どうやら、レイはよりによってあのナルシスホモに心が惹かれていったみたいなのよ。

 翌日も委員会で遅くなったんだけど、 その帰り道でレイと…アイツが二人で話しているのを見かけたの。

 公園のベンチに座ってアイスクリームを食べているレイ。

 そしてアイツは自転車の荷台に座って、レイを見ている。

 私はあのナルシスホモをどやしつけに行こうと思ったけど、足が前に進まなかったの。

 それどころか、物陰に隠れてしまった。ど、どうして私がこんな真似を?

 そう…二人の雰囲気がとても自然だったから。

 ヒカリと鈴原よりも…もっと自然な…まるで何年も付き合っているような自然さだった。

 これって…まさかレイをアイスクリームで買収したわけじゃないよね。

 それも有りえそうだから、つい考えてしまうんだけど…。

 結局、私は二人に声をかけずに一人で帰ったわ。

 もう少し、もう少しだけ様子を見よう。そう決めたの。

 

私が愛した赤い瞳


第11話 「初めてのデート」

 

 

 学習旅行あたりから、レイの看板だった無表情さが少なくなっていたの。

 いつもニコニコというわけじゃないけど、口数も多くなってきたし…といっても人並み程度だけどね、

 笑ったり、怒ったり、悲しんだり…そういう感情の表現ができるようになってきたのよね。

 ただし、行動と思考の方は、やっぱり天然だったみたい。

 相変わらず、突拍子もないような動きをするから。

 そうそう、あの胃袋も健在よ。

 あれじゃデートのときに困らないかな?

 

 そう、問題はデートなのよ!

 

 レイがあのナルシスホモにデートに誘われたの。

 これまでは、レイの学校帰りをナルシスホモが待ち伏せしてて、

 公園で何かを食べながらお喋りってパターンだったみたい。

 あ、私の名誉のために言っておくけど、尾行したり、張り込んだりはしてないわ。まだ、今のところはね。

 情報源はレイ本人よ。

 今日は何を食べて、話したかニコニコ笑いながら教えてくれるの。

 どうも疑わしいのは、その食べるってことなのよ。

 私の勘が正しければ、レイはナルシスホモに餌付けをされているような気がするの。

 だって、レイって食欲を刺激されると弱いんだもん。

 そもそもレイが私に打ち解けてくれたきっかけが、ママのお弁当だったでしょ。

 その経験が私にそういう判断をさせてしまうのよ。

 しかも相手が私の一番苦手なナルシスホモなんだから、なおさらよ。

 

 ヒカリに相談してみたけど、ヒカリったらあっさりと

「あら、渚君って、けっこういい人よ。かなり癖はあるけどね。

 う〜ん、綾波さんにはお似合いじゃないかな?」

 駄目!もうちょっと親身になってくれる人……ナルシスホモを知ってるのは……シンジだけか。

 でも、わかってくれる?

 これって凄くシュールなのよ。

 だってレイの恋愛相談をレイの身体のシンジに持ちかけるんだもん。

 こっちの方が混乱してくるわよ。

 ところが、シンジも案外ナルシスホモに好意的なの。

 もう、信じらんないっ!

 ど〜して、誰も彼も、あんなヤツに好意的なのよっ!

 まるで私の方が悪者みたいじゃない!

 こうなったら、頼りになるのは私自身だけよ。

 見てなさいよ、ナルシスホモ。アンタの化けの皮をはいでやるから!

 

 意気込みは凄いんだけど、記念祭の委員会が忙しくて何もできないのよ!

 困ったわ。

 性格上、委員会の方をいい加減に済ませることはできないし、

 二人が会ってるのはその委員会の時間…つまり平日の放課後だけだから…。

 いっそ、休みの日にデートしてくれたら…私って馬鹿よね。

 デートに行くくらい進展していたら、余計に困るじゃないのよ。

 

「あのね、今度の日曜日に映画に行くの」

「はぁ…映画?私の好きそうなのにしてよ。アンタの好みは変だから」

「アスカは関係ないの。行くのは私なの」

「はい?アンタ、一人で映画館行けるの?」

 随分と失礼な言い方だけど仕方がないわ。未だにレイは一人で金銭授受したことがないんだもん。

 甘やかしてるわけじゃないわよ。

 何度も試してるんだけど、その度に頓珍漢やらかしてくれるんだから。

 結局お店の人に悪いから、私がすることになっちゃうのよね。

 ……。

 一人で行くわけないよね。

 てことは…。

 相手がいるってことで、それは私じゃない。

 てことは…。

「レイ!アンタ、あのナルシスホモと映画館に行くの?!」

「ナルシスホモじゃないわ。彼の名前は渚カヲルさんよ。アスカ、物覚え悪いわね」

「うきっ!あんなの、ナルシスホモで十分よっ!」

「違うわ。渚カヲルさんよ。アスカは失礼なのね」

「あのね!だから、アイツは変態なんだって。レイは騙されてるのよ!」

「あの人はいい人。今日はたい焼きを食べたの。尻尾まであんこがちゃんと入ってたわ」

「アンタ食べ物で誤魔化されてない?よく昔から言われてるのよ。

 知らない人から食べ物をもらっちゃいけませんって」

「あら、知ってるわ。あの人の名前は渚カヲルさん」

 ぽっ…。

 げげっ!レイったらナルシスホモの名前を言って赤面してるじゃない!

 ち、ちょっと、まずいわよ!

「あの人は私に聞いたわ。たい焼きは頭から食べるのか、尻尾から食べるのかって」

「……」

 完全に自分の世界に入ってるよ。この娘は。

「私は答えたの。真中からって」

「はあっ?何よ、真中って?」

 あぁ…つい相槌打ってしまったわよ。で、真中って何なのよ。

「真中は真中。ほら、お魚咥えたどら猫を追っかけるでしょ。あれなの」

 へ?またわけのわからない…でも、猫が魚を咥えるのは…。

「レイ!アンタ、そんな食べ方したの?変よ、絶対変」

 私は想像してしまったわ。

 たい焼きの真中を咥えているレイの顔を。

 やっぱりこの娘はネコ科だったのね。そうじゃないかとかねがね思ってたけど。

「じゃアスカはどっちから食べるの?」

「わ、私は…頭よ!」

 私は何故か思い切り胸を張って答えたわ。

「どうして?」

「へ?どうしてって…どうしてかな?えっと…あ、思い出した!」

 

『えぇ〜、また僕が尻尾の方なの』

『うっさいわね。じゃ全部私が食べるわよ。尻尾を食べれるだけありがたいと思いなさいよ!』

『じ、じゃ、いいよ、尻尾で…』

 

「うぅ〜、レイありがと!とってもいい場面、思い出させてくれて!」

「また暴走してる」

「そうよ!実はあそこのたい焼きは尻尾の方があんこの量が多いの。

 だからシンジにあんこの多い方を食べてもらいたくて、

 わざと私が頭の方を選んでたわけよ。ね、私って見えないところで健気でしょ」

「見えるところで健気にした方がいいと思う」

「そ、そんなことできるわけないじゃないっ!恥ずかしいんだから!」

「そう…でも言葉にしないと伝わらない。それはアスカが言った言葉」

「そ、そうだったわね。あ…」

 レイが真剣な表情で…まっすぐ前を見ている。

 ううん、前にある壁じゃないわ。きっと、ずっと遠くの…ナルシスホモの事を見ているのよ。

 まずいわねぇ、ホントにまずいわ。

 間違いなく、レイは本気よ。

「私、言うわ。心に思っていることを」

「な、何を言うのよ」

「アスカには言わない。アスカはあの人のことを嫌っているから。

 そんな人に私があの人のことを好きだなんて言えないわ」

 言ってるって…レイ。

 私はレイの失言よりも、その表情に…レイの心を完璧に映しているその表情に驚いた。

 レイは本気なんだ。

 本気であのナルシスホモを好きになったんだ。

 どうしよ…。

 人を好きになることは絶対にいいことだけど…どうしてよりによってあのナルシスホモなのよ!

 

 その日。

 レイは目いっぱいお洒落して家を出たの。

 もちろん私は協力して可愛い服を選んであげたの。

 白いブラウスに、赤と紺のチェック柄のワンピース。

 可愛いわ…ホント。

 私ってやっぱり複雑な頭の構造してるのかしら?それとも逆に単純すぎるのかしら?

 自分でもよくわからないわ。

 レイの気持ちを考えると、精一杯協力してあげないと!って思うの。

 でも、あのナルシスホモのことを考えると、あんなのとレイがくっつくなんて耐えられない。

 どうしようか結論が出せないままに、この日を迎えちゃったのよ。

 尾行はしなかった。

 だけど、今、私は映画館の入り口が見える場所に…大きな看板の陰に隠れて立っている。

 思い切り矛盾した行動。

 わかんないままに行動している自分。

 あ…出てきた。

 うへっ!ち、ちょっとぉ!

 は、初めてのデートのくせに、腕なんか組んでるわよぉ!

 そういや、大阪でヒカリも鈴原と腕組んでたし、てことは、私だけ未経験者ぁっ?!

 レイったら天使の微笑み全開じゃないの。

 ナルシスホモも気取っちゃって何さ。あったま来るわねぇ。

 あれじゃ…あれじゃ、物凄くお似合いのカップルじゃないのよっ!

 周りの人間からも何かチラチラ見られちゃって…。

 でも…レイ、とっても幸せそう…よかったね…。

 でも、よくない!相手がナルシスホモなのが絶対によくないのっ!

 

 結局、尾行じゃないのよ。これって…。

 凄くいやなことしてるんだ、今。自分がされたら間違いなく頭に来ちゃうよね。

 それを自分がしてる。

 止めたいんだけど、踏ん切りがつかない。

 二人は映画館を出た後、牛丼屋に入った。

 私は目が点になりそうだったけど、なんと言ってもレイだからそれもありかもしれないと思い直したわ。

 ただ、あの二人の雰囲気に牛丼屋は似合わない。

 水色の髪の可愛い美少女と、一応二枚目に見えるアイツが並んで牛丼を食べてる様子は違和感たっぷり。

 どう考えても、カフェテラスみたいなのがお似合いなのに。

 レイが食べたいって言っても、普通の男ならどこか別の場所で食事をするわ。

 やっぱり、アイツに下心がある証拠よ。

 ああ…レイ、お願い。特盛をお代わりするのだけは止めて…。

 ちょっと!ナルシスホモも止めなさいよっ!

 

 はん!安上がりについたわね!

 あれだけ食べても、きっと二人で1500円くらいよ。

 はは〜ん、それが狙いだったのね。さもしい男。

 えっ!ちょっと待ってよ。

 食後のコーヒーにあんな店入るの?

 超高級豆を使って馬鹿高い値段のコーヒーを出すので有名な店じゃない。

 ガキが入る場所じゃないわ。

 きっとつまみ出され…ないわね。窓際の席で、向かい合わせに座ったわ。

 あんな店でレイがいつもの調子で食べたら顰蹙を買っちゃうじゃない。

 え…。カップが二つ…だけよね。コーヒーだけってこと?

 レイは膨れた顔なんかしてない。それどころか、いつにも増して透き通るような微笑を浮かべているわ。

 おいしそうに、大切そうに、少しづつ飲んでいるのを見ていたら、

 とてもあの食欲のお化けといわれたレイの面影なんかない。

 完全なる“あこがれの美少女”の典型じゃないの!

 私が散々がんばってできなかったことをあのナルシスホモがやってのけたってこと?

 く、悔しい…。

 恋は人を変えるってことなの?

 そうなのかな?ね、シンジ…。

 私は何か踏ん切りがついた。

 あのナルシスホモは嫌だけど、レイがあんなになるんなら…。

 私がこんなことしてちゃいけない。

 やめよう…。

 私は1杯200円くらいでコーヒーが飲めるファーストフードを探すことにしたわ。

 

 ファーストフードの2階で、ぼんやりと表の雑踏を眺めながら、

 私は1杯180円のコーヒーをちびちび飲んでいた。

 とてもじゃないけど、レイたちみたいに1杯2000円のなんて飲もうとは思わないわ…。

 あのナルシスホモは牛丼の値段とコーヒーの値段を比較させて、その味と価値を考えさせたわけね。

 私だってこの方法を考えて、実際行動に移したことがあるわ。

 だけど、結果は失敗。

 ふん…やるじゃない。好きな男の言うことだから、レイも素直に聞いたってことよね。

 なんだか、寂しい、な。

 あ…。

 私って、まさかアイツに妬いてる?

 じゃないよね、違う、違う。

 私そっちの趣味はさらさらないもん。

 やっぱり、妹…なのかな。レイの存在って。

 その妹に彼ができたから、姉として気になる。

 そんなとこか…。

 はぁ…。なんとなく納得。

 帰ろ…。

 

 このまますんなり家に着いていたら、このあとの騒動は一切起こらなかったわ。

 めぐり合わせが悪いっていうのか、まさに運命の悪戯だったわね。

 

 今日はレイの部屋に泊まる日だから、シンジのためにお土産を買って帰ってあげようと思ったの。

 そうだ!たこ焼き。

 学習旅行のとき、シンジに食べさせてあげられなかったから。

 レンジを使えば冷えてても大丈夫だもんね。うん、そうしよう!

 レイのことでちょっと気持が軽くなった私は、最近よくレイと行くたこ焼き屋さんの屋台へ向かったわ。

 ここのは本場のとはちょっと違うけど、冷凍や自動式のより断然美味しいの。

 駅前公園の中で噴水広場にいつもでてるんだけど…あ、あった、あった。

「すみませ〜ん、たこ焼き15個持って帰ります!」

「はいよ!いつもありがとね!」

 さてと、どうしよっかな。私も食べて帰ろうかな?

「ごめんなさい!10個追加で、それは食べていきます!」

「はいよ!」

 代金を渡して焼けるのを待っている間、私は後ろ手にして鼻歌を歌って噴水を眺めてたの。

 すると…噴水の向こう側から来るカップルは…レイとナルシスホモじゃないの!

 げげ!どうしよ、どうしよ!

 レイはここのたこ焼きを食べるつもりよね。

 私はとっさに屋台の裏側にあるベンチに座ったの。

 あ〜あ、帽子かぶってくればよかった。

 私の髪の毛の色じゃ気が付いちゃうでしょうね。

「たこ焼き。50個ください」

「はいよ!あれぇ、お姉ちゃんデートかい?いいねえ。でも友達も大事にしないと駄目だよ。

 ほら一人で食べにきてるよ」

 ちょっとおじさん!勘弁してよっ!

 私は身体を硬くして背中に神経を集中したわ。

 ここで偶然を装えばよかったのに、尾行していた罪の意識なんだろうか。

 思い切りぎこちない対応をしてしまったの。

 レイの足音がする。すぐ後ろに立ったわ。

「アスカ、どうしてここにいるの」

 普通の声だった。いや、どちらかというと、機嫌のいい、そんな声でレイは声を掛けてきた。

「……」

 嘘がすぐ出てこない。

 私はただ身を竦めて、頭の中でどうしようか、それだけを考えつづけていたの。

 そんな私の態度にレイも感じるものがあったんだろう。

 次に発した言葉は、声質が硬くなっていた。

「まさか、私たちの後をつけてたの?」

「……」

「答えられないの?」

 駄目。この癖は変わらない。

 私は嘘がつけない。ついてもすぐにばれてしまう。

 だからホントのことが言えないときは黙り込んでしまうの。

「黙ってるってことは、認めてるってことね」

 だって、半分以上その通りなんだもん。

 レイのことが心配で…。

「アスカ、こっちを見て」

「……」

 駄目、立てないよ…。

 業を煮やしたレイが前に回って、私のつま先に当たりそうな近さに立った。

「顔を上げて、アスカ」

 私は恐る恐る顔をもたげた。

 レイの顔。その冷たい表情は、出会った頃と同じだったの。

「さあ、言って。大阪のヒカリの時みたいに、面白がって尾行したの?」

「ち、違うわ」

 やっとの思いで声を出したけど、レイの目をまっすぐ見ることができないの。

「じゃ、どうして?そう、アスカは渚さんが嫌いだから、きっと二人の間を裂こうと考えたのね」

 うっ…、確かにそう思っていたから、否定ができない。

「アスカ…もう駄目なのね」

「えっ…!」

「さよなら、アスカ」

 レイはじっと私を見つめていた。

 その赤い瞳は憤怒に燃え、そこには私への友情の欠片も見られなかったの。

 

 

第11話 「初めてのデート」 −終−

 

第12話に続く 


<あとがき>

 ジュンです。

 第11話です。おいおい、これで続きかよってエンディングにしてしまいました。

 話も終盤に差しかかってきて、アスカの自己崩壊が…。終盤になると自己崩壊を運命付けられる運命が彼女を待っていた。

 大丈夫。本編のようにはなりませんから。私の今年の3つの誓いを忘れましたか?“めざせ!ハッピーエンド”

 めざすだけでも誓いは破ったことにはならない…。さてさて…。

2003.1/22 ジュン   

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