聖ネルフ学園1年の学習旅行は終わったわ。

 まるでレイの食べ歩きに付き合ってあげたような4泊5日だったけど、結構楽しかったわ。

 でも、このとき…。

 東京に帰ってから、私とレイの関係に大きな変化が訪れることを

 神ならぬ身の私は知る由もなかったの…。

 

私が愛した赤い瞳


第10話 「初めてのラブレター」

 

 旅行から帰ってから、1ヶ月たったわ。

 梅雨も明けて、だんだん暑くなってきた。

 レイと…シンジとの生活は別に大きな波風もなく進んでいったの。

 幸せ…だとは思っていない。でも、不幸だとも思えない。

 そんな漫然とした毎日に、私は慣れたら駄目だと一所懸命言い聞かしていたの。

 だって、シンジの心はあっても、ここにはシンジの微笑みがないんだもの。

 

 その日は、聖ネルフ学園の創立100年祭の打ち合わせで放課後に残る羽目になったのよ。

 これってあの反アスカ同盟の仕業なのよ。

 こんな委員したくないよぉ…って思っていてもいざ会議が始まったら、真剣そのもの。

 これが私。惣流・アスカ・ラングレーはそういう女なのよ!

 いつも秋にする学園祭を前倒しにして、7月17日に記念祭が開催されるの。

 この日だけは男子も解禁。もしシンジがいたら…二人で記念祭を楽しめるのにな…。

 あ〜あ、残念。

 家に帰ったのは、6時を過ぎてたわ。

 いつもこの時間になると、我が家のリビングにレイが必ず現れるんだけど…今日は姿が見えないわ。

 初めてね。だって、ママの晩御飯が楽しみでニコニコしながらソファーに座って、

 ケーブルテレビのアニメを見てるのがレイの日常なのよ。

 それがいないって、なんだか気になっちゃうわね。

 窓からレイの…ホントはシンジの…部屋を見たら、カーテンが風に靡いてる。

 窓が空いてるってことは、部屋にいるんだよね、たぶん。

 よし!ちょっと見に行ってみようかな?

 

 レイはいた。

 机に向かって、何か考え込んでいたわ。

 へえ、珍しいこともあるわね。

 いつも自然体のレイが考え込むなんて。

 私は脅かしてやろうと、そ〜と後ろに忍び寄っていったの。

 あ、レイが手に持ってるのって…手紙?

 どれどれ…。

『僕は君に逢うために生まれてきたんだ』

 うっ…くくくっ、何これ。へ、変なの。お、お、おかしいっ!

 転がりまわって笑いたいっ!

 あれ?

 じゃ、これって、ひょっとして、ラブレター!

 それでレイが悩んでるってわけ?

 もうちょっと、先読んでみよ…。

『君の赤い瞳を見ていると、僕の心は嵐の海に漂う帆掛け舟のように揺れるのさ』

 こ、こんなの今ごろ書く人っているぅ?

 大正時代の学生?

『そうだ。僕は君のことを考えていて、歌を作ったんだ。そう、歌はいいねぇ』

 はん?何、何か背筋に走ったわよ。

 この馬鹿馬鹿しさと嫌悪感。

 どっかで…。

 歌はいいねぇって…。

 ははは、まさかね。まさか、アイツが…。

『僕は君のことを思うと心が痛くなるんだ。そう、好きってことさ』

 あわわわっ!

 間違いないわ!

「こいつ、アイツよっ!」

「きゃっ!」

 耳元で大声で叫ばれたレイは、文字通り飛び上がって驚いたわ。

「レイ!」

「は、はい」

「アンタ、こいつは危険よ!絶対に接近したら駄目よ。こいつ、アイツでしょ!」

「アスカ、落ち着いて。どうしたの、変よ」

「変なのはこいつよ、こいつっ!」

 私はレイの持っている手紙を指差したわ。

「こいつは変人よ。私の生涯で最低の変人なのよっ!」

「アスカ、知ってるの?この人」

「この人?人なんかじゃないわ。こんな変態っ!」

「でも、人だったわ」

「だまされちゃいけないわよ。こいつはナルシスホモなのよ!」

「ナルシスホモって何?それって美味しいの?」

「はん!ナルシストのホモってことよ!アンタ、こいつ見たんでしょ!」

「よく見てない。いきなり渡されて自転車で走っていった」

「へぇ…そうなんだ。いきなり口説かなかったの?」

 首を捻っているレイ。口説くって意味がよくわからなかったみたいね。

 私もアイツのイメージと少し食い違ってたから、ちょっと拍子抜けしたわ。

 アイツならいきなりレイに抱きついてダンスのひとつも踊りかねないもの。

 私はアイツとの最悪の出会いを思い出したわ。

 思い出すだけで鳥肌が立つけど。

 

 その日は中学に入学して2日目だったわ。

 シンジの隣の席を強引に奪い取った私は、お弁当を食べてからシンジにおねだりしてたの。

『だからね、シンジ。今日は貞雪庵に行くわよ』

『え、帰ってからまた出かけるの?』

『馬鹿ねえ。このまま行くのに決まってんじゃない』

『見つかったら怒られるよ』

『うっさいわよ。私が行くって言ったらシンジは黙って来るの。うへ?……』

『えぇ〜って、アスカどうしたの。固まってるよ』

 私はその時、シンジの背後に信じられないものを見たのよ。

 銀色の髪に赤い瞳の悪魔をね。

『碇くぅん』

 悪魔はそう言うと、私のシンジの首に抱きついたのよ。

『うわっ!』

『碇くん。いや、シンジくんって呼んでいいよね』

『だ、誰だ。君は!』

『そうよ!アンタ誰よ!』

『僕は渚カヲル。隣の4組さ。カヲルって呼んでいいよ』

『離れなさいよ!こらっ!変態』

『そ、そうだよ。離れてよ』

『どうしてだい。シンジくんは僕を嫌いなのかい』

『変態!私のシンジを名前で呼ぶなっ!』

『へぇ〜、シンジくんは君のものなんだ』

『そ、そうよ、シンジと私は!』

『何なのかな?ふふふ、言ってご覧よ』

『な、何だっていいじゃない』

『言えないんだ。僕は言えるよ。シンジくんは賞賛に値するよ。好きってことさ』

『うきぃ!あったま来た!許さないわっ!』

『へぇ、許してもらえないと、どうするのかな?』

『八つ裂きにして、中庭の鶏の餌にしてあげるわっ!』

『怖いねぇ。ね、シンジくん、こんな野蛮な女なんか…あっ!』

 その時、ずっと困った顔で二人のやり取りを見ていたシンジが突然立ち上がって、

 ホモ男を突き飛ばしたのよ。

『何するんだい、シンジくん』

『僕のアスカを悪く言うな!アスカは…、アスカはこの世界で一番素晴らしい女なんだぞ!

 お前みたいなヤツにはわからないんだっ!』

 ぼふっ!

 初めてだったの。シンジが私のことをこんなふうにはっきり言ったのは。

 アスカの人生最大の喜びよ!

『へえ、そうなんだ。二人はそういう間なんだね。ふふふ』

 ホモ男はすました顔で、口笛を吹きながら教室を出て行ったの。

 遠巻きにして私たちを見ていたクラスメートの視線なんか全然気にしてなかったんだって。

 え?どうして私が知らないのかって?

 だってシンジの爆弾発言で天国まで飛んで行っちゃったんだもん。

 下界のことはてんで覚えてなかったの。

 

「それは、アスカののろけ話ね」

「へ?何言ってんのよ。私はあのナルシスホモのことを話してんじゃない!」

「嘘。完全にのろけてた」

 そ、そうだったかもしれないわね。

 何せ、あのナルシスホモの登場と、私の人生最大の喜びが同一場面だったんだもんね。

「と、とにかく、あのナルシスホモは変態なのよっ!」

「違うわ。名前が違うもの」

「は?」

「ほら、渚カヲルって書いてある。ナルシスホモじゃないわ」

「アンタねえ、ナルシスホモってのは仇名。そうそう、あんたの言う通り、そんな名前だったわ」

「じゃ名前で呼ぶほうがいいわ。ナルシストのホモは可哀相」

「はん!あんなのはナルシスホモで充分よ」

 私がはき捨てるように言うと、レイは悲しげな表情をしたわ。

 え…?

「ちょっと、レイ…?」

「何。この気持ちは何?」

 レイが胸を抑えて私に涙目で訴えるの。

 そ、そんな、確か顔も知らないって言ってたじゃない。

 ラブレターの一通でレイはアイツを好きになったっていうの?

「レイ、ラブレターもらったのって、初めてでしょ。

 だから、気持ちが…こう、揺れてるっていうか、うん、嬉しいわけよ」

「でも…胸が苦しいわ。この気持ちは何。いったい何なの?アスカ、教えて」

 教えてって言われても、困ったわね。

 レイに恋の始まりじゃないのなんてからかったら、絶対本気にしちゃうもんね。

 あんなナルシスホモに可愛いレイを渡してなるもんですか。

 レイにはもっとかっこいいのを見つけてあげるんだから。

 でも、レイに何て答えたら…そうだ!

「レイ、今何時だと思う?」

「はい?え、と、7時15分」

「いつもなら晩御飯が終わってる時間よ。その切なさは身体が食事を求めているのよ」

「!」

 素早い!

 あっという間に階段を下りていったわ。

 ふふふ、綾波レイ。

 アンタはまだまだ色気より食い気ね。

 

 私の考えは甘かったわ。

 どうやら、レイはよりによってあのナルシスホモに心が惹かれていったみたいなのよ。

 翌日も委員会で遅くなったんだけど、

 その帰り道でレイと…アイツが二人で話しているのを見かけたの。

 公園のベンチに座ってアイスクリームを食べているレイ。

 そしてアイツは自転車の荷台に座って、レイを見ている。

 私はあのナルシスホモをどやしつけに行こうと思ったけど、足が前に進まなかったの。

 それどころか、物陰に隠れてしまった。ど、どうして私がこんな真似を?

 そう…二人の雰囲気がとても自然だったから。

 ヒカリと鈴原よりも…もっと自然な…まるで何年も付き合っているような自然さだった。

 これって…まさかレイをアイスクリームで買収したわけじゃないよね。

 それも有りえそうだから、つい考えてしまうんだけど…。

 結局、私は二人に声をかけずに一人で帰ったわ。

 もう少し、もう少しだけ様子を見よう。そう決めたの。

 

「へえ、あの渚くんに?」

「あんなのナルシスホモで充分よ」

「はは、アスカは本当に渚くんのことは苦手みたいだね」

「あったり前でしょ。私の大好きなシンジに言い寄ってきたんだから!」

「ははは」

「笑い事じゃないわよ。はぁ…」

「あれ、どうしたの。大きなため息ついて」

「ん…。あのね、レイの様子見てたら、ちょっとね…」

「先って何を?」

「ラブレターよ。ラブレター」

「なんだ、ラブレターか。それならアスカはいっぱいもらってるじゃないか」

「うん、男から女まで、数だけはね。でも…」

「…」

「シンジにはもらったことないから…」

「あ、そっか」

「うん、好きな人からもらったら、どんなに心がときめくのかなって…」

「そうだ。あのさ、アスカ今日は膝枕で寝かしてあげるよ」

「いいわよ、アンタが…というかレイがあとで困るでしょうが」

「大丈夫だよ。ちゃんとアスカが寝付いたら、僕もベッドに入るから」

「本当?」

「うん、大丈夫。信用してよ」

「やった!」

 本当は凄く嬉しかったの。1回だけ膝枕で眠ってから、ずっとしてもらってなかったから。

 私はすっかり興奮して、私のベッド代わりのマットにちょこんと正座したレイの膝に頭を置いたの。

「ね、頭撫でて。お願いぃ〜」

「世間の人に見せたいなぁ。あのアスカがこんなに甘えるなんてね。信じてもらえないだろうな」

「あのアスカってのが気に入らないけど…。でもこんな姿はシンジにしか見せないも〜ん」

「ははは、ありがとう…」

 この幸福感をずっと楽しみたかったけど、すぐに眠気が襲ってきちゃった。

 シンジごめんね。レイのあんな姿見たから、ちょっと甘えたくなっちゃったの。

 う〜ん、でもあのナルシスホモでいいんだろうか?

 どうしてもそこんところが引っかかっちゃうんだけどね。

 

 朝。

 目覚ましが鳴る前に、私は目覚めたわ。

 きっと寝つきが良かったせいね。とってもすがすがしい朝だわ。

 起き上がって、背伸びをしたとき、枕元に置いてある封筒が見えた。

 あれ?あんなの寝る前にあったっけ?

 私は何の気なしに、封筒を持ち上げて表を見たの。

『惣流・アスカ・ラングレー様へ』

 へ?私宛?

 中にはノートから破り取られた1枚のページ。

 そこには…、

 

 

 大好きなアスカ様

 こんな紙でごめんね。便箋がどこにあるのかわからなかったから。

 いつ変心するかわからないから、簡単に書くね。

 こんな僕のことを好きになってくれてありがとう。

 それに今こんな変なことになってるのに、まだ僕のことを好きって言ってくれる、

 そんなアスカのことが僕は世界中の誰よりも大好きです。

 なんかうまく書けないや。とにかく、好きです。大好きです。

                         碇シンジより       

 

 追伸 本当にごめんね。こんなことになっちゃって

 

 

 ば、馬鹿シンジ。

 これを書くために、私を先に寝かしたの?

 馬鹿、馬鹿、馬鹿シンジ。私の馬鹿シンジ!

 ほら、アンタがあまりに馬鹿だから涙が出てきたじゃないの!

 と、止まらないよぉ。

 嬉しいよぉ!ラブレターよ。

 シンジからもらった、初めてのラブレター。

 よぉしっ!パスケースに入れて肌身離さず持ち歩くわ!

 もちろん、死ぬまでねっ!

 

 

第10話 「初めてのラブレター」 −終−

 

第11話に続く 


<あとがき>

 ジュンです。

 第10話です。レイの話と思いきや、やっぱりLASにしてしまいました。

 さてさて、渚カヲルくんが登場しました。初めて書いたのですが、彼の口調は私には難しい…。

 因みに本日PCがクラッシュしまして、執筆中だったこの作品は結局サルベージができませんでした。ということで、むきになって今日中に仕上げたという次第。当分書けないような気がするので。

2003.1/19 ジュン   

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