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「つまりあたしが最強って事!」


こめどころ       2005.2.23(発表)

挿絵:米娘(ちびアスカ2号)









ここは身体に馴染んだ試合会場。
約14.55m(縦畳8枚)×四方で、その中央に約9.1m正方形(畳縦横5枚X10枚)の場を設けたもの。
(*下段欄外参照)

この試合場を完全に把握しているほうが圧倒的に有利なのはいうまでもない。
小柄な女子選手が倍も体重があって20cmも背が高い男子選手と五分以上に戦うには、ただスピードだけが
あるだけではダメ。この試合場枠をどのくらい合法的に有効に使いこなせるかが勝負に大きく関わるわけ。

朝、試合が始まる前に何回か目を瞑って縁を歩いた。誤差はほとんどなかったから今日の調子はいいわね。
決勝の相手は無差別級だといっても、はちきれんばかりの大男や百貫デブばかりではない。動きの早さと
正確さ、耐久能力なんかが結局試合を制するから。

日本人は筋肉量や骨格の上限を越えてまで鍛え上げる事ができない体質なのか、100kgを越えるとてきめんに
動きが鈍る。重みに力が負け始める。そこに付け込むしかない。
ほんの少しの勝機。それをどれだけつかめたかでしかあたしが勝つチャンスはないのよね。
相手の何分の一かのチャンスをどれだけ拾えるかだけでずっと戦ってきたんだから。

幾ら大きいったってパパより大きい高校生なんていないし、碇よりすばやい選手もめったにいない。
それがあたしの自信の根拠なんだ。あたしは行ける。幼い頃からの夢。男の子とだって決して引けを取らない。
強くなりたい、勝ってそれを証明したい。とうとうそのチャンスが来たんだ。

心臓が痛いほど打ち続けている。早鐘のようにって奴かな。半鐘を打ち鳴らすっていうのも…





「ねぇ、あなた。アスカの番よ。大丈夫なのかしら。ねぇ、あなた。心配じゃないの!」


どうも落ち着かず、私は何回目かの同じ質問をアルに尋ねた。


「何、アスカは強い。俺と練習してもめったに引けは取らんぞ。まだまだ高校生相手なら俺の方が強い。
その俺から3つに一つは勝つんだからな。多分いい勝負になるだろう。」

「お母さん、お姉ちゃんが勝つから大丈夫だよ。」

「ああ、もう勝たなくても怪我さえしなかったら。」

「馬鹿、母親がそんなでどうする。アスカを信じるんだ。」

「お父さん、僕お姉ちゃんを信じてるから。絶対勝つよね。」

「そうだとも。アスカは勝つ。中学校時代に勝てなかったのはやはり体重と筋力そしてスタミナの問題だった。
今年のアスカの腕や足の筋肉や関節のバネを見たか。アスカは打撃もスピードもは去年とダンチだ。勝つとも。」

「お母さん、ほら一緒に応援しよ。姉ちゃーん、頑張れーっ!」

「アスカーっ、思い切りやって来ーいっ!」

「あなた達ったら、アスカは女の子なんですからね。もし顔に傷でもつけたらキョウコさんに何て言えばいいか。」

「大丈夫だよ、もしなんかあったら僕がお姉ちゃんをお嫁さんにするから。」

「それより先に碇の息子が貰ってくれるさ。」

「えー、あのお兄ちゃんちょっと頼りないな。」

「あら、この子ってば。」

「わははははは。全くだなあ、坊主。」


身体を揺すって大笑いするアル。
シンジくんとゲンドウさん、くしゃみでもしてるんじゃないかしら。
そう思ってくすりと私も笑いを漏らしてしまっていた。





 試合相手は大王高校の谷原カズタカ主将。身長179cm、体重92kg。いかにもずっしりした筋肉質の身体で
動きに鈍重さは全くないわね。あの身体から打ち出される突きや蹴りは、大変な破壊力があるんだろうな。
彼、ここまで一本勝ちはないけど、それは一瞬の突発攻撃力が無いってことじゃないと思う。
慎重にポイントを適確に稼ぐタイプだ。という事は、突進力とか力で振り回すタイプではないという事。
でもそれはデータとしてわかっているというに過ぎない。生の試合をして見なければ打撃のスピードや
投げの鋭さまではわからない。最大の怖さは、得意技じゃなくオールマイティーに強いという事だ。
落ち着いて構え、欠点を丁寧に突いてくるから、付け入る隙が僅かしかないという事だもの。


「やだなあ。こういう理路整然としたタイプは苦手。」


思わず本音が零れる。カッとして腕や足を振り回す子のほうが好き。だってその方が楽じゃない。
反対側に立っている谷原さんはまるで銀行員みたいな顔をしてる。
ちっとやそっとじゃ頭に血が昇りそうにない。やな感じッ、爬虫類みたいよね。
そうだとすればあたしが付け入る隙はどこにあるだろうか。

それは彼があたしをどう攻略しようと計画しているかによって大分違ってくる。
ヒカリの「有益情報」に寄れば左足首に古傷があって最近またそこを痛めたらしい。

見るとサポーターをつけている。でも本当に試合に当たって致命的ならサポーターをつけないと思うのよね。
隠したいと思うはずだもの。つまり、あれは足技を中心に攻撃させようというトラップとも言えるわけだ。
足を痛めている事の本当の大事な点は、そこを攻撃されるということではなく、左足首を起点とした攻撃が
出来ないという点にある。つまり左上方から右下にかけて、あたしは攻撃されないということだ。
当然相手はわたしの左方からの攻撃を警戒してるという事だ。ならば右下方からの掬い上げる攻撃、もしくは
右上方からの斜め打ち降ろしが一番盲点になるんじゃないか。

それも怪我の重傷度によるわよね。付け込むみたいでちょっと悪いけど怪我した方が悪いってのが試合というもの。
去年あたしが熱があったからって誰も手加減なんかしてくれなかったでしょ。ま、ちょっとハンデよね。
正々堂々戦いましょっ。


審判の合図。礼を交わすと「はじめっ!」の号令と共にあたし達はまず組みあった。
組み合った瞬間、強い握力を感じ、身体が左右に大きく振られた。初っ端いきなり力ずくの崩し。

ちっ、最初ッから本気で来るわけ? せっかちは嫌われるわよっ。
つまりこれってあたしのスピードを警戒してるってことよね。やっぱり怪我でいつものように動けないという事?

体を裁いて右後方に下がって引き落とす。手が袖から離れた。あっけないくらいだ。右足を進めようともしなかった。
その次に踏み出す左足が、展開スピードについていけないとふんだの?

思っているより左足の状態は悪いのかもしれない。
考えてみればここまで来るのに最低2回は勝ち上がっているのだ。
その間にも状況は悪くなっているのかもしれない。と言ってもこっちが手を抜いて勝てるような相手ではない。
かといって強引に崩す事は向こうの思う壺だろう。
組技が使えないとなれば相手は。思った瞬間、襟一本で引き落とされて、その目の前を右の拳と膝が同時に襲ってきた。

そうっ! あんたには打撃系か合気の技しか残ってないわよね。

その拳に肘を打ち込んで叩き落とし、蹴りあがってきた膝にあわせて斜め後ろに飛んだ。
瞬間相手の身体は下に潜りこんで諸手背負いに巻き込まれかけた。宙にあると踏ん張れない。
身体をねじって奥襟をつかみ、右のかかとの上を蹴った。相手はあたしを中途半端に背負ったまま斜めに倒れた。
そのまま身体を頭に被せて引き転がし、とっさに上四方固めに入ったっ。
主審が手を上げて押さえ込みの成立を宣言、わああっと上がる歓声。

渾身の力を込めて同時に締め上げる。必死で手足を縮めもがいてくる。上四方固めでさらに腕を完全に巻き込み
肩関節も固めた。
谷原はブリッジをかけて身体を回転させようとするが、あたしは崩れ上四方に移行し、体重差が不利にならない
位置を確保した。左を上方にさらに押し上げたからもう首ブリッジしか使えない。
体格差から本来なら手が届かない位置だがこの時ばかりは自分の長い手足に感謝した。だが固めた右肩が次第に力で
こじ開けられていく。
分厚い筋肉があたしの頭に強烈な負荷を掛け押し下げけていく。時計が目に入る。19,20,21・・・


「わざありっ!」


宣言されたのと同時にとうとう引き剥がされた。並の選手ならとっくに落ちていても不思議じゃないわよ。
体を転がして、やや離れた位置で立ち上がる。大きな溜息が会場を包んだ。
ちぇっ。もう少しだったんだけどな。
こんなチャンスはもう無いかも。谷原は足を庇いたいのを無理して立ち上がった。顔色が本気だ。
あたしの柔道着の跡が頬について真っ赤になっている。かなり強引に外されたもんね。
いけない、相手の視線が下肢をちらりと見た。 まずいッと思った瞬間、蹴りがあたしの下肢、裏脹脛に飛んだ。


『痛(つ)ッ。』


やられた――この人は男子女子に関わらず十分本気で攻めるタイプだ。
まずい、最初の一撃で脹脛が痺れてしまった。感覚が消えかかってうまく引き足が使えない。
蹴りの速度は速い。あたしも蹴りの速度は負けないけどこれだけの重い打撃はタメを取らないと出せない。
続けて3,4発蹴られてしまって足が腫れ上がる。蹴りの応酬。さらに激しい蹴りを腹部に受けてしまった。
そのたび咄嗟に身体を浮かして逃げるけど連続すれば3つに1つはまともに入る。スリップして倒れたときに
審判が留めるより早く顔を蹴りがかすった。ぼたぼたと畳と道着に血が垂れ落ちた。容赦ない攻めだ。
これも一種の体重差、だな。とにかく喰らえッ!

「だっ!」

起き上がりざま身体を捻り上げ、相手に返し蹴りを叩き込んだ。
半身からさらに半身を捻り、肢を跳ね上げ死角から側面の肋骨部位に連続3本!かなりの打撃だろう。

手応えありっ! 谷原の顔が歪んでいる。こっちは挑発するようににっこり笑って見せた。
こっちだけが喰らって黙ってるわけには行かないのよね。ポイントリードは揺るがせない。
さっきの蹴りだって、もしこいつの足が万全ならこっちは大打撃を受けていたと思う。

一旦止められた。血止めのアルコール綿を鼻に突っ込まれる。ううっ、滲みる、痛い、変な匂い。
鼻の付け根を看護師さんがぎゅっとつまみ上げる。


「がんばってね。ナースグループはあなたの味方よ。」

「ありがとう。負けるもんですか。」


ぽんとあたしの肩を叩いて、看護師さんは退場。血が止まって試合再開。

また、相手は間隔を開ける。こっちもそうそう組みたくない。相手が腰を落とした。防御に入ったのか?
しかしポイントはこちらが優位のはず。誘い?

2,3歩近づくと相手はその分僅かに下がる。その先はコーナー。
そうか、そこに近づけばあたしが動ける範囲が狭くなる。それが狙いか。困っちゃうわねっ。
向こうにすれば自分の防御範囲が狭くなるが、あたしの攻撃も左右に飛び出せばは無効とされてしまう。

まるでたまにシンジとやる将棋のようだ。あいつの構えの得意手は『穴熊』。防御の堅い陣形だ。
あれの攻略はとにかく正面で損得考えずにどつきまくる事。機を見て大技でたたくこと。
向こうも打撲損覚悟で応戦してくる。要は止まってのどつき合いになるのだ。
面白いじゃん。あたしの突きを見くびったな!  
ああっいけないと思いながらカッと髪が逆立つのを感じた。血が煮えたぎったように熱く感じる。


「ようし、受けてやろうじゃないの。このアスカ様を見くびった事後悔させちゃるっ!」
(こらッ、あたし、ダメッ!)


かっとなって突っかけようとした途端。男の子の声が会場の喧騒を貫き、あたしの耳に突き刺さった。


「惣流っ、落ちつけッ!」


はっとして足が止まった。あの声ッ。馬鹿シンジったらもう全く恥ずかしいっ!
これ全県放送されてるんだぞっ。
気勢をそがれて踏みとどまった顔寸前を強烈な前蹴りが過ぎた。前髪が舞い上がるほどの強力な一閃。
もう半歩踏み込んでたらやられてた。 
しゅう、と音を立てるように冷静になった。危ない危ない。
さらに突いて来る腕を紙一重でかわし、返す刀で一本背負いに巻き込んで投げ飛ばした。

やたっ!完全に決まったっ。
ッと思った瞬間、あの大きな身体が空中で横に回転し、腕は引きちぎられたように袖から弾き飛ばされた。
投げようとした側の肩甲骨を思い切り蹴られたんだ。


「うぐっ!」


手の爪が全部剥がされたような痛み。そのまま胴回し蹴りの二本目の脚が降ってきたのをまた辛うじて避けた。
体を乱したところに次の突きが肋骨のど真ん中に突っ込まれた。胃が縮こまって胃液が噴出した。


「ゲホホッ!」


思わず咳き込んだのと同時に力が抜けて鋭い痛みが全身を貫いた。背中まで打撃が打ち抜かれたように感じた。
胃液に思いっきりむせた。苦い消化液が口から溢れそうになったのを必死で飲み込む。ううっ!気持ち悪い。


「な…なにっ、こ、こいつどこが怪我してるって言うのよっ!」


それほどこの連続攻撃はあたしにダメージを与えた。
ざっと音を立てて足を開いて体を沈めることでやっと倒れずに耐えた。指の感覚が痺れているうえに目が眩む。
咄嗟に後ろに飛びのいた所にうなりを立てて旋風が舞った。かがんだところを続けざまの蹴りが襲ってきた。
自分の迂闊さに腹が立つ。
怪我が本当かどうかはともかく、こんなに無防備に打ち込まれるなんて。
冷や汗が身体中を流れ落ちている。
息が切れて体力が急速に失われてくる。ずるずると後退する。
まずい。息が、上がる。
ここまでか、もう少し、もう耐えられない。良くやったよね、、あたし。


「アスカァッ、あきらめるなーっ!」


その声に、両頬を張り飛ばされたように目が覚めた。またしても、あいつかっ。
そうだ、負けるもんかっ!
こんなとこで無様に負ける?そんなの見られてたまるかっ。


「ちぃぃっ!」


2回、3回、あたしは攻撃を凌ぎながら必死で下がり続けた。でもただ下がったんじゃない。
続いて突いて来た拳を十字で受け、そいつを左下に流して肩越しに目標を確認した。

チャンスッ!


「ここっ!」


咄嗟に腰を回転させ、膝蹴りと見せて内股を擦るように脚を繰り出しながら回転し踵を蹴った。
よろめいた谷原に向かい、そのまま上体を下方に置いて、体を後ろ向きに屈めたままの位置から、
脚を蹴り伸ばし体を持ち上げた。
その刹那、重心を浴びせつつ、ぎりぎりまで引き寄せていた脚を敵の顎に向けて蹴りあげたっ。
後方回転開脚蹴り、下方から上方へのアスカバージョン!身体をさらに捻って脚を振り切った。

谷原の汗の飛沫がシャワーみたいに飛び散った。あたしのつま先が彼の顎にもろに突き刺さっていた。
相手の身体が伸び上がって、足先が床を離れていくのがスローモーションで目の前で展開する。
同時にあたしの髪が床で波打って汗の珠が飛んで行く。
下顎からの思いっきり手応えのある打撃。人の骨を蹴ったとき独特の妙な破壊感覚が脚に残った。


「ぐがぁっ!」


あたしはそのまま夢中で膝の横をつかんで右関節を決め、反対の脚を両手で刈った。
倒れかけた谷原と一緒に全体重を掛けてさらに前方に飛んだ。
視野が急速に狭まって青畳が全てを占めた。
ズダーン!と物凄い衝撃が伝わってきた。
谷原は必死で起き上がろうとして、がくんと後頭部を畳に落とした。私はもうこれ以上動けない。
立たなきゃ、立ち上がらなくちゃ。
必死でもがいてよろけながら何とか立ち上がった。
ぼやけた視界での中で、谷原は倒れたままだった。

え、勝った? あたし、勝ったの?


「ぃやったぁっ!」「凄いっ!」「うおっ」「わーっ!アスカーッ!」

「いっぽぉぉんっ!惣流アスカ選手っ!」

「うぉわああああああああああ!!」


悲鳴のような数人の声が響き、次に大歓声が聞こえた。
しっかり立ち上がろうとしたけどよろけて背筋が伸びない。もう、ぼろぼろなのが自分でわかった。
滝のように胸元と首筋を伝わる汗。血で汚れた胸元と足元。腫れあがっている腕と腿、脹脛。滑るほどに汗の滴った畳。
重く湿った柔道着。がくがく震えている腹筋。みしみし痛む肋骨。息をするたびに悲鳴を上げたいくらい。
膝に手を突いて身体を支え、髪を振り乱して何とか立ち上がった。ひときわ歓声が騒然となった。

      

私はもうぼろぼろだった

 

その格好で息を整えた。お気に入りの赤い髪留めはどこかに飛んでしまっていた。
地の塩の応援歌を誰かが歌い始めた。男子応援団もそれに和した。
会場の約1/3はあたし達の学校の生徒や親や卒業生たちが占めていた。
地の塩と、修永館の校旗と団旗が振りまわされている。
いつの間にこんなに大勢駆けつけてくれたんだろう。

その2階席をぐるっと取り巻く人たちもみんな拍手をしてくれていた。応援団が大声で歌いだした。
谷原さんが血まみれの顔のまま、副審の手を借りて立ち上がった。審判が改めてあたしの勝利を告げる。
礼をして、互いに握手をした。


「この先も頑張ってくれ。」

「ありがとう。」


試合会場をぐるりと見回すと、もう一度歓声が高まった。皆があたしを呼んでいる。
そして、降段した先に、ミサトと、ヒカリと、パパとママ。小さな弟と、そしてシンジが。
みんなあたしに向かって手を伸ばしていた。

この日あたしは県下で一番強い人間になった。




「なーんか、勝っちゃったぁ。」


そう大声で言うと皆が笑った。


「やったね、アスカっ!」「さすがはわしのアスカだ!」


あたしの最愛の男性2人が、互いを押しのけながら顔中笑顔で埋め尽くして叫んだ。
あたしは2人の肩に手を回して抱き寄せ頬にキスを配給した。
パパはにっこりしてキスを返してくれたけれど、さすがにこの恥ずかしがり屋のシンジ君じゃね。
シンジは真っ赤な顔になってあたしの両手を包むように握ってぶんぶんと上下に振り回した。
まあ、こいつにはこの公衆の面前じゃこの程度でしょうね。


「シンジ、ありがと。」

「え、何のこと。」


こいつ、多分試合会場に響き渡った自分の声援なんて、全然憶えてなんかいないんだろうな。
だから、ごほうびに今度は首にかじりついてぎゅっと抱きしめてやったわ。
おろおろしてるシンジってやっぱり一番可愛いんだもの。
周囲の皆が笑ってる。あたしもそのままで笑った。ストロボが何十個も音を立てて鳴った。
その時パパは渋い顔をし、ママは涙を堪えるような表情で祈っていた。一体何を祈ってたのかしらね。


その時、目の前が急に真っ暗になった。
停電? 違う、足元からふわっと消えていくように視野が狭くなったんだ。同時に意識が。


「あれ、あたし。どうし…」


後ろに倒れていくあたしの身体を支えられない。
誰かの手が腰と背中に手を回し、受け止めてくれた。

あたし、夢を見てた。パパの肩に担がれて、頭に花輪を被って、皆から祝福されてる夢。
シンジも隣でゲンドウのおじさんに担がれてるの。やっぱり同じように花輪を被って、胸にはメダルが。
そう思ったら、シンジは黒ずくめのタキシード姿に変わって。
あたしはいつの間にかレースのドレスをつつまれて長いヴェールが風になびいてた。

これは夢。その事は何故か良くわかってたわ。でもなんて気持ちのいい夢だろう。
何もかも願いがかなっていく夢なんだわ。
多分これは神様だか御先祖様だかからのご褒美よね。
なんていっても、あたし今日は頑張ったもんね。つまり、あたしが最強ってことよっ!えへん、ぷいっ!








第38話へつづく

『もう一度ジュウシマツを』専用ページ

 

もう一度ジュウシマツを(37)つまりあたしが最強って事! 2005-02-23 komedokoro


参考:

柔道の試合会場はこんな風になっています。

   

試合は20分までの長さで競われますがオリンピックでは5分です。
このお話は現実ではない総合武道、ここでは古武道としての古柔術の
要素を色濃く取り入れた無差別級が存在しているわけですが、会場は
現状と同じという事にしました。







「もう一度ジュウシマツを」第37話です。
さすがはアスカ。優勝しましたね。ただし、これはまだ県大会。
彼女の闘いはまだまだ続くわけです。
闘いといえば、シンジの方もさらに茨の闘いとなるんですよ。
彼はもう
アスカと肩を並べて戦うわけにはいかないのですから。
実際には同じ畳で共に戦っているわけではないですが、気持ち的に。
いくら心も身体も鍛えられてきているとはいえ、何しろあのシンジ君ですから。
考えすぎるのが彼の短所でもあり長所でもあるのです。
今後は長所として恋人をサポートしてあげて欲しいものですね。
張りつめていたアスカの心が
どこかでポキンと折れてしまわないように。
何しろ、君の声は満場の歓声の中で恋人の耳に届くくらいの力を持っているのだから。
ご投稿、ありがとうございました、こめどころ様。
(文責:ジュン)

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