アタシは、雨が嫌いだ。

別に雨に嫌な思い出があるとかじゃない。

この常夏の日本では雨が降るとじめじめしてやな暑さになるから。

ただ、それだけの理由なんだけど

とにかく、アタシは雨が嫌い。









 

Raindrops Keep Fallin' On His Shoulder

 


 

夏侯惇        2004.12.14

 





  

 




「はぁ・・・」

アスカは屋上で空を見上げながらため息をつく。

また、喧嘩しちゃったな・・・。

喧嘩のきっかけなど覚えてはいない、どうせまた些細なことだ。
重要なのは、シンジと喧嘩したという事実。

おそらく非は自分にあるのだろう、でも素直に謝る気にもなれない。

ほっとつまんない意地張ってるわね・・・。

そう自嘲してはみたものの、それでも一向に謝る気にならないのだから我ながら呆れてしまう。
ヒカリにもいつも「素直になった方がいい」と言われているが、これが性分なのだから仕方ない。

「なんかきっかけさえあればねえ・・・」

常夏の日本の日は長い、放課後にもかかわらず頭上には燦燦と太陽が輝いている。

能天気な太陽見てたら悩んでるのがバカらしくなってくるわね・・・。

ほんっと今日もいい・・・天・・・・気・・・。



















ぽつっ、ぽつっ

ガバッ!

「やだ!いつのまに寝てたのかしら」

ぽつっ

「な、なに?」

ぽつっ、ぽつっ

「なによ、雨じゃない!聞いてないわよ!」

さっきまであんなに晴れてたのに、と文句を言っても仕方ない。
とりあえず、校舎の中に入ることにした。

「まったく、今日の天気予報も晴れって言ってたんじゃなかったっけ?」

さて、どうやって帰ろう。
見る間に雨は強くなってきていた。

でも、このくらいなら突っ切って帰れないこともないわね・・・。

濡れるのやだなあ・・・。

それに雨が降ると気分は沈鬱になってくる

ほんっと、これだから雨は嫌なのよ。



あれ?昇降口に誰か立ってる。

「あ、アスカ」

シンジだ・・・。

「なんか用?」

ついきつい口調になってしまう・・・。

「ア、アスカ傘持ってないんじゃないかと思ってさ。まだ靴残ってたし待ってたんだよ」

「それで?」

「いや、僕、折り畳み傘持ってきててさ・・・」

あんなに晴れ渡ってたのに念のために折り畳みの傘を持ってきてるなんて、シンジらしいわね・・・。
石橋を叩いても渡らない。ってとこかしら。

「で、良かったら一緒に帰らない?
 僕と一緒の傘でなんて嫌かもしれないけど、濡れるよりマシでしょ?」

「あ、アンタ馬鹿ぁ?」

「あ、嫌ならいいんだ・・・」

あ、これは仲直りのいいきっかけよ逃しちゃいけないわ!

「だ、誰も嫌なんて言ってないじゃない」

「でも・・・」

「仕方がないから一緒に帰ってやるわよ。
 アタシみたいな美少女と1つの傘で帰れるんだから光栄思いなさい!」

「自分でそういう事言う?普通・・・」

「なんか文句あるの?」

「いえ・・・」


アタシとシンジは肩を並べて昇降口を出た。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

気まずい・・・。

雨で余計に思考が沈みがちになる・・・。
やっぱり、雨は嫌い。

シンジの方を窺ってみる。
シンジの表情も硬い・・・。

あれ?シンジの肩濡れてる・・・。

「ねえ、シンジ」

「なに?」

「肩、濡れてるわよ。もうちょっと傘そっちに傾けていいわよ」

「良いんだよ、これで」

「なによそれ・・・」

「いいの!」

なんだかちょっと意地になってるみたい。

「そう、なら別にいいけど・・・」

あ、もしかしてアタシが濡れないように?

ふ〜ん・・・結構優しいとこあるんじゃない・・・。



「・・・・・・」



「・・・・・・」



黙って歩く2人。
心なしか2人の雰囲気は柔らかくなったみたい。

やっぱり、アタシがとがってるのがいけないのかな?




「Raindrops keep falling on my head ♪
 And just like the guy whose feet are too big for his bed ♪
 Nothin' seems to fit ♪
 Those raindrops are falling on my head, they keep falling~♪」

そんな雰囲気の中、自然と口をついて出てきた軽快なメロディ。

「それなんだっけ?聞いたことあるんだけど・・・」

「あんた知らないの?」

「えっと・・・なんかの映画に使われてたんだよね・・・『戦場にかける橋』だっけ?」

「アンタ馬鹿ぁ?『BUTCH CASSIDY AND THE SUNDANCE KID』に決まってるでしょうが!」

「そんな原題で言われてもわからないよ・・・」

それもそうね・・・。

「えっと、日本での題はなんだったかしら・・・。」

たしか、一度街のレンタルビデオショップで見かけたと思うんだけど・・・。

「なんだ、アスカもわからないんじゃないか」

「アンタと一緒にしないでよ。アタシはちゃんと原題知ってるのよ!」

「ご、ごめん」

「あ、思い出した!『明日に向って撃て!』よ!」

「ああ〜、そっか」

「ほんっと『明日に向って撃て!』と『戦場にかける橋』を間違うなんて・・・だからアンタはバカシンジなのよ」

「仕方ないじゃないか!良く知らないんだから・・・」

「大体、いつの映画なのさ」

「えっと、『明日に向って撃て!』が1970年くらいで『戦場にかける橋』が195何年だったと思うわ」

「そんな古い映画をセカンドインパクト世代の僕が知るわけないじゃないかぁ」

「アンタより半年後に生まれたアタシは知ってるのよ」

「アスカと僕を一緒にしないでよ・・・」

「とにかく、この機に覚えておきなさい。
 ちなみに曲名は『Raindrops Keep Fallin' On My Head』
 日本語の題は『雨に唄えば』よ!」

あれ?なんかちょっと違和感が・・・。
まあ、いいわ。

「へ〜、そうなんだ。うん、覚えとくよ」

「よろしい」

「まったく、折角人が気持ちよく歌ってるのに水注さないでよね」

「ごめん、ごめん」

「そういえばさあ、シンジ」

「なに?」

「朝はごめんね」

「ううん、僕も悪かったんだ。ごめん」

「そう、じゃあお互い様ね」

「うん・・・」


「So I just did me some talkin' to the sun ♪
 And I said I didn't like the way he' got things done ♪
 Sleeping' on the job ♪
 Those raindrops are fallin…」




なんだか雨もそう捨てたもんじゃないわね、うん。






THE END

 


 

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夏侯惇様より3作目の短編。
 いいわよねぇ、相合傘の二人。
 あ、もちろん、私とシンジの二人じゃないとダメよね。
 こうやって他愛もないことを喋ってると気持ちもゆったり。
 別に歌のタイトルが間違っていたっていいじゃない。
 本当は「雨にぬれても」だってことはこのアスカ様はよぉく知ってんのよ。
 こ、この時は、た、たまたま、あ、あ、頭がぽっとなって…。
 うっさいわね!何言わすのよ!

 夏侯惇様、素晴らしい作品をありがとうございました!
  

 

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