アスカちゃんアゲイン!

                   こめどころ







2022年6月22日 北米州カナダ、 トロントシティ。






ぴんぽーん!


「ン?誰よこんなに朝早く・・・まだ8時じゃないの。しかも日曜日よほ・・・あふ。」


ぴんぽーん、ぴぽぴぽぴぽぴぽ!


「ああもううるさいっツ!こんな小学生しか起きていないような時間にっ!」


ん?このチャイムの鳴らし方は?


そう思いながらドアを開けるとそこにいたのは・・・いたのは 「あたしいいっ!?」
多分まだ小学生? わたしより少し暗いけれど、確かに金髪で青い目で、きりっとした太目の眉。


「おはようっ!『ママッ』今日からお世話になるわ。惣流アスカラングレーよっ!」

「そ、それはあたしのことでしょっ!アンタ誰よ。」

「はいこれ。」


鼻先に突きつけられた書類。
リツコ&ミサト・カーマイケル・ライフカンパニー発行返品受領証?


「以前あなた様の卵子をお預かりいたしましたが、事故により11年前に受精発生誕生いたしました。
規定により10年、さらにお詫びとして1年間のアフターサービス期間の満了に伴い卵子をおよび
2次発生生命体をお返しいたしますので御受領願いたく・・?」

「り、リツコの奴、またなんかどじ踏んだのね!受領拒否!何が何でも受領拒否!」

「あの、こっちも読んでおいたほうがいいよ、ママ。」

「ママじゃな〜〜〜い!何よ、『なお長らくご愛顧いただきましたR&MC・L・Cは本日倒産いたし・・・』
ええーーっ!」

「そ。そういうことなの。だからよろしくお願いしますね。」


このやり口・・・相手の驚きを見極めながら数波に渡って精神的動揺に付け込み、自分の思う方向に
誘導していく・・・紛れもなく、あたしだ。


「で?一体相手は誰なのよ。」

「相手って?」

「つまり、その、何だ。せっ、せっ、せっ・・・・」

「精子の提供者は誰かって事?そんなのいないわよ。あたしは純粋にママのコピー。」

「精子もいないのに湧いてきたって言うわけっ!」

「落ち着きなさいよ。精子は卵子と巡り合わなければ朽ち果てるだけだけれど卵子は化学薬品や
物理的な刺激を与えることによっても卵割誘発され分裂を開始するということは常識でしょう?
まず胚をね、前平衡無し(0%)、あるいは1.2%のエチレングリコール(EG)溶液に37℃で12〜16分
間浸してぇ、次にガラス化液(5.5M EG + 1.0 M シュークロース)に37℃で1分間平衡させて液体
窒素中に投入。そしてマイクロドロップレット法(MD法)では、胚を少量(4〜8μl)のガラス化液ととも
に液体窒素の中に直接滴下し、ストロー法(S法)では、胚をストローに充填してから冷却を行う訳。
胚を融解後、144時間体外培養し、わがR&MCLC社が世界に誇る胚盤胞および脱出胚盤胞へ
の特異的な」

「あああ!もういい!分かった分かった。自分の卵が勝手に育って子供になるなんて、んなことが
実際に起こるなんて考えている一般人がいるわけ無いでしょうっ!おちおちナプキンも捨てられや
しないわっ!下水で育った真っ白な自分が世の中に何人もいたらたまらないわよっ!」

「まあ、ママというよりは、歳の離れた双子って事よね。」


ふふん、と高慢に長い髪を揺すって高みから見下ろす様な不遜な態度。11か12くらいの癖に、
天上天下唯我独尊的なものの言いよう。くっそーあたしってこんなに可愛く無い娘だったかしら。
黙って座っていれば、天使のようなお嬢さんなのにとよく言われたけど、まさにその通りね!
互角の立場なんだって言いたいけど、なんと言っても4年生かそこらで、一人で生きていくこと
なんかできない。多分会社が潰れて放り出されたとき、この子には何も残されなかったに違い
ない。だから自分の最後の拠り所である卵の提供者であるあたしのところに転がり込もうと・・・

この子・・・本当に行くところが無いんだ。リツコたちは、ごく簡単に厄介払いするつもりでこの子を
あたしの所に送ったに違いない。今まで、どんな暮らしをしてきたんだか知らないけれど、住民
登録や国民番号なんかをとってあるのかしら。あ、出生届けや、そう、予防注射なんかは?
教育や何かはどうしたのかしら。そう思って良く見ると、着ている服はきれいだけれども、袖口や
スカートの裾に糸がほつれて見える。ちょっと小さいんじゃないかしら。髪もなんとなく荒れている
感じだし、こんなに可愛いのに余り手をかけられていない感じだわ。


「アンタ、とにかく部屋に入りなさい。」


にっこり笑いの、不遜な笑顔を顔に貼り付けていたちびアスカが、一瞬ほうっと息をついたのを
あたしは見逃さなかった。


「あ、そう。じゃあ、遠慮なく入らせてもらうわ。何と言ってもあなたはあたしのママなんだからあたし
にはここで暮らしていく権利があるんだから、これは子どもの権利に関するジュネーブ宣言に基づく
子どもの権利宣言を受けて締結された、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」からの
新連邦法児童法第12条に定められた子供に保証される基本権利・・・」

「ああ、わーかったわーかったてば。ほらほら入って。」


やっぱり。こうやって暗唱できるようになるほど相当心細くて不安だったのね。さすがに自分のことは
よくわかるわ。虚勢張って、弱みを見せないように必死になって。あの頃のあたしとおんなじ。


「あんた、朝食は食べた?まだ?よしわかった。まずあんたの仕事はあたしと朝食を取る事よ。」

「え?ううん。」

「シャワーは浴びたの?」

「け、今朝ついたばかりだから・・・」

「どこから?」

「ヮ、ワイオミングから、バスで・・・」


ワイオミングから!?  まあったく、こんな小さい子を一人で、何考えてんのよリツコ達はっ!
あんなイエローストン公園とバイソンしかいないような田舎から。せめて飛行機の手配位しなさい
よね。どおりでなんか埃っぽいと思ったわ!


「じゃあ、2,3日ろくに寝て無いわね。それに・・・いいわ、ついて来て!」


あたしは彼女の抱えていた大きなスーツケースをドアの横に置かせると、浴室に案内した。


「あたしは今からシャワーを浴びるわ。その後はアンタよ。待ってる間にその棚から歯ブラシを
取って、そう、それよ。よく歯を磨いて。タオルは上から3段目。バスタオルは4段目よ。」


こうやって考える暇を与えないようにすれば、もともと小さい子だから素直に動いちゃうのよね。
ようはエネルギーの大きい声の大きい方が勝つ!子供相手にぐずぐず考える間を与えないっ
てのが、どっちにしろやらなきゃならないことをやらせるときのコツよ!民主的にとか意思を尊重
なんてのは別の局面でやることよ。その辺、世の馬鹿親馬鹿教師は分かってないのよね。

あたしは一気にそれらを済ますと外でぼおっとしてた「小アスカ」を浴室に引っ張り込んで服を
引っ剥がすと温かいシャワーと極上のシャンプーとリンスでくるみ、一緒に朝風呂としゃれ込んだ。
日本にいた頃着いた習慣だけど、しゃきっと物事を切り替えるのに最も効果的だ。
もっとも今はそれをしてくれる奴がいないので、自分でしなきゃならないのが残念だが。

もわもわとした湯気の中、柔らかくて大きなバスタオルで女の子をくるむ。髪の毛がふわっと
逆立ったら、何だあたしとおんなじ髪の色になったじゃないの。う〜〜、女の子っていい匂いね。
なんて自己愛ってる場合じゃないわね。


「ほらほら、まずこれ着てなさい。」


あたしの一番小さなパンツと後はパジャマを着せたけどぶかぶかね。これは買いに行くしかないか。
いそいでつくったインスタントのオムレツとミルクティー焼いた食パンにたっぷりバターを塗ってその
上にジャムをぼってり。さあお食べ!

ちびアスカはお腹のすいた子犬のようにばくばくと良く食べた。そして食べた後のイチゴにコンデンス
ミルクをかけたものをソファで食べている時に・・・そのまま眠ってしまった。

「よほど疲れて・・・気を張ってたんだなあ。」


そう、むかしのあたしそのまま。
でもあたしには、軍隊の人たち、頼もしいお兄ちゃんたちがいつでも一緒にいてくれた。
あたしはずっと一人ぼっちだったと思っていたのに」、ずっと大きな愛情を注がれてたことに、ずっと
後になってから気がついた。そこがシンジやレイと、あたしとの違い。それがあいつたちとあたしの
運命を分けた。
気がついていようといまいと、あたしは人を愛することを思い出すことができた。
シンジとレイはあたしも含めた3人の中でしかまともな生活を営めなかった。

この子をそんなにしちゃいけない・・・自分だけど。ええ?するってえとこれは自己憐憫じゃないの?
まあ、難しいことはどうでもいい。意味のないことをくしゃくしゃ考えるのは性に合わないのよ、って
いうか、自分で禁じてるの。

寝てしまった子を、使っていないベッドまで運んで寝かしつけた。家具付き住宅はこういうとき便利だ。

そしてあたしは大急ぎで着替えて、書置きを残して、買い物のために外へ飛び出していった。
無論ドアは細心の注意を払ってそおっと閉めた。









あたしと真っ赤な愛車が、この高層マンションに戻ってきたのはかっきり40分後だった。後ろのトランク
には溢れんばかりの衣料品と食料品、助手席にはシンジ、後ろにはレイが乗り込んでいる。一気に
地下駐車場に入り、柱のスイッチを押すと自動運搬カートが3台飛んできた。その中に買い物をどさ
どさと放り込み、部屋番号を押すとカートは勝手に走っていった。


「なんなんだよアスカ。日曜の朝っぱらから無理やり引っ張り出すなんてひどいじゃないか。大体いつも」

シンジが頭をぼさぼさにしたまま裸の上半身に麻のジャケットを着て、パジャマのズボンの腰にスラックス
を結んだだけと言う格好で裸足に靴を履いて、ぶつぶつ言い始めた。レイは何を言っても無駄よね、と
言った風情で、やっぱりスリッパのままで、きわどい葡萄色のレースのブラと腿まであるセミロングのロー
ライズの上にコットンのガウンを羽織ったまま、手にキャミソールと歯ブラシを握って柱にもたれかかって
立っている。半目になっているのは、もしかしたらまだ頭が寝ているのかもしれないな。


「うっさいわねっ!アンタは黙ってあたしの言うとおりにしてりゃあいいのよっ!」


機先を制して一応怒鳴っておく。シンジにはこれは良く効く。しかしレイには駄目なのよ。


「寝てるところをいきなり拉致った癖に態度は大きいのね。」

「レイも黙ってっ、ここであんた達を連れて来ておかなかったら後で絶対あたし文句言われるんだから。」

「へえ、アスカにしては珍しく先のことを考えて僕らを連れてきたわけ?」


くッ、馬鹿シンジの癖にレイの尻馬に乗るんじゃないわよっ!


「あんたねぇ、あたしに向かってそういうこと言うわけ?誰があんた達の学費払ってやってると思ってんのよ。」

「まあ、そりゃあアスカに面倒かけてるけど。」

「アスカにはお金を借りてるだけ。ちゃんと契約して利子も払う事になっているのだし。後ろめたいことは
無いし、むしろそれを理由にわたしたちの行動の自由を奪う権利は」

「ああもうっ、ウルサイウルサイウルサイッ!とにかく早くエレベーターに乗って頂戴っ!」

あたしたち3人はがやがや言いながら、77Fのあたしの部屋に向かって高速エレベーターのボタンを押した。
77Fで降りると、ドアの前に先ほどのカートが3台、既に到着していた。あたしがキーロックを外すと3台は
するすると部屋の中に入っていく。その後からみんなで部屋にぞろぞろと入っていく。


「えーと、うん、食料品は分類冷蔵保管機に分別。服は2号室のクローゼットに識別分類し、サイズコード
順に保管。雑貨類は3号と4号7号の箪笥に分類して包装を破いてから保管せよ。」


てきぱきしたあたしの指示でたちどころに大量の荷物が片付けられる。シンジなどはいまだに〜してもら
おうかな?とか冷蔵庫に入れておいて、とか、マシンが類別できない指示を出してしまって結局自分で
やり直しばかりしているので、驚嘆の目で見ている。へっへー。自動調理装置なども完備しているので、
あたしやレイでも、シンジと分かれて広い部屋で一人暮らしができるのよね。そうじゃなかったら完全に
主導権握られてたでしょうね。


「さて。」


カート達が指示通り動き始めると、あたしは食卓の椅子に腰を下ろし、シンジとレイに椅子を勧めた。


「今日あんたたちに来てもらったのは、他でもないわ。実はね、あんたたちに紹介して置かねばならない
人物が、今朝うちにやってきたからなのよ。まあ、このカナダの大学生活中にとんでもないirregularが
発生してしまったと言うわけね。このirregularはあたしの予想によれば、我々のカナダ滞在期間に対し、
誤差設定率を越えて、多大なる影響を及ぼす事が必至なのよ。我々は特に、今までのこの快適な生活
を、一部縮小放棄せざるをえないという結論に達したわけ。この事態に対し、あなたたちのカナダにおける
保護者たるわたしが一方的に通告をしても良かったわけなんだけれども、何といっても長い付き合いだし
あなたたちの意見も一部取り上げて事態に対応したいと、かく思った訳なのよ。」

「つまり・・・自分ひとりでは手に余る問題が起きたから助けて欲しいって事なのね。」

「何を聞いてたのよっ!レイッ!」

「じゃあ、あなたの思ったとおりにやっていいわよ。あたし達は契約どおりに過ごす権利だけ確保できれば
いいの。それ以外の、誠意や友情は幾らでも示してあげる。友達だもの。それでいいでしょ?」

「ぐっ、ぐぐぐ〜〜〜。」


あたしは自分でもはっきり分かるほど顔を赤くしたり青くしたりした挙句、ため息をついてテーブルに上半身を
伸ばし、べったり倒れた。降参するしかない。契約の変更には彼らの同意がどうしてもいるのだ。


「わかったわよう・・・お願いします、レイ。」

「はい、最初からそう言ってね。」


にっこり微笑むレイ。その笑顔に背筋が冷たくなったらしいシンジ。顔色が悪い・・・レイには隠し事はやめよう。


その時、奥の部屋の扉が開いた。彼女が目を醒ましたらしい。あたしは椅子を倒しながら奥の部屋に飛び出して
いった。めんどくさがりのあたしが?と、いまさらのように異常を予感したらしいシンジとレイ。これは本当に、相当
大変な事が起きたのではないか。第一、あの意地っ張りで素直じゃないあたしが簡単に弱音を吐きレイの軍門に
屈したこと自体、異常事態、緊急事態といっていいのでは無いだろうか、と。そうなのよ、緊急事態なのよ!

そして、奥の部屋からあたしたち二人はシンジとレイの待つ部屋へと歩を進めた。緊張気味のちびアスカに言う。


「大丈夫よ。あたしにとっては兄妹みたいな人たちなんだから。」


きょ、兄妹!あたしの口から吐き出されるには余りにも不似合いな言葉。ついこの間も急な出費のために借金を
申し込んできたシンジに対し、「あたし達は契約で結ばれただけの赤の他人に過ぎないのに、お金を貸すいわれ
は無い。」と冷たくはねつけた上で、数十時間に及ぶ労働契約の上でやっと金を貸してやったたほどなのだ。
シンジは、どうもここに来て、一気に世界に冠たるドイツの血、世界一のハウスキーパーたるドイツ夫人の、几帳
面でがっちりした性格が表面に現れたと思ってるみたい。実際この部屋の窓にも食器にも曇りひとつない。
でも、それは単にどうものんびりが抜けないシンジにしっかりしてもらうことと、自分自身がいつの日か誰かさんに
嫁ぐ日のために日夜主婦としての、まあ花嫁修業みたいなものを開始いたからなんだけどね。


さて、問題の人物はあたしの陰に隠れるように、歩を踏み出した。向こうの2人から足が見え、次の瞬間全身が
現れて、赤金色の豊かな髪と可憐な姿が現れた。恥ずかしげに2人を見上げた眼差しは、可憐としか言いようが
無い。さすがあたし。
さすが世界の美少女。さあシンジ再びあの頃のようにあたしの魅力にひとめぼれするのよっ!ちびアスカは本当に、
まるであの転校してきたときのアスカラングレーそのままだった。


「初めまして、私、惣流・アスカラングレーです。」

真っ赤に頬を染めて「あたし」を見つめてる見つめてるシンジの奴。うふふふふふ。ニヤニヤ笑いが止まらなくて、
ニヤニヤ笑いだけになりそう。
ふらああっ、と椅子ごとレイが後ろに倒れた。それを慌ててシンジが支えて叫んだ。


「あ、アスカッ! いったい誰と作ったこどもなのっ!」


純真少年の目からは既に涙がこぼれそうになっていた。ありゃりゃ、ちょっとやりすぎたかしら。











 アスカちゃんアゲイン!(1) 2003−05−25 こめどころ     

後書き   本当は読みきりのはずだったんですけど、ちょっと時間切れです。
       次回に続く、ということで。(^^;たはは。

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<アスカ>こめどころ様から、投稿を頂いたわ!
<某管理人>うわっ!しかも連載やないですか!
<アスカ>ちびアスカよ、ちびアスカ!かっわいいわねぇっ!
<某管理人>いやぁ、その…。誰との間の子供で?
<アスカ>はぁ?アンタも馬鹿ぁ?本文読んでないの?
<某管理人>あは、わて文系なもんで。
<アスカ>はいはい、もう一度最初からしっかり読みなさいよ。とっとと行く!

 私の前に突然現れたちびアスカ。
 パパ無しで産まれた、私のコピー。
 勝手につくりだしておいて、厄介払いみたいに私のところに押し付けてくるなんてたまんないわ!
 で、私はどうしてカナダはトロントにいるわけ?そのあたりも次回が楽しみね。

 ホントにいいお話をありがとうございました!

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