======================================================================

『チョコレートのメッセージ』   作:WARA

======================================================================

「誰もいない。丁度いいわね。」

頭脳聡明・容姿端麗の惣流・アスカ・ラングレーが
とあるお店に、ドアを開けて入りました。

「いらっしゃいま……あ、アスカか。」

「アスカか、じゃないでしょ。アタシもお客様よ。」

ここはケーキ屋”AKAGI”。
アスカの幼馴染のシンジがここでアルバイトをしていました。

「ごめん、今日イチゴショートは売りきれちゃったんだ。」

アスカはいつもイチゴショートを買っていくため、
前もってシンジが伝えました。

「ええ〜?!アタシが買うことは知ってるでしょ!
 どうして取り置きしてくれなかったのよぉ。」

「10人以上の女子学生が一度に買い占めたんだよぉ……
 目の前に在庫があるのに売れませんって言えないだろ?」

「そ、それでも置いておきなさいよ!」

「無茶苦茶言わないでよぉ。
 昨日はちゃんと残しておいただろ。」

「もう、知らない!」

「アスカぁぁ。」

別にシンジが悪いわけでは無いと思うのですが。
どうやらシンジはアスカに頭が上がらないようです。

「フンっ!」

「アスカぁぁ。」

「知らないっ!」

「アスカぁぁ。」

困ってるシンジを見て、にや〜っとアスカが笑いました。

「な〜んちゃって。今日は元々別のモノを買う予定だったのよ。」

「ひ、ひどいよぉ。」

シンジがテーブルに”のの字”を書いています。

「もう、拗ねてないで、接客しなさいよ。」

「う……うん。っで、何にするの?」

「違うでしょ。『何になさいますか?』でしょ?」

こういうところは細かいアスカです。

「う……うん。何になさいますか?」

「気持ちがこもって無い!」

「何になさいますか?」

少し引きつった愛想笑いを浮かべてシンジが言いました。

「ま、そんなとこかしら。
 さて、これが欲しいんだけど。」

「え?デコレーションケーキ?」

シンジが目を丸くしています。
当然ショートケーキ、もしくはドーナツ系を選ぶと思っていたからです。

「そうよ。文句あんの?」

「いや、そういう訳じゃ……」

3000円のチョコレート・デコレーション・ケーキを購入して
アスカは帰りました。

誰かの誕生日なのかな?

「シンジ君、いいかしら?」

そんなことを考えていると、店長の赤木リツコに呼ばれました。

「何ですか?」

「これをごらんなさい。」

何かの金属とプラスチックの複合物の固まりが
目の前に差し出されました。

「いえ、見ても分からないから尋ねているんですけど。」

「フフフ……常人には理解不能かしら?」

常人に理解できないのはこの店長じゃないかなぁ……

勿論、口に出すと命に関わりますので、心の中でそっとつっこみます。

「これは名付けて『勝手にハッピーバースデー・
 ネーミング書きこみクリーム搾り器』よ!」

ケーキ屋なのに何故か白衣のリツコが両手をポケットに入れ、
嬉しそうに発表しました。

「は、はぁ……。」

「スイッチを押すだけで何と……」

そう言いながら機械を動かします。
すると、『ハッピバースデー・リツコ様』
という文字が勝手にホワイトクリームで描かれていきます。

「この通り自動でメッセージが描かれるのよ。」

「す、凄いですね。」

「当然よ。この私の技術を持ってすればね。」

「だと、クリスマス用にも色々文字を描けますね。
 もうすぐそういう季節ですし。」

「クリスマス用ね……」

「どうしました?」

「現バージョンでは名前以外は文字を変えられないのよ。」

「そ、そうですか。でも、これでも助かります。」

「いえ、この赤木リツコに不可能は無いわ!
 今日はこれから改良と研究に時間を費やすからお店は任せたわよ。」

そういってすぐにリツコは奥へ消えました。

そ、そんな、リツコさん……

その日はず〜っと一人で店を切り盛りするシンジでした。





あ〜つかれた……

バイトが終わりシンジが家路についています。

今日は誕生日ラッシュだったのかなぁ……

誕生日用のデコレーションケーキの細工に追われ、
今日のバイトは忙しかったのでした。
まして、店長のリツコが全く仕事をしなかったので、悲惨でした。

ガチャン

「ただいま〜。」

しかし室内は真っ暗です。

また、二人共残業か。
共働きの両親がいない家に戻るのは、いつものことでした。

ピーピーピー

シンジの携帯が鳴りました。
アスカからのメールのようです。

『今日は遅かったわね。
 ご飯の準備できてるから、こっちに来ない?』

疲れ切っていたシンジには渡りに船です。
レスメールを打った後、早速シンジは隣のアスカの家を訪ねました。

「いらっしゃい。」

アスカは既に待ち構えていました。

「うん。あれ、部屋が暗いけど?誰もいないの?」

「アンタの家と同じよ。」

「そっか。でも、真っ暗の中アスカが一人で家にいたの?」

「フフフ……」

怪しい笑みだけ浮かべアスカはリビングへ消えました。
暗い室内でもシンジは困りません。
しょっちゅう訪問しているからです。

「じゃ〜〜〜ん!」

アスカが暗闇から声を上げたかと思うと明かりがつきました。

パンパンパン♪

激しい音と共にクラッカーがリビングを舞いました。

「な、なになになに?」

ビックリしながらシンジがリビングのテーブルを見ました。

サラダとハンバーグ。
これは別に違和感がありません。

「このデコレーションケーキは?」

そうです。
今日アスカが買ったケーキが真中にど〜んと置かれています。

「ほら、これを見なさいよ!」

ケーキの真中にメッセージが描かれた板チョコレートがあります。
しかし、このメッセージはシンジは描いた記憶はありません。

『バイト1周年おめでとう&お疲れさん』

「ア……アスカ?」

「どう?これアタシがアンタの為に描いてあげたのよ!」

1年のバイトで慣れたシンジのメッセージチョコよりは
多少見劣りするかもしれません。

今日、店長のリツコが自動機械で描いたメッセージよりつたないかもしれません。

ですが、シンジの目には、今までで一番デキが良いように見えました。

「あ、ありがとう……アスカ。」

「ちょ、ちょっとぉ、涙ぐむことないでしょ〜がっ!」

「な、涙ぐんでなんかいないよ。」

「どうだか……
 それより食べましょ。料理は全部アタシの手料理なんだからね。」

「うん。」

まずは料理から手をつける二人でした。





「良く、今日がバイト初めて丁度1年だって覚えていたよね?」

「え?」

「僕自身も忘れていたのに。」

「そ、そう?
 ア、アンタは普段からボケボケーっとしてるから忘れるのよ。」

「そうかなぁ。」

「そうよ。それに……そう、丁度友達の誕生日と一緒だったから。」

「なるほど。でもそれだったら、その友達にあげればよかったのに。」

「だ、だから……今日は両親と祝うって言われて。
 そうよ。それでアンタのことを思い出したのよ。」

「ふ〜ん。」

「どうせ、誰にも祝ってもらえないだろうから、
 アタシが代表して祝ってあげるのよ。感謝なさい!」

「うん。ホント、嬉しいよ。」

勿論アスカはこの日をハッキリ覚えていました。
毎日一緒に下校していた二人。
一年前の今日から一人で帰ることが多くなったのです。

もっとも、シンジがバイトの日は毎日お店でイチゴショートを
買いに通ってはいましたが。

もうすぐアスカの誕生日だよなぁ。

メッセージに何て描かこうか、そんなことを考えながら、
シンジはアスカとケーキを食べました。

「アンタにしては、バイトが良く続いてるわね?」

「そうかなぁ。」

「最初バイトするって聞いた時はビックリしたもん。」

「そう?」

「それにまさかケーキ屋なんて……」

「店長とうちの母さんが知り合いみたいで。」

「そっかぁ。」

「ね、このメッセージを描いたチョコレート、食べてもいいの?」

「え、ええ。」

「お祝いありがとう。じゃ、いただきます。」

パクッ
ポキポキ……

確かな歯ごたえを感じながらシンジが食べました。

アスカはというと複雑な表情でした。

やっぱり気づかなかったか。
ま、鈍感シンジだから予想はしていたけどね。

もし、シンジがメッセージの裏側を見たらビックリしたでしょうか?
それとも喜んだのでしょうか?





『シンジへ。アスカより愛を込めて。』





======================================================================

あとがき

----------------------------------------------------------------------

ジュン様がLAS小説執筆1周年ということで、
1周年にちなんだ小説を贈らせていただきました。

よく1年で沢山の小説をお書きになられてるなぁと、
頭が下がる思いです。

これからも頑張って執筆して下さいませ。

この作品自体は……適当に1周年を絡めて、適当にリツコを出しただけという
なんとも安直な執筆ですね。

自分で課したお題小説でしたけど、こんなに難しいものとは。

======================================================================


 

 作者のWARA様に感想メールをどうぞ  メールはこちら

<アスカ>WARA様の当サイトでの6作目よ!
<某管理人>おおきに、ありがとさんです。
<アスカ>しかも、誰かさんの執筆開始1周年のお祝いですって!
<某管理人>ああっ!これはこれは、何という嬉しさ。
<アスカ>そうよねぇ、よくもまあ1年もったわね。
<某管理人>うへっ、まったくもってその通りですなぁ。
<アスカ>ホント、ターム様のところにいきなり投稿したんですって?
<某管理人>HTMLもようわからんのに、ほんまにターム様にはご迷惑をおかけしましたわ。
<アスカ>で、これからどうすんのよ?
<某管理人>あ、その…まだ書かなあかんものが…。
<アスカ>じゃあ、とっとと書いてくる!

 
 さて、WARA様6作目。
 ホントに馬鹿シンジって素直というかお馬鹿というか。
 気付くかなぁって思って、
 精一杯の気持ちを込めてメッセージ書いたのにね。
 ぜんぜ〜ん、気付かないんだもん。
 拍子抜けしたけど、シンジの嬉しそうな顔見たらね。ふっふっふ…。
 楽しみは後に伸ばしてもいいもんね。今日はあの笑顔で充分よ。

 WARA様、素晴らしい作品をありがとうございました!
  

WARA様のサイト

<WARA’S HP>はこちら

 

SSメニューへ