言ってよ。帰ってきて欲しい?」
「当たり前じゃないか。帰ってきて欲しいに決まってるじゃないか」
「ふ〜ん、それじゃ、帰ったらねぇ…アレとっちゃおっかなぁ…」
「アレ?」
「そうよ、アレ。入室禁止の札」
「あっ」
僕の入室を厳禁している、殴り書きされた札。
アスカの部屋にかかっている札。
「ジェリコの壁、だっけ…?」
「ああ、あれはもう崩れたの。きれいさっぱり」
「そ。そうなの?」
「そうよ。だからシンジはいつ私の部屋に入ってきてもOKよ」
「本当?」
「もっちろん。何なら、今晩からでも…」
『アスカっ!』
「うるさいなぁ、ミサト」
『あんたねぇ、みんな聞いてるのよ。何てこと言い出すのよ、まったく』
「いいじゃない。私の勝手でしょ」
『ダメよ。許しませんっ』
「家に帰ってこない保護者の言うことなんか聞けないわよねぇ。ね、シンジ」
「あ、うん。いや、その、つまり」
『シンちゃんっ』
「シンジ?」
ああ、神様。
僕はどう答えたらいいのでしょうか?
「マヤ、今何パーセント?」
『108%!あ、答えたらまずかったんでしょうか、先輩?』
『いいわ。安定してきたところだし』
あ、そうか。
シンクロ率を上げるために…試していたんだ。
でも…さっき言ったことは冗談じゃないよね。
「シンジ、ごめんね。ちょっと試してみたの。でも、入室歓迎は本当よ」
『アスカっ!』
「もう、うっさいわねぇ。私とシンジの勝手でしょ」
『そんな勝手は許さないって言ってるでしょ!』
「あ、そうだ。シンジ、お風呂が終わったら私の部屋においでよ。今夜は寝かさないわよ」
『あ、あ、アスカっ!いい加減にしなさい!そんなこと14歳には早すぎるわっ!』
「へぇ〜、トランプって未成年禁止だったんだ。あれぇ?ひょっとして大人のミサトは変な想像してたのぉ?」
うわぁ、アスカったら、ミサトさんをからかっちゃって…あとが怖いぞ、きっと。
多分、ミサトさん真っ赤な顔してエントリープラグを睨みつけてるんだろうな。
ごめんなさい、ミサトさん。大人をからかったりして。
でも…何だか楽しい。
僕だって何か言いたくなるくらい。
実際には言えないけど。
「じゃ、シンジ、試してみるね」
「うん。がんばって」
「アリガト」
短く答えると、アスカの背中が緊張した。
その肩に置いた手に祈りを込めることくらいしか僕にはできない。
話ができたら…。
いや、お母さんの存在だけでも感じ取ることができれば…。
お願いします、アスカのお母さん。
アスカに返事をしてあげてください。
そのままの状態で時間が過ぎていく。
外の誰も何も声を出さない。
L.C.L.は特に変わった様子は見せない。
色が変わるとか、温かくなるとか、全然変わりがない。
そして…。
ぽつりとアスカが呟いた。
「ママ…」
どうだったんだろ?
うまくいったんだろうか?
こんなにそばにいるのにまったくわからないのが歯がゆい。
アスカの髪の毛がゆっくりと動く。
そして、横顔を向けたまま、瞳だけがこっちを見た。
どっちなの?アスカ、うまくいったの?ダメだったの?
胸がしめつけられそうなその瞬間、アスカが飛び掛ってきた。
L.C.L.の中だというのに凄く素早い動きだったんだ。
当然、情けない僕だから悲鳴を上げた。
「うわぁっ!」
『どうしたの、シンちゃんっ!』
『まさかシンジ君が異分子と認識されて』
ち、違います。
アスカがぁ…。
正直言って食べられるんじゃないかと思ったくらいの勢いで、アスカの口が僕の顔に迫ってきたんだ。
で、顔中にキスされたんだ。
「シンジ!シンジっ!ママがいたっ!お話したのっ!嬉しいっ!」
L.C.L.内だから、ちゅって音なんかしない。
ぶちょおん、ぶちょおんって変な音になってしまう。
よかったって心底から思ったけど…。
……。
いいのかなぁ?
アスカのお母さん、こんなところで娘が男にキスしまくってるってことをどう思うんだろう?
僕も挨拶しておいた方がいいのかなぁ…なんて馬鹿げたことをアスカにキスされながら考え続けていた。
<あとがき>
The Longest Day 第六幕です。
シンジの一人称だからアスカとキョウコママとのやり取りが書けない。
まあ、それを描写できるのが作家として一人前なんでしょうけど、私は半人前です(開き直り)。
二人の一番長い日は、次回で終わります。なんだか完全にリクから離れてしまったような…。
あ、次回の後にエピローグを別作品として書きます。
短編で読みきり。これだけは三人称で書かせていただきます。はい。
感想などいただければ、感激の至りです。作者=ジュンへのメールはこちらへ 掲示板も設置しました。掲示板はこちら |