100001HITしていただいたみどりさまのリクエストです。

お題は…。

「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」というお題を頂きました。

正直言って、このリクはきつい!さすがにお知り合い。私の弱点を熟知しておられる。

でもでも、天邪鬼ですから、私。例によって方向性を捻じ曲げてしまいました。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります、100001HIT記念SSは…。第二幕となります。

 

 

 


 

 ああ、もう我慢できない。

「好きなんだっ!アスカのことが!」

 言ってしまった。

 これじゃ、アスカを混乱させているだけじゃないか…。

 告白はしようと決意していたけど、こんな顔を合わした早々だとは考えてなかった。

 でも、心の痞えが消え去ったような、少しすっとしたような気持ちになった。

 いや、ダメじゃないか、自分だけすっとしてどうするんだ。

 アスカのためにここに来ているんじゃないか!

 本当にダメなヤツだ、僕って男は。

 アスカは仁王立ちして、僕の顔を睨んでいる。

 ほら、アスカの顔。

 完全に、怒って………ない?

 

 

 

The Longest Day

 

〜 強奪 〜


100001HITリクSS

2003.11.30         ジュン

 

 

 

 

 あれ?どうして怒ってないんだ。

 多分、僕がよほど間抜けな顔をしていたんだと思う。

 アスカの目が一瞬笑ったように見えた。

 表情はきついままだったけど。

 見間違い、だよね。

 こんなに簡単に許してくれるわけない。

「あきれた…」

 アスカは息を吐き出すように呟いた。

 あ、なるほど、そうですか。

 怒りを通り越してたんだ。

 それはそうだろうね。

 自分を見殺しにした人間に好きだと言われて喜ぶわけないもの。

「アンタ、いったいどんな性格してんのよ。アンタが心覗かれた方がよかったんじゃない?」

「うん、その方がよかった…」

 力なく俯いてしまう。

 本心だった。

 あれからそのことを何度考えたことか。

 できることなら、アスカの代わりに僕が。

「わっ!」

 目を上げると、至近距離にアスカの顔があった。

 い、いつの間に!

「何驚いてんのよ」

 驚くに決まってる。

「はん!今更過去に戻るなんてできっこないんだから、今、アンタの心を覗かせてもらうわよ」

「えっ!まさか、アスカにそんな力が?あの使徒に心を犯…あわわわ…じゃなくて、つまり!」

 あの時、「心を犯されちゃったよぉ」ってアスカの声を聞かされてから、どうしてもこのフレーズが耳から離れない。

 だから、つい…なんて言ったら、絶対にアスカは怒る。

 ……。

 あれ?

 何かおかしい。

 いや、おかしいというよりも、懐かしい。

 アスカが日本に来て、ユニゾンで同居を始めてからつい最近までは、いつもこんな感じで…。

「何ぼけっとしてんのよ。さあ、たっぷりと覗かせてもらうわよぉ」

「ど、どうやって!」

「そうねぇ、まずはその腐った脳みそでも調べさせてもらおうかしら」

「うへっ!」

 そう言えば、リツコさんが言ってた!

 まさかのときには間に合わないかもしれないって。

 きっと食事のときにナイフかフォークを隠し持っていたんだ。

 やられる!

 でも、アスカになら…。

 そう思って、静かに目を閉じた。

 ……。

 5秒。10秒。30秒。

 何も起こらない。

 アスカが近くにいることはわかる。

 その息遣いが聞こえるから。

 目を開けようかと悩む。

 だけど、ここは瞑っているべきだと本能が教えている。

 もし、目の前に刃物があったなら、怯んだり、脅えたりすると思う。

 そんな顔をアスカに見せたくない。

 アスカは…いったい何を考えてるんだろう?

 斬られたら、痛いかな?そりゃ、痛いよね。

 どうせなら一気に…。

 もしかして、獲物をいたぶってるわけ?

 猫が鼠をいたぶるように。

 アスカって、もろ猫科だもんね。

 じゃ、こっちは鼠かぁ。

 ……。

「アンタ、結構面の皮厚いのね。怖くないの?」

 冷たい声。

 けっこう怖いことを言ってるんだけど、不思議に怖くない。

 どうしてだろう。

「今ねぇ、アンタの喉にめがけてナイフを構えてんの。どう?怖い?」

「怖いよ」

「じゃ、泣けば?僕が悪かったって許してくださいって、泣いて謝れば?」

「泣かない」

「どうしてよ。アンタ、弱虫なんでしょ」

「うん。そうだよ。好きな人のことを守れなかった最低の…」

「うっさい!覚悟しなさいよ。行くわよっ!」

 ごくり。

 最後の見栄で頷く僕。

 アスカに殺されるんじゃ…。

 

 次の瞬間。

 

 顔に熱いものが押し当てられた。

 いや、具体的に言うと、唇だ。

 熱いけど、火傷をするような熱さじゃない。

 それに柔らかくて…、これって…まさか…?

 ミサトさんが加持さんに送って貰って帰ってきた夜に…。

 あの時は軽くでしかなかったけど、今はぐっと押し付けられている。

 アスカの唇…!

 鼻息…あの時は、あんなにいやがったのに、今は…。

 あれ?僕の鼻息、あの時みたいに激しくないぞ。

 どうしてだろう?

 あの時はただアスカの唇に触れているってだけだったけど、今は違う。

 心が…熱い。

 自分の唇が燃えるようだ。

 そうか。あの時はアスカのことを好きだって自覚がなかったから。

 今はアスカのことが好きで好きでたまらない。

 そのアスカの唇。

 キスがこんなに心をときめかすモノだなんて知らなかった。

 気持ちいい。

 あ、でも、こんなこと…、どうして?

 アスカはどうして僕にキスをしたの?

 ひょっとして、死刑囚の最後の晩餐ってヤツかも。

 うん、それならそれでいい。

 この世の最後の経験がアスカのキスだなんて、何て幸せ者なんだろう。

 そんなことを考えているうちに、すっとアスカの唇が離れた。

 思わず、唇が半開きになってしまう。

 そして、目を開けようとしたとき。

「目を開けちゃダメ。そのままで答えなさいよ」

「う、うん」

「アンタ、どこで練習したの?相手はファースト?それともミサト?」

「へ?」

「私としたときより巧くなってんじゃない」

「そう…のの?」

 何がどうなればキスが巧いだなんて僕にわかるわけがない。

 幼児の時はともかく、物心ついてからこの唇を合わせたことがあるのは後にも先にもアスカだけだ。

 だから練習なんて…答えられないじゃないか。

「何黙ってんのよ。さっさと答えなさい。あれから私、かなり短気になってんのよ!」

 わっ!いつもよりさらに気が短くなってるだなんて、そんな無茶な!

「し、してない。誰ともしてません。アスカみたいに経験豊富じゃない」

 あれ?

 言葉が返ってこない。

 どうして?ちゃんと答えたのに。

「あ、あの…?」

「アイツは知ってるわよ」

「アイツっ!誰だよそれ!」

 思わず怒鳴ってしまった。

「それ何?やきもちっての?ははは…」

「そ、そうだよ!やきもちだよ!くそっ!アイツって誰だよ!」

「知ってどうすんの?」

「ど、どうするって…!」

 どうしたんだろう。

 胸がむかつく。腹の底がずんと重くなっていく。

「そいつはね、私のすべてを知ってんの。アンタの知らないことまでね。はは…、何から何まで」

「ぐっ…!」

 ドイツのボーイフレンド?それとも、もしかして…!

「そいつのこと、どう思う?この世から消してしまいたい?」

 からかうような口調のアスカ。

 でも、その時の僕には憤怒で我を忘れていた。

「当たり前だよ!そんなやつ、僕の手で…!」

「ご愁傷様」

「…はい?」

「アンタの手を借りなくても、ファーストがこの世から消し去ってくれたわ」

「えっと…それって、まさか…?」

「あの使徒に決まってんじゃん!」

「使徒と、キスしたの?」

「へ?」

「だから、そいつが知ってるんだろ。アスカと経験して」

「あははははっ!」

 豪快な笑い声。

 この物音から察するに、床を転がりまわって笑っているようだ。

 懐かしいな。

 マンションのリビングで笑い転がるアスカ。

 別にそれほどおかしい話題でなくても、オーバーに感情表現していたっけ。

 多分、今のは僕が大ボケをかましたんだろうな、例によって。

 どこを間違えたんだろう?

 アスカはひぃひぃ掠れた声を上げている。

 息も苦しいくらい笑ってるんだ。

 これって情緒不安定ってこと?それとも少しよくなったってこと?

 目を開けてみれば、そのあたりのこともわかるかもしれないけど、やっぱり開けちゃダメだ。

 約束だから。

 随分待たされた。

 アスカの笑いが治まるまで。

 その間、ずっと元気だった頃のアスカのことを思い出していた。

 もうすぐそのアスカに命を奪われるかもしれないもに…。

 あの頃この恋心に気付いていたらなぁ。

 もっとアスカとの時間を大切にしていたのに…、もう遅いや。

 僕って馬鹿だよ。

 父さんに褒められたいって気持ちが表に立って、もっと大切なことに気付かなかったんだ。

 あ、静かになった。

 いよいよ…?

「もうっ!笑わさないでよ、くだらないことでさ」

「くだらなくないよ」

「ふん!くだらないじゃない。使徒とキスしたですって、この私が。ぷっ!ああ、まだおかしいじゃない。この馬鹿シンジ!」

 は…。

 馬鹿シンジ、だ。

 その呼び方で呼んでくれるんだ、僕のことを。

 あんなに嫌だったのに、今はそう呼ばれると無性に嬉しい。

「アンタ馬鹿ぁ?馬鹿シンジって呼ばれて、何喜んでんのよ」

「僕、馬鹿だから、だから、嬉しいんだよ」

 あ、いけない。

「ち、ちょっと、何泣いてんのよ!」

「ご、ごめん。嬉しくて、つい…」

「変なヤツ。アンタ、変態?気持ち悪いわねぇ、もう。こんなヤツとしかキスの経験がないなんて…」

 えっ…。

 今、何て言ったの?

「アスカ?」

「はん!だから、アンタとしかキスしたことないってことを私以外にあの大馬鹿使徒が知ってるってことよっ!」

「僕と、だけ…?」

「ふん!そうよ。加持さんにだって……してくれなかったんだから」

「加持さんに!」

「ちょっと大きな声出さないでよ!」

「アスカ、加持さんにキスしてって言ったんだ」

「言ったわよ。何度もね。でも、全然相手にしてくれなかった。私なんてただのお子ちゃまにしか思ってなかったんだ」

「よかった…」

「よくない!」

「でも、よかった」

「全然よくない!」

 どこにいるのかもわからない加持さんに感謝の気持ちで一杯だ。

 あんなに女性が好きなあの人が、どうしてアスカには?

 アスカの言うように子供だと思ったからなんだろうか?

 いずれにせよ、僕だけがアスカのキスを経験しているってことは、すごく嬉しい。

 その思いを胸に死んでいけるんだから。

 アスカ、ありがとう。最高の晩餐だよ。

「じゃ、この次に私がキスする相手の顔を拝ませてあげようか?」

 最低だ…。

 やっぱり、アスカは僕をいたぶってるんだ。

 このまま、死なせてよ。

 でも、この部屋には僕しかいないし、写真?

 フィアンセか何かがいたの?もしかして。

「はい、目を開けなさいよ」

 素直に瞼を上げる。

 わっ!眩しいや。

「ほら、目ん玉しっかり開けて、よく見なさいよ」

 目の前にはアスカの顔。

 写真とかそんなものはどこにも見えない。

「何、ぼけっとしてんのよ。目の前をちゃんと見なさいよ」

「アスカがいる。それってアスカ本人ってこと?」

「はん!私は鏡を相手にキスするってわけ?ナルシストじゃあるまいし!」

「ナルシストって何?」

「それはね…って、そんなことはどうでもいいのっ!私とこの後キスする相手の顔を見たくないの?」

「ずっと…?アスカはその男のことが好きなの?」

 胃が痛い。

「さあ、どうだかね…。で、見るの見ないの?」

「嫌だ。そんなヤツの顔見たくない」

「見なさい!アンタ、私に借りがあるんでしょうがっ!見るのよっ!」

 血相が変わっている。

 それに、アスカの言うように僕には借りがある。

 くそっ!こんなのって。

「わかったよ、見ればいいんだろ」

「何よ。その反抗的な態度は。まあ、いいわ。さあ見なさいよ」

「どこを?」

 不貞腐れた僕に、アスカはニヤリと笑った。

「アンタの目の前」

「アスカしかいないじゃないか」

「じゃ、私を見なさいよ。どう?」

「綺麗、だと思う」

「うっ…、アンタ平気な顔して、歯の浮いたこと言うわね」

「だって、本当だもん」

「ま、まあ、それは日本の…いや、世界の常識だから、それでいいけど。

 で、その世界一綺麗な天才美少女の顔に何か見える?」

「天才美少女って…」

 アスカが何だか生き生きとしているような…。

「うっさいわね。今、アンタも認めた歴史的事実でしょうが。で、見えるの?見えないの?」

「見えない、けど…」

「おっかしいわねぇ。もっと、よく見なさいよ」

 無茶なこと言わないでよ。

 アスカの顔に見えるのって、目と鼻と口と…。

「ホント、アンタって超鈍感男よね」

「わかんないよ、いったい何なんだよ」

「私の瞳の色は何色?」

 素直にアスカの目を覗く。

 綺麗な青い瞳。

「青…かな。紺色に近い、深い海の色のような…」

「アンタにしては中々いい表現よね」

 アスカの瞳が笑った。

「その、綺麗な瞳をよく見て御覧なさいよ」

 

 その青い瞳の中には僕がいた。

 間抜け面をした僕が映りこんでいる。

 

「ふん!それが私が次にキスする相手よ!」

 言うが早いか、その瞳の中には僕の目しか見えなくなった。

 よく考えたら、1回目も2回目も、そして今も、キスはアスカの方からだった。

 

 

 

 

 

 

〜前進〜 へ続く


<あとがき>

 The Longest Day 第二幕です。どんどんシリアスから離れていってます。

 強奪は、アスカがシンジの唇を強奪したわけでした。

 で、こんなに簡単にアスカのプライドが修復されてしまっていいわけでしょうか?それは次回以降ですね。

 二人の一番長い日は、まだまだ続きます。

 

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