3333HITしていただいたムゲさまのリクエストです。
お題は…。
「本編エヴァ(もちLASで)」「新兵器」「使徒ムゲリエル」というとんでもない、もとい素晴らしいお題を頂きました。
ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります。記念SSは…。
3333HIT記念リクエストSS
使徒ムゲリエル、かく戦えり
芳香使徒ムゲリエル登場
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「反応でました。パターン、青。使徒で…。え?すみません。違います。いえ、やっぱり!」
「マヤ、はっきりしなさい。どうしたの?」
「パターンが固定しません」
「どういうことなんだ」
「あれは…レリエルではないぞ。まるで委員会の連中のような形をしている」
「ああ、あれは違うな。」
「しかし、レリエル…第12使徒ではないとすると…困ったことにならんか?」
「ああ、問題ない」
「だが、予定通りではなくなるのではないか…?」
そのとき、冬月は顔の前に組んだゲンドウの拳が微かに震えているのを見た。
ほほう…この男が動揺するとは…。
「完全なイレギュラー…。ということか」
「零号機出します!」
「待て!使徒と確認できていないぞ」
冬月の制止に、ミサトが司令席を見上げる。
「2kmまで接近しています!少なくとも斥候の必要があります」
「仕方…あるまい」
小鼻で微かに笑ったミサトは、すぐに発進を命じた。
射出された零号機が黒っぽい壁のように見える使徒らしきものに進んでいく。
その様子を音声で聞いていたアスカは、シンジに声をかけた。
「ねえ、馬鹿シンジ。使徒なのかな?」
「わかんないよ、僕には」
「あのねえ、アンタに断定してくれなんて私は言ってないでしょ。
私が聞いてるのは、アンタの意見。わかる?意見よ」
「もう…うるさいなあ…」
「何よ、そのものの言い方は!」
「だって、待機中は静かに待っているように言われてるじゃないか」
「はん!じゃアンタは待機中に二次方程式の問題を解けって命令されたらするの?」
「命令だったら仕方ないじゃないか」
「あ〜あ、シンジもどっかの優等生と同じね。
じゃあ、待機中に裸踊りをしろって言われたら?」
「はぁ?アスカ、何馬鹿なこと言ってるんだよ。そんなこと命令するわけないじゃないか」
「仮定の問題でしょうが。で、するの?」
「そんなことできるわけないだろ!」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃあさ、こんなのはどう?」
「あのさ、アスカ…?」
「何?」
「今日、凄く機嫌良くない?」
「は?」
「リニアや待機所でも鼻歌歌ってたし」
「私が?」
「うん、何の曲かはわからなかったけど…」
「……」
「アスカ?どうしたの?」
「うっさいわね。思い出してんの、静かにしててよ」
「もう…勝手なんだから…」
エントリープラグの中で、アスカは今日の自分を思い出していた。
えっと…朝起きて…今日はハムエッグだったわよね。美味しかったな…。
それからシンジを従えて登校して…。
非常召集で呼び出されて…お昼も食べてないのに、待機中。
何よ。全然いいことなんかないじゃないよ。
でも…。でも、確かに、気分はいいわね。
何でだろ?
今日のことじゃないなら…夢…?
いや、覚えてないわ。
じゃ、昨日…。
……。
その瞬間、アスカの顔はプラグスーツの色に負けないくらい、真っ赤に変色した。
「ば、馬鹿シンジっ!」
「わ!びっくりした!突然何だよ」
「何でもないわっ!」
そしてまた沈黙してしまったアスカに、シンジは苦笑していた。
その上、通信もサウンドオンリーに変えている。
何なんだろう、アスカは。
黙りこんでたかと思ったら、突然叫んだりしてさ。
変なの。
でも、いつも今日みたいに機嫌よかったら嬉しいな。
どうして機嫌よかったんだろ?
昨日、あんなに僕をからかったから?
僕と無理矢理キスなんかして…。
ドイツ育ちのアスカにはキスは珍しくないんだろうけど…。
僕には完全なファーストキスになるんだけどな…。
僕は…。
僕は…嬉しかったんだけどな…。
そりゃあ、鼻つまんだり、うがいされたりしたのは、ショックだけど…。
ファーストキスがアスカでよかった。
そう思ってるんだ…。
そんなこと全然知らないんだろうなぁ、アスカは。
どうしよう…、ホントにどうしよう。
私、馬鹿シンジが…。
そうなのよ。この胸の動悸は、間違いないわ。
加持さんにだって、ここまで胸がどきどきしたことなんかない。
キス…したから…?
ファーストキスをあげちゃったから、あんな馬鹿シンジにどきどきしてるの?
違う…よね。前から…そんな風に思っていたから、当てつけとはいえキスしたんだ…。
あんな、冴えないヤツ…。
でも、命懸けで、私を助けてくれた…馬鹿シンジの癖に。
「きゃぁっ!」
「この声!」
「綾波!」
「どうしたの!レイ、返事しなさい!」
『肉は嫌い、肉は嫌い、肉は嫌い…』
「ちょっと、レイ!どうなってるの?!」
ミサトの質問に、レイはうわごとのように『肉は嫌い』と切り返し続けている。
「リツコ!どういうこと?」
「ん…情報不足ね」
「あれは肉には見えないし…、いったい…?」
「零号機のシンクロ率、急速に低下。危険です」
「マヤ、零号機を止めて」
「ちょっと勝手に命令しないでよ」
「レイが使い物にならなくなるけどいいの?」
「わかってるわよ!零号機強制停止。アスカ!シンジくん!出るわよ!」
「肉…何なのかしら?」
射出された初号機と弐号機は、停止した零号機に向かった。
「アスカ…何なんだろう?肉って」
「わかんないわ。レイを気絶させるなんて…注意しなさいよ!馬鹿シンジ」
「うん…あれ?何これ?」
烏の群れが零号機の周りを飛び回っている。
「げぇっ!何よ、これ!ミサト!肉よ、肉!」
「アスカ、わかるように説明してよ。モニターには何も見えないけど…」
『見えるんじゃないの。匂うの!』
「匂い?」
『そうよ!凄い匂いだわ!』
「腐臭…?」
『違うわ!程よく焼けた高級ステーキの匂いよ!』
『違うよ、アスカ。たれに漬け込んだ、韓国風の焼肉の匂いだよ!』
『何言ってんのよ、アンタ高級ステーキ食べたことないんでしょ!』
『あるよ。何度か』
「ちょっと、待ちなさい二人とも。どうしてエントリープラグの中で、匂いが嗅げるの?」
冷静なリツコの質問に、アスカとシンジは絶句した。
確かにエントリープラグが破損していないのに、匂いが入ってくるわけはない。
「精神攻撃…」
「馬鹿ね、葛城三佐。烏程度の精神にまで侵食する意味はないわ。きっと本物の匂いがするのよ。
エントリープラグ越しに進入してくるほどの、とんでもない匂いがね」
「じゃ、いずれここにも…」
「来るわね」
「あぁ〜っ!もう我慢できない!」
「アスカ、僕も耐えられない!」
「二人ともどうしたの!」
「どうしたもこうしたもないわよ!ごはんよ、ごはん!」
「ミサトさん、匂いだけでもご飯が食べられますよ!」
「はい?」
「二人とも、昼食を食べてません」
「なるほど、人間の本能に直接打撃を与える攻撃ね」
「そっかぁ?考えすぎじゃないの、リツコ?」
「ミサト!どうでもいいけど、早くこいつを片付けさせてよ!」
「そうですよ!ああ、ご飯が食べたい!」
「待ちなさい!相手が使徒かどうかもわからないのよ!」
「私の名は、ムゲリエル。お前たちが使徒と呼んでいるものだ」
このとき、真っ先に現実に戻ってきた日向でさえ、10秒近い心神喪失状態にあった。
「使徒が喋った…」
「しかも、名乗りをあげてるよ…」
「信じられない…」
「ちょっと!リツコ!どういうことよ!」
「データ不足ね」
「日本語だぞ、おい」
「ああ…」
「ちょっと!どうすんのよ、ミサト!相手が使徒だって白状してるんだから、やってしまったらいいじゃない!」
「僕もアスカと同意見です!早く戦いましょう!」
「シンジくん、今日は好戦的…」
「違うよ、伊吹さん。きっと、空腹の限界が近いんだ」
「あ、そういえば、何となくいい匂いが…」
「ここにも!ああ…本当に焼肉の匂いだ」
「こりゃ、レイが気絶するはずだわ。ビールが欲しいところね」
「でもマズイわね」
「そう?いい匂いだけど」
「馬鹿ね。もしこの匂いが焼肉の匂いじゃなくて、気も狂いそうな異臭だったらどうなるの?」
「全滅だな」
「ああ…」
「あんな薄っぺらい板みたいなヤツ、プログレッシブナイフで充分よ!」
「そうだ!」
「待ちなさい!勢いで攻めちゃダメよ」
「だってぇ…がまんできないよぉ」
「僕だって…こんなの拷問です!」
「困ったわね」
「あの板みたいな使徒…えっと、ムゲリエルって名乗ったっけ…、
能力はこの匂いだけなのかしら?」
「モニターに使徒をズームさせて」
モニターに出てきた映像に、ムゲリエルの身体の表面が映し出される。
「体長は80m。奥行きは2mほどです。
足がありませんので、空中を移動しているようです」
「黒というより、こげ茶色ね」
「表面に細かい模様があるわ。もっとアップにして」
「はい!」
「これ…」
中央作戦司令室は再び沈黙に包まれた。
「どう見ても、板チョコね…」
リツコのつぶやきに我に返ったミサトは、とりあえず遠距離攻撃を決意した。
「アスカ、パレットライフルを試して!」
『OK!待ってました!』
「でも、どうして板チョコで焼肉の匂いなの?」
マヤのもっともな疑問に答えられる人間は一人もいなかった。
名乗りをあげてから沈黙しているムゲリエルに対して、あらゆる攻撃が試みられた。
ライフル、ナイフ、肉弾戦。
アスカだけではなく、空腹に凶暴化しているシンジまでしゃむにに突進したが効果はまるでなかった。
硬いのか柔らかいのか、まったく掴み所のない、板チョコの巨大集合体。
アスカとシンジの精神は崩壊寸前にまで追い込まれている。
ただし、それは空腹感によるものなので、シンクロ率は依然高い数値を示している。
また、ケーブルの範囲内にムゲリエルがわざわざ移動してきてくれているので、活動時間も維持できているのだ。
「アイツの目的はいったい何なんだ」
青葉のつぶやきに日向は首を振り、マヤはため息をついた。
それより早く終わらせて、ご飯食べたい…。
そのマヤの想いは、ゲンドウを含めた全員の思いだった。
「さて、みなさん、たいそうお困りのようですね」
「わ!また、喋った!」
「こいつ、うっさいわね!」
「では、これからこの匂いを悪臭に切り替えましょうか。ふっふっふ、ネルフは全滅ですな」
「アスカっ!何とかしなさい!」
『無茶言わないでよ!』
「これだけ充満している匂いが悪臭に変わったら…まさしく即死するでしょうね」
「リツコ、手はないのっ!」
「ないわね」
「こんなこともあろうかと…新兵器が出てくるとか!」
「は、アニメじゃあるまいし、そんな都合のいいものがあるわけないわ」
「ひとつだけチャンスを差し上げましょうか。私には弱点があります」
「はい?」
気絶したままのレイ以外の全員が口をぽかんと開けてしまった。
司令席の二人も同様であった。
ミサトなどは完全に思考回路がショート寸前である。
「何よこれ。罠?」
「どうしてわざわざこの段階で罠を仕掛ける必要があるのよ」
「じゃ、勝者の驕りってヤツ?」
「それもどうだか」
「それじゃ、どういう意味なのよっ!」
「私の弱点は、“アイ”です」
「アイ?」
「アイってなに?何か科学関係でそんなのある?」
「アイ…ね。元素記号でヨウ素よ。甲状腺ホルモンの構成成分となるわ。魚介類、海藻をあまり食べない人は補給が必要だわね」
「は?」
「世界の3大栄養素欠乏症のひとつにあげられてるけど、海産物の豊富な日本では全く心配ないわ」
「ひょっとしたら、この使徒はヨウ素に弱いのかもね。
板チョコの身体に、焼肉の匂いだもんね。いかにもそのヨウ素が少なそうだわ」
「デンプンと反応すれば強い青が呈されるけど、それを使った光線か何かかしら?」
「う〜ん、それっぽいわね。ヨウ素ってすぐ用意できる?」
「どれだけ必要かわからないわ。少量なら用意できるけど」
「“アイ”を誤解されている人もいると思いますが、私が言っている“アイ”はLOVEのことです」
「LOVEだってさ」
「そういや、昔テレビであったよね。愛は地球を救うってさ」
「そこ、うるさいわよ。ね、リツコ、これって真に受けていいのかな」
「こういうのはアンタの得意分野でしょ。葛城三佐」
「ひどい、逃げたわね」
「私の論理的な頭脳では、こんなの理解できないの」
「私だって理解できないわよ!どっちかというと、こんな変なのって、加持の得意分野よ」
「呼んだかい?」
「ほらね、噂をすれば…」
振り返ったミサトの表情が凍りついた。
「どうやらお困りのようだね。モグッ、ムシャクシャ」
「加持、アンタ…」
「葛城三佐」
「はい!司令」
「加持君にすぐ司令席に上がるように」
「了解。加持、上でお呼びよ」
「あ、そう…じゃ、どちらさんも」
背を向けた加持の後姿に5人の憎しみのこもった視線が突き刺さっている。
「あの馬鹿。ひとつくらい置いていけばいいのに…」
「同感ね。それにしても上は目が早いわね」
「おい、何個持ってた」
「見えた範囲で3個だ」
「じゃ、司令と副指令、それに本人の分しかないじゃないですか」
もはやマヤの瞳は潤んでいた。
「あんなおにぎりどこで入手したのかしら」
「どうせ、食堂のおばさんでも誘惑したんでしょ」
「おばさんって、彼女アンタより歳若いわよ」
『ちょっとぉ!ミサト!どうなってるのよ、その“アイ”でなんとかしてよ!』
『そうですよ、もう…限界です!』
「もう少し、我慢して、アスカ、シンジくん」
そうは言ったものの、ミサトは頭を抱えてしまった。
「でも、“アイ”をどうすればいいのよ!」
「“アイ”をどうすればいいか、教えてさしあげましょうか?』
「ね、あれって本気で言ってるんだと思う?」
「さあわからないわ。これまでのパターンからこんなに逸脱されてしまうとね」
「簡単なことなんですが、まあ探し出すのに時間がかかるでしょうね。
つまり、昨日ファーストキスをしたばかりのカップルに
一億人以上の見物人の前で愛を誓ってもらうと、
私のような使徒はひとたまりもないんですがね。
そんな都合のいい二人をあと30分で見つけることができますか。
ふっふっふ…そう、あと30分でこのかぐわしい匂いはおぞましい悪臭に変貌してしまいますよ。
くっくっく…はっはっはっはっは!」
「何これ…あの使徒、私たちを馬鹿にしてるんじゃないの?」
「そうね。そんな都合のいいカップルがいるわけないじゃないの」
ここにいた。
『どうしよう…シンジはファーストキスって言ってたよね』
『どうしよう…でも、僕は初めてでも、アスカは…?でも、こんなこと聞けないよ!』
『私はアレが初めてだって言ったら、シンジは愛を誓うのかしら』
『僕はアスカを好きなんだろうか?でも、僕が好きでも、アスカが好きなのは加持さんだし』
『どうしたらいいの?私が素直にならなきゃ、地球が破滅してしまう』
『どうしたらいいんだ?アスカに僕を好きになってくれって頼んだらいいんだろうか。でも…』
『『時間がない!』』
「無理でも探すしかないわ!ネットとTV、ラジオを使って…」
「初号機、弐号機動き出しました。互いに近寄っていきます」
「こら!二人とも勝手に動かないで!」
『『こんなこと、通信で話なんかできない!』』
そして二人は地表で向かい合った。
周囲には焼肉の匂いが濃厚にたちこめ、巨大な板チョコが地面に大きな影を作っている。
「こんなときに何してんのよ!あの二人は!」
「ミサト!もしかしたら…あの二人…」
「え?ま、まさか…」
「マヤ、地表の集音マイク、あの近くで生きてるのある?」
「あります!音量あげます」
「あの、さ…アスカ、聞きたいことがあるんだけど…」
「な、何よ」
「昨日の…アレ。君は初めて…」
「もし、そうなら、どうだっていうのよ…」
「マヤ、もっと音量上げなさい!」
「ミサト、あなたの声で聞こえないわ。静かに」
「ね、アレってアレかしら?」
「あなたの思ってるアレじゃないと思うけど」
「わかんないわよ…」
「もし、そうだったら…嬉しいかなって」
「はん!そうならアンタは地球を救えるんだもんね。嬉しいでしょうよ」
「違うよ。そうじゃない。アスカの初めてが僕でよかったな…なんて思ったら嬉しくて…」
「そ、そうなの…」
「うん、そうなんだ」
「ほら、初めてって言ってるじゃない」
「そんなの何の初めてかわからないじゃない」
「先輩たち、変な想像してる…不潔だわ…」
「まさか、シンジ君がな…」
「ああ、本当に信じられないよ」
「じゃあ、さ…あの変な使徒が言ってた条件の一つ目は…」
「そうね。第一条件はクリアーしてるってわけね」
「はは、そうなんだ…えっ?!そうなの?」
「そうなの…」
「本当?本当にアレが初めてだったの?」
「う、うっさいわね…そうなんだから、仕方ないでしょ…」
「ありがとう…」
「別に礼を言われるようなことじゃないわ」
「でも…やっぱり、ありがとう…」
「ちょっと、これっていけるんじゃないの?」
「そうね。あとは愛の誓いだけど」
「どうもあの様子じゃ、告白抜きでしちゃったみたいね」
「はぁ…、あなたが監督責任者じゃなかったっけ?」
「こら、さっさと告白しちゃえ!」
「あの…その…つまり、さ…」
「何よ…」
「僕は…。あの…だから…」
「だから…何よ」
「……」
「……」
「駄目だなこれは」
「ああ、駄目だ」
「シンジ君から告白するのは難しそうですね」
「あの子達、あの状況わかってないんじゃない」
「頭上に使徒がいるってのに。危機感ゼロね」
「おい、伊吹さん、モニターに集中してるぜ」
「ああ、夢中になってるな」
こんなシチュエーションで告白だなんて、凄い…凄いわ!
「リツコ、あっちの方は大丈夫?一億人以上の見物人の方は」
「ネットとテレビの衛星回線に割り込んで強制的に映像を流すしかないわね。マヤ」
凄い…凄いわ!
「マヤ!駄目ね、使い物にならないわ。仕方がないわね」
リツコはため息をつくと、キーボードの操作をはじめる。
「日向くん」
「はい!」
「各方面に緊急連絡。ここの映像を全世界に流すように。とくに今活動中の時間帯の地域を重点的に」
「了解」
準備が整っていく中、二人は…。
まだ、思いのたけを打ち明けられないでいた。
早く言ってよ、シンジ。私からなんて、言えないよ…。
駄目だ…。逃げちゃ駄目だ。でも…。
「ミサト、準備OKよ」
「早いわね。でも、あっちは…」
身体は向かい合っているのに、まだ視線を逸らしている二人。
「あの子達、時間がないのわかってんのかしら」
「もうそんなことは眼中にないわよ。そんな感じね」
「どうしよう…あと15分切ってるわね」
「なにか特効薬ないかしらね」
「そうね…アスカから言い出すのは、あの子のプライドから考えて難しそうだわ」
「じゃ、シンジくんを焚きつけるのね。そうだ。加持君使ったらいいんじゃない?」
「えぇ〜!やだ」
「あら、どうして?ははん、さては昨日…」
「な、何よ」
「まあ、そのことはあとでゆっくり聞くわ。それより…」
リツコは目を怪しく光らせて、何事かミサトに耳打ちした。
聞いているうちにミサトの機嫌が見る見る良くなっていく。
「OKぇ〜っ!それでいきましょ!」
『アスカちゃん、聞こえるかい?俺だよ』
突然、加持の声が第三東京市に響き渡った。
その声はさすがに自分たちの世界に閉じこもっていた二人の耳に入った。
「加持…さん」
「……」
『どうだい、この戦いが終わったら、俺と真剣に付き合ってみないかい?』
「はい?」
アスカはぽけっと口をあけて、ジオフロントの方角を見た。
そして、シンジの顔は真っ青になっている。
加持さんはアスカの想い人だ。その加持さんがアスカに交際を申し込んでいる。
勝てるはずがない。
こんな僕に勝てるはずがない。
でも…でも…。
『俺は真剣なんだぜ。君が大きくなったら、結婚してもいいと思ってるんだ』
アスカは放心したように立ち尽くしている。
そんなアスカをシンジは苦しそうな顔で見ている。
胸が苦しい。動悸が治まらない。苦しいよ…。
僕のアスカを連れて行かないで…。
『そんなお子様のシンジ君なんか君には似合わないよ。俺のような大人がアスカちゃんにはお似合いだな』
加持の声につられるように、アスカが前に一歩進んだ。
その瞬間、シンジが絶叫したのは、シンジ自身考えてしたことではない。
暴走…である。
「行くな!アスカっ!僕は君が好きなんだっ!行かないでくれっ!」
アスカは信じられないものを見るかのようにシンジを見て…、それでも前に進んだ。
「アスカ…僕を見捨てないでよ…お願いだ」
涙声になってつぶやくシンジの耳に、アスカのさわやかな声が聞こえた。
「大丈夫よ、シンジ…」
「えっ…」
アスカは腰に手をやり、ジオフロントに向かって大きく息を吸い込んだ。
そして…。
「うっさいわね!アンタ馬鹿ぁっ!年いくつだと思ってんのよ!
私は14歳よ。20歳になったら、アンタは37歳じゃない!
オヤジじゃない!それに私はシンジと同い年のお子様よ!
このロリコンオヤジっ!引っ込んでろっ!」
そこまで一気に叫んで、アスカはにっこりとシンジに微笑みかけた。
「あ〜ぁ、スッとしたぁ。大声出すのって気持ちいいよね」
「あ、アスカ…。じゃ…じゃ…」
「そんな情けない顔するんじゃないわよ。
この私が好きになってあげるんだから、もっとシャンとしなさいよ!」
「あ、う、うん」
「ほら、もっと背筋伸ばして!そ、それと…もう一度、ちゃんと言って…くれないかな。
私も…きちんと返事、したいから」
「うん!」
そう答えたシンジの顔は、晴々とした爽やかな青空を思わせるような微笑に包まれていた。
ずきゅんっ!
この微笑みはアスカの心臓を直撃した。
だ、駄目。そんな顔で私を見ないで…。
あ、あぁ〜ん、嬉しいよぉ!
「アスカ、僕は君が、だ、大好きです。つ、付き合ってくださいっ!」
アスカ…。
どうしてすぐに返事してくれないの?
どうしてそんなに澄んだ瞳で僕を見つめるの?
アスカ…早く返事してくれないと、僕の心臓が破裂してしまいそうだよ。
「ねえ、シンジ。もし、私がいやだって言ったら、アンタ死ぬ?」
「え?」
「どうなの?私なしで生きていけない?」
「そ、それは…」
その時、シンジのハートにピピッと何かが飛び込んできた。
以心伝心というやつだろう。
「もちろんだよ!僕はアスカなしでは生きていけないんだっ!」
「わ!大胆…」
「そうね、見てる方が恥ずかしいわね」
凄い…凄すぎます…やっぱり相手が男の人でもあんな告白されたら、私…。
「おい、青葉。チャンスだぞ、伊吹さんがうるうるきてるぞ」
「ああ。よし、今晩にでもアタックしてみる」
「お前の息子も成長したな」
「ああ、問題ない」
「シンジ君、よくやったぞ。これでアスカちゃんのプライドも保てる」
アスカは、思い切り緩んでしまいそうな頬を必死で抑えていた。
嬉しいよぉ…滅茶苦茶嬉しいよぉ!
「し、仕方ないわね。そこまで言われたら、付き合ってあげてもいい…かな」
「頼むよ、アスカ!お願いだ!」
「わ、わかったわよ。そんなに言うんなら、付き合ってあげるわよ」
そう言って、アスカはぎこちなく微笑んだ。
ぎこちないのは、喜びに舞い上がってしまいそうな心を落ち着けようとしていたからだ。
「本当?本当に僕の彼女になってくれるの?」
「しつこいわね。じ、じゃ、誓いのキスをしてあげるわよ」
「え…いいの?」
「昨日のは…あんまり…だったじゃない。だから、ちゃんと…ね」
「うん」
「今度はアンタがリードしなさいよ」
アスカは目を瞑った。
シンジはごくりと唾を飲み込むと、アスカに近寄る。
そしてその華奢な肩を掴むと、可憐な唇に自分の唇を近づけていった。
ちゅっ…!
「わ!やっちゃったよ、あの子達」
「全世界に流れてるわよ、このキス」
凄い…凄すぎるわ。羨ましいな…。
「青葉。伊吹さん、完全にいっちゃってるぞ」
「ああ。よし!俺はやるぞ!」
「おい、いいのか。これで」
「ああ、問題ない。少しシナリオを書き換えればすむ事だ」
「おめでとう、シンジ君、アスカちゃん。よし、それじゃ…」
そして加持はマイクを握った。
「すまん。実は…あ?おい、葛城。マイクが入ってないぞ」
ミサトは加持の言葉に全く反応せずに、リツコと話している。
「おい!葛城!早くスイッチ入れてくれよ。そうしないと、俺は全世界に…」
焦る加持を見上げて、ミサトはにやりと笑った。
「あきらめなさい。もうアンタは世界中の恥さらしよ。誰もアンタの相手はしないでしょうねぇ」
血の気のひいた顔で加持は瞑目した。
はめられた…。
「おめでとう…これじゃ私は負けを認めざるを得ない」
ムゲリエルの声にその存在を忘れていたことを全員が思い出させられた。
「では、さようなら。人類の未来に私は幸あれと祈ろう…」
そして、ムゲリエルは忽然と姿を消した。
かぐわしい焼肉の匂いを残して…。
その日、第三東京市の肉の売上は記録的なものだったという。
何しろ、その日肉を食べなかったのは3人だけだったから。
レイと、アスカと、シンジ。
今日の出来事でより一層、肉嫌いがつのったレイ。
そして、胸いっぱいで食事どころじゃなかった残りの二人。
アスカとシンジは、マンションのベランダで肩を並べていつまでも星空を眺めていた。
「あの…さ、ありがとね。シンジ…嬉しかったよ、私。生まれてきて、ホントによかったって」
「僕だって、同じだよ。アスカと出逢えて本当によかったと思ってる」
「嬉しい…シンジ。大好き」
「僕も、アスカを大好きだ」
ちゅっ。
何十回目かのキスをした二人はお互いの瞳を見つめあう。
「あの使徒…ムゲリエルってさ、まるで私たちをくっつけてくれるために出てきたみたいね」
「はは、そうだね。でもさ、使徒の名前って天使とかの名前が多いから。案外、愛をつかさどる天使だったりして」
「あ、シンジの癖にロマンチックなこと言うんだ」
「似合わないかな…?」
「ううん。私だって、あの使徒に感謝してるわよ」
「戦ってる相手に感謝するのも変だけどね。でも、あいつって憎めないよね」
「うん。あ、それからさ、シンジドイツ語の勉強してよ」
「あ、そうだね。今日みたいに困っちゃうからね」
「そうよ。ママとの会話にいちいち私が通訳で入るの面倒くさいわよ」
「がんばるよ。アスカのママと会話できるように」
「ドイツ語だけ?」
「あ、もちろん、使徒との戦いもね。勝たなきゃアスカと……できないもん」
「何が出来ないのよ。はっきり言いなさいよ。エッチ」
「違うよ。僕がしたいのは…け、結婚…だよ」
「くわっ!い、いきなり、言わないでよ!…う、嬉しいじゃない…」
「だから、がんばるよ、僕」
「私も…。がんばろうね、シンジ」
「うん。僕たちの未来のために」
その後、エヴァンゲリオンに強力な新兵器が加わった。
最終兵器使徒・ムゲリエルである。
彼は役目を終えて、意気揚揚と少し未来の地球へ帰還した。
そして、彼に今度の仕事を命じたボス・リリスの元に出頭したのだが…。
彼の仕業で人類補完の未来が変わってしまったので、リリス自身も姿を消してしまっていたのだ。
まずい!このままじゃ、俺も消えてしまう!生き残るためには…。
彼は過去に戻って、人類の明日を勝ち取る対使徒戦に加わざるを得なかったのだ。
使徒の全貌を知る彼の存在と、未来を願うシンジとアスカのパワーは凄まじいものがあった。
そして、人類補完計画はあっさりと抹消。
ゼーレは殲滅。
壊滅したその本部からのほほんと現れた渚カヲルという少年は今、レイとよろしくやっている。
もちろん、シンジとアスカは見ていられないほどのラブラブ状態。
世界中の女性から相手にされなくなった加持はミサトの所有物と化した。
ムゲリエルは?
あの巨体で平和な世界にいるわけにもいかず、人間に姿を変え、ネルフでオペレーターをしている。
けっこうリツコと馬が合って、楽しく毎日を送っているらしい。
そして、暇なときにはネットで楽しんでいるとか。
「使徒ムゲリエル、かく戦えり」
− おしまい −
<あとがき>
すみませ〜ん、この程度です!
結局、おちゃらけになっちゃいました。ムゲ様、ごめんなさい!
次のリクエストは必ず…!って言ったって、何が来るかわからないもんなぁ…。
うん、それはその時に考えよう。
2003.01.30 ジュン
感想などいただければ、感激の至りです。作者=ジュンへのメールはこちらへ 掲示板も設置しました。掲示板はこちらへ。 |