決めた。この男
でん 2006.06.03
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私は決断した。 この男絶対に離さない。必ず自分のものにする。知り合ってから2ヶ月弱。 逢ったのは今日が初めてなのに。 『逢うときが心配。目印は』 あいつがメールで聞いてきた。 私の返信 『私 可成り目立つから判るはず。あんたの目印は?』 あいつの返事 『少し大きめのPDA持っている。背は余り高くない。175cm程度。すこしやせ気味。 紫色の帽子かぶっている』 私の返信 『何かさえないわね。でもまあいいわ』 『で、君の目印はなに』 途中であいつの携帯に伝言を入れた。 『逢えるかどうか判らないから余り期待するな』と。 でも私の心は決まっていた。逢うことは決定事項。 待ち合わせ場所には5分程早めについて様子を見たいと思ったから。 予想通りならいいが違っていたら即キャンセル。 JRの小さな駅前にあるこれまたもう一つ小さな公園。そこで私達は待ち合わせた。 予定通り定刻10分前に駅前に着いた。それらしいのがいる。 噴水の前で駅の方を見ながら待っている若い男がいる。予定より早いのに。 予定時間より5分経過。じっとして待っている。少し早い桜の花を静かに見ながら。 まだどんな奴か判らないのに携帯の番号を教えたくないから、公衆電話で彼の携帯へ電話を入れた。 『ごめんなさい。後、15分待ってて欲しい』と。 焦ったような様子もなく『了解』とのこと。 私はあいつから見えないように、駅前のファーストフードへ入り、2階から様子を見ることにした。 待ち時間何をしているのだろうか。いらいらしているかな? 焦るようなそぶりもなく、時計も確認するそぶりもなくじっとしている。 丁度、遠足から戻ってきた子供達の様子を見ている。 楽しかった出来事をきゃきゃと笑いながら話し合っている子供と迎えの親達へ微笑みを浮かべながら。 すごくいい雰囲気。上から見ていてもホッとするような感じ。悪くない。 見ているだけで落ち着いてくる。冴えそうにないのに。 ふと気づくと15分は既に過ぎ25分遅れに近づいていた。 途中1回だけ公園の時計をそれとなく見たが周囲を見回すようなことはなかった。 すぐ店内の公衆電話を使って連絡。 『後10分で着きます』と。 結局45分ほど待たせてしまった。 でもここで電話を入れて良かった。 後で聞いてみたらこちらからの連絡がもう少し遅ければ諦めて戻っていたとのこと。 冷や汗をかくと同時に自分のこと大事にしてくれたと思わずにんまり。 「でも何で初めてなのに1時間近くも待っていてくれたの」と私。 「メールのやりとりで信頼できたから。それに今、逢うべきだと心が言っていたから」と彼。 逢って初めての印象は良くなかった。すこしのんびりしすぎの男。応答も少し遅い。 若いのに覇気がないように見える。ぼけぼけの男。一応は気を使った服装なのだろうが年代遅れも ちょっとという感じ。 でもこざっぱりとして綺麗に洗濯をされているのは判る。店には出していないようだ。 自分で?意外とこまめじゃない。 母親にやってもらっているのかな?甘えん坊なのだろうか。こいつは。 背は私より10cm程高いが少しやせ気味。 頭髪は綺麗な黒髪。日本古来の言葉で言うと「髪は烏の濡れ羽色?」男にしてはもったいない艶と輝き。 櫛もきれいに通っているし、爪先もきれい。手入れはしっかりしている。清潔感あり。 でも私を掴まえたのはその眼、澄んでいるの。瞳にもけがれがない。 まっすぐにこちらを見つめるとても綺麗な漆黒の瞳。 じーと見ていると引き込まれそう。思わず身震いをした。 そして現実に立ち戻った。あいつも、私の瞳から目を外さなかった。 私の最大のお気に入りのブルーアイズ。ブルーサファイヤを思わせると言われている瞳。 あいつの瞳に私が写っている。 お互い見つめ合っていたのはどれくらいだったのだろうか。 5分、10分?周りの音が急に戻ってきた。 「紅さん?ですか」 「江戸古紫さん?ですか」 思わずハモって互いを尋ねた。 一気に緊張感が消えた。 今日から2ヶ月ほど前。 Net上で趣味のグループのコミュニュティーの掲示板を読んでいて私はあいつを知った。 ある場所で開かれた催し物にあいつが参加し、そして感想を自分のコミュに報告のレポートをしていた。 私も同じ日に同じ場所で同じものを見ていた。少し興味があったので覗いてみた。 写真が数葉と文書が20行ほど。本人が楽しく見ていたのが書かれていて思わず微笑んだ。気は良さそう。 ついでに今までの書き込みも読む。平凡な文章。間隔の開いた日記。でも何処か気になる。 でも、こういう場所は結構猫かぶりが多いから注意。注意。一応礼儀なので感想を書き込む。 まあ当たらずさわらずの所を書き込んだ。ネームを入れた。 返事のメッセージ来るかな?どうかな?関心半分、興味半分。なんで気になったかその時は判らなかった。 一部閉鎖的なコミュニュティーだから変なのがくることは少ないが少し心配。 20代半ばになったが中学、高校、大学と私は男と付き合ったことはなかった。 だからといって同性への興味もない。異性も同性も仲の良い友人は何人か居たがそれまで。 その先へとは決して進まなかった。友人以上には。何かが私の行動をとめた。 「不沈鑑」「撃墜王」と、言われ続けてきたが自分ではなにも感じることはなかった。職場でも同じこと。 そう、ここ「人類創世研究所」とかでも同じ。遺伝子研究と新しいオーバーテクノロジーの研究に日々を 過ごしている。 髪は腰まである長さだがぼさぼさにし、化粧も着衣も気にしていない。 少し身綺麗にするとうるさくなりすぎる、思わぬ嫉妬と好奇心の目に追われるのが嫌だから。 どんなタイプの男にも心動かされることがなかったのに、今回はどうしたのだろうか? 相手もそのようだ。最初はコミュ付属のメッセージで書いてきたが、メルアドを教えて欲しいと言ってきた。 『何故?』 『想いを書き足らないし、何処でも書けない。今までこんな頼みをしたのは初めて』 なにを焦って居るんだろう。『そんなにもてないのか』と。 『どんな相手か判らないのにメルアドの交換は出来ない』と言ったら。 書いてきた。文章自体は巧みではないが自分の想いを真摯に、熱っぽく。 まるで「恋文」のように。 そう、それは「恋文」。浮ついた「ラブレター」じゃない。 「ラブレターなる物」は今まで、どの時代にもよく届いたがそれは一つも開封せずに焼却炉へと直行した。 携帯のメールにも知らない相手から届くことがあった。 どこで調べてくるのか判らなかったが、あまりにしつこいので何度かアドレスや本体そのものを変更した。 しかし、今回の「恋文」何故か私の気持ちと重なるところがあった。 「何かが違う。周囲の者達と。場所も違う。ここは自分の居る場所ではない。 誰かが待っている。夢に見るひとがいる。顔は見えないがとても懐かしく感じる。繋いでいる手が温かい。 でも手を離してどこかへ行ってしまう。泣きながら追いかけても追いつかない。」 目覚めた後の寂寥感に包まれる毎日。 私も同じように感じていた。 「綺麗だから、優秀だからとチヤホヤする友人、教師達、そして両親はいるがどこか紛い物。 胡散臭い毎日。日常の閉塞感と孤独感。部屋で一人で居ると途轍もなく落ち込むときがある。 私も誰かが待っているのが判るときがある。誰かは判らない。でも確かに待っていてくれる人がいる。」 だから今まで生きてきた。生きてこられた。 あいつもそして私もそんな中で見付けたものがあった。 そのときは気づかなかった。なぜそこに惹かれたかが。 「なぜこのグループに入ったの」私は尋ねた。 あいつは答えた。 「今から140年ほど前、この国が新しく生まれ変わる時、その舞台を走り抜けた若者達が居たことを。 僅か5年ほどの歳月の中で今でも光芒を放つ若者達の生き方。何故か惹かれた」という。 「後の時代から見ると無駄、手遅れかもしれないことに命の炎を燃やした若者達。そこに興味を持った。 自分と年代がほぼ変わらない若者達の集団のことに惹かれ始めた」と。 私もそうだった。 大学を出る少し前から「何か」を求めてNetを探すようになった。勉強もした。本も読んだ。運動もした。 でも見つからない。 勉強も、運動も割と苦もなく一定以上のレベルに達することが出来てしまう。でもその先までは行かなかった。 専門にする気もなかった。 モデルや芸能人へとスカウトもされた。いわゆる一流の所もあったようだが。 でもそれらはすべて断った。 「もったいない」と人は言ってきたが、道が違うのだ 私の求めている物と。その「何か」が。 そして私は「お高い」とか「傲慢」とか言われるようになり、周囲から友人は消えた。親友と思っていた者も。 そして今の職場に入った。食べねばいけなかったし、親の援助ももう受けたくなかった。 そしてこの仕事で「何」かが見つけられそうだったから。 でもそれはなかった。仕事としては面白いのだが。 そんなとき職場の先輩達が世間話でTV番組の話題をしている中に何か惹かれるものがあった。 私も見てみた。惚れ込むほどではなかったがよく見るようになり、そしてさらに深く知りたくなった。 歴史小説を読みコミックなども見るようになった。 しかし、しょせん「虚構」の世界。歴史的な事実はどうなのだろうかと。Netで調べ始めた。 驚いた。すごい量のグループが存在していた。そして何カ所かのグループを覗いた。 なぜなら一人でNetで探していても限界はある。だから参考にしたいと思って。 かといって誰かと連むのはもっと嫌だ。覗いたところでは嫌なことばかりだった。 小説、漫画や映画のイメージで考えたり、コスプレと勘違いしていたり、常識のかけらもない行動をしたり。 何度か疑問を掲示板に書いてみた。 掲示板の書き込みで「女」と知ったら豹変する態度の奴らの多いこと。 反吐を吐きたくなるようなメールが送られてくることもあった。すべて無視をしていたが。 嫌になって止めようと思ったとき、あるグループが気になって覗いてみた。 自分の思っていたように『事実』主体で仲間同士になっているところだった。 雰囲気も悪くない。私はいつものように質問を書いた。何通か回答がきた。当たり障りのない言葉で。 でもこいつは違った。 私の疑問に丁寧に答えてくれると同時に自分で考えられるように方法を教えてくれた。 それからこいつの個人掲示板をたまに覗くようになった。変哲もない文章、でも気になる。返事はいつも丁寧。 そしてメッセージを送ったり日記に書き込むようになった。 そんなやりとりをしていく中でこいつに「ホッとする」気持ちが出てきた。何となくの安心感。 柔らかく包まれているような文章。 こいつが意を決したかのように「ミニオフ」を申し込んできた。 考えた。私は考えた。少し悩んだ。 こいつは『私の外見を知らない』だから今回は内面での申し込みだろう。私も少し興味がある。 そして春まだ浅い今日、逢うことにした。 何で「こいつ」と呼べるんだろうか。初めて逢ったのに。 でもあの深く穏やかな優しさをたたえ、見つめていると吸い込まれそうな漆黒の瞳。 何者にも代え難いと思わせるその微笑。「天使の微笑み」昔から知っているような気がしてくる。 その穏やかさに包まれて暮らしていたような。 決めた『私は今決めた』『こいつを絶対手放さない』 理由:こいつが欲しいから。こいつの全てが。それは心の底からのもの。魂の叫び。 今まで「恋」や「愛」を欲しいとは思わなかったけれど、今私は変わった。いや変えられた。 こいつに出会ったから。 こいつを手放さないためには何でもする。こいつに奥さんや恋人がいたら略奪してもいい。 絶対に自分のものにする。 私がこんな気持ちになるなんて信じられない。正直自分でも驚いた。 恋?愛?これがそうなの。 自分のものに出来なければ・・・。 一瞬浮かんだ殺伐とした想像を否定しきれない。 もう、昔の自分には戻れない。 夕暮れ迫る公園の中で互いの瞳を見つめながら話し合った。まるで十何年も一緒に居るかのように。 時間がたつのなんか忘れてしまっていた。でも時間は来る。互いの家へ帰らねばならぬ時間が。 ・・・私は言いかけた。 自分でも気づかなかったが、うつむいて頬を赤くし、躊躇いながらも。 こいつはそれを遮るように、顔を真っ赤にしながらも強い口調で言ってきた。 「もっと一緒にいたい」 「もっと話しをしたい」 「もっと知りたい」 「初めてで図々しいと想われるだろうが」 「でも無理かな? 初めてだし、帰りの時間もあるし。…」 私は心の中で歓喜した。同じだ。同じことを考えていたのだ。 「いいわよ。すこしくらいならね」 『どうせ手離さないから。こいつから申し込ませるんだ。この私に。』 『この先のこと考えて、好きだ!付き合って欲しい!は こいつから言わせるんだから』 『そしてその次と最後の言葉も』 深夜営業のファミレスへ行き話をした。切れ目がない程に。互いのことを。 話せば話すほどこいつと私は一緒だった。何もかも。 途中ちょっかいを出してきた奴らがいたがあいつの一閃の動きで黙ってしまった。 一見頼りなさげな態度と動き、でも鋭い爪を持つ鷹だった。 私だけでも十分撃退出来たが今回は一歩譲ることとした。 初めてで「はしたない」所を見せて引かれては困るから。 丁寧に応対しているのを軽く見たか、バカどもは固まって襲いかかってきたが、それを軽くよけ、 必要最小限の動きで相手を路上にはわせた。うわべは逃げまどい悲鳴を上げながら。でも余裕を持って。 わかるものが見れば実力は格段の差だった。 野次馬も呆気にとられるほどだった。 警官が騒ぎに気づいて近づいてきたときは既に二人は一緒に逃げ出していた。 しっかりと手と手を握って。しばらく走った後ふと互いを見て笑い出した。 一緒にいるだけでこんなに楽しく嬉しい。 握り合った手のぬくもりを通じて相手の暖かさが伝わってくる。 相手の嬉しさが、喜びがしっかりと伝わる。 この手離したくない。いつまでも繋いでいたい。 赤い糸がしっかり結びつけた絆のように。 今しっかりと感じ取れた。 『私はこいつと一生添い遂げる』と。 そのためにこの世に生を受けたのだと言うことを。 神様だか仏様だかは知らない。 でもこのチャンスを、この出逢いを創ってくれた何者かに感謝しなければ。 いつのまにかまた互いを見つめ合っている二人。川面を伝わる波の音だけが聞こえてくる。 こいつが近づく。私も一歩近づく。言葉はない。 何か言ったら壊れてしまいそうな雰囲気の中、あいつの手が伸びる。 私を捕まえるために。私の心をしっかりと捕まえるために。 私も動けない。あいつがじっと見ている。あの漆黒の瞳で。 心の奥底を見せながら。 その瞳の奥には炎が見えた。 捕まった。意外と大きなあいつの手。私より少し大きく広めの肩。 でも嫌な気分はしない。 包み込むように抱き寄せられた。ゆっくりとそして確実に。 あいつの瞳に私が映る。必死であいつを見ている私の瞳。 目を閉じた。少し顔を上向かせて。 はしたない、遊び慣れてると思われないかと思いながらも、恥ずかしく目を開けていることが出来なかった。 優しく唇が触れてきた。初めての接吻。逢って間もないのにここまで許すとは。・・ 自分が信じられない。 「恋人なんていらない。子供なんていらない」と公言していた私だったのに。 あいつの唇が触れてきたところから甘い感触が身体全体に広がっていく。 思わずしがみついてしまった。 離れないように。離されないように。 こんな感じなんだ。こんなに嬉しいものなのだ。 心の底から信頼できるくちづけは。とろける感じ。初めての接吻。 そう歴史的なファーストキス。 私にとっては今まで誰にも許したことのないもの。 あいつはどうなんだ。気になった。 顔を離して聞いてみた。 あいつは真っ赤になったけれど答えてくれた。 「はじめて」だと。「人を好きになったのも初めて」だとも。 「これから経験する初めては全部私のものだ」と言ったら笑ってうなずいてくれた。 そして 「逢って少ししか時間がたっていないのに、こんなこと言うのは不遜かもしれないけれども君が好きだ。 君のすべてが欲しい。僕の、僕だけの人になって欲しい」と。 外見目当てでない心からのもの。それは確信できた。 泣いた。私はいつの間にか泣いていた。心の中からあふれてくるものは涙。 でも一人孤独で流したものとは違う。温かい涙だった。 今までの経験したことないもの。私にとって初めてのもの。 こいつがくれた。 本当に私を必要としてくれた彼。逢ってからの時間の長さと中身の濃密さは反比例していた。 その日、私たちはそれぞれの家に帰らなかった。 この回終了
後書きに代えて
中年過ぎのLAS大好き人間です。昨年春知ってからどっぷりつかりました。 諸先輩の作品を読ませていただくうちに「自分でも書いてみたい」と思い、 諸先輩の足元に及ぶものではありませんが拙作を仕上げました。 今回ご多忙中の中、拙作に付き合っていただいた じゅん様 のお陰で発表することが出来ました。 稚拙ではございますが此処まで読んでいただき有り難うございました。 ご批評、ご批判などを頂ければ大変参考になりますので宜しくお願いします。 梅雨入り間近の多摩にて でん
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さぁて、でん様の当サイトへの初投稿。
LASを書くのは初めてってことよ。
これは、現代の世界よね。
使徒もいなくて、チルドレンもなし。
だから、アタシたちは今まで出逢えなかった。
よしっ、偉いぞ、アタシ。
ここまで数多くの誘惑を退けてきたもんよ。
あ、ついでに馬鹿シンジも褒めといてあげる。
あくまで、ついでよ、ついで。 アリガト、シンジ。
ありゃま、でも彼の名前がない…って、アタシも。
まっ、他に該当者いないしね。
そこんとこはっきりさせるためにも、みんな感想出すのよ!
ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、でん様。