相続税の節税対策

はじめに

相続税は、贈与税と同様に最高税率70%が課税され、税負担が最も重くなっています。
相続は被相続人の死亡から開始され、10か月以内に申告納付するのが原則ですが、この
期間は長いようでアッという間に過ぎてしまいます。相続が開始された後からでは、「こうす
ればよかった」と思っても後の祭りになってしまいます。

 相続税の対策をする前に、まずあなたの相続財産がどれだけあるか調べて下さい。相続税の
申告後に漏れていた事が発覚して修正申告しても、加算税が課されますし、何よりも全体を把握
して個々の課題が見つかるものです。「木を見て森を見ず」にならないようにする事です。


相続財産を減らす

1.生前贈与をする

贈与税の基礎控除は60万円ですから、60万円までの贈与には課税されません。
しかしこの方法では10年間で600万円しか贈与できません。
視点を変えて贈与税の課税最低税率10%に着目すれば、課税価格150万円(贈与金額
210万円)迄は10%の税率で済みます。
つまり、210万円の贈与に対して15万円の贈与税を払うことによって10年間で2100万円
(贈与税は150万円)が移転できます。

★ 連年贈与に注意 ★

この場合に、毎年同一金額を贈与していると「連年贈与」とみなされることがあります。
上記でいえば2100万円の資金贈与を10年で分割していることになり、857万円の贈与税
が課税されます。

ポイント 毎年、こまめに贈与税の申告をして贈与税を支払い、その贈与金額を
一定にしないことが必要です。

★ 孫に生前贈与すると特に有効 ★

「被相続人から贈与された財産のうち、相続開始前3年以内のものは相続税に取り込まれ
ます。」がこの生前贈与加算制度は相続や遺贈で財産を取得する人に適用されます。
 子が早く亡くなっていて孫が代襲相続する場合や孫に遺贈する場合を除くと、通常、孫が
相続財産を取得することはありませんから、生前贈与加算制度は適用されないことになり
ます。

2.贈与税の特例を利用する

一定の要件に該当する場合には、贈与税が非課税になったり、軽減される次の特例を利用する
ことによって贈与税と相続税の両方の節税になります。

・贈与税の配偶者控除
・住宅取得資金の贈与特例

ただし、贈与税の配偶者控除は贈与された配偶者が先に死亡した場合には、贈与した財産が
相続財産として元の所有者に戻ることになり、逆効果になります。

3.非課税財産を利用する

墓地・霊廟・墓石・仏壇・仏具などは、商品・骨董品・投資目的で所有する場合を除き、
非課税財産になります。

生前に購入すれば、手持の資金が非課税財産に転換されます。但し、実際に仏壇等として使用
していても純金製などは美術品として課税されますから、注意が必要です。

4.評価額の高い財産から低い財産にかえる

相続税の評価は、相続財産ごとに「財産評価基本通達」によって定められています。この
ことを利用して通常の取引価額(時価)より低いものに転換する方法です。

<例>・ゴルフ会員権は、通常の取引価額の70%で評価されます。
    ・市街化区域内の土地は路線価で評価され、一般的に時価よりも低く設定されて
     います。

しかし、バブル崩壊後ゴルフ会員権の暴落や、土地価格の下落といったリスクが生じますので、
短期間での相続対策には注意が必要です。

5.空き地に貸家(マンション)を建てる

土地を他人に貸して地代をもらう場合には、通常借りている人に借地権があることになり
ます。この借地権は借地借家法で手厚く保護され、貸している人は自由に土地を使うこと
ができなくなります。

宅地に建物を建て、その建物を貸している場合には、借家人には借家権がありますが借地権
に比べると、土地の利用制限はありません。
この貸家が建っている土地(貸家建付地)と貸家は、自分で使用している場合と比べると減額
され、借入金で貸家を建てた場合には、その借入金を相続財産から控除することができます。
又、賃借料は相続人の生活費や納税資金の一部にすることもできます。

自用地としての評価額  1億円    貸家の固定資産税評価額  1000万円
借地権割合  70%    借家権割合  30%
貸家建付地の評価額 1億円×(1−70%×30%)=7900万円
貸家の評価額 1000万円×(1−30%)=700万円


相続人の数を増やす

1.養子縁組

法定相続人が少ない場合には、基礎控除が少なくなる、生命保険金・死亡退職金の非課税金額
が少なくなる等の影響があります。
 又、老後や病気の世話をしてくれた人に相続させたいが、法定相続人でない場合には有効に
なります。

基礎控除額 = 5000万円 + 1000万円 × 法定相続人の数

そこで養子縁組をすることで、法定相続人の数を増やします。
しかし、相続税の計算上法定相続人の数に含めることができる養子の数は、次のとおり
制限されています。

実子がいるとき 養子とみられるのは1人だけ
実子がいないとき 養子とみられるのは2人まで

又、養子縁組をすることで、他の相続人の感情を害したり、トラブルが生ずることもありますから
注意が必要です。


小規模宅地等の課税の特例を利用する

相続財産の中に、被相続人や被相続人と同一生計の親族等が、事業又は自宅に使って
いた宅地等がある場合には、その宅地のうち200平方メートル又は330平方メートル
の部分については、通常の評価額の80%又は50%を減額して評価することができます。

この場合に該当する宅地が複数あるときは、納税者の選択によってどの宅地を選ぶかは自由
になっていますが、評価減が最も大きくなるような選択をすることが必要になります。

節税対策
 貸ビルの宅地については、50%の評価減になりますが、そのビルの一部を自宅に
している場合には、その敷地全体を特定居住用宅地として80%評価減の適用を受
けることができます。
 貸ビルの宅地の相続税評価額が高い地域の場合には、そのビルの1室に自宅を
移すようにすることで、80%評価減を適用し節税効果を受けることができます。


生命保険金を利用する

生命保険金には、500万円×法定相続人の数 が非課税になります。
又、現金で支払われるため、相続人の納税資金にしたり、財産分割の際の資金に活用
することができます。


弔慰金を利用する

死亡退職金には、500万円×法定相続人の数 が非課税になります。
この非課税金額を超える死亡退職金の支給がある場合には、全額を退職金にせずに
一部を弔慰金にします。
弔慰金は、死亡退職金とは別に、次の区分に応じる金額までが非課税になります。

業務上の死亡である場合 死亡時の普通給与の3年分
業務上の死亡でない場合 死亡時の普通給与の半年分


同族会社の株式対策

「経営者に相続があった場合、会社がつぶれる」とよくいわれます。特に、株式の大部分
をオーナー一族が所有している同族会社では、一般の納税者の相続に加えて、自社株
の相続問題がからんできます。

業績がよくて利益が出ている会社や、土地などの不動産を所有している会社は、その株式の
評価額が異常に高く評価されることも少なくありません。

問題点
 同族会社の場合、株式の評価額が高ければその分相続税が増えることになり、相続税
を払うために自社株を手放すことによって会社経営に支障がおきたり、最悪の場合倒産
ということにもなります。
 自社株を売却する場合にも、上場株式と違ってその評価額で容易に処分することもでき
ません。そして株式の売却所得については、源泉分離課税を選択することはできません
から、26%(所得税20%・住民税6%)の税金がかかります。

同族会社では、自社の株価がどれ位かをこまめに算出し、評価額が高くならないような
対策を講ずることが必要になります。

★ 同族会社の株式の評価方法 ★

同族会社のような取引相場のない株式の評価は、下記の3つの評価方法があり、どの評価
方法を使うかは、
    1. 相続や贈与で株式を取得した人が、株主の中でどんな立場にあるか
    2. その会社の規模
によって決定されます。

取引相場のない株式の評価方法 類似業種比準価額方式
純資産価額方式
配当還元価額方式

一般的には、 純資産価額 > 類似業種比準価額 > 配当還元価額 の順に株式
の評価額が低くなります。

1.高収益部門を別会社にする

 後継者が株主となって新会社を設立し、経営者の会社の高収益部門を移します。その
結果、経営者の会社の純資産は減少しますから、株式の評価額は少なくなります。
 更に、後継者の会社は経営者の会社の株式を経営者から購入します。経営者の持株
が少なくなりますから相続財産が減少します。
 相続が発生した場合には、後継者は相続によって取得した株式を新会社に売却する
ことによって、納税資金を作ることができます。

2.従業員に自社株を持たせる

経営者の持株を少なくすることができれば、相続財産は減少します。
しかし、後継者に売却したり贈与する場合は、上記の同族会社の株式の評価方法にあ
るように最も高い純資産価額によって評価され、節税効果になりません。

一般の従業員のような少数株主の場合には、配当還元価額が適用されますから、最も低い
評価額になり売却価額や贈与価額も少なくなります。
従業員に自社株を持たせることによって、従業員の経営参加意識やモラルの向上といった
側面も得ることができます。
 しかし、あまり多くの株式を従業員に与えますと、会社の経営に支障が生ずる可能性もあり
ます。