★服用前のご注意

この作品には2本前作があります。
初めてお読みになる方はまずそちらをどうぞ。
『第三惑星の悪夢』








 

2006.9.02         ジュン

 















「二人にプレゼントがあるの。うふふ」

 うふふって、アンタ。
 完璧に作り笑いになってるって自分でわかってんの?
 場所はアタシとシンジの愛の巣。
 残念なことにその愛の巣に可愛い赤ちゃんが訪れるのは、どんなにがんばってもあと4年以上はかかるのよね。
 仕方がないのよ。
 アタシたちラングレー星人はそ〜ゆ〜身体になってんだもん。
 くそぉ、宇宙一のいい男を所有…じゃなくて、一緒に暮らしてるのにぃ。
 って、まあ、それはいかに悩もうが嘆こうがどうしようもないこと。
 18歳まではキスだけで勘弁してあげるわよ。
 でも、怖いのはシンジの浮気。
 まあ、精神的には大丈夫って自信はあるんだけどさ。
 問題は肉体的に迫られたらどうすんのよって話。
 何しろ、毎週のようにってわけじゃないけど、怪獣や宇宙人がやってきてんのよ。
 特に恐ろしいのは宇宙人の方。
 あいつらの狙っているのがこの地球という存在だけだって言い切れると思う?
 もしかしたら、宇宙一のいい男、アタシのシンジを狙ってるのかもしんないじゃない?
 このアタシが惚れぬくくらいなんだからさ。
 誰が狙ってもおかしくないじゃない?
 マグ◎星人とかバ●ルウ星人とかって変な侵略者がいるからさ、この大宇宙には。 
 侵略者だけじゃないわ。
 こいつらもそうよ。
 アタシは目の前で引きつった笑いを浮かべている女を睨みつけてやったの。
 地球での名前は綾波レイ。
 本名はわけわかんないし、アタシの可愛い舌では発音できないからパス。
 俗に、ウルトラエンジェルって呼ばれてんの。
 まあ、アレよ。
 現在における、地球の守り神っていうか、ヒーロー…じゃない、ヒロインね。
 何のかんのってまだ負けたことがないっていうのは認めてあげるわ。
 強いのは確かだし。
 問答無用の強さって感じ。
 大横綱で、あっという間に片付けるって調子でさ。
 あまりに強すぎて可愛げがないんじゃないの?って思うくらいね。
 どんな風に戦ってるかなんて喋る気はないわ。
 どうせ、そのうちにテレビで放送されるでしょうしね。
 捏造と誇張と美化と…ええっと、まあそういうのでいっぱいの子供向けドラマとしてね。
 おっと、話がわき道にそれちゃった。
 問題はこの女がアタシたちにプレゼントだなんて言ってることなのよ。
 まだ付き合い始めてそんなに時間は経ってないけどさ。
 
「アンタ、何か変なこと企んでない?」

「いいえ」

 きっぱりと言われた。
 くそっ。
 こうなるとまず真実を追究するのは不可能ね。
 だってさ、いつもの微笑を浮かべた無表情に戻っちゃったんだもん。
 おそらく、ラングレー星の最新技術で精製された自白剤でも無理でしょうね。
 この女の口を割らすには。
 あ、と〜ぜんこの宇宙一のスパイであるアタシにも効くわけないわ。
 でもさ、シンジに訊かれたら何でも答えちゃう。
 ん?ど〜してアタシが所有物…じゃない、えっと、まあ、アレよ、つまり、ああっ、ど〜でもいいじゃない、そんなことはっ。
 問題はそこじゃないのよ。
 
「プレゼントって、まさか武器とかじゃないわよね。アタシたちにも一緒に戦えとか」

「いいえ。私と一緒に戦えだなんて、少しも考えてないわ」

「ホント?ど〜も、信用できないわね」

「ひかりの国の掟に誓って。嘘は言ってない。あなたたち二人と私は決して一緒に戦ったりしないわ」

 アタシは目から光線が出るのではないかというくらいの力を込めてレイを睨みつけたわ。
 残念ながらラングレー星人にはそんな野蛮な機能を身体には備えていない。
 あるのは、優秀な頭脳と美貌だけ。
 あ、これはラングレー星人全てじゃないわね。
 アタシだけの特殊能力だっけ、えへへ。
 
「はぁ、どうも信用できないけどさ。アンタは」

「アスカ。言いすぎだよ。ごしゅじ…」

 ご主人様と昔の呼び名で呼びかけそうになったから、アタシはぐいっとシンジを睨んでやった。
 それだけじゃ少し足りないような気がしたから、柔らかなほっぺを抓ってやった。
 それでも足りないような気がするから、捻った場所にちゅってキスしてやったわ。
 うん、これで満足。
 さ、話を続けなさいよ、シンジ。

「あ、綾波は…」

 レイのことは姓の方で呼ばせることにしている。
 名前で呼ぶ女はこの宇宙中でアタシ一人に限定。
 あ、子供が女の子だったら、その子も追加。
 うふふ、子供は何人にしようかなぁ。

「うふんっ」

 くっ、シンジの癖に咳払いなんかしちゃって。
 後でお仕置き決定。
 でこパッチンの後に、おでこにキス?
 それとも…。

「あのさ、で、綾波は嘘はつかないよ。うん、これは間違いないよ。絶対に嘘はつかない」

 むっ!
 ここまで念を押されると頭に来る。

「はいはい、そ〜よね。アンタのご主人様はとぉってもすっばらしい女なのよねぇ。けっ!」

 アタシは自分を抑えられない。
 抑える気もないけどさ。

「その癖。やめた方がいい。碇君に嫌われるわよ」

 ぎくっ。
 なんて、思ってもアタシは表面には出さないわ。

「な、な、なんて馬鹿なこと言ってんのよ。シンジがアタシをき、き、き、嫌うなんてさ。
 はははははははははは、おかしいったらありゃしない」

 うん、完璧な偽装…。
 じゃないわよね、とほほ。
 宇宙一のスパイはどこに行っちゃったのよっ。
 ま、いっか。
 アタシは地球人の女の子として生きることにしたんだから。
 侵略とか怪獣とか超獣とか異次元人だとか、ちゃんちゃらおかしいってヤツよ。
 そ〜ゆ〜連中はレイに任せておけばいいってこと。
 何たってコイツは正義の味方なんだからさ。

「だからこれをあげる。これなら、二人はずっと離れられないの」

「何ですってっ!」

 うへぇっ。
 思い切り反応しちゃったじゃない。
 でも、何その魅力的な響きはっ。
 二人はずっと離れられないですって?
 まさか強力瞬間接着剤なんて出してこないでしょうねっ。
 それはもう試したわよ。
 ま、直に皮膚同士を貼り付けなかったからまだよかったのよね。
 あれでお気に入りのパジャマが駄目になっちゃったんだもん。
 寝返りを打ってもシンジから離れないって考えはよかったと思うんだけどなぁ。
 
「伝説の指輪。ひかりの国にただひとつしかない神秘の指輪。これをはめていると、身も心もひとつになれるの」

 淡々と素晴らしい文句を連ねていく。
 ちょっとっ、誇大広告じゃないでしょうねっ!
 ああ、もうアタシは完璧に引き込まれてしまった。
 ええいっ、蜘蛛の糸だって落とし穴だってかまうもんか。

「それをくれるって言うの?その、伝説の指輪を」

「見たい?」

「見たいっ!」

 横でシンジが「駄目だ」とか「罠だ」とか何とか言ってたみたいだけど、うるさいからしばらく眠っててもらうことにした。
 ちょっといつもより長い時間、スペシャルバキュームキスをしただけよ。
 はっ、肺活量ないんだから。

「今の何?凄いわね」

「アンタもすれば?あの、ナルシストと付き合ってんでしょ」

「交際してるの。清く正しく美しく」

「はんっ、キスくらいしなさいよ。減るもんじゃなし」

「地球上では駄目なの。任期の間はログが残るから」

 わっ、珍しく悔しそうな顔。
 なるほど、任地では監視じゃないけど記録が残んのね。
 それはご愁傷様。
 おっと、話がそれちゃったじゃない。
 意識を失ったシンジをテーブルを枕におねんねさせてから、アタシは胸を張ったわ。

「話によればもらってあげてもいいわよ。その、プレゼントってのをさ」

「ふふ、見る?」

「見るっ!」

 アタシはぐいっと身を乗り出した。



「ふぅ〜ん、こいつが伝説の指輪?意外にシンプルなのね」

「本物よ。あなたたちのために、ひかりの国の宝物庫から持ち出してきたの」

「えっ、それって犯罪じゃないの?」

 レイはきっぱりと首を横に振った。

「宇宙の平和は何ものにも優先されるの」

「アタシとシンジがくっついてることが宇宙の平和ってこと?」

 レイはきっぱりと首を前に振った。

「それが宇宙のルールなの」

 素晴らしいルールに乾杯!

「わっ、どっちが女用?」

 アタシは片手にひとつずつ指輪を手にした。
 左右の指輪を見比べてみると大きさに違いはなさそうに見える。
 あれ?このデザインって…。

「ねぇねぇねぇっ!これってさ、Aなの?アスカのA?」

「そうね、Aに違いはないわ」

「うわっ、まるでアタシのためにあるような指輪じゃないっ!すごっ!」

 Aの字の頂点のところに透きとおるように煌く宝石がはめ込んである。
 
「これは?何て名前の宝石?まさか、ダイヤモンドじゃないでしょうね」

「違うわ。銀河系にほんの数欠片しか存在を確認されていない、互いを呼び合うという銀河連峰の至宝、その名を“LASの煌き”」

「らす?変な名前」

「LAS。何の意味か知らない。でも、Aはアスカ。Sはシンジ。不思議」

 アタシは息を飲んだ。
 となれば、“L”はっ!
 
 LOVE!

 それっきゃない。
 凄いっ!
 やっぱりアタシとシンジは運命の二人なのよ。
 
「どう?欲しい?欲しかったら、貸してあげる」

「ちょっと、待ってっ!貸してって、ど〜ゆ〜ことよ!アンタ、プレゼントって言ったでしょうがっ!」

「レンタルのプレゼント。言葉に間違いはないわ」

「くぅ〜っ!それって、すっごく酷いじゃないのよ!散々見せびらかして、アタシのものにならないってこと!」

「あら、ラングレー星人としては所有できないとダメなのね。じゃ、貸してあげない。こんなチャンスは二度とないのに」

 チャンス?
 熱くなったアタシの頭をその言葉が一気に覚ましてくれた。
 そうよっ!
 これってチャンスじゃない!
 LASの煌きが埋め込まれた、大銀河にたった一つしかないという伝説の指輪。
 その指輪をゲットできるかもしれない。
 少なくともどれくらいの期間か知らないけど、アタシの手元に伝説の指輪があるんじゃない。
 その間にレンタルじゃなくて、アタシのものにできる何らかの手段が見つかるかもしれない。
 もし今レイの申し出を断ったら、何にもはじまらない。
 ふふふ、レイの弱みを握って、この指輪を正式に頂戴するなんてどう?

 そう、アタシはこの時、完全に指輪に目がくらんでいた。

「もういらないのね」

「仕方がないわね。せっかく持ち出してきたんだから、借りてあげるわよ」

「そう。じゃ、貸してあげる」

 よしっ!とアタシは心の中でガッツポーズ。
 さあ、問題はレイを陥れるのにどんだけしか時間がないかって事よ。
 アタシはさりげなく訊いてみた。

「で、いつまで貸してくれるのよ」

「それより、はめてみて。似合えばいいと思うから」

「あ、そうね。で、どっちがどっちなの?」

 アタシは左右の指輪を見比べた。
 リングの太さも大きさも同じように見える。
 宝石の輝きもね。
 
「違いはないの」

「えっ、でも、指の太さとか…」

「指輪の方で合わせてくれるわ」

「嘘っ!」

「神秘の力。普通の指輪じゃないもの」

 おっ、レイのヤツ、にやりと笑ったじゃない。
 さすがに誇らしいってわけ?
 まあ、確かに凄いわよね。

「さあ、はめてみて」

 この時、気づくべきだったの。
 レイにしては珍しいじゃない。
 2回も同じ言葉を続けるなんて。
 でも、アタシはもう“LASの煌き”の虜になってしまっていたの。

「じゃ、こっちを…って、まさか左の薬指にはめるの?うわっ、えへへへっ」

「変なアスカ。右手の中指に決まってるわ」

「へ?だ、だって、愛の指輪でしょうが。そしたら、左の薬指に決まってるじゃない」

「それは地球の習慣。“LASの煌き”の効果が一番高いのは右手の中指なの」

 おっ、それならそっち。
 でも変なの。
 ま、いっか。
 はめてみよっと。
 うふふ、いい感じ。

「碇君にもはめてあげれば。さあ」

 まだ、引き返せた。
 この時ならば。
 でも、アタシったら嬉々として、シンジにも指輪をはめてあげてしまったのよ。

「よしっ、ふふふのふ、お揃いっ!」

「そうね。これであなたたちは私が与えた大いなる力を知るでしょう」

「はぁ?何だか偉そうじゃない。ま、確かに貸してもらったんだしさ。あ、でさ。いつまでなのよ、貸してくれるのは」

「そうね、5年くらいかしら」

「あ、そ。ちっ、せめて一週間くらいは……って、5年っ!」

 5日かと思ったじゃない。
 まったくレイの一族はとんでもない長寿だから、時間の感覚がボケてんのかしらね。

「ええ、短い?」

「え、ま、まあ、妥当なとこじゃないの」

 ふふん、5年もあれば、何とかしてみせるわ。
 この指輪をアタシたちのものにっ!

「そうね、じゃ早速、3日後からよろしく」

 レイはにっこり微笑んだ。

「はぁ?何よ、それ」

 彼女のわけのわからない言葉にアタシが首を捻ったその瞬間、アタシのシンジが目を覚ましたの。
 
「ふう…。お花畑が見えたよ」

「ふふふ、ダメよ、天国に行ったままじゃ」

 最高のおはようの挨拶ね。
 アタシは嬉しくなっちゃった。
 で、シンジに教えてあげようとしたの。
 指にはまっている“LASの煌き”のことを。
 にっこり笑って、自分の顔の横に右手の甲を並べる。
 ところが、その指輪に目を留めた途端に、シンジの血相が変わったのよ。

「うわぁっ!だ、だ、ダメだよっ、これは!」

 立ち上がって、アタシの指輪を抜こうとする。

「ば、馬鹿シンジ!抜いちゃダメ!」

「ば、馬鹿はアスカだよ!ぎゃっ、ぼ、ぼ、僕もはめてるじゃないか、ウルトラリングを!」

 悲鳴を上げて自分の指輪を抜こうとするシンジ。

「はぁ?ウルトラリングって何よ、ちゃっちい名前。これはね“LASの煌き”って素晴らしい…」

「だ、騙されてるんだよ、ごしゅ…じゃない、綾波に!アスカも抜かないと!」

 流石のアタシもシンジがここまでパニクってると変だと思ったわ。
 で、中指の指輪を抜こうとすると…まったく抜けない。

「げぇっ!抜けないじゃない!」

「そう。抜けないの」

 目の前のレイは微笑を浮かべたまま。

「ちょっとシンジ、引っ張っんなさいよ!ほら、もっと力入れて!」

 指輪が抜ける前に指が抜けそうになった。
 騙されたんだ、完璧に。



「失礼ね。私は何一つ嘘なんか言ってない」

 罵詈雑言を並べ立てたアタシに、腹黒で色白の悪魔は頭に来るほど冷静に喋った。
 銀河系にほんの数欠片しか存在を確認されていない、互いを呼び合うという銀河連峰の至宝、その名を“LASの煌き”。
 前半から真ん中までは事実。
 最後の“LASの煌き”はアタシを釣るためにレイのヤツが勝手に捏造した名前。
 指輪の本名はウルトラリング……。宝石の名前はない。
 見事に釣られたわよ、その甘美な捏造ネーミングにさ。
 そして、アイツはもっとも大切なことを喋ってなかったの。

「この指輪は変身アイテムなの。
 ピンチになったら宝石が光るわ。
 そうすれば、変身の合図」

 アタシは天井を見上げて瞑目した。
 
「もしかして、アタシとシンジがタッチして、何かに変身するってたちの悪いジョークじゃないでしょうね」

「ええ、何かに変身するの」

 ああ、やっぱり。
 まだラングレー星人のエージェントだった頃に、この地球を守っているひかりの国の使者たちのことはみっちり研究していた。
 何かって、きっとアレだ。

「アタシ、あんな足が短くてトサカみたいな頭のは、ぜったいいやよっ!」

「大丈夫。これは新バージョン。カスタマイズできるの」

「へ?」

 どうもいけない。
 今日は完璧にレイのペースだ。
 というより、指輪が抜けない以上、話はよく聞いておかないと。
 
 どうやら、これでレイのお仲間に変身するわけではないらしい。
 その意味では少し安心。
 だってそうじゃない。
 あんなのに変身させられた上にやられちゃったら一蓮托生なのよ。
 おまけに人間の姿の時は侵略者に狙われたりさ。
 その上…。
 ううん、一番重要なのは、このアタシはシンジとの愛の生活で手一杯で地球平和の面倒まで見られないっていうの!
 ああ…、もう最低っ!

 陰鬱な気分で聞いてたんだけど、どうやら新しい機能なんだって。
 簡単に言うと、ウルトラヒーローの代用品。
 カプセル怪獣もいるけどさ。
 何しろ、あれは可愛いだけで…ああ、それってシンジだけ…特徴はあるんだけど、まず弱い。
 どう考えてもレッ■キングやゴモ△が出てくればひとたまりもないでしょうね。
 そのために開発されたんだってさ。
 変身者がカスタマイズして機能を整えて戦う。
 つまり変身者が文字通り分子変換とかいろいろややこしいことを一瞬にして、巨大化するわけよ。
 この場合、アタシとシンジの場合は、二人の身体が融合されて一人のヒーローが誕生するってこと。
 一番のメリットはアタシの思うがままに動くってことで、一番のデメリットは殴られたり蹴られたりしたら“痛い”のよ。
 挙句の果てに死んだら、アタシたちもはい、サヨナラ…。

「あのねっ!アタシはこの地球なんてどうなってもいいの!
 はっ、もしすっごい侵略者でも来るんなら、さっさとシンジを小脇に抱えてどっかの星に逃げ出すわよ」

「あら、洞木さんや霧島さんは死んでもいいのね」

「あ、あ、後の方は知らないわよ。シンジに色目を使う悪い女じゃない!」

 嘘。
 マナのヤツはもうシンジにちょっかいは出してこない。
 笑えない冗談が多いヤツだけど、いい友達だと思う。
 ヒカリの方は間違いなく親友。
 アタシは地球に来て、生まれて初めて友情というものを知ったわけよ。
 あ、と〜ぜん愛情もね。
 ふうぅ…。
 友達を見捨てて逃げるなんてできないよ。
 あれ?

「ちょっと待ったっ」

「長くは待てないわ」

「アンタがいるじゃない!アンタが地球の平和を守りなさいよ!」

「私はいないの。旅行に行くから」

 アタシはキレた。
 当たり前じゃない。
 正義の味方が任務を放り出して旅行ですって?
 大暴れする…しようとしたアタシの身体をシンジは羽交い絞めにした。

「アンタ、アイツの味方?」

「ち、違うよ。ここで暴れたら家の中が滅茶苦茶になっちゃうし、
 ごしゅ…綾波に問答無用で光線浴びせられたらアスカ死んじゃうじゃないかっ」

 くううううっ!
 こんな時に冷静だなんて腹が立つ!
 でも、アタシの身体を案じてくれたんだから、差し引きしてさらにプラスアルファ。
 アタシはシンジのために必死の思いでおとなしくすることにした。
 アタシも大人になったわよねぇ。
 身体もとっとと大人になんなさいよ!

「で、どれくらい行ってくんのよ、その旅行には」

「5年」

 アタシはキレた。
 当たり前じゃない。
 5年も正義の味方しろっていうわけぇ?
 いい加減にしなさいよ!
 アンタみたいに何万年も生きることなんかできないのよ、こっちはっ!
 ははぁん、なるほど。
 そんな超長寿の連中だから5年なんてあっという間ってわけなのね。
 くそっ、何とかしなきゃ。
 指輪を抜くことができないんだから、何とかその期間を短くするしかないんだもん!

「5年もどこに行くっていうのよ、え?まさか、あの変なのと一緒に?」

「失礼ね。宇宙の害虫ラングレー星人を駆除」

 わっ、氷の天使が燃えた。
 って、やばいじゃない。
 コイツ、本気よ!
 目からビームぅっ?
 
「だ、駄目だよ!僕のアスカに何てことするんだ!」

 おおおおおおおおおっ!
 とりあえず、その一瞬は死んでもいいって思っちゃった。
 でも、絶対に死ぬのはイヤ。
 だって、シンジとまだあんなことやこんなことをしたいんだもん。
 馬鹿っ!いやらしい意味はないわよっ!

「ちょっと待ってよ。アンタ、あの…あれ?名前なんだっけ?」

「カヲル君だよ」

「あ、それそれ。そのカヲルってのを自分の種族にするわけなの?」

 あ、よかった。
 殺意が消えた。
 レイはしっかりと首を横に振った。
 それはそうだろう。
 自分の仲間にするととんでもない長寿になるけれど、そのかわり兵役みたいなもんがくっついてくるんだもんね。
 宇宙の平和のために、死ぬまで戦うみたいな。
 しかもどこに赴任するかわからないから、七夕以上の低確率で逢えればまだましって聞いてるわ。
 だから、これまでの赴任者が地球に残って、愛する者と短い人生を人間として共に過ごすことを選んだんじゃない。

「じゃ、5年も地球を留守にしたら大変なことになるんじゃない?学校とか戸籍とか」

 ぼけっとした顔になった。
 やっぱり考えてなかったみたいね。
 只今、考え中って感じ。
 日帰りは無理としても、せめて2泊3日くらいにしてよ。

「わかった。では、一ヶ月」

「長い!出席日数が足りなくなって落第するわよ!」

 そんなことはないと言いそうになったシンジの口を唇で塞いでやる。
 まったくアタシの馬鹿シンジは、お馬鹿というか正直者というか。
 レイのヤツは困った顔になった。
 ぶつぶつと何か呟いている。
 お経みたいに聞こえるけど、かに座の温泉がどうのとか牡牛座のキャンプがどうのとか。
 けっ、こいつら、守った星でクーポン券とかもらってんじゃないでしょうね?

「む…。2週間」

「せいぜい3日ってとこじゃない?」

「10日」

「思い切り譲って5日ね」

「9日と23時間」

 ああっ、もう!
 埒があかないわ。
 これじゃ秒単位まで折衝しないといけないかも。

「じゃ、土曜日に出かけて翌週の日曜日に帰ってくればいいじゃない。
 そしたら9日の旅行でも、学校休むのは5日で済むでしょ」

 おお…と得心した顔。
 はぁ。
 アンタはそれでいいわよ。
 こっちは9日間も地球を守らなきゃいけないのよ。
 まあ、何故か週単位で怪獣とか侵略者はやってくるから2回戦うのかぁ。
 でもすっごい強敵だったらどうしよ。
 ガ▼ツ星人とかヒッ●リト星人とかバー■ンとかプリズ★みたいなのはやぁよ。
 負けそうになったらお助けキャラは出てくるのかと質問したら、真剣な表情でとぼけたことを抜かすのよ。

「非常勤の人が他の星に飛んでなかったら。まあ、宇宙は広いから」

 学校の5万年ババァはどうなのかと聞いたら、戦力にならないと言われた。
 それは何となくわかるような気がする。





「いいっ?シンジ、しっかりカスタマイズしないと駄目よっ」

「う、うん。でも、やる気満々だね」

「アンタ馬鹿ぁ?こっちの命がかかってんのよ。真剣に考えないといけないじゃない!」

 あの腹黒色白の正義の味方が恋のバカンスに出発するまであと3日しかないの。
 おかげでアタシたちは学校が終わったら家に一目散。
 それからは変身ヒーローのカスタマイズに専念よ。
 しっかり夕食とデザートは食べてるけどね。
 まずはデザイン。
 シンジはポピュラーな銀のボディに赤のラインって主張したけど、アタシは赤のボディを譲らない。
 だって、やっぱヒーローは赤でしょうが。
 まあ、それなりの身体にできたと思う。
 次は変身方法ね。
 アタシはきっぱりと言ってやったわ。

「ウルトラキス!これっきゃないわっ!」

 この時のシンジの顔ってったらなかったわ。
 呆然とした後に、軽蔑したような顔してんの。
 頭に来たから、この前試したウルトラバキュームキスを限界近くまでしてやった。
 ふっ、せいぜい肺活量を鍛えなさいよね。
 どうよ、この恍惚と疲労の入り混じった表情は。
 でも、ただキスをするってのも面白くないわよね。
 変身する前ってやっぱいろいろポーズをとるじゃない?
 ま、レイのヤツは何もしないでいきなり変わっちゃうんだけどね。
 あれじゃ味も素っ気もなさ過ぎるわ。
 名乗りは上げられないけど、それなりにカッコいい方がいい。
 アタシはレイからひかりの国の教育用DVDを借りた。
 こいつらの感覚は変だ。
 どうして物語形式なのよ。
 わざわざ人間側のドラマまでこしらえてさ。
 って、これ、人間の製作じゃない。
 あのね、経費削減か自慢かわかんないけど、いい加減よ、あんたら。
 それで、合体変身のを見てみたけど、名前を呼び合ってウルトラタッチねぇ。
 何だかくるくるまわるのはいいけど、シンジがタイミング外しそう。
 参考DVDにあったバロムクロスの方がまだカッコいいじゃない。
 まあ、名前を呼び合うのはいいわね。これは採用。

「シンジ!」

「アスカ」

「こらぁ、もっと必死に叫びなさいよ」

「だってもう疲れたよ。いい加減に次に移ろうよ」

 泣き言が多いんだから、馬鹿シンジは。
 まあ、次のポーズ決めはキスも入ってるからアタシも楽しみなんだけどね。
 走り寄って、腕をクロスさせて、アタシを抱き寄せてシンジがチュッてキスをする。
 ぐふふ、ミュージカルみたい。
 一日目はこの練習で終始しちゃった。

 

 二日目。
 まず、声で揉めた。
 シンジはアタシが声を出せって言うのよ。
 あの「じょわっ」とか「しゅわ」とか「えい」とか「おお」とか「ぐわああああっ」なんて声。
 アタシは力説したわ。
 このスタイルで女の声じゃおかしいって。
 まあ、本音はただいやなだけ。
 だってさ、名乗り上げたり、決め台詞を言うんならともかく、掛け声や悲鳴だけなんだもん。
 アタシはシンジを追い込んだ。
 これは男の仕事だと。
 それから脅した。
 戦う方はアタシがするから、せめて声くらい協力しろと。
 そして泣き落とした。
 戦って傷ついた時の痛みは全部アタシが負うのよ(これは事実)、だからそれくらいしてくれてもいいじゃない。

 嬉しいことに泣き落としが効果があった。
 でも、凛々しい声を出させるのに一苦労よ。
 どっちかというと、女声なんだもん、シンジって。
 だからさ、からかってやったの。

「キスして変身するってアニメであったわよね。
 ほら、わるきゅ〜とかいうの。アンタ、あの変身して元に戻った時の美人のお姉さんの声に似てるわよ」

 シンジは奮起したわ。
 まあ、こんなこと言われて歓ぶようじゃ怖いわよ。
 ま、それなりにものになってきたわ。
 次は技の研究に入ろうとしたけど、眠たくなってきたから明日回し。
 


 三日目。
 こんな便利なものがあったんだ。
 レイから借りたのは…発音できないしわけわかんないから、バーチャル式格闘シミュレーション機って名前でいいわ。
 とにかく変身した後でどう戦うかを練習できるの。
 時間制限もいつもの3分でおしまいじゃなくて、ワンラウンド3分を何度も試せる。
 でも、バーチャルっていってもやられると痛いのよ。
 真剣にしないと駄目なの。
 それに実は嬉しかったりして。
 ほら、身体はアタシが動かしてるんだけどさ。
 心の中でシンジが声援を送ってくれるのよ。
 掛け声の合間にさ。
 「アスカ、がんばって」とか「負けるな、アスカ」とか。
 だから、大ピンチになったら「好きだ」「愛してる」って言ってとお願いした。
 ふふふ、そんなの聞いたらアタシ頑張っちゃうもんね。

 このマシンはレイの旅行の間ずっと借りることにしたわ。
 ゲーム感覚でも楽しめるし、まあ鍛錬には最適ってことよ。
 アタシ、死にたくないもん。

 必殺技の名前はもちろん「LAS光線!」。
 でも、ライフゲージが減らないと発射できないなんて、そ〜ゆ〜ところまで連中と一緒にしなくてもいいのに。
 これはカスタマイズできないのよ。デフォルトってわけ。
 絶対に自分たちよりも強くなられるのを警戒してるんだ。
 もっとも、何も出ないにこした事はない。
 だって、怖いじゃない。
 自分の生死を賭けて戦うだなんてさ。
 だから、アタシは旅行に出かける前のレイに言ってやったの。

「できるだけ早く帰ってきなさいよ。でもお土産くらいは買ってくんのよ」





 アタシとシンジの肩に地球の平和が託されてから5日が過ぎた。
 ところが怪獣も宇宙人も現れない。
 何だか拍子抜け。
 まるで楽しみにしていた番組が特番で一回飛んじゃっちゃったみたい。
 あ、別に楽しみにしてるわけじゃないのよ、戦うのを。

 翌日、アタシはシンジを引き連れて、学校の保健室に。
 そこに巣くってるのは、宇宙警備隊の科学担当者。
 白衣はいいんだけど、学校で煙草吸うな!
 彼女を問いつめたけど、本当に異変は何一つ起こってないらしい。
 「まるで怪獣でも出てきて欲しいって感じね」なんて言われたから、あっかんべ〜をして帰った。
 アタシはただ本当に異変がないのか気になっただけじゃない。
 平和の守護者としてさ。

 夜は日課になった訓練に明け暮れたわ。
 必殺技を出すまでに、如何にダメージを喰わずにライフゲージを減らすかってむずかしいのよ、これが。
 ま、何事にも冷静に対処できるアタシだから大丈夫なんだけどね。
 わっ、レッド◎ングのパンチを食らっちゃった。
 くわっ、LASギロチンでみじん切りにしてやる!
 へへん!どうよ!
 ……。
 シンジに怒られちゃった。
 残酷な倒し方をすると、人間に悪い影響を与えるんだって。
 だから最近はそういう倒し方をしないのが主流なんだってさ。
 何よ、放送コードみたいで不愉快。
 こっちは命を賭けてんのに。

 次の日も平和そのもの。
 もしかしたら油断してる方が、何か起きるかも。
 とりあえずテストしてみようと思って、シンジと放課後に甘味処でぜんざい食べた。
 ストレスでもたまってたのか、3杯も食べちゃった。
 おかげでまた訓練で汗を流さないといけなくなっちゃったじゃない。
 まあ、美容と健康にはいいからよしとしましょ。



 その次の日の夜だったわ。
 出た!
 しかも、大物。超大物よ。
 バル★ン星人のjrだか子孫だか15代目だか知んないけど、
 あの姿と「ふぉふぉふぉ」って声は間違いない。
 しかも我が第三新東京市に出るだなんて、いい根性してんじゃない。
 
「シンジ、行くわよ」

「う、うん。僕、がんばるからね」

 初変身が自宅のベランダだなんて、あまりいかしてないけど仕方がない。
 まずは名前を呼びあわなきゃ。
 アタシたちは向かい合った。

 その時だった。

 眩い光があたりを包んだ。
 こ、これって…。

 ウルトラエンジェルが出た。
 いつものように。
 そして、いつものように、戦いは始まって。
 いつものように、ウルトラエンジェルが勝って。
 いつものように、空高く飛んでった。



 呆気に取られたアタシたちはしばらく空を見上げていたの。
 そんなアタシの肩がポンポンと叩かれた。
 振り返ったら、そこにはいつもより朗らかな微笑みのレイ。

「留守番ご苦労様。はい、これお土産。つぃんてーる煎餅」

 まあ、変身せずに済んだのはよかったわよ。
 何たって強敵だしさ。
 レイはすぐに勝ったけど、アタシたちは初戦だもんね。
 もしかしたら死んじゃってたかもしんないし。
 旅行を早めに切り上げて帰ってきてくれたのは、地球が心配だったのかアタシたちのことを思ってくれたのか。
 ま、どっちでもいいわ。
 指輪はすぐに取り上げられちゃった。
 つまり、もう変身なんてしなくても済むってこと。

 お煎餅はなんとなく海老の味がした。
























 

「はい、これ」

「何、これは?」

「知んないけど、駅前で配ってた。紅葉の隠れ里、露天温泉の閑静な宿ですってさ」

 真剣に食い入るようにカタログを見る、そんなレイをアタシは横目で検分した。
 もしここで駄目なら次はどこのパンフレットを持ってこようか?
 
「留守番だったら、何とでもなるんじゃない?なんだったら、アタシが…」







空想非科学シリーズ
帰ってきたウルトラエンジェル

第18話
「輝け!ウルトラLAS」

− 終 −





− 次回予告 −

ついに変身した新しいヒーロー。
ウルトラLASは見事に怪獣をやっつけるよ。
ところがそこにラングレー星からの使者が。
アスカちゃんはお姫様だったんだそうだ。
さあ、どうなるだろうねぇ。
次回、帰ってきたウルトラエンジェル、第19話。
『さようならアスカ ラングレー星の妹よ』
さあ、次回もみんなで読もう!

冗談です。次回はありません。


 


 

<あとがき>

 ごめんなさい。
 笑えなかった人には特にごめんなさい。
 ネタがわからないと笑えませんもんねぇ。
 ネタがわかっても面白くない?
 すみません。(ここまで前回あとがきのコピペ)

 今、我が家では『ウルトラマンメビウス』が大うけです。
 設定オタクではありませんので、単純に昔の作品のキャラやネタが出てくるだけで楽しいんです。
 今回は『メビウス』を見ているうちに書きたくなったのです。
 サコミズ隊長の正体はいったい何なんでしょうね(笑)。<メビウスネタ
 しかしまあ、シリーズ中盤で正体バレ(三人だけだけど)って斬新な…<9/2のメビウス
 

 

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