この作品は「新薬」「認知」「告白」「平行世界」の後日談です。
まずは、「新薬」「認知」「告白」「平行世界」をお読み下さい。
夢のお店 〜紅茶をどうぞ〜
Act.4 卒業したら…
「わかった、アスカの気持ちは。でも少しだけ、確認させてね」
「うん、いいよ」
「じゃ一つ目。喫茶店は兼業じゃなくて、専業なんだよね?」
「もちろん!片手間でなんか、やりたくないわ」
「二つ目。何時から始めたいの?」
「今すぐでもOKよ。でも卒業後になるわね」
「高校の?」
「もちろん!」
「三つ目。資金は?」
「これまでに貯めていたネルフの支給金。あと正式に辞めるから、退職金もあるしね」
「四つ目は、僕は?僕も喫茶専業?」
「あったり前じゃない。アンタと一緒じゃないと…、いつも…一緒にいたいから…てのも…理由なんだから…ね」
ぼふっ!
「は、はは。い、五つ目。喫茶店の勉強は?」
「は?何それ?」
「だから、紅茶の仕入れとか入れ方とか、食事の調理法とか、いろいろだよ」
「えっと…、それは今から、研究とかして…」
う〜、シンジの尋問はキツイわ!ひょっとして、こいつサドォ!?
「六つ目で最後。これまで得た、アスカの知識とか実績を零にして、後悔しない?
あとで別の仕事をすれば良かったとか。研究者やビジネスウーマンなんて、アスカ似合いそうだよ」
「それはないわ!
私の13才までの能力開発はエヴァのパイロットになるため。それからのパイロットの期間も合わせて、シンジにめぐり逢うための試練みたいなものね。
だから、それが私の仕事に生かせなくても全然後悔なんてしないわ」
シンジはまっすぐに私を見つめているわ。真剣な面もち…。嬉しい。普通の人なら冗談で済まされそうな話を真剣に考えてくれる。好きよ…、シンジ。
「じゃ、僕の意見を言うよ。ちょっとキツイかもしれないけど、怒るのは我慢してね。先に進まなくなっちゃうから」
「わ、わかったわよ。善処します…」
え〜、てことはシンジ反対なの?この間は、賛成って、あれ?そういや、シンジは一言も賛成なんて、言ってなかったわ。
はへ!嘘…。私、一人で舞い上がっちゃって…。シンジは私の言うことを絶対にきいてくれると…、思い込んでた…。
ちょっと、ブルー…。
「アスカ…」
「はい!」
ヤダ!声、裏返っちゃったよ。
「僕も喫茶店をしたいと思う」
「ホント?!」
やった!人生、バラ色!
「でもアスカの計画はズサンだよ」
「へ…?」
「こんな計画じゃ、僕たち暮らしていけないよ」
私の見事な計画が、ズサン…?へぇ〜、シンジ様って言ってくれるじゃない。
「僕もあれからいろいろ調べてみたんだ…」
え、あれからって、私が『したいなぁ…』って洩らした時?
やっぱり、シンジって大好き。あんな思い付きみたいな一言にも真剣に考えてくれる…って、どこがズサンなのよ!
「ちょっと、聞いてね」
20分後。
私はソファーに座って膨れていた。
確かに私の計画は、穴ばかりでズサンこの上なかった。
でも、ここまで徹底的にやっつけることないじゃないよ…。こんなんじゃ、喫茶店できないよね…。
開業資金がいくらかかるのか。営業資金がどれだけ要るなのか。生活するために売上がどれだけ必要なのか。お金だけでも考えることはいっぱい。
そして、シンジの腕ではお金を取ってお客様には食べさせられないってのが大ショックだったわ。
信じられない。あんなに美味しいのに…。
でも、私の為だけに時間をかけて作るのと、営業用に短時間で作るのは違うって言われると…、確かにその通りよね。
だから営業用の調理の腕を磨かないといけないんだって。私の紅茶も同様。
私、もっと簡単なものだと思ってた。夢とやる気があれば…、私とシンジの愛の力で何でもできると思いこんでたわ。
そんな私にシンジは美味しい紅茶を煎れてくれたの。
「ごめんね、アスカ。キツかった?」
「うん…」
目に涙が溢れているのを見られたくないから、私は俯いたままだった。
「ホントはね、僕もアスカと同じだった。結構、簡単に考えてたんだ。
でも調べてみると、そんな簡単な気持で営業し始めた喫茶店て、長続きしないんだって。
だから、ちゃんと考えてしっかり準備しないと駄目だってわかったんだ」
そうだったんだ。やっぱりシンジって最高!私にはシンジがいてくれないと駄目なんだ!え〜い、涙見せちゃえ。
「あ、アスカ、ごめん。泣いてたんだ…」
「ううん、嬉し涙よ。シンジが真剣だったから、嬉しかったの」
「はは」
あ〜ん、照れてるシンジも好きだよ!
「ね、シンジの意見聞かせて。考えてるんでしょ?」
「うん、あのね…」
シンジの意見は、思い付きの域(って私のことじゃん!)から脱していたわ。
1.大学に進学すること。但し学部は理数系は止めて、文系に変更して、将来の喫茶店経営に役立たせる。
さらに文系の方がアルバイト等の時間が確保しやすいから。
※2回生までにできるだけ単位は修得しておく。そして、3・4回生の時にしっかりアルバイトでお金を稼ぐ。
2.卒業後最低1年間、紅茶の技術習得のためイギリスに武者修行する。
※紅茶はアスカが担当。シンジはスコーン等の調理を学ぶ。
4.開業するのは6年後のアスカの誕生日。2025年12月4日。
5.場所は未定。但し盛り場や周囲が煩いところは避ける。
6.できれば家も店舗に併設する。
7.喫茶店が軌道に乗るまで、子供は作らない。
7が照れるわね。7が!
でも、この通りね。そうよ!きちんと準備して、シンジと二人で、じいさん&ばあさんになってもこの喫茶店を続けていくのよ!
「あ、シンジ?質問」
「はい、アスカさん。どうぞ」
「イギリスに行けるの?私たち。ゼーレ絡みで問題ない?」
「う〜ん、実は冬月司令にそれとなく聞いてみたんだ。責任はとれないって。でも、それで良ければ行ってもいいって。ゼーレの残党も今は壊滅状態らしいから」
「それはドイツのパパからも聞いたわ。」
だから、夏休みに新婚旅行を兼ねて、ドイツに里帰りするんだもん。
楽しみよね、シンジ!ふふふ…、シンジには秘密にしてるけど、パパがドイツの教会を予約してるのよ。
私たち、式はしてないもんね。日本では学校が絡むから我慢したんだもん。
あ、そうだ!
「ねえ、シンジ。イギリスだけでいいの?確かにさ、紅茶はイギリスが本場だけど、料理はちょっと…」
「うん、僕もそれは考えたんだ。本当はフランスとかドイツでも修行してみたいんだ。
まあ、修行といってもアルバイトみたいなものだけどね。
何も五つ星レストランの味を盗もうってのじゃないし、ただ料理の引き出しはいろいろある方が良いからね」
「じゃ、さ、一年を延長したら?例えば…ね…イギリスに半年、フランスに半年、で…、ドイツに半年…て、駄目?」
私は上目遣いでシンジを見た。これはいつものお願いモードじゃなくて、遠慮してたからそういう感じになっちゃったんだよ。ホントにホント!
「うん、そうしようか。ドイツでは、住まいの心配はいらないみたいだし。ね?」
「ありがと!シンジ」
私は思わずシンジに抱きついちゃった。
どうしてあんなに、パパが嫌いだったんだろう。
どうしてあんなに、新しいママを疎んじてたんだろう。
すべてが片づいたら、パパとママに何の嫌悪感も残ってなくて、逆に愛おしさが募ってたくらいだったわ。
ママはシンジのおかげだって言ってた。
だから、高校一年の夏にシンジと里帰りしたとき、あんなに歓迎されて、あんなに簡単に結婚の許しをもらえたのよね。
そうね。喫茶店を始めたら、なかなかドイツへは行けないから、最後の長期滞在になるわ。
「どんな店にするかは、今は決めてしまわないようにしよ。ね?」
「そうね。少しずつ決めていった方が楽しいもんね」
私はニコニコ笑いながら、愛する夫を見つめた。
夫と言っても、シンジはやっぱりシンジだ。法的に私たちは夫婦として認められるようになったけど、私の心は、4年前からシンジのものなの。
シンジの心も私のもの。
どんなに大人になっても、私たちは二人で一人なんだから。
「ね、アスカ。店名だけは、僕に決めさせてよ」
「あんまり変なのはヤよ」
そうよ。エヴァとか、ネルフとかは絶対ヤよ。さて、シンジ…、愛する旦那様はどんな名前にするの?
「店名はアルファベットで『ASUKA』」
私はその瞬間、顔から火が出たかと思ったわ。
だってそ〜じゃない。シンジとラブラブになってから、自己顕示欲はなくなったのよ、ってのは嘘だけど…。でもでも、自分の喫茶店に自分の名前なんて…。
恥ずかしいよ〜。
「どうしても…、それ?」
「絶対に『ASUKA』」
「決定事項なの?」
「そう、絶対に『ASUKA』」
「喫茶店、止めよかなぁ…」
「駄目。名前は絶対に『ASUKA』」
「あの…、旦那様…?」
「そんなの僕には効かないよ。絶対に『ASUKA』」
うぇ〜ん、シンジがこうなったら、サードインパクトが起きても駄目なのよ〜。
ヤだ、ヤだ。絶対にあの連中(関係者すべてよ)は、私が命名したって誤解するのに決まってんじゃん!恥ずかしいよ〜!
「どんなに頼んでも、駄目?」
「絶対に『ASUKA』」
「離婚、するって、言っても?」
「僕に死ねって、アスカは言うの?」
「あぁ〜ん、嘘、嘘。嘘ですぅ。そんなこと絶対にしませんよぉ〜だ。でも、店名は…」
「アスカ、くどいよ。そんなにイヤだったら、『ドロンパ』にでもしようか?」
鬼…。悪魔…。『ドロンパ』だけはやめて…。
私は無条件降伏した。
そして、2026年12月4日(予定より1年遅れちゃったけどね!)。
第3東京市の閑静な住宅街に、紅茶専門(禁煙)喫茶店が開店したの。
お店の名前は、『ASUKA』。
「「いらっしゃいませ!」」
夢のお店 〜紅茶をどうぞ〜
Act.4 卒業したら…
− 終 −
連作 『あなたの傍で…』
− 完結 −
アスカ、シンジ、他のみんなも、どうか幸せに…