この作品は「新薬」「認知」の続編です。まずは、「新薬」「認知」をお試し下さい。
第1次攻撃計画。
名付けて「僕のこと見てよ」大作戦は、残念ながら失敗。
でも、私には第2次攻撃計画があるわ。
名付けて「僕のこと嫌いなの」大作戦。
シンジが人に嫌われるのをいやがる性質を利用した、逆説的な高等心理作戦よ!
告 白 〜決戦!コンフォート17〜
Act.2 第2次攻撃計画
あ〜、美味しかった!
シンジのハンバーグは最高よね!
この味からは一生離れられないわ!
そうよ、私は一生シンジのハンバーグを食べ続けるのよ。
これはもう決定事項。
ヒゲ司令の命令であろうが、使徒の総攻撃であろうが、この決定事項は覆されないの!
そ、そのためには、この第2次攻撃計画を成功させなければ…。
大丈夫。私には計算され尽くしたシナリオがあるわ!
第1次計画の失敗はシナリオの不備じゃなく、シンジの予定外の反撃のせいよ。
私のことを女神だなんて言うから…。
あぅ〜、またシンジが私を変な目で見てる。
いけないわ。
そうよ、ここで『女神の微笑み』を出して、シンジをメロメロにするのよ。
まずは先制攻撃ね。
ニッコ〜リ…。
「アスカ、作り笑いなんかして。どうしたの?」
作り笑いぃ〜!
「うん、それはね…」
私は慌てて口を手で塞ぎ、トイレへダッシュした。
もちろん、力一杯押さえた手の中で、
「シンジを『女神の微笑み』でメロメロにして、先制攻撃をしようと思ったの」
なんて、平然と喋り続けている。
まったく、とんでもない薬ね。
とりあえず座ったトイレの椅子で、私はどのように第2次攻撃計画に突入するか考えていた。
そこへ…。
トントン!
「アスカ。大丈夫?」
「大丈夫よ。別に身体がおかしいわけではないわ」
よかった。考える前に喋ってるけど、この内容なら良いわね。
「はぁ、安心したよ」
扉の前のシンジの声に、私の心は安らぐ。
「食事に悪いものがあったのかと思ったよ」
「アンタだって、同じもん食べてたでしょう!」
「そりゃ…、そうだけど」
「アンタの作るものに変なのがあるわけないでしょ!とてもおいしいのに…」
「あ、ありがと…」
いける!
この状態もいいかも!
場所がトイレだってのが大減点だけど、場所を選んでいる余裕はないわ!
それに顔を見られてなけりゃ、まずい質問には口を押さえてりゃいいわけだし…。
さすがは私!
どんな状況でも冷静に判断し対応できるなんて。
よぉし!行くわよ、アスカ!
「ご、ごめんね、シンジ…」
「アスカ、急に、謝るなんて。ど、どうしたの?」
「うん、急にトイレに駆け込んだでしょ。シンジに心配かけちゃったから謝ったの」
よし!
第1段階クリアーよ!
でもこの口調はどうにかならないかしら?
「何か気に入らないことがあったの?」
「ううん、違うわ。アナタの質問に」
あわわ!口を押さえる私。
「ゴダゲゾウギダッダガガ、オイエギガギッデガンダギギガゲガイゴウギガオ
(答えそうになったから、トイレに入ってアナタに聞かれないようにしたの)」
「そう…、答えたくないんだね?」
調子の落ちたシンジの声。
「ううん、違うわ。答えてい、グンガゲゴ、グギボボガゲゲギグガガギンギギガギゴゲガイゴ
(るんだけど、口を押さえているからシンジには聞こえないの)」
「アスカ、何か変だよ」
ああ、良かった。
疑問系じゃないわ。
「そんなことないわよ。私はいつもの私よ」
「だって、やっぱり変だよ。自分の部屋ならともかく、トイレに駆け込むんだから…。やっぱり食事が」
「違うってば!本当においしかったんだから!」
「じゃ何だよ!」
やばい!
シンジが興奮モードに入っちゃった。
あう〜、気を付けないと、名物売り言葉に買い言葉状態に突入するわ!
「だから、シンジの食事は関係ないって、言ってるでしょ!」
「食事じゃなければ…、アスカ!」
「な、何よ!急に大声で!」
「ま、まさか…、ツワリ…」
「はへ?」
くはぁ〜、そう来たか、とんでもない、ぶっ飛んだ思考回路よね。
落ち着いて…、落ち着いて…、落ち着くのよ、アスカ。
ここで頭に来たら、お終いよ。
そうよ、数字を数えるといいわ。
eins
zwei
drei
vier
fuenf
……、
「え、まさか…、冗談だよ、冗談。
そ、そんな、ツワリなんて。
怒らないでよ、アスカ。何か言ってよ。黙ってないで…。
ほら、よくドラマなんかであるじゃないか、突然口押さえて洗面所やトイレに走るって。
だから、僕…、冗談で…、
ま、まさか…、本当に…、アスカ、違うって言ってよ。ねえ!」
zwanzig
einundzwanzig
zweiundzwanzig
dreiundzwanzig
……、
ああ…、もう駄目。
腹が立つやら、可笑しいやら。
「そうなんだ…。誰の子供…。もしかして加持さ」
「アンタ馬鹿ァッ!ど〜して!この私が!妊娠しないといけないのよ!はん!加持さんだってぇ!いい加減にしてよね!」
突然爆発した私の怒鳴り声にシンジは黙り込んでしまった。
あ、ちょっと、言い過ぎた、かな…?
「だって…、アスカは加持さんのこと好きなんだろ?」
「ううん、違うわ。加持さんのことは、ただの憧れに過ぎないの。男性として愛してはいないわ」
!!!!!!!!
来た、来た、来たわぁっ!
突然だったけど、シナリオに戻ってきたじゃない!
そうよ!もっと聞くのよ、シンジ!
私に質問するの!
「本当?」
「うん、本当よ。加持さんのことを好きって言ってたのは、そうね、照れ隠しだわ」
ここよ!何のための『照れ隠し』か、私に聞くのよ!シンジ!
その一言が私たちに幸せをもたらすのよ!
『ねえ、アスカ。何の照れ隠しだったのかな?』
『それはね、私がシンジのことを大好きだから、それが恥ずかしくて加持さんのことを好きって言ってたの』
『アスカ、本当?』
『本当よ。私はシンジが大好きなの』
『嬉しいよ、アスカ!僕だって、僕の方だって!』
『シンジ!』
『好きだ!アスカ!大好きだ!』
シナリオ通りよ、問題ないわ!
さあ、シンジ!
「じゃ、ツワリじゃなかったんだ。良かったぁ。そうだよね、アスカがそんなこと…、
あわわ、ご、ごめん、僕、洗い物してくるよ」
「……」
「……」
「……」
自己完結してしまったわ、シンジの馬鹿…。
くぅ〜っ!
もう少しだったのに!
どうして、シナリオ通りに喋れないのよ!
やっぱり、舞台設定が良くなかったのよ!
トイレはないよね、トイレは!
そうよ!良かったじゃないの!
トイレで告白しました、なんて、誰にも言えないじゃない!
そうよ、そうだわ、これで良かったのよ!
よし!
私にはとっておきの計画がまだ残っているのよ!
第2次攻撃計画。名付けて「僕のこと嫌いなの」大作戦は、残念ながら失敗ね。
続いて第3次攻撃計画に移るわ。
名付けて「僕はアスカと一緒にいていいの」大作戦。
シンジが自分の居場所を確保したがる性質を利用した、
プ、プロポーズも兼ねた、深遠、且つ壮大な長期戦略大作戦よ!
これなら、成功間違いないわ!
とりあえず、トイレから出ましょう。
告 白 〜決戦!コンフォート17〜
Act.2 第2次攻撃計画
− 終 −