「キモチワルイ……」
「……」
「……」
「……」
「何とか言いなさいよ」
「……」
「こら、馬鹿シンジ。黙ってないで、何か喋れ!」
「……」
「いい加減にしなさいよ。いきなり首締めたかと思ったら、だんまり?何なのよ」
「……」
「何とか言え!馬鹿シンジ」
「ご、ごめん。アスカ…」
「その後のEVANGELION」へ 10000HIT記念SS 赤き海のほとりで 2003.03.23 ジュン
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「で、それだけ?」
「え、それだけって?」
「あのね、女の子が気持ち悪いって言ってるんだから、何か言うことがあるんじゃないの?」
「あ、そうだね。えっと…どこが気持ち悪いの?」
「喉」
「……」
「……」
「……」
「何黙ってんのよ」
「ごめん」
「はぁ…謝るくらいなら、最初からしないでくれる?」
「う…ごめん」
「で、アンタのしたことは謝って済むわけ?」
「この世界のこと?」
「アンタ馬鹿ぁ、世界なんてどうでもいいのよ。今は私のか細い喉を絞めたことについて話してるの」
「え、えっと…」
「アンタね、私をわざわざ生き返らせておいて、その上で殺そうとしたのよ」
「……」
「まったくいい趣味してるわ。あの情けないシンジくんが、実は猟奇的な殺人鬼だったなんて」
「そ、そんなんじゃないよ」
「じゃ、何故か答えなさいよ。どうして、この私の首を絞めたわけ?」
「そ、それは…」
「答えられないの?」
「あの…アスカがかわいそうだったから」
「はい?」
「アスカを見てたら、かわいそうに思えてきて…」
「どうしてよ。どうして私がかわいそうなのよ」
「あのさ…つまり、こんな場所に生き返っちゃって…」
「場所?」
「うん、まるで廃墟みたいな世界だし、僕しか人間はいないし…」
「だから?」
「僕のせいなんだ。
僕がこんな世界を望んだから。
みんなひとつになって…、地上から人類を消しちゃって…。
それで、僕は一人で生きていこうと…。
誰もいない世界で、死ぬまで一人でいようと決心していたのに。
最後の最後でアスカを望んでしまったんだ」
「望んだ?」
「うん、アスカが欲しいって」
「アンタ、意外に大胆なこと考えるのね」
「え…?」
「私の身体が目的だったんだ」
「はい?あ、違う。違うよ!僕が言いたいのはそういうことじゃなくて…」
「くっく…」
「あ!アスカ、からかってるんだな」
「ははは!おっかしい!まったくアンタと話してると飽きないわね」
「もう…アスカったら…。だから僕は話すの嫌なんだよ。すぐに混ぜっ返すんだから」
「ふふふ、ごめん。で、私を望んだわけよね。私を殺すために…」
「もうやめてよ、アスカ。今言ったそばから」
「ははは、いいじゃない。ぼそぼそ喋りあっても仕方ないじゃない」
「はぁ…。まあ、こういうのを僕は望んでいたのかもしれないね」
「こういうのって?」
「アスカと馬鹿話すること」
「な、何よ!アンタは確かに馬鹿だけど、私は天才美少女なのよ!」
「そ、そんなに怒らなくても」
「はぁ〜、と言ってももう美少女ではないか」
「え…」
「眼。片目つぶれてるから、たぶん」
「そ、それは…。ごめん、本当にごめん。僕が間に合わなかったからだ。
戦うのに怯えて、出撃しなかったからだ。
僕が悪いんだ。僕が!」
「もういいわよ。いくら謝られても、もう取り返しはつかないし…」
「うっ…」
「あれ?また傷ついた?まあ、仕方がないじゃない。
私だってガタガタだったんだし、そのせいでレイが死んだのかもしれないわ」
「あ…」
「どうしようもなかったのよ。もし、アンタが大人だったら許さないけどね。
私もアンタも子供だもん。そんなのにあんなのと戦わせてたんだから、おかしくなって当然よ」
「……」
「エヴァに乗れるのが子供だけなんだから、大人たちは煽てて煽てて、戦うことを正当化させようとしてたのよ。
で、私もアンタも、しっかりそれにのっちゃった訳。
まだ、アンタはいいわよ。最初から悩んでたんだし。
私なんか、天狗よ、天狗。セカンドチルドレンだって誇らしげに振りかざしてさ。
きっと、周りの大人たちは誉めそやしていた陰で、馬鹿な小娘だって笑ってたのに違いないわ」
「アスカ…」
「あらら?もしかして、アンタは私が単純に調子に乗ってたと思ってたわけ?」
「え、えっと…」
「口ごもるところを見ると、そうみたいね。ま、それも無理ないか。
単純馬鹿のシンジとしては、私の心の中までわかるわけないもんね」
「当たり前じゃないか。アスカだって僕のこと」
「ええ、わからないわ。わからなくていいじゃない。
みんなの心がわかりあえる世界は、あの赤い海の中なんだから。
平穏で何事もない世界。アンタにぴったりの世界だったんだけど?
肝心のアンタがいないんだもん。びっくりしたわ」
「僕は…、その世界に行く資格がないんだ…」
「あらあら、また始まったわね。内罰癖が」
「だって、僕が…!」
「はいはい。わかった、わかった。
じゃ、いいじゃない。アンタが自分で決めたんでしょ。だったら、もう悩むな」
「う…そう、だね」
「それよりも、問題は私がなぜここにいるのかよ」
「えぇ〜、またそれに戻るの?」
「当たり前でしょ。アンタが私を望んだってとこまでしか聞いてないわよ。
どうして望んでいただいたのか。よりによって、この私を。
そこんところをはっきりしてもらうわよ」
「……」
「あ、やっぱり言えないんだ」
「一人で…ひとりぼっちでずっと生きていくのが怖かった…」
「はあ?じゃ、私はアンタの相手をするために戻されたってこと?何なの、それ。
私の気持ちをまったく考えずに、元の世界に無理矢理戻したの?
アンタって時々、めちゃくちゃに強引で我侭になるの自分でわかってる?」
「う、うん」
「あ、自覚症状はあるんだ。ふ〜ん、そうなんだ。
じゃあさ、そうやって戻された私が泣き叫んで、赤い海の中の方がいいよぉ〜なんて言ったら?」
「そう思ったんだ。だから…」
「だから首絞めて殺そうとしたわけ?死んだらまた元に戻ると思ったの?」
「うん」
「はぁ…やっぱり、アンタ馬鹿だ。大馬鹿シンジよ。ううん、超ウルトラグレートアンビリーヴァボー馬鹿だわ!」
「ど、どうしてそこまで…」
「アンタ馬鹿ぁ。もう補完は終わってるのよ。今死んだら死ぬだけじゃないの」
「あ」
「はぁ…。“あ”、か。一言で済ませたわね。アンタは取り返しのつかないことをするところだったのよ!」
「ごめん。本当にごめん。全然気が付かなかったんだ。そうだよね、死んでもあっちには行けないんだ」
「あったり前じゃない!補完された世界は死後の世界じゃないのよ。みんな生きてるの。
だから、死んでいける場所じゃないの。それくらいのことわからないのかしら、この馬鹿シンジは。
危うく、無駄死にさせられるところだったじゃない」
「ご、ごめん…」
「謝ってばっかり」
「だって…」
「まあ、この件に関しては謝るしかないか。
うん、わかった。じゃ、気が済むまで謝りなさいよ」
「え?そ、そんなの…どうやって」
「あきれた。いったい、この男は…」
「ごめん…」
「そればっかり…。いらいらするわね」
「あ、ごめん」
「ああああっ!もう“ごめん”は言うな!頭がおかしくなりそう!」
「あ、あ、ご…あわわわ」
「アンタってヤツは…。で?」
「で?って何?」
「ホントに鈍いわね。じゃあ、どうして殺すのをやめたのかって聞いてるのよ!」
「あ」
「また“あ”か…。ホントに。こんなニブちんと暮らしていけるのかしら」
「はい?今なんて?」
「知らない。それより、答えなさいよ。犯行を思いとどまった動機は?」
「な、何だよ、それ。まるで刑事みたいな」
「いいじゃない。刑事ドラマ風で。それともメロドラマ調にする?私が泣き叫ぶのよね。
どうして私を殺さなかったのぉ!なんて。そんなのがいい?」
「ねえ、アスカ」
「何よ」
「もしかして、今の状況楽しんでない?」
「……」
「アスカ?」
「……」
「アスカったら」
「うっさいわね。今、考えてるの」
「あ、そうなんだ」
「う〜ん、楽しいかもしれない」
「え、本当にそうだったの?」
「だって、シンジが私の言うことにちゃんと反応してくれるから」
「え…それって」
「あの時…戦ってるときはさ、アンタ、いつもヘッドホンつけて人の話聞いてなかったじゃない。
たまに話しても、僕に構わないでよ!なんて言ってた。ホントは構って欲しかったくせにね」
「わかるの?アスカ」
「わかるわよ。私だって、似たようなものだったもん。みんなに見ていて欲しいから、がんばるって感じで」
「そうだったんだ」
「アンタが内罰的になったのと逆かな。まあ、いいわ。
とにかくそういうことよ。
アンタがちゃんと話をしてくれれば、私も話がいがあるってもんよ。
だから、楽しいわけ。わかった?」
「うん、わかった。なるべく、ちゃんと…」
「駄目!なるべくじゃ駄目よ。絶対に、じゃないと駄目なの」
「え!そんな…」
「アンタに選択の余地はないの。私を呼び出したのはアンタなんだから、それくらいの責任は取りなさいよ」
「わ、わかったよ。絶対にちゃんと話をするよ」
「ふふふ、楽しいわね。あ、もちろん、私の方は黙秘権ありだからね」
「え!そんな、一方的な」
「何言ってんのよ、アンタには色々償わなきゃいけない罪があるんでしょ。
私にはないもん」
「そう言われると、言い返せないよ…」
「じゃ、そういうことで決定ね。
はい、じゃどうしてか答えなさいよ」
「え、えっと、それは殺すのをやめた理由?」
「もちろん」
「言わなきゃ駄目?」
「当然」
「どうしても駄目?」
「さっき言ったでしょ。アンタは絶対にちゃんと答える義務があるの」
「う…」
「楽しいわね」
「楽しくなんかない」
「あら、反抗するわけ?」
「そんなことはないけど…」
「じゃ、話しなさいよ」
「怒らない?」
「はぁ?何を怒るのよ」
「これから言うことに」
「そんなの聞かなきゃわかんないわよ」
「え!じゃ、やめとこうかな」
「何よ、それ。じゃあ、怒るわよ。話さなければ怒る。断固として怒るわ」
「そんな…」
「うっさい。さあ、どうすんの?怒るわよ。怒るわよっ!」
「あわわわ、言うよ。言うから怒らないでよ」
「よし、じゃ言いなさいよ」
「あ、あのさ…あの時、アスカに頬を撫でられて…」
「……」
「はっとしたら、アスカがすごく可愛く見えて…」
「は?」
「あ、あの、つまり、だから」
「何、狼狽してんのよ。
特別可愛く見えたの?それとも、は・じ・め・て、可愛く見えたの?」
「あれ?どっちだろ」
「何よ、それ!」
「わ!危ない。石投げないでよ。顔に当たるところだったじゃないか」
「ちっ!外したか」
「アスカ、さっき、怒らないって」
「約束した覚えなんかないわよ。
話さないと怒るって言っただけじゃない」
「そ、そんな」
「だから、日本人は外交が下手だって言われるのよ。
ちゃんと何がどうでって確認しないからでしょ、馬鹿シンジ」
「ひ、酷い…」
「えぇ〜?何ですって?酷い、ですって?
アンタもっと酷いこと、私にしてるじゃない」
「え…首絞めたこと?」
「いいえ!病院で…」
「……」
「……」
「……」
「何か言いなさいよ」
「ごめん…わっ!石投げないでって」
「うっさい!謝るなって言ったでしょうが!」
「で、でも…」
「あれは、私だからしたの?それとも、女だったら誰でもよかったわけ?」
「え…」
「考えて見なさいよ」
「ん…」
「……」
「……」
「……」
「……」
「起きてる?」
「起きてるよ」
「で、答は?」
「……」
「どうなのよ」
「わかんないよ」
「は?自分のことでしょうが」
「だって、あそこにいたのは、アスカだったし、他の誰かって言われても…」
「じゃさ、ミサトが裸で眠っていたら?どうした?」
「え、ミサトさんが…?」
「そうよ。ミサトのダイナマイトボディがアンタの目の前にあるの。ちょっと年取ってるけどね。
さあ、どうする?スケベでエッチなシンジくんは!」
「……」
「どうなの?」
「う〜ん」
「答えられないみたいね」
「ごめ…あわわ。うん、返事できない」
「そっか。返事できないか。それっていい返事ね。
正直に言われたら、頭にきそうだもん。
馬鹿シンジにしたら、気の利いた返事だわ。
よし、その件に関しては、特別に許してあげるわ。喜びなさいよ」
「ありがとう、アスカ」
「いえいえ、どういたしまして。じゃあ、次」
「つ、次って」
「うっさいわね。アンタには聞きたいことが山のようにあるんだから。
素直に答えなさいって」
「な、何なんだよ、次って」
「気になる?」
「そりゃあ、気になるに決まってるじゃないか」
「ふっふっふ。さあ、なんでしょう?」
「じらすなよ。聞きたいんだったらさっさと…」
「じゃ、絶対にすぐ返事すること。いいわね?」
「うっ。また、逃げられないように…」
「と〜ぜんでしょ。じゃ、聞くわよ。
レイのこと。シンジは異性として好きだった?」
「えっ…」
「どうなの?真剣に答えてよ。この質問には」
「僕は…」
「好きだった?」
「うん。好きだったと思う」
「そう…」
「でも…」
「何?」
「最初は確かに女の子として好意をもっていたと思う。でも…」
「でも?」
「今はわからない。わからないんだ。嫌いじゃないことだけは確かだけど。好きなのも確かだけど」
「あれを見たから?」
「違う!」
「そうよね、もしそうなら、私、シンジを軽蔑する」
「……」
「レイも可哀相な子よね」
「アスカ…。綾波のこと、レイって…」
「悪い?」
「い、いいや。でも、どうして?いつも、優等生とか、ファーストとか、人形とか…」
「あれのことを知ったからよ」
「それって、同情…」
「違うわ!私が知らないときに、レイが死んだでしょ。自爆して。そんな事をする子だと思ってなかった。
あれは…アンタが変えたのよ。レイの心をね」
「僕が」
「そうよ、アンタの好意に応えたのよ。レイは」
「綾波…」
「ねえ、アンタ、どうしてレイのこと、名前で呼んであげなかったの?」
「それは…」
「もし、名前で…レイって呼んであげたら、あの娘、凄く喜んだと思うわ」
「うん…でも…綾波は綾波だったんだ。上手く言えないけど。
アスカのことを今、惣流って呼びにくいのと同じかな…?」
「何よ、それ。例えがわかりにくいじゃない。
どうして私と関係があるのよ」
「えっと、何て言ったらいいんだろ。
あのさ、アスカを名前で呼ぶのは…恥ずかしいだけで慣れると“惣流さん”なんて呼べないんだよね」
「それって、軽く見られてるような…」
「ち、違うよ。何て言ったらいいのかな?
アスカのことを名前で呼ぶのが嬉しいというか、
苗字で呼ぶとアスカとの距離が離れてしまうのがイヤだっていうか…」
「アンタ、なかなか上手く言うじゃない」
「へ?」
「つまり、私にラブラブってことじゃないの?」
「えっ!そうだったの?」
「アンタねえ、結構口説き上手なんじゃないの。気をつけよっと」
「うっ…、口説くって、そういう意味で言ってたんじゃないのに…」
「はいはい、レイを名前で呼ばなかった理由でしょ。わかってるわよ」
「えっと、なんだっけ…。アスカと喋ってると混乱してくるよ…」
「何?何か言った?」
「いえ、何も…」
「聞こえてるわよ。ブツブツ文句言うな」
「聞こえてるなら、聞かなきゃいいのに…」
「うっさいわね、ほら、さっさと話す」
「はいはい。えっと、つまり…うん、綾波は犯してはならない領域…」
「ええええぇ〜っ!何、それ。レイは犯したらダメで、私はしてもいいってことぉっ?!」
「そんなこと言ってないだろ。わざと絡まないでよ」
「ちっ!だんだん冷静に対応され始めたわね。口惜しい」
「でも、それもありかな?」
「えっ!ちょっと、その意味もあったの?エッチ、スケベ、変態っ!」
「うん、エッチな意味で」
「な、何よ、不気味ね。しらっとそんなこと言わないでよ。私は14歳のナイーブな女の子なのよっ!」
「僕に対してはナイーブじゃないような気がするけど」
「うっさい!アンタにはいいの。で、アンタの言いたいのはレイにはそういう気分にならなかったってこと?」
「あ、えっと、あの…最初は…少し、いや、結構…あの…」
「何よ、それ。それじゃ、全然話が違うじゃないの!」
「だ、だから、アスカと出逢うまでってことなんだよ!」
「……」
「あ…」
「ふ〜ん、ということは、私はアンタの肉欲の対象物として見られていたわけだ。
私の肉体の魔力でレイが神聖なものになってしまったってことね。
何だか、私ってアンタとレイの恋を邪魔しにやってきたお邪魔虫というか悪役って感じよね」
「お、怒らないでよ、アスカ」
「怒ってないわよ」
「だって、声が怖いよ。どうしてそんな低い声でぶつぶつ喋るんだよ」
「ああ、それはアンタを苛めるためよ!」
「……」
「それで?」
「何か、猫がねずみをいたぶっているような…」
「にゃあ」
「はは、そうみたいだね。わかりやすいお返事ありがとう」
「いえいえ、おかまいなく。さあ、早く続き話しなさいよ」
「えっと、どこまで話したっけ…」
「私と出会うまではレイを意識していたってとこ」
「やっぱりアスカは凄いや。あんなに茶茶入れてても、ちゃんと理解してるんだ」
「あったり前でしょ!天才なんだから。それに、大事なことなんだから…」
「え?何か言った?」
「いいから、先続けなさいよ。それから?」
「だから…僕にとってレイは、異性じゃなかったんだ。あ、変な突っ込み入れないでよ」
「ちっ!」
「つまり…兄弟とか…血が繋がってるような…深いところで…ああ、上手く言えないな」
「つまり、恋愛対象ではなかったってことね」
「あ、そうそう!それだ。アスカ凄いよ」
「はぁ…。アンタに誉められても…って、アンタとふたりぼっちなんだから、誉めてくれるのアンタしかいないのか。
何だか欲求不満になりそう」
「だからさ、アスカは女性として好きなんだけど、レイは人間として…」
「私に人間としての魅力がないみたいに聞こえる」
「あわわわ、ち、違うよ。アスカは最高だよ。女性としても、人間としても大好きなんだよ!……あ……」
「ありがとうございます。地球最後の男性に好きになっていただいて、光栄ですわ」
「う…棒読み…」
「ということは、アンタはレイの本質に本能的に気付いていたってことか。
愛しているけど、それは肉親としての愛情に過ぎないと」
「うん、アスカの言う通りだと思う」
「でも、それはレイにとっては悲惨よね」
「え…」
「初めて好意をもった男性が自分をそのように思っていたんだから」
「……」
「レイは知っていたわよ」
「え?アスカ、綾波に会ったの?」
「会ったわ…。あの赤い海の中で」
「ど、どうしてた?元気だった?」
「何かピントが外れた質問ね。いつも通りだったわ。でも、最後に私に微笑んでくれたの」
「アスカに…」
「そう。“碇くんをよろしく”ってね。寂しげだったけど、私に初めて笑ってくれた」
「“碇くんをよろしく”…」
「レイにとっては私は恋敵以上の存在だったみたいね。自分からシンジを奪い去る、怪物のような存在。それが私」
「……」
「レイにとってもそれは理屈じゃなかったんじゃないかしら。本能でそう感じていた。私はそう思うわ」
「アスカ…」
「その憎き私に、アンタを託したわけよ。私くらいの天才じゃないと、アンタの面倒なんて見れないからね」
「じゃ…僕が望んだだけじゃなかったんだ…」
「げっ」
「よかった…アスカは自分の意志で…」
「ば、馬鹿っ!誰がそんな事を言ったのよ」
「だって、今…」
「アンタ馬鹿ぁ!さっきのことはレイに頼まれたってことで、私が望んで来たってことにはならないでしょうが!」
「そ、そんなに力説しなくても…」
「うっさい!うっさいっ!」
「あわわ!痛い!痛い!やめてよ!手当たり次第に石投げないでよ!アスカ!」
「はぁはぁ…」
「いたたた…」
「怪我した?」
「大丈夫。ちょっと当たっただけだから」
「はん!その程度でイタイイタイって騒がないでよ」
「あ、ごめん。アスカは…。あたたた、痛いよ。やめてよ!」
「ごめん、って言った。約束破ったわね!」
「だ、だって、今のは僕が悪い…痛い!あいててて」
「くそっ…投げるものがなくなったじゃない。ちょっと、シンジ。アンタ、そのあたりの石かき集めて、私の横に置いてよ」
「やだよ、そんなの。どうして僕に投げる石を僕が集めないといけないんだよ」
「それは、アンタがこの世界を創ったからよ」
「うっ……」
「どう?ほら、石よこしなさいよ」
「……」
「あれ?また、傷ついたの?」
「……」
「シンジ…?」
「……」
「ねえ、シンジ?ちょっと、返事してよ」
「……」
「シンジ…ねえっ!シンジ!私を一人にしないで…!」
「アスカ」
「って、言うと思う?」
「しまった…」
「私に口で勝とうだなんて、100年早いのよ。馬鹿シンジ」
「そうだね…」
「あれ?諦めたの?あっさりと」
「うん。元気なアスカが好きだから」
「……」
「……」
「100年じゃないかもしれないわね。この調子じゃ早いうちに…」
「え?何?アスカ、何言ったの?」
「はあ…。で、創造主のシンジ様はこれからどうするのよ」
「え?うん、それは決めてるよ」
「へえ、アンタにしては珍しく計画してるんだ」
「うん、だってアスカ怪我だらけだから」
「はい?」
「まずはアスカの看病からはじめないと。あ、先に病院に行かなきゃ。薬とか包帯とか」
「や、やめてよ。アンタのお医者さんごっこの餌食にされるの?」
「はぁ?何言ってるの、アスカ。あ、ところで、その包帯は誰がしてくれたの?」
「さあ?」
「へ?知らないの?」
「うん、目を覚ましたら巻かれてた。アンタじゃないよね」
「僕じゃないよ」
「じゃ、多分レイかな。そんな気がする」
「でも、やっぱり怪我は…」
「ダメ。アンタには見せない。見せたくないから…」
「でも…」
「それより、アンタの罰を決めなきゃね」
「ば、罰っ?」
「そうよ。だって、アンタすべての罪は僕にある、な〜んて格好いいこと言ってたじゃないさ」
「あ、えっと、それはそうなんだけど…」
「じゃ、罪は償わなきゃね」
「はぁ…好きにしてよ」
「じゃ、好きにさせてもらうわ。まずは…」
「え?まずってことは一つじゃないの?」
「アンタ馬鹿ぁ!これだけの事をしておいて、罰が一つなんて虫が良すぎるんじゃない?」
「そうだね…」
「それじゃ、まずは私の決めた罰に素直に従うこと。わかった?」
「いつまで?」
「終身刑に決まってるでしょ!」
「やっぱり…」
「そうよ!」
「だと思った」
「珍しく、勘がいいじゃない」
「はは…いいよ、終身刑で」
「控訴しない?」
「はい」
「じゃ、確定ね」
「わかったよ。で、次の罰は?」
「はん!未決よ」
「未決って?」
「その場その場で決めるの」
「ええっ!」
「これから私は永世裁判官で、アンタは永世被告なわけ」
「そういうことか」
「そういうこと。つまり、アンタは死ぬまで私の面倒を見るの」
「あ、それはそうするつもりだよ」
「あっさり言ったわね。私は無理難題を言い続けるわよ。それでもいいの?」
「いいよ」
「ふ〜ん、そっか。でも、アンタは逃げようと思えばいつだって逃げられるもんね」
「そんな…!僕はそんなことしないよ」
「どうだか?私なんかアンタに置き去りにされたら、それで一巻の終わりなのよ。
餓死するか…犬か鳥に生きたまま喰われるのよね」
「やめて!やめてよ!アスカっ!僕、絶対にそんなことしないから!」
「いずれイヤになるわよ。こんな女。口が悪くて、態度も悪くて、おまけに身体中怪我だらけの女なんて」
「大丈夫だよ。僕はアスカが好きなんだから」
「信用していいのかな?まあ、どっちにしても、私は生きるも死ぬもアンタ次第なんだから。
アンタの望みどおりになったでしょ」
「アスカ…」
「私、喉が渇いた。その赤い水は飲みたくないからね。ということで、よろしく」
「よろしくって?」
「アンタ馬鹿ぁ。こんな重傷患者に歩かせるわけ?」
「あ、そうだね。じゃ、おんぶして行こうか」
「と〜ぜんでしょ。そら、がんばんなさいよ」
「アスカ、つかまって…うん、さあ背中に…」
「はぁ、はぁ…。私も焼きが回ったわね。これくらいで…」
「痛いの?」
「感覚がないのよ。動きにくいの。自分の身体じゃないみたいに」
「抱っこにしようか?」
「おんぶでいいわよ。お姫様抱っこなんて、アンタの細い腕じゃ無理よ」
「そうだね。はは、王子様って柄じゃないし」
「当たり前じゃない。はぁ…、怪我だらけのイヴと情けないアダムか…」
「え?!」
「どうしたのよ、急に大声出して?」
「アスカ、イヴになってくれるの?」
「え?た、例えでしょ。ただの例えよ。その気になんないでよ」
「うん」
「なんだ。諦めがいいんだ」
「だって、時間はたっぷり有りそうだし、僕だってちょっとはたくましくなれるように頑張るんだ」
「その上、私は逃げられないと…」
「逃げても、追いかけるから」
「ふ〜ん、そうなんだ。ま、アンタのお手並み拝見としましょうか」
「うん、見ていて。アスカが惚れるような男になるから」
「ああ、それは一生かかっても無理ね」
「でも、がんばるよ」
「そうよ。がんばんなさいよ…」
「え?」
「さあ、行くわよ!
まずは、飲み物のあるところ。
そして、食べ物のあるところ。
それから、こんな服着替えたいから、服があるところ。
あ、今のはパスね」
「どうして?僕だって着替えたいよ」
「馬鹿。私一人で着替えられないもん」
「じゃ、僕が手伝って…」
「スケベ!」
「ぐへっ。首締めないで…」
「さっき、アンタが私にしたことでしょうが!」
「げほっ…」
「どう?どんな気持ち?」
「死ぬかと思った。本当にごめん。こんなことして…」
「よっくわかったでしょ。気持ち悪いでしょ?」
「う〜ん、今は…気持ちいいかな?」
「え?どうして?アンタ、もしかしてそんな気があるの?マゾ?」
「ま、まさか!いや…実は、アスカの胸が…」
「!」
「こんなにやせてても、やっぱり女の子なんだなって…ぐへっ!」
「死ね!やっぱり、アンタ死になさい!」
「うっ…げっ…し、死ぬ…たすけ、て…」
「や〜めた。アンタに死なれたら、私も死んじゃうからね」
「げほっ…気持ち悪い…」
「うっさい。さっさと進め!馬鹿で、エッチで、大好きな、シンジ…」
「う、うん。どっちに行こう」
「街ね。私たちが住んでいた街。
あのマンションがあった場所。私たちの学校があった場所…」
「そうだね。僕たちが生きていたところへ…」
「よし!行け!シンジ」
「うん」
「振り返っちゃダメよ。
もう、ここには二度と帰らないの。わかる?」
「うん、僕もその方がいいと思う」
「これから…ふたりぼっちね、シンジ」
「さよなら、綾波、父さん…」
「バイバイ、レイ、みんな…」
赤き海のほとりで 〜 終幕 〜
「その後のEVANGELION」
あの素晴らしい作品は私のLASSSのベースになっています。
掲載を快諾していただいた、
しづきみちる様にこの作品を捧げます。
<あとがき>
10000HIT記念作品です。
この作品は、しづきみちるさんの「その後のエヴァンゲリオン」にインスパイアされて書き始めた作品です。
EOEからふたりぼっちの世界への間を埋めようと考えたのが発端です。
書き上げたものの、それから掲載許可を求めるという本末転倒、かつ失礼な私に掲載のご許可を下されたしづきみちる様に大感謝です。
行った事のない人はいないと思いますが、もしそんな方がいらっしゃれば、今すぐここからジャンプ!
そしてできれば、あの名作を通販でゲットいたしましょう。ジュンは次の「その後のEVA総集編3」も必ず購入します!
また、チャット仲間との中で、会話だけで進行する小説は…という話題になったときに、ああ…じゃあのネタでそれを使ってみようと思ったわけです。どこまで消化できたか疑問ですが、とにかく書き上げました。
これで、しばらくはHIT記念SSから離れることになります。次は20000ですね。その間に連載を少しでも進めることにしましょう。
では!
2003.03.25 ジュン
感想などいただければ、感激の至りです。作者=ジュンへのメールはこちらへ 掲示板も設置しました。掲示板はこちら |