魔女の大釜のような日々はとうに昔のこと。
生活不能者はずいぶん前に追い出した。

彼と二人だけで過ごすコンフォート17での満ち足りた生活。
シンジと同じベッドで眠り、そして彼の胸で朝を迎える。
「ピッパの歌」のように『いつものように朝が来て、何事も起こらない日々』。
ただそれの繰り返し。

その何気ない暮らしに、今日からは新しいページを書き加えるの。

『惣流』から『碇』へ。

でもね、幸せの扉を開けるのって結構しんどいものなのよね…。






   Written By みどり




箱根の『山辺に真珠の露煌く』のは2時間も前の話し。
年中夏の第三新東京市でそんな光景を見ようと思ったら朝5時には起きなきゃ。
でもそんな時間から活動してるのは、ご自慢のオープンキッチンでいそいそと朝の支度をしている『あのバカ』だけよ。

いつの間にか日課になったジョギングで汗を流し、シャワーを浴びて食事の支度をするためにはその時間じゃないとダメなんだって。
アタシへの当てつけだと思っていた時期もあったけど、それはシンジのやることなすこと全てが気に入らなかった頃の思い過ごし。

で、アタシの起床時間は午前7時。これでも随分早くなったのよ。
14の頃から起き抜けにお風呂に入らないと目は覚めないし、朝御飯を抜いたら体に悪いし、何より睡眠不足は美容の大敵。
だから、如何に思い人が朝5時に起きようが、寝不足の目を擦りながら朝ご飯を作ろうが知ったこっちゃないの。
彼にとって、アタシがいつも綺麗でいること、元気でいることが喜びなんだから。

ただ、今日はいつもの朝とは少し違う。
あろう事か、二人だけの愛の巣に昨晩からお邪魔虫が大挙して押し掛けて来てどんちゃん騒ぎ。
ほとんど眠らないまま朝を迎えたわ。
シンジは深夜に3バカに呼び出されてから帰って来なかった。多分そのまま現地に直行するだろう。
そこらじゅうに衣服が散らばって踏み場もないリビングで、アタシは一人でマヌカンになっていた。



『こんのくそ暑いのに何でこんな格好しなきゃなんないのよ

腹立ち紛れに大声で叫ぶ。 もう、イヤ!暑いし、苦しいし、お腹減ったし…。
ウンザリしながら寝室から引っぱり出してきたドレッサーを見ると、純白の衣装を着て化粧を思いっきり塗ったくった女が写っている。
元々色は白いのでメイクと言っても薄くしかしないから、慣れないファンデーションの強烈な匂いで倒れそうなくらい気分が悪い。
ホント、頼まれてもこんな格好二度としないわよ。
まあ、こんな格好好きこのんで何度もやる人間もいないと思うけどさ。



「碇くんを奪った泥棒猫。
 いい気味…」

憎まれ口を叩きながらも、レイが裾にビーズで作った可愛いブローチを着けてくれている。

「あんただったら6月じゃなくても幸せになれるよ。
 性格がヘラそのものだもん」

笑いながらベールと一緒に悪口を渡してくれるのはマナ。彼女は左足のガーターを贈ってくれた。

「これも忘れないようにつけないと」って豪勢なトレイに載せられたガーターを渡してくれたのはヒカリ。
彼女の左手薬指にも幸せの証がある。
まあ、あれを自慢げに見せられたから、シンジを急かしたんだけどさ。
10年も一緒に住んでるのに、仲間内で最初に結婚しなかったらそれこそ笑いものよ。
プロポーズしてくれた日のシンジの腫れ上がった顔を思い出してくすくす笑ってたら、ヒカリがドレスの裾をたくし上げ、右足に世界で26本しかないはずのガーターをつけてくれた。

ソールズベリー伯爵夫人が落とした靴下留めを由来とする騎士の証。
何の因果か、海の向こうのやんごとないお方からお祝いに頂いたの。
アタシはこれの凄さが良く分かんなかったけど、パパは頬を紅潮させて感激してたわ。
式が終わったらラングレー家の家宝にするんだって。
たかがガーター一本と思ったけど、縁起物だし、貰ったんだから付けないわけにはいかないのよね。

ちょっと勢い良く裾を捲ったものだからスカートの一番の奥まで見えたっちゃったのか、レイが目を丸くしている。

「パンツ、
…」

「何よ、スケスケじゃない。イヤらしい…」

マナが頭を小突いて来た。まだ諦めてないのか、拳に妙に力が入ってる。痛いわよ。
でもいいじゃない。その程度のお遊びは許されるの。

それだけじゃないのよ。
レイがつけてくれたブローチ。右のガーターは当然だけど、マナから貰った左側もそう。
他にシンジに貰ったイヤリングと左薬指にしている指輪の金剛石。
身の回りの世話を頼んだヒカリとちゃっかり加わっているレイとマナのブライズメイド3人のお揃いのロングドレス。
彼が愛して止まないアタシの瞳。そしてちょっと前までのアタシの心。

"Something Blue"

いくつかあれば良いはずなのに、溢れるほどの『
』『』『』。
これだけ何から何まで"
blue"尽くしなんだから絶対幸せになれるわよね。



「ほーら、そろそろ出ないと遅刻しちゃうよ〜ん!」

マトロンオブオナーを頼んだミサトの声に急かされて、リムジンにいそいそと乗り込むアタシたち。
いつものように心の中で気合いを入れる。

『行くわよ!』

住み慣れたマンションから目的地まで、世間の注目を浴びながら車で20分ほどのちょっとしたドライブ。
セカンドインパクトで失った梅雨の代わりに降るスコールが珍しくないのに、頭上には見渡す限り雲一つない空。
そして眼下に広がるのはサハクイエルの爆発で産まれた第3芦ノ湖。

"Skyblue"と"Blue water"。
ああ、ここにも『
』がある。



「遅刻してくるバカはいないよね」とマナ

「そんなことしたら水泳しなきゃいけないじゃない」

ヒカリの答えに大笑いする。
そう、目指す会場は湖の桟橋、その一番奥に泊まってる純白の双胴船。
艫に書かれたその文字は、これまた"
blue"で"Evangelion"。
幸せをもたらす福音なら何の文句もないってものよ。

「あーあ、これだけ『
』だらけだったらさぞかし幸せになれるでしょうね…」

吐き出すように呟くミサトに、レイがファンネルマークを指し示す。

「あれは違うわ…」

白い煙突の上に赤いイチジクの葉が半分。
いつの間にか平和の象徴にすり替えられたNERVの旗印。
あれを見る度にあの狂喜に彩られた日々を思い出す。
アタシがムッとしたのが見えたのか、ミサトが苦笑いしながらレイを諭した。

「レ〜イ、いい女は気にしちゃダメなのよ!」

キョトンとしながら「そうなの?」と小首を傾げるレイに、自称『いい女』たちが一斉に頷いた。
そう、都合の悪いことは直ぐに忘れるの。
それがいい女になる一番の秘訣。

「覚えておきなさい」

レイの耳元に囁いて、アタシはドレスの裾を風に靡かせながらゆったりと桟橋を歩き始めた。





NERVがここ第3芦ノ湖で始めた新商売は、思えばあの日から始まったのよね。

それは久しぶりにヒカリ呼び出されて一緒に食事をした時の事。
ジャージから貰ったという指輪を見せつけられ、散々のろけられた挙句、「いつまでクズグズしてるのよ!」の一言を浴びせかけられた。

『うそ?先を越される?!』

焦ったアタシはヤツの未だに何の気配も見せない鈍感さにブチ切れ、その日から毎日、幾度となくシンジに鉄拳を振るってやった。
シンジは、最初こそ意味がまったく理解できずただ逃げ回るだけだったけど、身体で理解したのか、周囲にリサーチを重ねた挙句、ようやく1週間後にプロポーズして来た。

まあ、彼にしては早く気づいた方よね。
だからご褒美に「遅いわよ、このバカ!」の一言と共に結婚してあげることにしたの。
酷い返事だけど、照れ隠しよ。あまりの嬉しさに一発殴ったけどさ。

思い立ったが吉日。その後すぐに宝石店に連行して注文していた特大のブルーダイヤを買わせたの。
シンジの貯金をほとんど叩かせたから、彼、肩を落として泣いてたわ。でもそれくらいは可愛いものよね。
借金だって10年経てば返済金額が倍になるんだから、利息と思えば安いものよ。

プロポーズを受け指輪を買わせたから晴れて婚約成立。
日本の風習では婚約の儀式にあたる『結納』ってのがあるけど省略した。
兎に角、一日も早く結婚式を挙げたかったから、ここまでは急ぎに急いだわよ。

残るはメインイベントの『結婚式』。
一生に一度だから結婚式と披露宴くらいは人並みにやることにした。
本当はウエディングドレスを着たかっただけっていうのは内緒ね。
ちなみに万事欧米式にするから仲人は無し。
その代わりになる役回りはアタシ達に散々迷惑をかけた二人に頼んだの。



式の日取りを決め(日本人らしく大安吉日にしたわ)、会場探しを始めたんだけど、それがもう大変。
アタシもシンジも知らなかったんだけど、休日の大安っておいそれとは予約を取れないものらしいのよね。
後でヒカリに散々バカにされたわ。

どこのホテルも教会も1年待ちは当たり前。酷いのになると3年待ちってのがあったのよ。
3年も待ってて途中で別れたらどうするのかしら?

仕方が無いから経過報告を兼ねて両方の親に相談したの。
上手くいけば『希望どおりの日時で会場が取れて、しかも安く上がる』かもって下心はあったけどね。
でも、それが間違いの始まりだったって気づいたときには後の祭だったわ。

アタシたちはこぢんまりとしているけど暖かい、そんな感じの式を希望していたの。
シンジの手作りケーキで知り合いだけに祝って貰う、そんな結婚式。
でないと大変なことになるのは分かり切っていたから。
世界を救った適格者の結婚式なんて招待客が何人になるのか分かったもんじゃないし、VIPが大挙して押し掛けてくると警備も物々しくなる。
それこそ友達を呼ぶ余裕なんてどこにもなくなるわ。

そのことを司令とアタシのパパに話したら、それはもう烈火のごとく怒ったの。
司令もアタシのパパもちょっと豪勢にしたかったのよ。最低でも400人くらいの規模を考えてたみたい。
まあ、あの人たちにも立場があるだろうから理解は出来たんで、こっちも歩み寄ろうと何度か話し合った。
けれど、根本的に発想が違うから全然駄目。
結局、何度目だったか分からないくらいの話し合いの中で出た司令の一言が交渉決裂の決定打になった。

『結婚するのは君たちだが、式は親の物だ』

これでアタシは親を立てるのをやめた。
「もう式なんてやめてやる!」って大騒ぎして籍だけ入れて済まそうとしたの。
この強攻策には司令もパパも流石に慌てたみたいで、向こうから進んで歩み寄りを見せてくれた。
シンジと加持さんが裏で二人を説得したというのもあったんだけどさ。



都合3週間に渡る話し合いの末、何とか日時・人数は決まったけど依然会場は未決のまま。
そうこうするうちに時間だけが無駄に過ぎていく。
式まで残り3ヶ月となって、日取りを延ばそうかとまで考え始めたときに、司令がとんでもないことを言い出したの。

『場所が無いのなら作ってしまえ!』

まるで戦国時代の誰かさんのような台詞でしょ。
良い迷惑なのは無理やり業務命令で会場作りをさせられたミサト。
あちこち動き回っても埒があかず、進退極まった妻の代わりに加持さんが式の2ヶ月前に出した解答がこれ。



『水上結婚式』

前々から新造の遊覧船を第3芦ノ湖で運行する計画があって、9月の就航を前に進水式までは終わっていたの。
ゴリ押しして処女航海を3ヶ月前倒しした上に、結婚式が出来るように突貫工事で儀装まで変えたのには驚いたけど…。

実はアタシ、最初に聞いたときはイヤだったの。
だって、このためだけにわざわざ余計なお金をかけて新造船の儀装を変更するっていうんだから。
でも、これがアタシの理想に最も近かったのも事実。

船は定員を超えると運行できない規則になってるから、アタシの描いたイメージに近い式を挙げられるし、何より船体のデザインが一目で気に入ったの。
『水辺に浮かぶ水鳥』をイメージしたっていう純白の双胴船。
ぴっかぴかの新造船、その処女航海で挙げる比較的小ぢんまりとしたアットホームな結婚式。
頭の中で思い描くうちに、アタシはものの三日も経たないうちにすっかり有頂天になっていたわ。

だからゴネ続けていたシンジを黙らせることにも積極的に取り組んだの。
彼の不満は、『場所』が陸じゃなくて湖の上ってことにあった。
「何かあったら僕は泳げないから溺れてしまうよ」と震えるのを「アタシがリクまで引き上げてあげるから」って慰める。
「遅刻してくる人がいたらどうしよう?」って真剣に口にするから、「そんな奴には泳いでもらう!」ってきっぱり答えた。

実際、船なんて早々簡単に沈む物じゃないし、式の始まりと同時に出航する訳じゃないから遅刻してきても大丈夫なの。
彼にはその辺もちゃんと説明してあげたのよ。優しく丁寧にさ。
それでもまだグダグダ言うから、「いい加減にしろ!」って拳に物を言わせて終わり。
『相変わらずの乱暴者』だって?
いいじゃん、美しいだけが女の良さじゃないのよ。腕っ節だって重要なんだから。

双胴船の写真を眺めては甘い吐息を吐いて逝っちゃってるアタシを見た加持さんと司令は満足そうだった。
この二人、実はアタシたちの為ではなく、就航後の営業効果を第一に考えてたの。
ここ、第三新東京市にもホテルや結婚式場はそれこそいっぱいある。
その中から選んで貰う場合、『適格者が結婚式を挙げた場所』という謳い文句は抜群の宣伝効果を発揮する。
思いついた加持さんもただ者じゃないけど、決めた司令が一番の悪人。
流石に転んでもただでは起きない。食えない親父のやることに卒はなかった。





「船の結婚式って船長さんが神父さん代わりなんでしょ?」

目をキラキラさせて遠い目をしているヒカリ。
そう、立会人は幼いころから海の男が憧れだったという冬月船長。
「こういうのは年輪がものを言うんだよ」と言いながら火のつかないパイプを銜え、キャビンで一人悦に入っていた。
ホントは司令がやりたかったらしいけど、サングラスをかけた不気味なヒゲ親父が出てきたら、それこそ結婚式どころじゃないわよね。
だからアタシはホッとしてるんだ。見栄えだけなら副司令はどこに出してもおかしくないもの。



招待客より1時間早く到着し、桟橋横のクラブハウスで両家親族の顔合わせ。
碇家からは司令とその親類たち。シンジは見たこともない人が何人もいたってビックリしてた。
その人たちの中に混じった司令がシンジと談笑している。
いつもならサングラスをかけ表情を殺している彼も、今日は品のいい銀縁眼鏡とモーニング姿。
シンジは未だに父親が苦手なのか笑顔がぎこちないけど、昔に比べたら随分マシになっている。

『時は等しく皆の中を流れていく』

それは我が惣流家にも言えること。
目の前でちょっとしんみりしているパパと、優しい眼差しで親友の忘れ形見を見守る義母。
こんな風景が見られるなんて思ってもいなかった。

ドイツから両親を呼ぶのをアタシは随分躊躇ったの。
「みんなに祝福して貰おうよ」というシンジの言葉がなかったら連絡すらしなかったと思う。

電話で知らせたときには不機嫌だったパパの、来日時のニコニコ顔は不気味を通り越して怖かったわ。
目を丸くして顔中に笑顔を貼り付けたパパを見つめていると、義母が『バチン』という音がしそうなウインクをした。
彼女が言うには、パパは『一人娘を取られる父親』というシチュエーションにどっぷりと浸っているんだって。
シンジも娘が生まれ、その子が結婚する時はそういう気分になるのだろうか?

義母には長い間疎まれていると思っていたけど、それがアタシの気のせいだったというのは嬉しい誤算だった。
「大きくなったのね」と涙ぐみながらアタシを抱き締める義母。
「彼女の分も幸せになりなさい」という言葉と一緒に、ママが使ったベールを頭に被せてくれた。
嬉しくて涙が止まらず、彼女の胸に縋ってワンワン哭いたわ。
「偶には故郷に帰ってこい」というパパの言葉に何度も頷きながら…。



そんな、いかにも『結婚式の前』という情景を眺めながら、一番後ろで微笑んでいるブライズメイドたち。
壁の花というにはあまりに眩しい美女三人に早速数人の男が声をかけていた。

それに引き替え、ここで合流したシンジのアッシャー3人組はあまりにも情けない。
鈴原は重責を忘れ、他人の茶菓子までつまんでヒカリに責められている。
相田は首から何台もカメラを提げ、端から端へと移動しながら、新郎新婦を無視し別の被写体と格闘中。
残りの一匹は、壁際でシンジをじっと見つめながら、何が悲しいのか涙に暮れていた。
三者三様、いずれにしてもろくなものじゃない。友人は選んで欲しいわ。



「ではお時間となりましたので始めさせていただきます」

司会者の声と共に最初の儀式、対面式が始まった。長いテーブルの両脇に並ぶ両家の家族・親類たち。
新たな縁を前に、ベールで顔を隠したアタシの隣で、もう一人の主役は普段見たことのない顔色をしていた。
うわー、アンタまで"
Blue"…。今日が終わるまでに一体幾色の『』を目にするのかしら?

「ちょっと、あと3時間も続くんだからしっかりしてよ!」

答えの代わりに、軽くアタシの左手を握るシンジ。
気丈に振舞っているつもりだろうけど指先が細かく震えている。
元々小心者だからねえ…。

『お願いだから途中で逃げるのだけはやめてね』

そう言おうとしたら、何やらブツブツ呟いているのが聞こえた。

『逃げちゃダメだ…。逃げちゃダメだ…。逃げちゃダメだ…。逃げてもいいかな…。逃げたい…』

アタシは目眩を堪え、視線を真っ直ぐにおいたまま小さな声で釘を差した。

『そんなことしたら地の果てまでも追いかけて、必ず息の根を止めてやる!』

そんな彼と一緒に精一杯の笑顔を見せて、きっちり10時半の礼をするアタシ。
頼りない男を夫に選ぶとホントに苦労するわね。



対面式が終わり、少しだけ化粧を直したら桟橋で二人並んでお迎え。
営業スマイル全開のアタシ。その隣で引きつった笑顔を見せているシンジ。
差した釘がちょっちきつかったかしら。

「おめでとう」

「晴れて良かったね」

「お招きいただいてありがとう」

「幸せになってね」

出席者それぞれからお祝いの言葉をいただきながら、こっそり乗船人数をカウントする。
えっ?まだあと5人足らないんだけど…、大丈夫?




「ではお時間です」

船長服を粋に着こなした副司令の声を受け、後ろ髪を引かれる思いで船内へ。
まさか本当に泳ぐバカはいないでしょうね?
勘弁してよね、そんなやつがいたらアタシ達が一生笑われるわよ。

船内に敷き詰められた緋毛氈。バージンロードの上を、ミサトの娘が務めるフラワーガールが可愛らしい仕草で花を蒔きながスキップしている。
その後ろを、見た目より遙かに重いドレスと慣れない靴の所為で縋り付くように彼の腕を取り、少し俯きながらAラインの裾を蹴飛ばすように大股でゆっくり進むアタシ。
『転ぶな、転ぶな』と小声で何度も繰り返しながら…。



突然、シンジが閉じられた重厚な扉の前で立ち止まると、アタシの耳元でぼそっと囁いた。

「ブーケトス、出来るように手配したから…」

え?うそ!場所がないから諦めていたのに…。
目を見開きながら見つめると、彼はニヤリと笑った。
この辺は親子よね。ろくなことを考えてないときの笑い方は瓜二つよ。

「その代わりガータートスもやるからね」

うっ!やられた…。そう言うことだったのね…。
こいつ、やたらドレスの裾の形に拘ると思ったんだ。
マーメイドラインだとスカートに頭をつっこめないからか…。

アタシは返事代わりの笑顔とともに不埒な男の足を思いっきり踏み抜いた。

「?★▲■!*」

言葉にならない悲鳴を上げて、涙目になるシンジ。
そりゃそうでしょう。普段は頼まれても履かない高さ10pのハイヒールだもの。
破壊力は抜群よ!



「そろそろ時間だ。用意は良いかな?」

仲人代わりにベストマンをお願いした加持さんが声をかけてきた。
苦笑いしているってことは、今の見られたよね。

頷くアタシたちに笑顔を返しながらドアマンに指示を出す加持さん。
開かれた扉の向こうから射し込む光と音楽が、海原に乗り出すアタシたちを導く標のように輝いていた。



"Running Free"。

アタシたちの航海が順風満帆でありますように。






※注釈
「ブーケトス」は結婚式でよく行われる儀式の一つですが、「ガータートス」もその一つです。
「ガータートス」とは花嫁のガーターを花婿が男性参列者の中に投げ入れることです。
ガーターを抜き取る際には、新郎がウエディングドレスのスカートに頭を突っ込み、口だけを使ってガーターを引き抜きます。
当然スカートが捲れ、新婦の下半身が顕わになるため男性参列者を喜ばすことになります。
(ガーターの色は青が多いです。何たって"
Something Blue"ですから)

また地方によっては、ガーターを獲得した男性が、ブーケを獲得した女性の足にそのガーターを口で着けることもあります。
まあ、日本ではやらないですね。



※背景画像は『s*piece』様の素材を利用しております。
 Copy right 2003 Ms.Sara. All rights reserved.




<Postscript>

みなさんこんばんは。こちらではお初にお目にかかります。辺境サイト"
Evergreen"の管理人みどりと申します。
管理人のジュンさんには日頃大変お世話になっておりまして、お礼に前々から1本差し上げたいと思っておりました。
これでやっと肩の荷が下りたわけです。

さて、元々わしはオリジナル書きですので2次は余り得意ではありません。
しかもわしはLAS好きの割にはLASを書かない人ですから、この作品は久しぶりのLASとなりました。
ジュンさんの作品に比べるとあまりに稚拙な出来ですが、読んでいただければ幸いです。
では、またお目にかかる期待がありましたら、よろしくお願いいたしますね。



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<アスカ>みどり様から、初めてお話を頂いたわ!
<某管理人>おおきに!ありがとうございます。
<アスカ>いよいよ私も結婚!
<某管理人>いやぁ、おめでとさん。
<アスカ>これで誰に気兼ねもなくシンジにラブラブできるわっ!
<某管理人>あ、あの〜、別に今までも…。
<アスカ>(ギロッ!)
<某管理人>あ、せやった。わし、受付せな!(こそこそ)

 ついに迎えた私とシンジの結婚式。
 みんなに祝福されて、幸福が約束された感じ。
 まあ、私たち二人が幸せにならないわけがないもんね!

 某管理人とみどり様は毎日のように文字を交わしている仲。
 知識の薄い某管理人にいろいろ教えてあげてくれる、海よりも深い知識人なのよ!
 ホントにいいお話をありがとうございました!
 

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