第参百参次、定期報告。

以下は作戦課所属葛城ミサト三佐に義務付けられた、セカンドチルドレンの監督日誌である。

尚、この資料の流用はA10神経接続に関する技術担当のみに認められるものとする。



Nerv総司令碇ゲンドウ




-------------------------------------------------------------------------------
       セカンドチルドレン監督日誌  -File3-       報告者・葛城ミサト三佐
-------------------------------------------------------------------------------




2015年●月×日



セカンドが激怒した。

理由はやはりサードに関することだ。

以前、この報告でも触れたようにサードは父親との関係に悩んでいた。

そのため、私は彼が父親との関係を何とか修復出来るようにと、

司令への面会手続きを行い、それがついに先日受理されたのだ。

私がそのことをサードに伝えると彼は見た目にも分かるほど動揺し、

まったく口を聞かなくなってしまった。

そして今日、挙句の果てには面会を辞退する旨の話を私に伝えてきた。

それは食事中だったため、その言葉を聞いていたセカンドが激怒したのだ。

彼女の言い分はこうだ。

親が生きてるのだから、まだどうにでもなる。

それすらしないのは嫌なことから逃げているからだ。

サードはその言葉を聞くとひどく神妙な面持ちになり、数瞬の後、セカンドにこう答えた。

ありがとう。

やり取りはそれで終わり、サードは元の様子に戻った。

セカンドはその後は何も言わなかったが、サードに満足そうな視線をずっと送っていた。

明後日、サードは父親と面会する予定である。








2015年●月□日



予定通り、サードは正午から司令と面会。

本日は休日だったため、ファーストとセカンドは完全なオフ日であったが、

彼女たちは二人とも本部に訪れ、私の執務室で彼を待った。

サードに対して何か思うところがあったのだろう。

サードは予定時刻より一時間も遅れて司令室から退出してきた。

彼の顔は暗いとも明るいとも言いがたい表情をしていて、

それを見た彼女たちはサードに心配そうな目を向けた。

だが、サードは先程までの表情を変え、たった一言だけつぶやいたのだ。

これから頑張っていけばいい。と。

やはりそう簡単には決着はつかなかったらしい。

だが、彼はスタートラインに立てたのではないだろうか?








2015年●月△日



夕食の時、セカンドに継母からの国際電話が掛かってきた。

初め、彼女はそれを拒否しようとした。

といっても、有無を言わさずそうしようとしたわけではない。

彼女は電話の相手を知ると躊躇の表情を浮かべ、

一瞬の思考の後、継母には自分はいないように伝えてほしいと言った。

この件に関しては、彼女の幼少時代のことを考えれば至極当然のものと思われる。

事実、彼女は前にも数回同じことを繰り返している。

しかし。

今回はそうはいかなかった。

何と、あの気弱なサードがセカンドに向かって電話に出るよう強い口調で促したのだ。

ここで電話を無視するのは、前の自分と同じだ、そういったのは君だ、と。

セカンドは初めは抵抗したが、サードの真剣な雰囲気に呑まれ、ついには電話口に立った。

自分が言い出したものだったので、引くに引けなかったのだろう。

それから40分ほど会話したようだが、やはり彼女も幾分釈然としない様子だった。

二人は似ていると思う。








2015年●月○日



衛星軌道上に使徒を確認。

初号機は凍結中であったため保険に零号機を待機させ、弐号機一機の作戦展開となる。

目標が射程に到達後、ポジトロンライフルで長距離射撃を試みるが効果なし。

その直後、目標からセカンドへの精神干渉が確認される。

これは使徒が人間に興味を持ったためと推測されたが、正確な意図は依然として不明である。

セカンドが精神汚染直前まで追い詰められた時、ファースト及びサードからの通信が入る。

彼らの叫びはすこぶる悲痛なもので、思わず身の毛もよだつようなものだったが、

それがセカンドの心に届いたのか、彼女は自力で精神干渉を突破。

互いに決定打を持たない膠着状態に入る。

そこで本部はロンギヌスの槍の使用を決定。

零号機が担当に当たり、結果、目標の殲滅に成功。

セカンドに精神汚染の後遺症は見受けられなかったが、やはり普通のそれではなかった。

だが、直後にサードがセカンドの元に赴き、涙を流しながら彼女を抱きしめた。

セカンドもそれに答えるように彼をかき抱き、ケイジは嗚咽に染まった。

その様子は私たちが声をかけるのを躊躇われるほどだった。

セカンドは現在、元の状態に復帰している。








2015年●月●日



第三新東京市郊外に螺旋状の使徒が出現。

弐号機は先の戦闘の後遺症で調整中、初号機は依然として凍結状態だったので、

担当は零号機一機のみとなる。

使徒をライフルで射撃後、目標は零号機に物理的接触を図り、ファーストへの精神干渉が開始した。

そこで本部は初号機の凍結を解除、出撃させる。

一時は初号機も目標の精神汚染にかかるものの、セカンドが命令を無視し出撃。

ATフィールドを最大まで展開し使徒の精神汚染を突破、そのまま目標を撃破し、

零号機、及び初号機の救出に成功する。

ファースト、サード共に後遺症はなし。

セカンドは一時、三人の精神汚染を一挙に引き受けたため、ショック状態に陥りそのまま入院。

が、後遺症はなく、じきに目を覚ますだろうとの報告を受けている。

命令違反は不問となった。

ファースト、サードは通常任務に復帰。

両者ともセカンドの安否を気遣い、若干精神が不安定気味である。








2015年■月△日



マルドゥック機関を通さず、委員会から直接にフィフスチルドレン選出の一報が届く。

フィフスチルドレンは渚カヲル15歳、過去の経歴は全て抹消済み。

フィフスは即日、サード及びファーストと接触。

会話の内容は諜報部音声資料F-N01に記録済み。機密はSS。

その後、本人を本部に出頭させシンクロテストを受けさせるが、通常ではありえない事態が起こる。

これは資料さえ表記できない。

フィフスの監視を特Sまで引き上げることを要求する。









2015年■月×日



セカンドが目覚める。

少しばかりの混乱状態が見受けられたが、体調は良好である。

私はサードとファーストと共に見舞いに赴いたが、

彼女は特にサードの訪問に嬉しそうにしていた。

若干の検査が残っているので、退院は許されていないが、

この調子なら近いうちに復帰できるだろう。









2015年■月□日



使徒が弐号機を従えて、本部に侵入。

使徒はフィフスの少年であった。

零号機は先の戦闘での破損箇所が甚大で出撃が不可能だったため、

初号機のみの作戦展開となる。

出撃後、断層でターミナルドグマへの隔壁を降下中の目標を発見。

目標は弐号機を操り初号機へ襲い掛かるが、初号機もこれに応戦、同時に説得を試みる。

目標の力は強く、ATフィールドもこれまでにないほど強力なものであったため、

隔壁を全て突破されターミナルドグマまで侵入を許してしまった。

これを受け本部の自爆も検討されたが、結果として目標の撃退には成功する。

詳細は不明。

その直後に、電子機器がATフィールドのジャミングによって機能を停止してしまったからだ。

サードが語るには、アダムの直前まで来た時、目標は侵攻を止めたらしい。

そこで再度、サードがフィフスの説得を試みると、驚くことに彼はそれを受け入れたという。

サードはフィフスに一緒に戻るよう要請したが、

アダムから離れると彼は忽然と姿を消してしまったという。









2015年■月◎日


MAGIが他支部からの多重ハッキングに晒され、

それと同時に委員会からエヴァシリーズ9機が投入された。

この目標は我がNerv本部である。

おそらくこれは、昨今の本部と委員会の対立が表面化していたことに起因すると思われる。

本部はエヴァ三機をジオフロントに展開。

これを迎え撃つが、S2機関搭載型の量産機に苦戦を強いられる。

ついには内部電源まで切れ、サードインパクトを逃れる術はないとも思われたが、

先に行方不明になっていたフィフスが突如出現、量産機の動きを止める。

フィフスがATフィールドを展開すると、量産機はそのままコアを破裂させ、機能を停止。

やはりフィフスはそのまま消えてしまったが、その直前にサードと一言だけ言葉をかわしたらしい。

ジャミングが酷く、MAGIのテープレコーダーにすらその内容は記されていない。

ただ、サードはどこか寂しそうな表情を浮かべていた。

尚、この件に関しては全て最重要機密である。機密レベルはSSS。








2015年◇月△日



エヴァの解体作業当日。

私やチルドレンたちも関係者と言うことで、その様子を見に行く。

サードやセカンド、特にセカンドは物憂げな顔を浮かべていた。

彼女は感覚的に知っているのだろう。

自分の母にはもう会えないと言うことを。

以前のセカンドなら取り乱しさえしたのかもしれない。

だが、彼女のその悲しさを分かち合うようにサードがそっと寄り添っていた。

作業を見届けた後、ファーストとサードが司令に面会に行った。

前のことがあるので、彼らの心理状態が心配されたが、

そんな私たちの心配をよそに、面会から戻った二人の顔はほんの少しだけ晴れやかだった。

サードが言うには、今度、父とファーストの三人で母のお墓参りに行くことを約束したのだという。

とても良いことだと思う。

だが、一つ問題が起きた。

二人があまりに嬉しそうに話すので、セカンドの機嫌がすこぶる悪くなってしまったのだ。

サードがそんな彼女に気づき、フォローしようとした時には既に遅し。

例のごとく、彼の頬には季節はずれの紅葉が咲いた。

セカンドはもう少し落ち着いた方がいい。








2015年◇月□日



Nervの解体が決定、それに伴い適格者たちは退職、

私がせっせと付けていたこの日誌も不必要なものとなってしまった。

が、文章を書くということはそれだけで知性の強化になるし、

自戒の意味も込めて、この「日記」は続けることにする。









2015年◇月▽日



今日は宴会だった。

何の宴会かと言うと、Nervの解体パーティー、早い話が打ち上げである。

ただで酒が飲める場にこの私が行かないわけがなく、たんまりと酒を飲んできた。

私は基本的にビール党だが、2次会で出された日本酒、越乃寒梅とかいったか。

あれは本当に美味しかった。

これからは日本酒も飲もうと思う。

そういえば、レイ、アスカ、シンジ君の身の振り方が決まった。

シンジ君は父親のマンションの隣に移住、レイは司令の部屋。

最初は一緒に住む予定だったらしいが、女の子と一緒に住むなんてとんでもないと、

シンジ君が断固として拒否したらしい。

後で彼に「据え膳」という言葉を教えよう。

アスカはドイツに帰還。

と思われたが、本人がそれを拒否。

このまま留学生として日本に居続けることになった。

で、ホームステイ先に選んだのが私の家。

彼女とはよく喧嘩もするけれど、特に最近は私を頼ってくれているのが分かって嬉しい。

彼女も義理の母との関係に決着がつけられないのだろう。

これまでの彼女を考えれば、仕方ないことだとは思うけれど。

だが、彼女ならきっといつか解決できると思う。

あとの原因は「彼」か。

彼がマンションを出ると知ったとき、アスカは烈火のごとく怒ったが、

シンジ君がアスカに父親と住みたい事情を話したら、彼女はあっさり引き下がったのだ。

アスカが「家族」という言葉に過敏になるのはいた仕方ないだろう。

レイのことに焦って、自分もあのマンションに住むと言わなかっただけでも、彼女の成長が見て取れる。

まあ、あの高級マンションに住むなんて結局は無理なのだけど。

何にせよ、これからが彼らの青春時代といったところか。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





「と、いうわけなのよ〜。」


「ミサト、あなた酔いすぎよ。」


「酔ってない!酔ってませんよ〜♪」


「十分酔ってるわ…。」





リツコは隣で痴態を演じている親友を眺め、ため息をついた。

彼女はこの場がバーではなく、親友の家だったことに深く感謝する。

親友は未だぶちぶちと文句を垂れている。

もう一度読みなさい、責任を取りなさいと。

彼女はやれやれといった感じでテーブルに目を移し、

今まで酒の肴になっていた「モノ」を手に取った。

彼女の手には日記帳が一冊。

言わずもがな、Nerv時代の監督日誌である。

本来はパイロットの精神状態を逐一把握し、それをエヴァとのシンクロに役立てるためのものであったが、

先のNerv解体により結局使用されることがなくなってしまった。

酔ったミサトはそれが気に入らなかったらしく、

当時、技術担当であったリツコに日誌を無理矢理見せていたのだ。





「ちょっとリツコ聞いてんの〜!?」


「はいはい、聞いてるわよ。」


「アスカったらね、アタシを放ったらかしにして、シンちゃんのとこばっか行ってんのよ〜。

 レイに目を光らせてるんだか何だか知らないけどさ、見てるこっちは苛々するわよ。

 そんなに青春したいなら、とっとと好きです!って言っちゃえばいいのに!

 二人でもじもじしちゃってさ〜、お互い好きあってるのが目に見えてるのよ?」


「アスカはあなたに似ちゃったのよ。そういうところもね。」


「何よそれ〜、どういう意味ぃ〜?」





ミサトはもう既に呂律が回らなくなっていて、目もこれでもかという程見開かれている。

彼女を知らない人間ならば、この時点で恐怖を感じて逃げ出してしまうのだが、

リツコはさもそれが当然であるかのようにまったく動じない。

彼女は辟易しながらも答える。





「そのままの意味よ。好きな子に好きですって言えないところ。

 あなたもいい加減にすれば?加持君のこと。」


「加持なんか知らないわよ、あんな甲斐性なし!

 それにアスカより私の方がいい女だもんねー!」


「アスカが寝てて良かったわね…。

 起きてたらきっとこう言ったわよ。就職も決まってないのに?って」


「クッ!痛いとこつくわね…。」





ミサトはそれまでの勢いはどこへやら、いきなり机に突っ伏してしまった。

そう、彼女はNervが解体されて三ヶ月、未だに就職が決まっていなかった。

本来ならば国際機関に転属する予定だったのだが、使徒を倒した今、

彼女は自分がそこに籍を置く理由を見出せなかったのだ。

それに自分が転属すれば、アスカの保護者としての役割を果たすことが出来ない。

彼女はそれが嫌だった。

兎にも角にも葛城ミサト女盛り29歳、第三新東京市内で依然として就職活動中である。





「アンタはいいわよね〜。どこの大学からも引っ張りだこだったんでしょ?」


「別にそんなことないわ。院時代の指導教授に人手足りてますか?

 って聞いたら、教員の職を斡旋してくれただけのことよ。」


「そういうのを引っ張りだこって言うのよ…。」


「フフ、そうかもね。」


「そうよ。」





彼女たちはどちらからともなく笑った。

夜の帳がほんの少しだけ騒がしくなる。





「さっきの話の続きになるけど、アスカって私に似てるかしら?」


「似てるんじゃなくて、似たのよ。」


「…?意味が分からないわ?」


「姉妹は似るって言うでしょ?」




一瞬、ミサトははっとし、リツコを見返す。

彼女の顔は穏やかで、そして優しかった。




「…そうなれるかしら?」


「なれるわよ。あなたならね。」


「…ロジックじゃないわね。らしくないわよ?」


「たまにはいいでしょ?

 …もうこんな時間ね、そろそろお暇するわ。」





そう言って、腕時計をしかめっ面で見る。

自分も調子に乗って飲みすぎたようだ。

ハンドバッグと薄手のカーディガンを手に取り、立ち上がる。

その時に少しだけ身体が揺れて、自分が酔っているのがよく分かった。

いい加減、帰らなければならない。

が、ミサトが突然リツコの足に絡みつき、彼女を上目遣いで見上げる。





「ねえ、リツコ。もうちょっと話の続きしよ?」





ミサトはアルコールで赤くなった顔を更に赤くして、甘えるようにリツコに言った。

リツコはそんな親友を可愛く思ったが、生憎と彼女には時間がなかった。

終電を逃せば、明日の仕事に差し支える。

生真面目な彼女としては、二日酔いの身体で学生の前に姿を出すことは避けたい。

リツコは縋りつく親友を振り払い、たった一言声をかけマンションのドアをくぐった。






「続きはまた今度ね。」






End?






<あとがき>


タイトルに偽りありですね…。
見切り発車で話を作ると失敗するということを海より深く理解しました。
設定に突っ込みどころが多分にあることは理解してますので、どうぞそっとしておいて下さい。(^^;
こんな失敗作を最後まで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。
なお、ジュンさんの許可がいただけたので、この話は調子に乗って続くかもしれません。(汗)


rego



 


 作者のrego様に感想メールをどうぞ  メールはこちら

 

<アスカ>rego様からの投稿の第4弾の3回目よっ!
<某管理人>わっ、完結でんなぁ!
<アスカ>馬鹿。何言ってんのよ。まだまだ続くのよ。
<某管理人>へ?そやけど。3回で終わるって最初に…。
<アスカ>
アンタ、このままで終わらせようと思ってるんじゃないでしょうね(ギロッ)。
<某管理人>いや、あの、その、ははは(怖っ)。
<アスカ>私のシンジがレイと同じ屋根の下で寝てるのよ。このままじゃあ済まされないわっ!
<某管理人>そ、そうでんなぁ。こ、こうなったらrego様にはとことん行ってもらいましょか?
 
 
はん!当たり前じゃない。私とシンジがラブラブになるまで書いて、初めてレポートが完成するんじゃない。
 
私がミサトのところに居座ってるのはちゃんとレポートを書き続けるか監視するためじゃないさ。
 何よ、素直になれってのは?そりゃあミサトは私にとって本物の家族みたいな…こほん。この話はおしまい。
 こうなったら私が書くしかないわね。「三十路直前行かず後家監督日誌」…。
 やめとこ。酒と愚痴の日々、になっちゃいそう!早く結婚しなさいよ加持さんと。譲ってあげるからさ。
 
 ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、rego様。

 

SSメニューへ