元旦の深夜にヒカリと行った初詣がきっと効いたのよ！

　お賽銭を500円玉でしたんだもん！

　すると、２日の夜にシンジから電話で、初詣に行かないかって誘ってきたの。

　私ったら、偶然暇だから行ってあげてもいいわ、なんて心にもないことを言うんだから…。

　いい？アスカ。

　これがラストチャンスと思って頑張るのよ。

　だって、先輩と付き合っているシンジを奪回するのよ！

　私は幼馴染の碇シンジのことが大好きなの。

　でも、口に出して言えないうちに、アイツったら３年生の先輩と付き合い始めたのよ。

　正直言って物凄いショックだったわ。

　毎日、家に帰ったら部屋に閉じこもって泣いたわ。

　それで玄関から一歩出たら、いつもの強気の私を装ってるんだから、

　自分で言うのもなんだけど私って馬鹿よね。

　中学校に入って、一緒に登校しなくなってから少しづつシンジとの隙間が広がっていったの。

　いっしょに宿題もしなくなったし、遊ぶこともなくなった。

　中学生になるってそういうことだと何となく思っていたの。

　女は女同士、男は男同士で行動するもんだって。

　ヒカリっていう親友も出来たし、アイツだって３バカって呼ばれるくらいの友達が出来た。

　小学校のときのような、いつも二人という時間はまったくなくなってしまったのよ。

　それでも、アイツとは家が隣なんだからよく喋るし、ごく普通に接していたわ。

　あの日までは…。

　中学２年生の秋、シンジがラブレターをもらったの。

　相手は１年先輩の人。優しそうで、可愛くて、結構人気のある人だったの。

　正直、あの人がシンジなんかをってびっくりしちゃった。

　もちろん、シンジは二つ返事で交際をＯＫしたの。

　……。

　そして、そのことをシンジは私に笑って告げたのよ。

「ねえ、アスカ凄いだろ。あの人が僕の彼女になるんだよ」

　私は何も言えなかったわ。いつもの悪態も出なかった。

　ただ身体中の体温が下がっていくのだけがわかったの。

　目の前が真っ暗になったような気がした。

　そんな私に気が付かずに、シンジはずっと惚気ていたわ。

　私はその時初めて知ったの。

　ずっとシンジのことが好きだったんだって…。

　それから、２ヶ月。

　シンジは私の誕生日も忘れていた。

　……。

　と思ってた。いや、その方が良かったのかもしれない。

　あきらめることが出来たかもしれなかったから。

　シンジはちゃんと誕生日プレゼントを用意していた。

　可愛いあらいぐまのぬいぐるみ。

　私はそのぬいぐるみを抱きしめて、泣きながら眠ったの。

　そんな風に３日ほど過ごして…。

　そして、私はシンジを奪回することを決めたの。

　涙でぐしょ濡れになっちゃったぬいぐるみに誓ってね。

　シンジ奪回大作戦・その１

　愛のお弁当作戦よ！

　正直言って、私は料理は苦手なの。

　シンジもそれを知っているから、きっと涙を流すほど感動するはずよ。

　血のにじむような…実際、包丁で指は何度も切っちゃったけどね。

　でも…でも……。

　ようやく、満足できるお弁当が出来たときには、短縮授業に入っちゃってたのよ！

　ごめんね、ど〜せ、私は“思い込んだら…”周りが見えないのよ。

　シンジ奪回大作戦・その２

　クリスマスプレゼントに手編みのセーターを作るの！

　もちろん、編物なんて初体験よ！

　ママに習いながら、網目を数えて、編み棒を動かして…。

　トックリセーターが、カーディガンに変わって…。

　それがマフラーに化けて…。

　手袋も不可能な大きさになっちゃって…。

　手編みのプレゼントはあきらめたの。

　シンジ奪回大作戦・その３

　手作りは駄目でも、プレゼントはあげるのよ！

　といっても前々日まで編物で悪戦苦闘してたから、いろいろ探し回る時間はないの。

　シンジが一番欲しがっていたのは、ＭＤウォークマンよね。

　私は胸を張って、ママにお年玉の前借を要求したわ。

　結果は、頭に拳骨を一発貰っただけ。

　ちゃんと１年間の計画をして使いなさい、だって！

　あと１週間で１年が終わるのに…。

　仕方ないわね。私の財布には３５２７円入ってるわ。

　どうしよ…。

　散々悩んだ挙句、ＣＤに決めたの。

　シンジの好きな曲が入ってる、チェロのＣＤよ。

　それにカードを入れて…。

　カードには恥ずかしいけど、はっきり書いたわ。

『愛をこめて　（ハートマーク）　大好きです』

　私は書いていて、顔が真っ赤になったわ。

　６回書き直してやっと出来上がったカードを机の上に置いて、じっくりとカードを見つめたの。

　私はその文面のあまりの恥ずかしさに、ベッドで転がりまわってきゃーきゃー叫んだわ。

　だって！だって、シンジがそのカードを読むときのことを考えたら、

　そこらじゅうを走り回りたい気分になっちゃうんだもん。

　それから、綺麗にラッピングして…、シンジの帰りを待ったわ。

　……。

　１２時を過ぎてもシンジの一家は、まだ帰ってこなかった。

　こんな日に一家でお出かけだなんて、なんて平和な家族なのよ。

　こっちはケーキも食べずに待っているっていうのに。

　結局、３時になっても帰宅しなかったから、ポストに入れておくことにしたの。

　直接渡すのも恥ずかしかったから、ちょうどよかったのも知れない。

　良くなかった…。

　私は馬鹿だってことを、またもや証明してしまったわ。

　手渡すつもりだったから、名前を書いてなかった…。

　それに気がついたのが、満足してベッドに入って幸福な明日への妄想に浸っていた時。

　突然、思い出したの。

　しかも、丹念に願いを込めて書いたから、いつもの私のあの字じゃない。

　自分から名乗らない限り、シンジに私からのプレゼントってわかるわけないのよ！

　こうなればチャンスはシンジに自分からのプレゼントだって告白するしかないわ！

　言えなかった…。

　だって、シンジったら、ニコニコ笑いながら私に言うのよ。

「ねえ、アスカ。聞いてよ。昨日、誰かがプレゼントをポストに入れていってくれたんだよ。

　いったい誰なんだろ？」

（わ、私…）

「アスカは気が付かなかった？誰か、僕の家の前をうろうろしてなかった？｣

（私だってば！）

「僕の好きな曲がいっぱい入ったＣＤだったんだよ。それにさ、大好きですなんて書いてあってさ。

　どんな子だろ？可愛い子かな？ね、アスカ、どう思う？｣

（だから、私だって！）

「そんなの知るわけないでしょ！」

　あわわわ！悪態アスカが出てきちゃったよ。止まれ！そこのアスカ、口を閉じるのよ！

「はん！素敵な彼女がいるっていうのに、二股かけるっていうの？

　ほ〜んと、シンジ様はモテモテでよろしいでございますわね、てんだ！

　あったま来ちゃうわ！愛をこめて、なんて書かれたからって、逆上せ上がるんじゃないわよ！」

　もう駄目。止まらないわ。

　このあと、１０分以上シンジに悪態をついて、私はシンジの頬を張り飛ばして自分の部屋に戻ったの。

　シンジは呆然として、玄関に突っ立っていたわ。

　そのあと、シンジとは口も聞いていない。

　だから、初詣のお誘いの電話はとても嬉しかったわ。

　ママに着付けしてもらって振袖を着ていくの。

　１月３日は雨。

　ひどい…。神様は私に試練を与えるっていうの？

　もちろん、振袖はママに拒否されたわ。

　あ〜あ、仕方がないから、ありあわせの中で一番可愛く見えそうなのを選んだわ。

　ママは雨の日なのにって渋い顔。

　もう！娘の生涯がかかってるのに、けちけちしないでよ。

　初詣は歩いて３０分くらいの神社。ヒカリと行ったところとは別の神社よ。

　結構大きいから、雨でも参拝客は多かったわ。

　お賽銭をあげて、もちろんシンジとのことをお願いしたわ。

　横を見ると、シンジも一生懸命に手を合わせてた。

　彼女との、こと…？

　雨の日って、二人きりになれる場所ってないのよね。

　どこで勝負しようかって思ってたら、シンジがおみくじひこうって。

　ヒカリとひいたときには、吉で“勝負は勝つ”んだって。

　だから、この日の勝負は私は負けないの！私には神様がついているんだから。

　で、ひいたおみくじは、＜大凶＞。

　私、こんなの見たこともなかったわ。ホントに入ってるんだ。

　＜勝負は負け＞て、＜待ち人は来ない＞そうよ。

　私は声も出なかった。

　もしかして、おみくじって２回ひいたらいけなかったんだっけ？

　シンジは横から覗き込んで、奇声を上げたわ。

「そんな！大凶なんて入ってるの？そんなの始めて見たよ！｣

　私だって…、私だってぇ…。

　こんなのってないよ。

　ひどいよ。

　雨は降るし、おみくじは大凶だし、シンジは別の女の子と付き合ってるし…！

　もういや！

　どこをどう走って家に戻ったのか覚えていない。

　びっしょり濡れて家の前に立った私は、鍵を持っていないことに気付いたの。

　両親は私がいないことをいいことに、初詣に初デートを楽しんでくるって言ってたっけ。

　いいわよ。ここで待ってる。肺炎で死んだって、かまわない。

　私は玄関のドアの前にペタンと座り込んだ。

　足元に雨がしけこんでいるけど、どうでもいいわ。

　私は重たく冷たくなったスニーカーをじっと見続けたの。

　シンジ…。寒いよ…、冷たいよ…。

　なんか、涙も出てこないわ。

　スニーカーの足先から雨水が細い筋になって流れていく。

　その流れの先に、青いスニーカーが…、泥で汚れた青いスニーカーが見えた。

　ゆっくりと見上げると、そこにはシンジの心配げな表情があった。

　私は溜息をついて、また足元を見つめた。

　シンジはそのままかがんで、私の顔を覗き込んだ。

｢アスカ…？｣

　私は顔をそむけた。見られないよ。今、シンジの顔は…。

「びっくりしたよ。傘も放り出して…」

　シンジは畳んでいる赤い傘と緑の傘をそっと玄関に立てかけた。

　え…？じゃ、シンジは…？

　恐る恐るシンジを見ると、シンジの服はぐっしょり濡れて…、そして今も雨に打たれている。

　そ、そんな…アンタ馬鹿ァッ！

「ど、どうして！アンタも濡れているのよ！」

「だって、傘を差していたら走りにくいから…｣

「そんな！なんで追っかけてくるのよ。私なんか放っておいたらいいじゃない」

｢何言ってんだよ。そんなことできるわけないだろ！」

「ふ〜ん、モテモテのシンジ様は私みたいな女まで構ってくれるんだ｣

　私は顔をそむけて、悪態をついたの。

　その私の頭の上をコツンと叩いたものがあった。

　はっと見上げると目の前にシンジの腕が見えたの。

　じゃ、これってシンジに小突かれたってこと？

「あ、アンタ、私を！」

「聞いてよ、アスカ」

「な、何よ」

「クリスマスプレゼント、ありがとう」

「え？」

「あれ、あのＣＤ。アスカだろ？アスカがくれたんだろ？」

「え、えっと、それは…｣

　どう答えたらいいの？わかんないよ。

「ほら、アスカ、カード読んでないのに、文章知っていたじゃないか」

　へ？私、そんなことしてたの？えっと…記憶巻戻し中…あ、あわわわ！

　私は狼狽してしまったわ。

「じ、じ、ジョークよ。ドイツにはクリスマスに大好きな人を騙すって風習があって…｣

｢嘘だろ」

「ぐ…」

「それに、今、アスカ“大好きな人”って…」

　がががが〜ん！私はなんてへっぽこなんでしょう！って英訳したら…へっぽこって“ｆｏｏｌ”？

　仕方ないわ。

　こうなったら、当たって砕けろよ！

　私は立ち上がって、足を踏ん張ったわ。

　そして、同じように立ったシンジをにらみつけたの。

「そうよ！私はシンジが好き。大好き！｣

　私は一気に叫んだの。

　言っちゃった…。

　ついに言っちゃった。

「ありがとう、アスカ。僕も好きだよ。アスカのことが」

　はいはい。ごめんなさいね、余計なこと言っちゃって。そうやってバッサリとふってもらえればあきらめも…。

　はい？今、何と…？

　私はシンジの顔を見たわ。

　シンジは真っ赤な顔で、私を真っ直ぐに見ている。

「それ、本気？｣

　うなずく、シンジ。

「憐れみとかだったら怒るわよ。ホントに本気？｣

　うなずく、シンジ。

「ホントにホントに私のことを？｣

　うなずく、シンジ。

「あの、さ。私が言ってるのは、“ｌｉｋｅ”じゃなくて“ｌｏｖｅ”なんだけど、わかってる？」

　うなずく、シンジ。

「えっと、それから…」

「僕は本当にアスカを好きなんだ。先輩とも別れたんだ。クリスマスの前に｣

　ええっ！私はびっくりした。

「ほ、ホントに？」

「うん」

「ど、どうして！」

「先輩が僕みたいなのイヤなんだって」

　その瞬間、私は理不尽な怒りに包まれた。

　シンジのことをイヤだって！信じらんないっ！

「なんでアンタみたいないいヤツをふるの？バッカじゃない！」

　思い切り矛盾しているけど仕方がないわ。

　シンジが侮辱されてるみたいで、頭に来るんだもん。

「ははは、あのさ…実はね」

　頭を掻くシンジが雨に濡れつづけていることに、私はようやく気付いたの。

　私ってホントに駄目ね。夢中になると周りが見えないの。

　私はシンジを隣に座らせて、その続きを聞いたわ。

　シンジったら、先輩とのデートのたびに私の事を話題にしていたんだって。

　アスカがああした、こうした。アスカとの思い出とか、アスカがこんなことを言ったとか。

　私はあきれ返ってしまったわ。

　こりゃ、シンジのことをどんなに好きでも耐えられないでしょうね。

　そうこうしているうちに、シンジ本人が私を好きだってことに気付いたんだって。

　まったくもう、何て鈍感なのよコイツは。

　私だって、人のことは言えないけどさ。

　そのあと、シンジはポケットから小さな包みを出したの。

「こ、これさ、クリスマスプレゼントなんだ。あの時、アスカに引っ叩かれて…｣

「ごめん…」

　私はあの時の自分を思い出して、穴があったら入りたい気分だったわ。

　シンジはプレゼントを渡すのが恥ずかしかったから、あの話を持ち出したんだわ。

　それがたまたま私からのプレゼントだったからこじれちゃって、

　それで、こんなに…、こんなに、寒い思いを…。

　寒い？

　ハックション！

　思い出した！真冬にびしょ濡れで屋外にいるんだった。

　こ、これは風邪をひくわ！

「シンジ！」

「はい！」

「お風呂貸してよ！」

「あ、うん。そうだね」

　うぅ〜、さ、寒いわ。思い出した途端に、全身に寒気がする！

　私はよろよろと立ち上がって、傘を掴んだけど、今さらって感じよね。

　シンジの家は隣だもん。

「さ、行くわよ。速攻でお風呂つくってよ。シャワーじゃ、絶対に駄目だからね」

「は〜い」

「何、その返事！そうそう、アンタの服貸しなさいよ」

　シンジの家に小走りで向かいながら、私たちは喋りあっていたわ。

　身体は寒くて寒くて仕方ないけど、心はとても温かいの。

「えぇ！僕、女の下着なんか持ってないよ。アスカ、僕のでいい？」

「ば、ば、馬鹿っ！アンタのＴシャツとかジーパンに決まってんでしょ！下着はおば様の貸してよ！」

「えぇっ？そんな…困るよ。母さんいないから、どこにあるのか…」

「な、何よ！アンタ、親のいない家に、こんな美少女を誘って、お風呂に入れて、どうしようってわけ？！」

「あ！アスカがお風呂って言ったんじゃないか！」

「じゃ、何？私が肺炎で死んでもいいって言うの？！」

「そ、そんなの駄目だよ。アスカが死んだら、僕は…」

　ガシャ。

　この音は、シンジの家の扉が閉まった音。

　そこから先は、もう教えてあげない。

　因みに変な期待はしないでね。

　シンジのおじ様がいつもの姿勢で、ダイニングテーブルで愛するおば様の帰りをじっと待っているんだから。

　私たちの近未来夫婦漫才を楽しみながら、ね。

　お正月はお笑い番組が一番なんだってさ。

−　ＴＨＥ　ＥＮＤ　−

＜あとがき＞

　２０００ＨＩＴありがとうございます！早い！早すぎるＨＩＴです。

　このジュン。嬉しい、有難き悲鳴を上げさせていただきます。

　１０００ＨＩＴ記念にするはずの「惑星ＬＡＳ建国記」を構想している間に、ここまでカウンターが来てしまいました。

　慌てて書き上げたのが、このＳＳです。

　すみません。へっぽこアスカ、大好きなんです！許してください。

　次回の３０００ＨＩＴは、「惑星ＬＡＳ建国記」でと考えて（あくまで“考えて”です）いますが、

　３３３３ＨＩＴは、踏んでいただいた方にお題を選んでいただこうかと…。

　（おい、ジュン！自分で自分を追い込むつもりか？！）

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