====================================================================== 『豹変』 作:WARA ---------------------------------------------------------------------- 『ベッドにて』の続編です。 宜しければ、先にそちらからお読み下さい。 ====================================================================== 「ねぇシンジぃ。明日、遊園地へ行こう。」 マヤからチケットを貰ったアスカが土曜の夜に シンジをデートに誘いました。 「明日?駄目だよぉ。週末学校でテストだし。」 「いいじゃない、そんなの後で巻き返せばぁ。 今週まで限定のアトラクションがあるのよぉ。」 「そんなこと言ったって、ここんところEVAのテストが続いて ただでさえ遅れているんだ。明日だって夕方からNERVなんだよ。 今から勉強しないと無理だよぉ。」 「何よ。この美少女アスカ様がお誘いしてるっていうのよ!」 「駄目なもんは駄目だよぉ。」 「どうしてよぉ。アタシの事、あの日好きって言ってくれたじゃない。 あれは嘘だったの?」 わざと目をウルウルさせて迫ります。 「う、嘘じゃないけど……でも僕のことも考えてよ。」 ちっ、落ちないか。 でも、少し動揺しているわね。 更にウルウルウルウル 「ね、アスカってば。」 ウルウルウルウルウルウルウルウル 「明日の朝食、アスカの好きなものを沢山作るから…… ねぇ勘弁してよぉ。」 「むぅぅぅぅぅ!もう知らないっ!」 バタン アスカは自室に引き篭もりました。 どうしてシンジってああなんだろう。 もうちょっとアタシのこと見てくれてもいいじゃない。 少しぐらいわがまま聞いてくれてもいいじゃない。 一度だってシンジから誘ってくれたこと無いのにぃ。 翌朝、アスカが10時過ぎに起きた時には食卓には朝食が並んでいました。 「ふわぁぁ。豪華……。」 とても朝食とは思えない豪勢な料理が並んでいます。 アイツも気遣ってくれたんでしょうけど、 こんなことするくらいなら、遊園地にちょっとでも連れて行ってくれたら いいんじゃないのぉ。 あ〜あ、優しさもいいけど、たまには決断力あるとこ見せてくれたらなぁ。 こう、アタシをグイグイっと引っ張ってくれるような…… って、シンジには無理かぁ。 はぁ〜〜。 何とかシンジに好きって言わせたけど、全然変わらないわね……。 結局夕方のシンクロテストまで特に何をする訳でもなく、 アスカの日曜日は過ぎ去りました。 翌日。 今日は学校です。 昨日はすることなく早めに寝たアスカは7時に起きました。 すでにシンジは起きていました。 「シンジ、早いのねぇ。 朝から勉強でもするつもりかしら? なんたってデートもできないほど忙しいんだもんね〜。」 必殺ねちねち攻撃を炸裂させます。 「やぁ、ハニー。フッ、君の為に早起きして スペシャルな朝食を準備していたのさ。」 「は?」 ハ、ハニーって?! な、なんなの今日のシンジは?! 昨日ウルウル攻撃を効かせ過ぎておかしくなったのかしら? どうもシンジが変です。 朝食を終え、登校しようと玄関を出た際にも 「君のような麗しの女性と登校できるなんて、僕は光栄だね。」 と言う始末です。 学校でも変でした。 男子の体育の授業はサッカーでした。 女子は隣で陸上です。 いつものシンジはほとんどボールに触れること無く終わってしまいます。 ですが、今日は違いました。 相手のパスをカットしたシンジが積極的に上がって行きます。 サイドにパスをしたシンジはそのまま、オーバーラップ。 センタリングを受けとめたシンジは躊躇すること無くシュート。 運動能力そのものは変わっていないようで、 シュートは決まりませんでしたが、 その後も果敢に攻めます。 集中力も並大抵ではありません。 いつもボーっとしているシンジとは別人です。 ゲーム終了1分前にはゲームを決める決定点シュートを見事に決めました。 キャーキャー 女子が騒いでいます。 「碇君ってあんなにカッコ良かったかしら?」 「素敵よねぇ。」 そんな声が上がっています。 シュートを決めた後、シンジはガッツポーズ。 そして女子に向かってVサインを決めます。 「ア、アタシにかしら?」 シンジはどうやらアスカに視線を投げています。 カ、カッコいい…… アスカは見とれていました。 その他の授業も積極的に手を上げたり発言したり。 女子からの視線を集めるシンジでした。 フンッ。 シンジはアタシだけのものなのよ。 アンタ達が寄ってたかったって、シンジは振り向きもしないわよ。 昼休み。 シンジとアスカは一緒に弁当を食べていました。 「今日はどうしたのよ?随分サッカーを頑張っていたじゃ無い。」 「君の熱い視線を感じたからね。 フッ、思わず張り切ったのさ。」 「そ、そう。」 アスカは赤面しています。 「ま、また応援してあげるから、頑張ってね。」 「当然さ。君の為なら僕は命だって捧げるよ。」 ボッボッボッ 頬が火照っています。 シンジぃぃぃぃぃぃぃ アスカは痺れていました。 きっとアタシの気持ちが届いたのよ。 シンジ、最高よぉぉぉ…… 放課後。 今日はシンジが掃除当番。 アスカは校門付近で待っていました。 遅いなぁ。 早く来ないかな。 今日の調子だったら、帰りにどっか誘ってくれるかも…… それにしても遅いなぁ。 待っている時間は長いもんです。 あ、来た。 「シ……」 呼びかけようとしましたが、 クラスの女子の一人がシンジに近づき話しかけました。 「碇君。今日カッコ良かったわよ。」 「そうかい?」 「ええ。もう痺れちゃった。」 「君の視線を背中に感じたからね。 思わず張りきってしまったのさ、フッ。」 シ、シンジ…… アタシだけに言ってくれてるんじゃ無かったの? 「応援するから頑張ってね、碇君。」 「ああ。君の為なら僕は火の中でも走りきるよ。」 嬉しそうに女生徒は走り去りました。 「ちょっと、シンジ!」 「やぁアスカ。待たせて悪かったね。さ、行こうかい?」 「ちょっ、どういうつもりよ!」 「夕日に映えるアスカも素敵だね。」 先ほどまでのように、誉められても もう嬉しくもありません。 「一体どうしたのよ。いつものシンジらしくないじゃ無い。」 「いけないよ。余り怒ると美しい顔が台無しになるよ。 ほら、笑って。」 そう言われても、到底笑うことはできません。 「どうしたのさ。憂いの表情も素敵だけど。 そうだ、来週遊園地に行こうかい。」 本当なら嬉しいハズなのに…… やっぱり複雑な表情しか出ませんでした。 シンジを攻め落とすウルウル涙ではない雫が一粒、頬を濡らしていました。 マンションに戻っても同様です。 ミサトに対しても 「相変わらず綺麗ですね。 大人の魅力。尊敬に値しますよ。」 「あらぁ、シンちゃんったらぁ。」 シンジ…… 一体どうしちゃったのよ。 アタシがシンジに変わって欲しいと願ったのがいけなかったの? 確かに決断力はあるけど……ただのプレイボーイじゃ無いの。 こんなの嫌。 嫌、嫌、嫌、嫌ぁぁぁ。 こんなシンジはシンジじゃ無いわよぉ。 ベッドで涙を流すアスカでした。 まるで別人。 アタシの知らない別人。 何がシンジを変えてしまったんだろう? ま、まさか…… 翌朝。 「やあ、アスカ。目覚めの顔も素敵だね。」 「ハン。おかげで目が覚めたわ。」 そうよ。こんなシンジを望んでいたんじゃ無いわ。 アタシが間違っていた。 「そうかい?今日もスペシャルな朝食を準備したからね。」 「シンジ。今日はNERVに行くわよ。」 「どうしてだい?」 「アタシの言うことが聞けないっていうの?」 「みんなが僕を学校で待ってるからね。 休むわけには行かないよ。」 ちっ、困ったわね。 いつものゴリ押しでは通じない……か。 仕方無い。女の武器を使おう。 「アタシ、リツコに呼び出されてるのよ。 あんなマッド相手に一人じゃ嫌……」 ウルウル表情でお願いをします。 勿論、呼び出されたなんて嘘です。 「ね、シンジぃ。アタシ、シンジに置いて行かれたらぁ……」 更にウルウルウルウル。 「僕は置いて行きやしないよ。いつも君の傍さ。」 「だったら、お願い。一緒に着いて来てよぉ。グスン。」 「仕方ないなぁ。ホラ泣き止んで。 僕もNERVに行くからさ。」 「うん。」 はぁ〜まったく手間が掛かるわね。 しっかし、涙で簡単に落ちるとは……まったく。 それもこれも、きっとあのマッドのせいよ。 シンジを別室に待たせている間、アスカはリツコに説明しました。 「シンジにもLCLに何か配合しているって言ってたでしょ。 それが原因じゃ無いの?」 「調べてみるわ。」 30分後。 マヤからの報告がありました。 「別段ミスは無いわね。」 「そう……。」 「でも、症状としては理解できるわ。 シンジ君には、やや神経を高ぶらせる効果を与えているの。 前にも言った、一種のアドレナリン分泌作用をもたらすようなものね。 それと集中力と決断力が弱いから、それを強化。 さらに女々しいところがあるから男性ホルモンを……。」 「そのものズバリじゃ無い。」 「考えられるのは、毎日テストをやっていたからかしら。 ひょっとしたら、量の問題で無く、連続的な投与が影響したのかしらね。 大変参考になったわ。」 「参考に……って、アタシ達はモルモットじゃ無いのよっ!」 アスカが憤慨しています。 あっそうなの? アンタ達モルモットじゃ無かったの? へぇ〜そうなの。 心の中で鬼のようなことを考えていたリツコでした。 アスカの場合と同じく、シンジも点滴療法。 「ねぇ、リツコ。優等生には何をしたの?」 「レイの場合は、感情の起伏が弱いから、シンジ君とは別の興奮剤を。 あと、言葉が少ないから、言語中枢を刺激するものを。」 「そ、そう。」 その頃ターミナルドグマでは…… 「レイ……食事にしよう。」 「な、何よこの髭がぁ。 いっつもいっつも安物ばっかりでさぁ。 それで私の気を引いているつもり? その上、私が肉食べられないを知ってるのに、 目の前で肉を一杯食って、信じられないわね。 あ〜もう、やってらんないわ!」 「レ、レイ……」 レイが壊れた レイが壊れた レイが壊れた レイの豹変にゲンドウがその場で塞ぎこんでいたとか…… 翌朝。 「おっはよう、シンジ。」 「あ、アスカ、おはよう。」 朝食が始まります。 「おいしいわ。さっすがシンジね。」 「そ、そう?」 いつも通りのシンジです。 学校の体育の時間は野球。 ボーっとしていたシンジはフライを取り損ね、 顔にアザが出来ました。 「ホント情けないわね。 普段からボケボケーっとしてるからこうなるのよ。」 保健室でアスカが治療をしてあげます。 「ごめん。」 「まったく。この借りは来週の遊園地で返してもらうわ。」 「え〜〜〜。治療するって言い出したのはアスカじゃ無いかぁ。」 「でも、アンタ約束してくれたじゃん。 来週連れて行くって。」 本来ならウルウル攻撃をしかけるアスカですが、 最近乱発したせいか、うまく涙が出ません。 こうなりゃぁごり押しよ! 「あれはリツコさんのせいで僕がどうかしてて……。」 「男に二言は無いのよ!返事はっ?」 「ハ、ハイ。行きます。」 「その代わり……試験の勉強はアタシが手取り足取り教えてあ・げ・るぅ。」 「い、いいよぉ。別にぃ。」 「アンタ、試験勉強が忙しくてアタシの遊園地の誘いを蹴ったんでしょ〜が! 文句あんの?」 「……ありません。」 「じゃ、今夜からよろしくねっ!」 「はい……」 いつも通りのシンジの方が丸め込みやすいわよねぇ。 やっぱシンジはシンジが一番ね。 チュ アスカはシンジのアザにキスをしました。 「ア、アスカ?!」 「き、傷を消毒してあげたのよ。」 な、なんか勢いでキスしちゃったけど恥ずかしいじゃないのぉ。 チュ え、え、え、え、えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?! シ、シンジからキスされちゃった…… 頬っぺただけどキスされちゃったよぉぉぉぉぉぉ 「シンジ?」 「アスカに色々迷惑かけちゃったみたいだから……その、か、感謝。 感謝の気持ちだよ。」 リツコに何か仕返ししようと思ったけど、 今回は保留にしてあげるわ。 何たって、シンジから行動してくれたんだもん。 シンジぃぃぃぃ。 大好きよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 先ほどは出なかった涙が、アスカの頬を伝ってました。 そう、嬉し涙という形で……
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<アスカ>当サイトではWARA様の2作目よ!
<某管理人>おおきに、ありがとさんです。
<アスカ>シンジの口調…誰かさんを思い出すのよね。
<某管理人>誰やろか?ひょっとしてアスカさんのお好きな方ですか?
<アスカ>はあ?アンタ、何勘違いしてるの?私の彼はシンジだけでしょうが。
<某管理人>へ?そやかて、世間ではLAK…うわっ!ぐわっ!げげげっ!た、助けて……っ!
WARA様2作目。
シンジがカッコよくなったわ!
でも、あんなのシンジじゃないわ。
シンジはシンジだから好きなの!はん!わかってもらおうなんて思ってないわ。私が好きなんだから、それでいいの。
WARA様、素晴らしい作品をありがとうございました!