「はん!そんなもの、迷信よ、メ・イ・シ・ンっ!」
「そうかぁ〜。これは迷信やないと思うでぇ」
「何言ってんのよ!そんなのがこの科学万能の時代に出るわけないでしょ」
「へぇ、ほな、科学の発達してない時代やったら、出てきとったわけや」
「ぐっ…」
あったま来るわね!何よ!こいつ、私に喧嘩売ってるわけぇ!
私をやり込めたと思って得意そうな顔しちゃって!
いくら親友の想い人だって、許さないから!
アスカは、目の前でニタニタ笑っているジャージ男を睨みつけた。
鈴原は小学校4年の時に大阪から転校してきたのだが、ことあるごとにアスカとやり合っている。
それでいながら別に絶交だという所までいかないのは口で言うほど嫌っているわけではないのか…。
今、アスカ自身が思ったように親友のヒカリがこの男に好意を持っているからなのか…。
いや、最大の理由は…。
「ふん!じゃあ、私がその場所に行って、何も出てこないって証明したげるわっ!」
腰に手をやってアスカは大見得を切った。
しかし、本心は…。
ああぁ〜!言っちゃったよ、この馬鹿アスカ。
ホントは怖いの苦手なくせに。
どうしよ…、ホントに出てきたら…きっと泣き出しちゃうよぉ。
で、でも…!負けるのやだっ!
あぁ…出ないよね、幽霊なんか出ないよね…。
学校の怪談
良かったぁ…。
とりあえず、今日は行かなくて済んだわ。
ふん!何よ。馬鹿シンジの癖にあいつらと一緒になってさ。
でも…あれって私のこと考えてくれたんだよね、シンジ。
「大好き…」
そう呟いて、クレーンゲームの景品ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめるアスカ。
小学校5年の時にお隣と家族ぐるみで行った温泉旅行。
その温泉にあった小さなゲームセンタ−の時代遅れの景品ばかりのクレーンゲーム。
そこでシンジがとってくれた、わけのわからないキャラクターのお猿さんのぬいぐるみである。
口では仕方が無いからもらってあげる、なんて悪態をついていたが、
その日からそのぬいぐるみはアスカの宝物になっている。
そして、アスカが思い返していたのは、今日の放課後のことである。
完全に勢いだけで、
その問題の場所…幽霊が出るといわれる場所に今から行くと鈴原に宣言してしまった時のことなのだ。
本当は行きたくなんか絶対にないアスカの気持ちをわかってくれたかのように、
シンジはアスカとトウジの間に入ってきた。
「別に今日じゃなくてもいいじゃないか。なあトウジ」
「え?あ、ああ、センセがそう言うのなら、わしはそれでもええで」
「じゃあさ、明日の放課後にしようよ。ね、アスカ。それでいいだろ」
「わ、私はいつだっていいわよ」
「うん、じゃ明日。そういうことで」
シンジはニコニコ笑いながら、話をまとめた。
嬉しかったな…。
シンジって、きっと私が怖がりなの覚えてたんだ。
だから、ああやって助けてくれたんだよ。
あの鈴原だって…シンジの友達なんだもん。いくらあんなヤツでも少しは我慢して相手してやんないとね。
胸の中のぬいぐるみに、そう話し掛けるアスカ。
愛する人に守ってもらっている。
たとえ、想いを未だ伝えられていなくても…。
アスカは幸福だった。
誤解である。
大きな誤解である。
シンジはアスカのことをこれっぽっちも考えてはいなかった。
『あん時は慌てたで。惣流がすぐ行くなんてゆうたもんやからな。
センセがうまいこと中入ってくれへんかったら、作戦は大失敗やったわ』
「そりゃ、アスカとの付き合いは長いからね、
あんな風に言ったらすぐ行くなんて言い出すの当然だよ」
『ははは!あいつのことはセンセが一番よう知っとるからな。
せやけど、大丈夫か?』
「何が?」
『あとでバレたとき、半殺しにされへんか?』
「はは…何とか逃げるよ。確かに恐ろしいけどね。アイツ怒ったら見境ないから」
『せやろ。まあわしらは学校で逃げまわっとったらええ話やねんけど、
センセは隣に住んどるさかい逃げ切られへんからな』
「そんな怖いこと言うなよ。僕にとっては、幽霊よりアスカの方が怖いんだから」
『ははっ!そりゃええわ。せやけど、センセはそのこの世の中で一番怖いもんよりお金を選んだってわけや』
「だって仕方がないじゃないか。今月ピンチなんだから…」
『知らんでぇ。ま、センセの協力がなかったらこの作戦はでけへんからな。……あ〜!何やて?』
電話の向こうで、トウジの妹の声がする。
どうやら早く風呂に入れと怒ってるようだ。
あのトウジも妹には逆らえないみたいだ。
あ、もう一人いたっけ。洞木さんだ。
トウジもいい加減好きなら告白すればいいのにと、シンジは思った。
そしてレースのカーテン越しに見える、アスカの部屋の明かりを見た。
柔らかなオレンジ色の光が暗闇の中に際立っている。
アスカ、ごめんね。許してよ。
あのCDどうしても欲しいんだ。新譜で買ったら、特大ポスターもらえるんだから。
霧島マナってアイドルタレント、とっても可愛いんだよ。
惣流アスカ。
本人の知らないところで結構不幸な少女である。
翌日。
昼休みのことである。
「あ、なんだ。あいつら外で食べるんだ…」
「そうみたい…ね」
ヒカリは教室から出て行く3人を見ているアスカの横顔を見つめた。
アスカの目には3人のうちの碇君しか映ってないみたいね。
いつもアスカが碇君を見ているの、どうして碇君本人は気付かないんだろう。
その3人は体育館の裏手で作戦の最終確認中だった。
「いいか。俺はあの場所に隠れてる。トウジは2人と別れたらずっと下にいること。いいな」
「OK!わかったで」
「シンジはタイミングを計って惣流に一緒に行くって言うんだぞ」
「う、うん」
「もしお前が一緒じゃないと俺が隠れてるのを見つけるかもしれないからな。
シンジが巧く惣流を誘導して、あの階段を上るんだ。
横に並んだりしたら駄目だぞ。惣流を先に上らせるんだ。
そして12段目まで行ったら、惣流の横に立ち話しかける。
できるだけ長い時間話すんだぞ。
その間、俺はシャッターを押し続ける。
今日はデジカメだからシャッター音はしないし、ナイトモードをさらに改造したから、
太陽の下で撮るくらい鮮明に写るぜ。
しかも800万画素だ。A2サイズにプリントしても美麗な出来になる。
こいつは高く売れるぜ」
「計画はわかったけどさ、アスカのパンチラがそんなに高く売れるのかな?」
とぼけた顔のシンジに、残りの二人はあきれ返ってしまった。
あの壱中で一番人気の惣流アスカの魅力がわからない男がいる。
トウジもケンスケも本命が他にいるからアスカ命にはなりはしないが、
それでももしアスカの水着写真が欲しいかといえば絶対に欲しいに決まってる。
3/4の白人の血が織り成す他の女生徒とは違う容姿は、平凡な男子中学生には毒そのものなのだ。
それをアスカの至近距離にいる、男子生徒の羨望の的たるシンジだけが気付いていない。
別に女性の神秘に目覚めていないわけではない。
ただ、今はシンジ憧れの的はアイドルのマナちゃんだけなのだ。
アスカにとって、放課後までの時間はあっという間だった。
自分のプライドを傷つけずに、約束から逃げることが出来ないか。
それだけを考えて…
いや、そのことを考えたり、5つ前で窓際のシンジの横顔を眺めたり、妄想にふけったり…。
恋する少女には考えることが山ほどあるのだ。とても忙しいのである。
ともあれ、放課後。
アスカとトウジ、そしてシンジは旧校舎の前に立っている。
閉鎖されてこの冬に解体工事が決まっている旧校舎。
秋風が落ち葉を舞い上げて、閉鎖された入口に纏わりついている。
もちろん照明は点いておらず、日が落ちるのが早いだけに舞台効果は満点だ。
「どないしたんや?惣流よ。ぶるっとんちゃうやろなぁ」
「はん!そんなことあるわけないでしょ!
でも、入れないんじゃないの?どこにも入り口ないじゃない」
何とかこの状況から逃げようと知恵をめぐらすアスカ。
「大丈夫や。裏手の囲いが外れよるんや」
「あ、そ、それはよかったわね」
「こっちや」
まず普通の女生徒ならこんな場所には絶対に来ないだろう。
ましてや、男と一緒に来る等とは、よっぽどのお馬鹿か…。
まあ、彼女の場合はシンジが一緒にいるという一点がすべてなのだが。
さて、問題の外れる囲い。
つい5分ほど前にケンスケを潜り込ましたあと、板を立てかけておいたのだ。
「ふ〜ん、ここから入るんだ」
どこまでも強気のアスカは唇を尖らせて腕組みする。
「せや。ほなら、行って来てもらおかいな」
「へ、へえ、アンタは来ないんだ」
「せやで。見張っとかんとな。先生とか不良とか来たら困るやろ。
それに惣流かって女やねんから…こんなとこに男と入らん方がええやろ」
「へぇ、そうなんだ。鈴原にしたら気が利いてるじゃない。は、はは」
勘弁してよぉ。こんな暗い中を一人で行くの?
信用してるからみんなで行こうって言ってみようかしら?
早くも怖がりの兆候が見え始めたアスカである。
「さあ、行こうか、アスカ」
シンジが懐中電灯を手に中に入った。
「え?シンジは行くの?」
その瞬間、アスカの表情がパッと明るくなる。
その変化に気付いたトウジは、もともと鈍感な男ながらもその表情の意味するところを理解した。
そうか…そやったんか…あの惣流が…そりゃ、ちょっと悪いことしてもうたな…。
だが、トウジの反省は3秒も保たなかった。彼は余所行きのジャージが欲しかったのだ。
すまんの、惣流。
まあ、いつか埋め合わせしたるさかいに、今回はケンスケにパンチラ撮らしたってぇな。
シンジに続いて中に入っていくアスカの背中に、トウジは手を合わせて拝むのだった。
建物の中は真っ暗ではなかった。
窓に打ち付けてある板のあちらこちらから漏れている夕日が廊下をぼんやりと浮き上がらせている。
「ほ、埃っぽいわね!」
「仕方ないじゃないか。ずっと封鎖してるんだから」
「は、ははは、そ、そうよねっ!」
さすがにシンジは頭を捻った。
どうもいつものアスカのノリと違う。
いつもは、自信満々で…高慢で驕慢で上慢で傲慢で…えっと…他にあったっけ。
とにかく、今のアスカは変だ。
どこか変だ。
はは、からかってやれ。
シンジは懐中電灯を顎の下から上に向けて、アスカを振り返って見た。
つるんとしたシンジの顔でも照明効果は抜群である。
……。
叫ぶか、殴るか、とにかくそんなアプローチがあるものだとシンジは予期していた。
が…。
シンジの足元にへたり込んでしまっているのは、
紛れも無くあの自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な、あのアスカだ。
アスカはシンジを見上げて震えている。
声も出ないようだ。
シンジは対応に困ってしまった。
どうしよう…こんなの考えてなかったよ。てっきり攻撃されると思ってたのに…。
と、とにかく、このままじゃ、あとで酷い目に合わされる。
「ご、ごめん。そんなに驚くって思ってなかったんだ。本当にごめん。ね、アスカ」
アスカは無言である。
その上、薄暗い中でも青い瞳が潤んで見えた。
ち、ちょっと待ってよ。これ、本当にアスカ?
あの自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な、僕の幼馴染のあのアスカなの?
これじゃ、まるで女の子じゃないか!
つまりシンジは壱中随一と言われる美少女を異性と思ってなかったのだ。
あまりに近い存在だった。小学校まで取っ組み合いの喧嘩をしていた相手だ。
アイドルタレントに憧れても身近な存在が目にとまらなかったのは、シンジのシンジたる所以だろう。
鈍感大王。
あのトウジですら鈍感二等兵程度なのだから、シンジの鈍感さはとんでもない。
1年のバレンタインでもらったたくさんのチョコレートをアスカに一緒に食べてよと邪心無く頼むくらいだから。
意地になって食べて鼻血を出したアスカもアスカだが。
その鈍感大王の奥の院の扉が、この時少しだけ開いたのかもしれない。
「あ、アスカ、どうしたの?」
「明かり、こっち向けないで」
「あ、ごめん」
アスカは自分でも驚いていた。
シンジに驚かされただけで、悲鳴も上げずに腰を抜かすなんて…。
彼を信用しきっていたから、そのシンジに驚かされて芯が折れてしまったのだろう。
アスカは目の淵にたまっていた涙を指でぬぐって、それから立とうとしたが立てない。
こんなに情けない姿をよりによって恋しいシンジに見られるとは。
できることなら人類の歴史から今の出来事を抹消したいと痛感するアスカである。
「アスカ…立てないの?」
アスカはそっぽを向いてうなずいた。
「ご、ごめんよ。本当に」
シンジは手を差し出した。
「ほら、つかまって」
「うん…」
アスカは…やっぱり立てなかった。
「か、帰ろうか…?」
シンジはこの時、友よりもアスカを選んだことに気付いていない。
ただアスカが可哀相だという思い…ではなく、あとの仕返しを恐れた所為である。
鈍感大王はそんなに簡単には恋に目覚めはしない。
奥の院の扉は未だ閉ざされていた。
この場では自己の保身を考えたというのが妥当な線だろう。
「いや」
「え?」
「いやだ。絶対にいや」
アスカの瞳にはもはやかげりの色は微塵も無く、そこに見えるのはただ負けたくないという想いだけ。
プライドの権化。
シンジはアスカの表立っている性格を失念していた。
あのアスカがすごすごと帰るわけがない。
トウジに笑われるくらいなら、きっと這ってでもアスカは行くだろう。
アスカはそういうヤツだ。シンジはそう思うと、アスカの前に背中を向け中腰になった。
「え?」
「おんぶ…。してやるよ。誰もいないし」
ケンスケの隠れている手前で下ろせばいいんだ。
今度はアスカのパンチラを狙う友のことを考えてしまう。
優柔不断とはこのことであろう。
しかも、おんぶという行為がどういう結果を生むのか、鈍感大王は気付いていない。
アスカの方はそれを知っているから、今極度に戸惑っているのだ。
「ほら、早くしろよ」
早くしないと、ケンスケが不安になるじゃないか。
そんなことを思いながら背中を揺すってアスカを急かすシンジの真意は彼女には伝わっていない。
もし伝わっていたら、アスカの抜けた腰はすぐに治ってシンジを再起不能にしていただろう。
シンジにとって…この場合はアスカにとっても幸いなことにアスカはただ嬉しい気持ちで一杯だった。
自分のことを気遣ってくれる。この世で一番好きな人が!
アスカはおずおずとその背中に向かった。
ああ…あんな事いわなきゃ良かったよ。
どうしてこんなに重いんだ?
アスカが知れば後から首を締められそうなことをシンジは考えていた。
背格好はアスカと変わらないシンジである。
予想していたよりも遥かに重いアスカ。
しかも彼女は密着をさけようと上体の重心を後に傾けている。
シンジがヨタヨタとしてしまうのは仕方がなかった。
「ちょっとアスカ」
「な、何よ」
「歩きにくいから、ちゃんと負ぶさってよ」
「え、えっ…わ、わかった…」
惣流アスカ。近年稀に見る従順さである。
恥じらいながらも、シンジの背中にくっついた。
「ああ、歩きやすくなったよ」
碇シンジ。相変わらずの鈍感大王である。
アスカがこの時間がいつまでも…と至福の境地にいるので無口である。
そのため、シンジは考えつづけていた。
本当にアスカは重くなったなぁ。
最後におんぶしてやったのはいつだったっけ?
えっと、確か…。
そうだ。小学校3年の夏休みじゃないか。
お隣とみんなでネルフランドに遊びに行ったときだ。
うん、今みたいに暗い中をおんぶしたっけ。
暗い中?
あれ?どうしてそんなところで…?
ああ、思い出した。
お化け屋敷でアスカが腰を抜かしたんだ。
ははは、歩けないから助けて…なんて弱音吐いちゃってさ。
あ、そうだ。アスカってよく考えたら、怖いの苦手じゃないか。
それでさっきも…。
あ〜あ、そんな怖がりなのに見栄が張ってる所為でこんなことになるんだから…。
アスカも大人にならなきゃ。
いかにも自分が大人であるような考えをシンジは抱いていた。
目的の階段までもう少しである。
ケンスケが隠れているのは、2階と3階の間の踊り場。
そこに机や椅子を積み上げて身体が見えないようにしている。
3階の廊下にさしかかる場所が撮影ポイントだ。
さて、アスカをおんぶしたシンジは1階の階段の下にたどり着いた。
ところが、アスカは降りようとする気配がない。
「ちょっと、アスカ、降りてよ」
「……」
この時、シンジはアスカが怖さのあまり降りようとしていないのだと誤解していた。
実際は幸せ一杯夢一杯状態で、周囲が全く見えてなかっただけなのだが。
困ったな…。
アスカを負ぶったまま階段を上るのは、体育会系ではないシンジにはとんでもない運動である。
だが、少なくとも2階まで上がらないことには…。
シンジは悲壮な決意を固めた。
平面を歩くようにはいかない。
一段づつゆっくりとシンジは足を進める。
重い…重いよ…。
勘弁してよ、どうして僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ。
そうだ、マナちゃんのためだ。がんばろう!
マナちゃんの特大ポスターをゲットするんだ。
アスカが重いくらいなんだ!
ふへぇ…でも…階段はきついよ…。
アスカの身体がベタッて、くっついて…。
その瞬間、シンジの中の何かが目覚めた。
こ、この、背中の感触は…。
も、もしかして、い、いや、間違いなく、そ、そうだよな、は、はは、これって…。
アスカも女なんだから、あるのは当然だよ。
で、でも、アスカにもあったんだ…!
こ、こ、こ、こ、こんな感触なんだ、あれって。
柔らかくて…ぷよぷよしてて…。
何だか背中が気持ちいいよ…。
げっ!やばい!おい!こんなところで!
どうしよ…困っちゃったな…手塞がってるし。
こんな状態で階段上ったら、ケンスケにまる分かりじゃないか。
写真にでも撮られたら、もう学校に来れないよ。
シンジはパニック状態になっていた。
時と場合が許せば、思春期の少年にとって大歓迎のシークエンスなのだが、
今はそれどころじゃない。
アスカにも見られないように、沈静化しないと…。
そうだ!ケンスケの水着姿を想像するんだ!
……。
駄目だ。背中の素敵な感触の方が上回っている。
まず、アスカを降ろしてから、それから沈静化だ。
シンジは何とか踊り場までたどりつくと、アスカを急に降ろした。
「きゃっ!」
至福の時を突然中断されたアスカは慌てて手すりにしがみつく。
どうやら腰は伸びたようだ。
「ど、どうしたのよ、シンジ」
深呼吸!深呼吸だ!
アスカに背を向けてシンジは息を整えた。
よ、よし!大丈夫だ。もう誰にもわからないぞ。
はぁ…はぁ…、アスカにこんなこと知られちゃ多分殺されるだろうな。
「ご、ごめん。もう限界だったから…」
「あ、そっか。ごめんね、重かったでしょ」
「う…、い、いや、そんなことなかったよ」
シンジは賢明にも嘘をついた。
こういう場合の嘘は歓迎されるのが通常である。
当然、アスカの顔は綻んだ。
「そ、そう。シンジも…たくましくなったのね」
この言葉を聞いた瞬間、シンジは胸が締め付けられるような気持ちになった。
ど、どうしたんだ、僕は。
そ、そうか。アスカに誉められるなんて、滅多にないからそれでだ。うん、そうに決まってる。
な、なんなんだ。顔がぽぅっとしてきた。
へ、変だな。アスカに誉められて照れるなんてさ。
「どうしたの。シンジ?」
アスカが怪訝な顔で見つめる。
「顔が赤いわよ」
「え?そ、そうかな。は、はは」
「あ、と…3階よね、美術室って…その…出るってとこ」
アスカが恐る恐る上を見上げた。
その表情もシンジの感情を大きく揺さぶったのである。
な、何だ?今のアスカの顔。凄く儚げで、ぎゅってしたく…。
ぎゅっ…?
え…、今、ぼ、僕がアスカを守らなきゃって、そう思った…。
僕がアスカを守るって?
この自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な、僕の幼馴染のこのアスカを?
シンジは頭の中で首を思い切り左右に振った。
違う違う違う!
きっとさっきのおんぶの所為なんだ。
アスカのアレが柔らかくてぷにょんと…。
ああぁっ!駄目だ!思い出しちゃったよ!
沈静化、沈静化!
マナちゃん!僕は肉体の悪魔には負けないからね。
僕は君をピュアな気持ちで好きなんだ!
この自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な、肉体の悪魔には絶対に負けないぞ!
「よし!じゃ、行こうか!」
肉体の悪魔の誘惑を振り払うべく、きっぱりと言ってのけたシンジの姿にはいつもの優柔不断さは微塵もなく、
シンジに恋するアスカの眼には、それはそれは凛々しく写ったのである。
凄い!シンジ、格好いいよ!
誤解と錯覚が、運命を切り開いていく。
その一瞬はもうすぐそこまで来ていたのだ。
はぁ…やっと来たな。
シンジ、遅いぜ。すっかりケツが冷えちまった。
おっ!惣流のヤツ、あんな表情して…滅茶苦茶可愛いじゃないか!
売れる!これは高く売れるぞ!
カメラマンの性でついアスカの表情につられてシャッターを押し続けるケンスケ。
や、やばい!カードが一杯じゃないか!調子に乗りすぎたぜ。
よし!とっておきの512MBだ。
これだったら、最高画質でも50枚は撮れるぞ。
入れ替え完了!
ふっふっふ。ここの階段の傾斜がこの部分だけ異常にきついって事を先輩から聞いたときは、
閉鎖されてるんだからどうしようもないってあきらめてたけど、
こんなに巧くいくなんて!
そうだ!二人に黙って他校にも売りさばいたら、交換レンズが買えるかも!
よしっ!撮るぞ!傑作を撮ってやる!
しかし、シンジのヤツ、どうしてあんな凛々しい顔してるんだ?
「し、シンジ。大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
もう少しだ!もう少しでケンスケの撮影ポイントだ。
「シンジ、私…、ほ、ホントは怖いの」
「大丈夫。僕がいるから!」
この!悪魔め!そんな顔をして僕を誘惑してるんだな!
くそ!負けるもんか!僕は負けないからね、マナちゃん!
「シンジ、アンタ、凄く格好いいよ…」
自分が魔族扱いされているのも知らず、アスカはシンジの虜になっていた。
「ちょっとぉ、あの声、うちのクラスのアスカとシンジ君じゃない」
「あ、そうだな」
「誰も来ないなんていい加減なこと言って」
ミサトはブラウスのボタンを手早く付け始めた。
「こんなとこ見つかったらクビよ。クビ」
「大丈夫さ。あの二人なら」
「そんな保証はどこにもないわ。どうしてアンタはいつも大雑把なのよ」
3階の廊下の陰で顔を寄せ合って小声で話しているのは、
アスカたちの担任の葛城ミサトと彼女の恋人である美術教師の加持である。
身だしなみを慌てて整えてるところを見ると、この場所で何をしていたかは一目瞭然である。
「まずいわねぇ…思い切りまずいわね、何とかしないと」
「あ、わかった。あいつら、あの噂で来たんだ」
「噂って?」
「ああ、旧校舎の美術室に幽霊が出るって噂さ」
「えっ!ほんと?」
「ああ、俺が流した」
「あんたねえ、馬鹿じゃないの。そんな噂流したら来るヤツが増えるだけじゃない」
「面白いじゃないか。スリルとサスペンス」
「相変わらずいい加減ね」
「ふふ、そんな男に惚れてるのは…」
ビシッ!
加持の額にミサトの指が炸裂する。
「酷いなぁ。俺はお前に夢中なのに…」
「ちょっとぉ…やめなさいよ。こんな時にぃ…」
よし、やっと踊り場。
ケンスケはあそこだよな。
えっと、僕はアスカの後を歩いて、ケンスケの場所を隠すんだよな。
すっと後ろに回ったシンジに、アスカが怪訝な顔をした。
「ど、どうしたのよ。そんな後に行ったら私、怖いよぉ」
うわ!この悪魔、魔女め!そんな顔で僕の心を掴もうとしても無駄だぞ!
で、でも、どう答えたらいいんだ。僕も怖いから守ってよ…なんて言ったら、アスカ怒るよな。
困ったな…。そうだ。
「今、下の方で少し音がしたんだ。だから」
「私を守ってくれるの?!」
「そうだよ、アスカを守ろうと思って」
「ありがと!シンジ」
チクリ!
少しだけ、シンジの良心が痛んだ。
アスカがこんなに僕のことを信頼して…。
ああ!駄目だ。これも悪魔の誘惑のひとつなんだ。
がんばるからね、マナちゃん!
「わかったわ。じゃ、私が先に行くからね」
惣流アスカは健気な少女であった。
シンジがこんなことを考えているのも知らずに、彼の言葉にこたえるために怖さを押し殺して階段を上ろうとしている。
な、なんて素直なんだ。これがアスカか?
あの自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な、僕の幼馴染のあのアスカなのか?
振幅の激しいシンジの心は再び揺れ始める。
本当にアスカは肉体の悪魔なんだろうか?
そうなんだろうか?
マナちゃんにいくら愛を誓っても、その見返りは何だ?
特大ポスターが1枚壁に貼られるだけじゃないか!
アスカに…アスカの誘惑に屈したら…、これから先には…。
あんなことやこんなことが…。
やばい!ケンスケの目の前で…でも、アスカの方を向いても…早く戻さなきゃ!
前門の虎後門の狼ってこのことだ。シンジはそう思った。
彼は肉体と精神の弱さを隠せない、しかもどこまでも自己中心的な少年であった。
沈静化に専心しているシンジをよそに、アスカは上を見上げてゆっくりと階段を上り始める。
怖いのだ。本当は大声で叫んで逃げ出したいのだが、彼女にはそれが出来ない。
シンジが…世界で一番好きな人が、私を守ってくれているのだ。
渾身の力と勇気を振り絞って、己の臆病な心に立ち向かうの!
彼女は思い込みの激しさと行動力では誰にも負けない、やはり自己中心的な少女だった。
互いに己の心に立ち向かっていたのは事実だが、彼と彼女の落差はあまりに激しかった。
運命の刻まで、あと5秒。
あ、アスカがもうあんなに上がってる。急がなきゃ。ケンスケに怒られる。
本来の使命を思い出し、小走りに階段を上がるシンジ。
やだよ。やっぱり、怖いよ。
ほら、あそこに何か…えっ!ホントに何か…いるっ!
アスカはその場に立ち止まった。
ぺちょんっ!
前傾姿勢で駆け上がったシンジの顔は、暖かく柔らかいものに接触した。
目の前が真っ暗になったシンジはその物体から離れた。
何、これ?
ああ、アスカの足じゃないか。
アイツ、何立ち止まってんだ。
目の前5cmにあるアスカの太腿の裏側。
暗がりの中でもはっきりわかる、白くて長い足。
えっ!これがアスカの足?
あの擦り傷だらけで汗まみれで骨ばっていて、僕の首をぐいぐいと締め上げてた、あの乱暴な足?
嘘だ…。
きめが細かくて、つるんとしてて、柔らかくて、それにこんなに白くて…。
でも、きゅって引き締まってて、格好いいよ。
まるで、女神様のような…。
綺麗だ…。
頬擦りしたい…。
この瞬間、シンジはようやく壱中の一般常識に到達した。
なんだ、アスカって凄く綺麗なんだ。
いや、足だけじゃないや、胸もあんなに大きくて柔らかかったし…、
顔…、顔は…、えっと…、可愛い…かな?
うん、マナちゃんとは違うけど、可愛いし、うん、綺麗だ。綺麗な顔をしてるんだ。
へぇ、そうだったんだ。こんな近くに、こんな美少女がいたんだ…。
あははは、僕って馬鹿だな。
しかも幼馴染でさ、こんなに仲良しで…、パンチラの写真が高値で売れる…。
……。
えぇっ!アスカのパンチラの写真を売りさばくんだってぇっ!
そんなの許さない!僕が許さないぞっ!
アスカは僕のものだ!
「アスカ!」
「な、な、な、な、な、な、なに?」
「アスカは僕が守る!」
時間を10秒戻そう。
ふへっ!
あそこ…あそこに誰かいる…。
か、身体が動かないよ。
ゆ、幽霊さん?どうして出てくるのよ!
誰も出てきてくれなんて言ってないのに!
首だけ浮いてるように見えるけど、私の目の錯覚?
ひえぇ〜、真っ赤な口が耳まで裂けてるよ。
目の周りも真っ赤だし!
あ、ああぁ〜ん、怖いよぉ!
シンジ!シンジ!
幽霊に気がついていないのかしら?
し、喋れないよ…。
ほ、本物の幽霊なんて、見たくないよぉ!
シンジ、お願い。
私の大好きなシンジ!助けてぇっ!
「アスカ!」
わ!シンジ!
「な、な、な、な、な、な、なに?」
あ、声が出たわ!
「アスカは僕が守る!」
!!!!!
シンジ、シンジ、シンジ、シンジっ!
アスカ、アスカ、アスカ、アスカっ!
お互いを思う気持ちは一致したのだが、何から守るのかは完全に食い違っていた。
「アスカ、行こう!もうここにいなくてもいいよ!」
「う、うん!」
シンジはアスカの手を握り、素早く階段を駆け下りた。
慌てたのはケンスケである。
被写体に逃走された上に、階上の幽霊と視線が合ってしまったのだ。
「あわわわ!」
グワシャゥッ!どしゃんっ!
盛大に机や椅子を弾き飛ばして、ケンスケも階下へと豪快に退場していった。
「あらら、あんなところにもう一匹隠れてたんだ」
「しかもあれは相田だぜ。フォーカスされなくてよかったな」
「でも、アイツならまた後で撮りに来るわね。あ〜あ、ここはもう使えないか」
「いいんじゃないか。スリルがあるぜ」
「私は結構。露出狂の気はないから」
がたがたっ!
「ち、ちょっと、止めなさいよ。あの子たちが戻ってきたら…」
口では色々言っても、加持には逆らわないミサト先生である。
「待ってよ。せめてこのメイク落とさせてよ」
「そのままでいいじゃないか。口裂け女といちゃつく機会なんてそうないからな」
「こ、こら、暗幕の中、入らないでよ。埃が…」
そして、首を中に浮かして見せるために身体に巻いた暗幕の中に二人の姿は消えた。
さすがは相田ケンスケ。あんなに慌てて逃げ出していても、カメラだけはしっかり放してない。
例の出入り口までたどり着くと、小声で状況を確認するところなどはやっぱり策士だ。
「おい、トウジ。あいつらは?」
「あ、ああ、お、おらへんでぇ」
「そうか」
作戦の失敗をぼやきながら、身を屈めて外に出る。
「あ〜あ、失敗したぜ。まさか本物が出るなんて…。計算外だ…そ、惣流!」
目の前に仁王立ちしているのは、
そう、シンジが言うところの“自信満々で高慢で驕慢で上慢で傲慢な”あのアスカだった。
「あ、あああ…」
「シンジ!」
「ケンスケ、ごめんよ」
「あっ!」
シンジが呆然としていたケンスケの手からデジカメを奪い取った。
「し、シンジ、お前…!」
「ケンスケ、いくら友達でも許せないよ。アスカのパンチラで大儲けしようだなんて!」
開いた口が塞がらないので、ケンスケは発言できない。
豹変するのは君子だが、この場合は単なる裏切り行為である。
「さすがは私のシンジよね。最後の最後で私の方に帰ってきてくれたわ」
大きく肯くシンジ。
世間ではこういう行為を寝返りというそうだ。
「はい、アスカ」
「あ、俺のカメラ」
「没収よ!」
右手でデジカメをもてあそぶアスカは、次なる命令を発した。
「ほら、鈴原」
「お、おう」
ケンスケを羽交い絞めにするトウジ。
「と、トウジ!」
「すまんの」
「裏切ったな!」
「しゃあないんや」
すまんの、いいんちょに言いつけるなんて言われたら、わし何もよう言えんねや。
そ、それにいいんちょにええように言うてくれるってな。
今日は我慢してくれや。男の友情ゆうヤツや。
鈴原トウジ。意外に友情より愛情を選択した。
まあ、この場合の選択は正しいといえる。
ケンスケの方は後で謝れば許してくれそうだが、片思いの人の親友を完全に敵に回すわけには行かない。
「シンジ」
「うん」
身動きできないケンスケの身体を探るシンジ。
そしてポケットから撮影済みのカードを出して、アスカに渡す。
「あああっ!待て!シンジ、CD買えなくなるぞ!」
「もういいんだ!それよりアスカの方が大事なんだ!」
シンジの叫びにアスカの頬は真っ赤に色付いた。
シンジって大胆なのね。嬉しい!
「わ、わ、わ、私、そのCDプレゼントしてあげる!」
「本当?やったぁ!見ろ、ケンスケ!アスカは最高だ!」
一石二鳥とはこのことである。シンジは勝ち誇ったようににこやかに笑っていた。
そして肩を落とすケンスケを未だに羽交い絞めにしながら、
トウジはこのラブラブパワーの余波で自分にも春が巡ってこないかと甘い期待をするのだった。
数時間後、自分の机を前にアスカは腕組みをしていた。
怖いよぉ。写ってたら、どうしよ。幽霊…。
シンジと一緒に確認して…駄目駄目…あんなにブルってる私の顔、愛するシンジに見せることなんかできない。
アスカは目を閉じた。
思い出す、あの耳まで裂けた赤い口。
背筋が震える。
しかし、アスカは勇気を奮い起こした。
「行くわよ!アスカっ!」
そう叫ぶとマウスをクリックして画像閲覧ソフトを起動する。
恐る恐るモニターを見ると、サムネイルが展開し撮影画像が一覧できていた。
あ…あんなに暗かったのに、へぇ…凄く明るく写るんだ。
相田のヤツ、ただの馬鹿でもないのね。普通に写真やってりゃいいのに。
うへぇ〜、やっぱり私の顔、変…。よかった…シンジに見られなくて…。
わ!これなんか、下唇でちゃって目じりが垂れちゃってるよ。酷い顔。
消去よ、消去!でもシンジの顔、格好いいから…困ったわね…。
あわわわ!出たわ!幽霊よ!
アスカは眼を背けた。最後の一枚。小さな画像だが、あの顔が写ってる。
相田のヤツ、こんなのもしっかり撮ってるじゃない。
惣流アスカは怖がりの癖に、好奇心は旺盛である。
散々ためらった挙句に、画像の全体表示を指示した。
ぎえええええぇ〜っっっ!
アスカは手で顔を覆う。す、凄い、凄すぎるわ。こんなの心霊写真番組でも見たことない。
ちらっ。指の隙間から、アスカはもう一度、画像を見る。
……。
あれ?
これって…もしかして…。
ああっ!幽霊の向こうに小さく写ってるの加持先生!じゃ、やっぱりこの幽霊は、ミサト…?
……。
加持先生、上半身裸じゃないの…。
こいつら、こんなとこで…教師の癖に…。
やがて、アスカは机をたたきながら、爆笑し始めた。
あんたら、良かったわね!私がデジカメ取り上げてなかったら、大変なことになってたわよ!
翌日、2年A組で緊急の席替えがあった。
といっても、アスカとトウジが交換されただけ。
理由はトウジと隣のシンジが授業中に話すからとのことだったが…。
当事者4人には幸福この上ない席替えだった。
周りの目を気にせずににこやかに笑いあうアスカとシンジ。
隣を気にし合って、ぎこちない動きのヒカリとトウジ。
写真を種に強請られたミサトはこの程度だから、まぁいっか…と能天気に思春期の若者たちを見やるのだった。
またどっかいい場所探さなきゃね…。
そしてさらに半月後。
シンジは待望のCDと特典ポスターをアスカから手渡された。
アスカの手を取って大袈裟に礼を言うと、階段を駆け上がりCDをベッドに放り出す。
目的はCDよりも、特大ポスターなのだ。
はぁ…はぁ…、落ち着け、落ち着くんだ。
慌てて広げて破れたりなんかしたら台無しだ。
マナちゃん…もうすぐ会えるよ。君の微笑みに…。
丁寧にポスターを伸ばしたシンジは、あの素晴らしい微笑みと向かい合った。
アスカの微笑みに。
……。
しばらく呆然と超特大の…新聞より大きなアスカの笑顔を見つめた後、
シンジは爆笑した。
や、やられた!デジカメを返す引き換えにケンスケに作らせたな!
ありがとう、ケンスケ。いい仕事してるよ、これ。
こ、こんな美少女が僕の彼女なんだ。
凄いや…どこに貼ろうかな…。
すっかりアイドルのマナちゃんのことは、シンジの頭から離れてしまったようである。
そして…まさかと思いベッドに投げ出されたCDの包装を解くと…、
予想通り、ジャケットにはアスカが、それはそれはにこやかに笑っていた。
− おしまい −
おまけ
同日、午後3時。
アスカのCDを特大ポスター付きで販売しようと目論んでいた相田ケンスケはアスカ親衛隊の急襲を受ける。
親衛隊長・碇シンジは出荷寸前だった300点のCDとポスターを押収し、原版をすべて破棄した。
そして親衛隊員(アルバイト)・鈴原トウジは思った。
すまんの、ケンスケ。この仕事が成功したら、だ、だ、だぶるでぇとを企画してくれるんや。
まあ、惣流の予想通りに海賊盤販売を考えたお前が浅はかやったんや。
往生せいや。せやけどこんだけ作るのに、なんぼ使こうたんや。こいつ、破産してへんか…。