「ねー、シンジ」
「なに、アスカ?」
僕は、この時今度は何を言いつけられるのかな?なんて事を考えてたから、アスカの口から出てきた言葉には驚いた。
夏祭り
翔矢 2006.08.07 |
僕とアスカが今いる場所。 それは、町の神社。 アスカが何処からか、夏祭りの情報を手に入れてきて、僕の事を誘ってくれたんだ。 「夏祭りに行かない?」って。 「わー、すっごい綺麗・・・・・」 「うん、ほんと・・・・・綺麗だ」 至る所に堤燈が吊り下げられていて、神社全体を綺麗に照らしている。 そして、賑やかな人々の声に、賑やかな屋台の数々。 夏祭りって初めて来たけど、何だか好きになれそうだな。 そんな事考えてたら、急に引っ張られた。 「シンジ!まずなんか食べよ!」 そう言ったアスカは、ずんずんと、食べ物屋の屋台に歩いていく。 でも、その・・・・・手、繋いでるんだけど。 最近アスカの事が気になって仕方が無い僕としては、手を繋ぐなんて、どきどきものだ。 普通に歩く事も出来ない。だって、意識の殆どが手に行っちゃうから。 ・・・・・でも、これじゃあ危ないよなぁ。 そう思った僕は、ちょっと残念だけど、アスカに手を離してもらうように頼んだ。 「あの、アスカ?」 僕がアスカに声を掛けると、食べ物を早く食べたくて仕方が無いのか、 アスカは、食べ物への道を妨げた僕に、少々怒りながら「なによ!」って言ってきた。 「あの・・・・・さ」 「なによ、じれったいわね!早く言いなさいよ!」 ・・・・・今、言おうとしてるんだけどな・・・・・ま、いっか。 「その、手をさ、離してくれない?」 僕がそう言うと、アスカは少し黙った。そして・・・・・ 「・・・・・えっち!痴漢!変態!」 パシーン ・・・・・僕が何かした? でも、僕の事なんか気にも留めないでどんどん歩いていくアスカを見失ったら大変だから、 とりあえず、ヒリヒリする左頬を摩りながらアスカを追っていった。 「アスカ、待ってよ〜」 う〜ん、情けない声だなぁ。 アスカが止まってた場所は、射的の店の前だった。 お金を払ってる。 ・・・・・あれ、食事は? 「アスカ、食事は?」 「やっぱ後!それより、シンジも射的やりましょーよ」 ・・・・・アスカってやっぱり凄い。 僕の意見なんかちっとも聞こうとしてないよ。 まぁ、もう慣れたけどね。 「うん、僕もやるよ。すいません、いくらですか?」 「三百円だよ」 店のおじさんにお金を払うと、鉄砲とコルクの弾五発を渡された。 道具を受け取った僕は、アスカの隣に行った。 「ねーシンジ」 「なに?」 「勝負しない」 「勝負?」 その勝負は単純明快。 どっちがより多くの景品を取れるか、だ。 面白そうだし、やってもいいよね。 ・・・・・たぶん、負けるけど。 「うん、勝負しよう」 「でもさ、ただ勝負するだけじゃ、つまらないわよね?」 ・・・・・何だか嫌な予感がする。 そして、それは当たった。 「負けた方が、この射的のお金を肩代わりするってのはどう?」 アスカは、絶対に自分が負けないのを分かってる。 絶対に!じゃなきゃ、あんなに嬉しそうな顔してないもん。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 予想通り僕の財布からは、追加で三百円が消える事になった。 ああ、この調子だと、絶対に他のでも勝負をしなきゃならないんだろうな・・・・・お小遣い、持つかな? ストラックアウト・・・・・三百円。十二球で、的は九枚。 アスカがパーフェクトで九枚。対する僕は、四枚。 輪投げ・・・・・四百円。五つの輪。 アスカは大物を狙いすぎて、景品は一つだけ。 僕は、せこいと思いながらも小物を確実に狙い、景品四つ。なんとか一つ。 金魚掬い・・・・・三百円。 アスカは、パワーに物言わせ、一回で紙が破れたものの、七匹を一気に水から掬い上げ、いや、弾き出して、その内の五匹を逃がさず捕まえた。 僕は、おろおろと金魚を追ってるうちに、水の中で紙が破れてしまったので、記録は零匹。 帰りに一匹貰ったけどね。 結局、合計五百円も損しちゃった。 ・・・・・今月、乗り切れるかな? そんな僕とは逆に、大量の収入を得たアスカは上機嫌。 今度こそは、食事をするために、食べ物の屋台に向かってる。 そして立ち止まったのは、焼きそばの前。 ソースの匂いで、なんだか急にお腹が空いてくる。 それは、隣のアスカも同じだったのか、なんだか目がきらきら輝いてるよ。 結局、それぞれの分を買った後、他の店に向かった。 「おごって」て言われそうだったから、先に「おごらないよ」って言っといたら、案の定言うつもりだったらしく、アスカは「ちっ」て舌打ちしてた。 危ない危ない、もう本当にお金がやばいから、おごるなんて到底出来っこない。 アスカの後ろを付いていったら、たこ焼きに、大阪焼き、お好み焼きに、じゃがバタ。 それに加えて、おやつの今川焼きと、水あめ、そしてソース煎餅の屋台を回った。 ああ、財布の中身が残金七十三円。 ・・・・・帰ったら、ミサトさんに臨時お小遣いの交渉しないと。 まあ、でも今はそんな事忘れて食べ物の味を味わう。 うん、どれも美味しい。やっぱり、人の作った物も偶には良いな。いつも自分で作ってるのとは、大違いな気がする。 それに、この場所は、なんだかアスカと二人だけな感じがする。 暗い闇に包まれた、祭りが行われてる場所から少し離れた静かな石段。 そこにいるのは僕とアスカだけ。 ・・・・・どうしよう、ちょっとだけどきどきしてきた。 そんな気持ちを誤魔化そうと思って、隣に座るアスカに話し掛けようと思い、アスカの方向いたら、目があった。 僕の心が跳ねる。そして、気恥ずかしいから、目を背けた。アスカも同時に背けてた。 ・・・・・あれ?なんでアスカも背ける必要あるんだろ? ・・・・・もしかして僕と同じ気持ち、とか?・・・・・て、そんなわけ・・・ない、か。 結局、食べてる間中ろくに喋る事も出来ずにいた僕。 だって、アスカも話しかけてくれないし、僕は僕でさっき目が合ったせいで、なんとなく話しかけられない。 そして、石段に座ってのんびりしてると、急に手の上に、暖かい何かを感じた。 なんだろ?そう思って、確認しようとしたら、アスカの鋭い声が聞こえた。 「こっち向かないで!」 僕は急な声に驚いて、向こうに向きかけた首を元に戻す。 ・・・・・・ ・・・・・・これってアスカの・・・・・手? どきどきして、胸が張り裂けそう。 今日三度目のどきどきだけど、今までと比較にならない。 なんで、なんでアスカから僕に手を重ねてるの?分かんないよ。 顔中が赤くなってくる。どきどきが止まらない。止められない。 意識が、全部手に向いちゃう。 アスカの手の感触以外は何も考えられない。 そのまま数分間。アスカが話しかけてきた。 「シンジ、さっき叩いたほっぺた痛かった?」 叩いた?・・・・・ああ、来た時のあれか。 「ううん、特に痛くなかったよ」 そう答えると、また同じ事をアスカは、聞き返してきた。 「痛かった?」 聞いてくるアスカの顔は赤く染まってる。 でも、なんで何回も聞くんだろ? とりあえず、僕はもう一度答える。 「ううん、痛くな・・・・・」 「痛かった?!」 ・・・・・アスカは僕に何を期待してるの? 痛いって答えればいいのかな? それで、今度は痛いって言ってみる。 「うん、ちょっと痛かった」 「そう・・・・・じゃ、治してあげる」 「え?・・・・・」 ちゅっ よく事情の飲み込めない僕に分かるのは、ほっぺたに感じる、 柔らかくて、暖かくて、ちょっと湿ってて、すごい気持ちの良い感触・・・・・・これって、アスカの唇・・・・・だよね。 アスカは一体何を考えてるの?僕には分からないよ。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ でも・・・・・やっぱり夏祭りは好きになれそうだな。
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さぁて、翔矢様の当サイトへの初投稿。
夏祭りの二人。
いいわよねぇ、初々しくて。
みんなも感想、ちゃんと出しなさいよっ。
ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、翔矢様。