不動産の貸付規模

個人が不動産の貸付けを事業(不動産貸付業)として行っている場合には、確定申告では事業所得
として申告すればいいでしょうか?

土地や建物などの不動産又は借地権・永小作権・地上権などの不動産の上に存する権利の
貸付けや一定の船舶、航空機などの貸付けによる所得は、不動産所得に該当します。
従って上記の場合には、不動産所得として申告します。

所得税法では、不動産の貸付けによる所得は不動産所得と規定し、その貸付けの規模が事業的規模
か否かによって下記のように、必要経費などの取扱いが異なります。

項目 事業的規模 事業的規模以外
納付税額の延納に係る利子税
で不動産所得に対応する金額
必要経費に算入することが
できる
必要経費に算入することが
できない
業務用資産の取壊し、除去、
滅失等により生じた資産損失
損失金額を必要経費に算入し、
損益通算、純損失の繰越しが
できる
その年分の不動産所得の金額を
限度として、必要経費に算入する
債権の貸倒れによる損失 その損失が生じた年分の必要
経費に算入する
その債権が収入金額に計上され
ていた年分にさかのぼって、不動
産所得を再計算する
青色申告の事業専従者給与額
白色申告の事業専従者控除額
必要経費に算入することが
できる
必要経費に算入することが
できない
青色申告特別控除 青色申告の場合で一定の用件
を満たすものは最高55万円の
控除
青色申告の場合は最高10万円
の控除 
但し、他に事業所得を生ずべき
事業を営んでいる場合で、一定
の要件を満たすものは最高55
万円又は45万円の控除


事業的規模

不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上、事業として認められる程度の規模で
行っているかどうかによります。
社会通念上の事業的規模とは、次により判定します。

貸付資産の規模
賃借料の収入状況
貸付資産の管理に係る特別の人的、物的施設の設置等

しかしその判定は容易なものではないために、次の外形基準のいずれか一つに該当する場合には、
事業として行われているものとして取り扱われます。

★ 外形基準 ★

<建物>

貸間、アパートなど 貸与することができる独立した室数がおおむね10室以上であること
独立家屋 おおむね5棟以上であること

注意点

共有者がいる場合 共有者がいる場合は、共有持分であん分した室数・棟数ではなく、実際
の室数又は棟数により判定します。
混有している場合 貸室と貸家を両方所有している場合は、貸室2室を家屋1棟に換算して
判定します。
(例) 独立家屋3棟と貸室4室 ⇒ 3棟+(4室÷2)=5棟
マンションの場合 維持管理に要する役務の程度等は、アパートの貸室と近いものがある
ので、各戸は1棟ではなく、1室として判定します。

<土地>

土地の貸付けは件数5を貸室1室に換算して判定します。
(例) ガレージの場合は、50件以上貸していれば事業的規模になります。
    ⇒ 50÷5=10室相当

この外形基準は、この基準を満たしていれば事業的規模として取り扱ってよいというものであり、
これを満たさなければ事業的規模に該当しないと判定されるものではありません。
この基準で判定できない場合には、賃貸料収入の状況、貸付物件の規模、貸付物件の管理状況
(管理のための特別の人的、物的施設の有無)等の個々の事情を総合勘案して判定することとな
ります。


事業所得又は雑所得

不動産の貸付けであっても管理の態様、付随サービスの提供の状況等によって事業所得や雑所得
になります。

例えば、駐車場の業務が単なる駐車場所(土地)の提供にとどまらず、その駐車場において
自己の責任により他人の車両を保管するという役務の提供がなされている場合には、事業
所得
(事業に至らないものは雑所得)となり、単なる場所の提供の場合は、不動産所得となり
ます。

具体的には、駐車させている車両について、施設の管理人を置いて車両の出入りを管理したり、不
特定多数の利用者から利用時間に応じて料金を受領したり、鍵を預ったりなどしている場合には、
自己の責任において他人の物を保管する保管業が営まれているとみることができます。

その他にも、内容により下記のようになります。

不動産所得 事業所得 事業所得又は雑所得
・アパート、下宿等で食事を供さない
 場合
・ケース貸し
・広告等のため土地、家屋の屋上
 又は側面、へい等にネオンサイン
 や広告看板を取付けさせることに
 よって受ける使用料
・保養の用に供しているリゾート
 ホテルの一室を利用しない時に
 貸付けた場合
・借地契約の更新料(更地価額の
 2分の1以下)
不動産業者が販売の目的で
取得した不動産を一時的に
貸付けた場合
・食事を提供する下宿の場合
・モータープールで管理責任
 等のサービスをしている場合


所得の帰属

不動産所得となる場合 その不動産の所有者
事業所得又は雑所得となる場合 その事業を行う者

例えば、父親名義の土地で青空駐車場を営んでいる場合には、その青空駐車場の名義が子供で
あっても、その所得は父親の不動産所得になります。
但し、有蓋モータープール等である場合には、その建物等の所有者の不動産所得になります。

又、遺産分割協議ができていない(未分割)不動産から生ずる所得は、各相続人が相続分に
応じて申告することになります。


判例

不動産所得を生ずべき事業といえるか否かは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の
有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的
労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活
状況等の諸点を総合して、社会通念上事業と言い得るか否かによって判断されるべきもの
である。
(東京地判 平7・6・30 行裁集 46・6−7・659)