100001HITしていただいたみどりさまのリクエストです。

お題は…。

「本編第22話準拠、または分岐」「始まりはアラエル撃退後から」「シンジ一人称」というお題を頂きました。

正直言って、このリクはきつい!さすがにお知り合い。私の弱点を熟知しておられる。

でもでも、天邪鬼ですから、私。例によって方向性を捻じ曲げてしまいました。

ということで、天邪鬼の権化・ジュンが贈ります、100001HIT記念SSは…。第四幕となります。おいおいまた長くなってるよ。

 

 

 


 

「私のシンジは馬鹿で間抜けで情けなくて、その上エッチでスケベで変態なんだから!」

 私の…って、嬉しいなぁ。

 でも、どうして、天井に向かって?

 アスカの視線を追うと、そこにはモニターカメラが据え付けられていた。

 忘れてた。

 全部、見られてたんだ。リツコさんに。

 無機質なカメラがなんだかリツコさんの目に見えてきた。

 しかも、面白そうに笑っている目に。

 ただ、アスカの方はわかってて僕に抱きついたりしてたってことだよね。

 嬉しいというか何というか…。

 

 

The Longest Day

 

〜 補完 〜


100001HITリクSS

2003.12.07         ジュン

 

 

 これって、退院っていうのかなぁ。

 そこのところがよくわからないけど、アスカはリツコさんの部屋に呼び出された。

 で、何を考えてるんだか、僕に馬になれとアスカは要求してきた。

 もちろん四つん這いになってアスカを乗せるわけじゃない。

 要するにおんぶしろと言ってるわけだ。

 正直言って恥ずかしい。

 おぶさるアスカは何の遠慮もなく体重を僕に預けているわけで…。

 ということは、アスカの胸が僕の背中にべちゃりとくっついてるわけで…。

 そうなると、精神と身体両方で平常心が思い切り要求されるってわけだ。

 そりゃあ、嬉しくないわけはない。僕だって男だ。

 嬉しくて嬉しくて仕方がない。

 でも、ここはネルフの本部で、しかも病室の前には黒服さんたちがガードしてるんだ。

 リツコさんの部屋まで行くのに、いったいどれだけの人に出くわすのかもわからない。

 やっぱり、恥ずかしいよ。

 おずおずと、アスカに切り出してみた。

「アンタ、何言ってんのよ。私は病人なのよ!」

「じ、じゃ、車椅子とかさ」

「へぇ…」

 アスカはじろりと僕を睨みつけた。

「アンタの愛って、それくらいのものなわけか。ふ〜ん」

 やばい!いつものアスカだったら言い返してもいいんだけど、今の不安定な状況で逆らうのはまずいよね。

「どうぞ」

「よろしい」

 うっ、重い。

 

 僕って見栄っ張りだ。

 人目があると、重そうな顔や弱音を吐くなんてできない。

 できるだけ涼しい顔でアスカをおぶって歩く。

 さすがに黒服さんたちはこんな僕たちを見ても顔色を変えない。

 ただ、しきりにサングラスの位置を直している所を見ると、少しは気になるみたいだ。

 だって、アスカは僕の背中で嬉しそうに鼻歌を歌ってるんだから。

 その後をついて来るんだから、大変な仕事だと思う。

 よほどしっかりとした心を持ってないとね。僕も見習わなきゃ。

 病院から出て、本部の建物に入るところで黒服さんたちはすっと姿を消した。

 多分ホッとしたことだと思う。

 通路を歩き始めても、アスカは相変わらずおぶさったまま。

 その楽しげな鼻歌が止まった。

 僕が一番顔を合わせたくない人と、よりによって出くわしてしまった。

「父さん…」

「もう、いいのか?」

 僕の頭越しにアスカに語りかける。

 いつだってこうだ。

「大丈夫に、決まってるわ」

 アスカの声が硬い。

「そうか。それならいい。ふん」

 その鼻を鳴らす癖は辞めて欲しい。

 誰が聞いても馬鹿にされていると思うはずだ。

 父さんはいつもと同じように表情も変えずに、通り過ぎていった。

 しばらくその背中を見送っていると、突然アスカが僕の耳に噛み付いた。

「痛っ!」

「悔しいぃっ!」

「はい?」

「言ってやろうと思ったのに、どうしても言えなかったっ!」

「何を?」

 アスカが耳元でくすりと笑った。

 うわっ!くすぐったい。でも、頭がふわっとしそう。

「お父様、って言うつもりだったのよ!」

「お、お父様ぁ?!」

「何よ、アンタそのつもりはないわけ?私は二号さんってこと?本妻はファーストなんだっ!」

「うわわっ!暴れないでよ」

 アスカは僕の首を絞めあげたり、頭を叩いたりと、大暴れだ。

「綾波は関係ないじゃないか」

「うっさい!私なんかどうでもいいんだ」

「あ、危ない。落としちゃうよ」

「落としたら、死んでやる。絶対に落とすなぁっ!」

 そんな矛盾したことを叫びながら、脚を僕のお腹の前で組み合わせてぐいぐいと絞める。

 く、苦しい…。

 でも我慢しなきゃ。アスカはもっと苦しい目にあったんだから…。

 って、それでも苦しい。

「あ、綾波はただのな、仲間で。好きなのは、あ、愛してるのは、アスカだけだよ!」

 

「そう…それはよかったわね」

 

 あとは無言で綾波が通り過ぎていった。

 いつの間に…。

 僕もアスカも、その後姿をただ呆然と…。

「ラッキーぃ!一番危ないヤツにバレちゃったもんね。へっへっへ」

 うって変わって上機嫌のアスカ。

 やっぱりまだ不安定なのかな?

 機嫌の上下が物凄い。

 まあ、普段もそうだけど。

「危ないヤツって、綾波は僕なんか何も思ってないよ」

 これは本心だ。

 でも、アスカはこつんと僕の頭を叩いた。

「アンタ馬鹿ぁ?ホント、アンタは呆け呆けなのよね。全然気付いてないんだから」

「はい?」

「ファーストがアンタを見てるときの目ったら、それはもう…ラブラブって感じなのよ!」

「嘘だろ」

「嘘じゃないわよ!だから、アイツのこと嫌いなんだし、この前だってアイツに助けられたのが悔しくて悔しくて…」

「あ、アスカ?」

「何よ」

「それって…もしかして、ひょっとして…」

「何よ、はっきり言いなさいよ。アンタ、男でしょ!」

「う、うん。まさか、前からぼ、僕のことを…って、こ、ことだよね、それって」

「……」

「アスカ?」

 ぐいっ!ぎゅっぎゅっぎゅっ!

「げほっ!や、やめてよ。くるひいぃ」

「はん!馬鹿シンジの癖に偉そうに!」

「い、息が…」

 すっ…。

 ほっ。気が済んだのかな…。

 ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅっ!

「くわっ!た、助けてっ」

「生意気に、私の方が先にアンタのことを好きになったって言いたいわけぇ?

 ほら言いなさいよ。言いなさいってば。僕の方が先でしたって。さあ!」

「い、言うよ」

「じゃ、聞こうかな」

「僕は会った時から…」

「声が小さい」

「ああ、もうっ!初めてアスカに会った時から大好きでした!これでいいだろ」

「ふ〜ん、じゃ一目惚れってやつぅ?」

「どうでもいいよ。好きにしてよ」

「ま、いっか。じゃ、そういうことで」

 あれ?今の、僕に向かって言った風に聞こえなかったけど…。

 顔を上げると、マヤさんが目の前に立ちすくんでいた。

 書類を胸のところでぎゅっと抱きしめて、頬を赤く染めて僕たちを見ている。

「そ、そうなんだ。シンジ君が先だったんだ」

「そうよ。シンジの方から、大好きだ。結婚して欲しいって言ったのよ」

「け、結婚っ!」

 僕もマヤさんのように叫ぼうとしたけど、流石はアスカ。

 ちゃんと事前に首を絞めて、声を出せないようにした。

 いつ、僕がプロポーズしたんだよ!

 まあ、異存はないけどさ。

「誰にも言っちゃダメよ。恥ずかしいから」

 大きく二度三度と首を縦に振るマヤさん。

「最近の子って、凄いんだ…」

 そうぽつりと言うと、マヤさんは廊下を駆けていった。

 背中のアスカはふふふと不気味な笑いを漏らしている。

 怖いよぉ…。

「これで、アンタと私のことは既成事実としてネルフ中に広まったも同然ね」

「でも、今口止めしたじゃないか」

「アンタ馬鹿ぁ?言うなって言った方が言うのに決まってんじゃん!」

「そうなの?」

「そうよ。さあ、さっさと進む」

 進行妨害してたのはアスカじゃないか。

 もちろん、そんなことはアスカには言わない。

 だって、また鼻歌を歌いながら機嫌よさそうに、ぴったり僕にくっついてるんだから。

 ああ、アスカの頬が僕の頬にくっついて…。気持ちいい。

 そんな状態だから、アスカが喋るとなんだか直接僕の心に話しかけているような気分になる。

「あの連中じゃ噂にしてくれないもんねぇ」

「あの連中って?」

「ファーストに、ガードに、髭めが…じゃなくて、お父様」

 ああ、いかにも口が堅そうな面々だ。

 って、やっぱり父さんのことはお父様なの?

「これでアンタは二度と浮気はできないわよ」

「そんなことしないよ。それに二度とって、何もしてないじゃないか」

「ふふふ…シンジのほっぺって、つるっつるで気持ちいい!」

 また話を逸らす!でも、アスカの頬もすごく気持ちいい。

「でも、このほっぺにもあんな髭が生えてきちゃうのよねぇ。シンジっ!」

「耳元で怒鳴らないでよ」

「アンタ、毎日髭そりなさいよ。髭なんか絶対に伸ばしちゃダメよ」

「でも、アスカの好きな加持さんだって髭があるじゃないか」

「誰それ?知らない。私はコレが好きなのぉ」

 頬を擦りあわすアスカ。

 ぷにぷにぷに。

 わぁ!これって…未知の快感…。

 でも、こんなに幸せな気分でいていいんだろうか?

 ふと心の隅でそう思った。

 こんな調子だけど、本当にアスカは大丈夫なんだろうか。

 リツコさんに確かめなきゃ。

 ああ、でも、気持ちいい。

 癖になりそうだ…。

 

「アスカ、少しは離れなさい」

「イ・ヤ・よ。ねぇ〜、シンジぃ」

「ははは…」

「シンジ君、あなた男でしょう?あなたがしっかりしないとどうするの?」

「は、はい」

「ああっ、シンジったら、私のことよりリツコの言うことを聞くんだぁ」

 信じられないような甘えた口調のアスカ。

 リツコさんはすっと目を細めると冷たく言った。

「アスカ、シャワー浴びてきなさい」

「ふん!」

「臭うわよ。あなた」

「ふえぇっ!に、臭ってたの私!く、臭かったのぉ?」

 どう答えたらいいのかわからない。

 正直ぜんぜん気になってなかったんだけど、あのリツコさんがこんなことを言うんだから何か意味があるはずだよね。

 返事に迷ってる僕をアスカは誤解した。

「わ、私、汚れてるんだ。臭いんだ!わぁぁっ!」

 大げさに泣き声をあげて部屋の隅にある洗面所へ走るアスカ。

「嘘泣きね」

「そうなんですか?」

「間違いないわ」

 そっけなく言い放って、リツコさんはコーヒーカップを手にした。

「あの…」

「アスカのことでしょう?ちゃんと元に戻ったか」

「はい」

「戻ってないわ」

 あまりに簡単に言ってのけたリツコさんに少しだけ腹が立った。

 でも、そんな風に思ったら、リツコさんに悪い。

 リツコさんはいつだって真剣なのだから。

「アスカはね、あなたに愛されたいと思ってるの。

 だから必要以上に甘えたり、オーバーな愛情表現をしているわけ。わかるでしょう?」

「はい」

 やっぱりそうか。

 シャワーの音が聞こえる。

 徹夜で作業することが多いから、リツコさんの部屋には生活できるほどの設備が整っているんだ。

 今アスカが入っているバスルームもそう。簡単なキッチンまである。

 大き目のソファーはベッド代わりって感じ。

「アスカも、今の状態から何とかしたいと思っている。

 心が不安定だからシンクロ率が悪化していっているだというのは本人が一番承知してるはずよ。

 だから心の平安をあなたに求めたの。自分を愛していると言ってくれたあなたにね」

 病室の会話…、全部聞かれてた。

 はは、恥ずかしいな、これは。

 まあ、ミサトさんのようにからかったりしないからいいけど。

 で、リツコさんの言ってること。

「つまり、僕を必要としているってことですか?」

「そうね。ズタズタにされた心をあなたを愛することで埋めようとしているの。しかも無意識にね」

「無意識?」

「ちゃんと計算してしていることではないと思うわ。自己防衛が無意識に働いたってことね」

「そうなんですか」

 その時、リツコさんが何故か苦笑した。

「どうしたんですか?」

「なんでもないわ。ただ…少しね」

 珍しくリツコさんが口ごもる。

 そして、すぐに言葉を繋いだ。でも、

「アスカの心の隙間。埋める自信はシンジ君にある?」

「自信はありません。でも、やってみたいと思います。全力で」

「まぁ…」

 リツコさんは少し驚いたような表情で僕を見つめた。

 そして、初めて見るような笑顔を僕に見せてくれた。

 何だか…そう、ミサトさんが僕たちを見て微笑んでいるときのような…。

 お姉さんって感じの、温かい笑顔だ。

 そういえば、ミサトさん。まだあのままなんだろうか。

「若いっていいわねぇ」

「僕にだって心の隙間がありますから。僕もアスカをあ、あ、愛することで、それを埋められたらいいなって」

「そう…、そうね。それが、本当の…補完……かも」

「ほかん?」

 リツコさんは机の上のメモに、さらさらと『補完』と書いた。

「足りないものを補って完全な形にする。それが、補完」

「補完…」

「あなたたちの方が、本当の意味の補完かもね…」

「は?」

 リツコさんは呟いた後は何も言わなかった。

 その時、アスカの声がした。

「リツコぉ!この下着、私の?」

 何気なしに振り返ると、洗面所からアスカが上半身をさらけ出していた。

 もちろん、ということは丸見えってことで…。

 多分ものすごい間抜け面でアスカを見ていたんだと思う。

「こら!スケベシンジ!じろじろ見るな!」

「そうよ、それあなた用に置いてあるから」

「ダンケっ!」

 アスカはひょいと引っ込んだ。

 かと思ったら、今度は顔だけ出して僕に怒鳴った。

「いぃ〜っだ!」

 鼻血は…幸いにも出てなかった。

 でも、拝みたくなるほど綺麗だった。

「はぁ…。まったくあの子ときたら。わかった?今のもあなたの目を惹きたいからわざとしたの」

 嬉しいような…アスカの心が哀しいような、複雑な気持ちだ。

「こんなことを続けていたら、またいつかぽきっと心が折れてしまうわ」

「でも、僕がアスカの心をその…補完すればいいんじゃ?」

「補完されるだけじゃダメよ。自分でも何とかしないと。アスカの場合は…」

「シンクロ率、ですか。問題は」

「そう。彼女のこれまで生きてきた証みたいなものね。シンクロ率が」

 はっと居住まいを正した。

 リツコさんに訊きたいことがある。

 

 そう、エヴァのこと。シンクロ率のことだ。

 

 

 

 

〜存在〜 へ続く


<あとがき>

 The Longest Day 第四幕です。すみません!これまでの甘甘はここにもってくるための伏線(?)だったんです。

 そんなに簡単にアスカが復活するはずありません。

 そのためには、やっぱりシンクロ率ですよね。次回はそのお話です。

 二人の一番長い日は、まだまだ続きます。

 

SSメニューへ

感想などいただければ、感激の至りです。作者=ジュンへのメールはこちら

掲示板も設置しました。掲示板はこちら