この作品は「新薬」「認知」「告白」の後日談です。

まずは、「新薬」「認知」「告白」をお読み下さい。

 今回は少しシリアスが入ってます。

 

 

 

平行世界 〜あの日、あの時に〜

 

Act.3  第15使徒襲来 その弐

 

『壱号機、出ます!』

『アスカ!もう少し頑張って』

『お兄ちゃん…、アスカお姉さんは大丈夫…、私が守るもの』

 

 ごめんね、シンジ…、レイ…。

 迷惑掛けちゃったわね。

 

 弐号機を庇うように立ちはだかる零号機。

「覗くのなら、私の心を覗くといいわ。私の心なんて…、アナタに覗かれても何も怖くないわ。さあ、好きなだけ覗きなさい…」

 レ、レイのヤツったら、格好いいじゃないの。

 そ、そうよ、私だって。シンジやレイが、今此処にいてくれるんだから、過去がどうだっていうのよ!

 あんな過去があったから、シンジに逢えたんじゃないの!

 ふん!自分で認めたくないから覗かれるのが怖かったのよ!もう怖くないわ!

『弐号機のシンクロ率上がります!パイロットのダメージも回復していきます!』

「レイ、もう大丈夫よ!シンジも来てくれるから、後は任せて、アンタはその何とかの槍を取りに行って!」

『本当に大丈夫、お姉さん?』

「もっちろん!それにアンタじゃないと槍の場所がわかんないでしょ。ミサト!」

『ナニ?』

「レイを誘導して!」

『わかった。レイ、8番ゲージよ!』

『了解。お姉さん、ごめんね』

「だぁいじょうぶ!安心して行きなさい」

『はい』

 くぅ〜!兄妹愛ってこんなのなのかな?ホントに可愛いわ、レイのヤツ!

 ほら!Peeping Tomさん!ど〜ぞ、覗きなさいよ!

 アンタに人の愛ってのを教えてあげるわ!

 

 ズヒュン!

 

 あ、シンジが来たわ!嬉しい!命令に逆らって、来てくれたのね!

 シンジ、シンジ、シンジぃ!

 

『この変態使徒!僕のアスカの心を覗いたな!』

 

 初号機は私の前で両手を拡げて、使徒に立ち向かったわ。

 嬉しい…、けど、駄目よ。駄目、駄目!

 シンジだってつらい過去背負ってんのよ!

 精神汚染されちゃうじゃないのよ!

「シンジ!退いて!私、もう大丈夫だから、もう克服できたんだから!」

『駄目だ、アスカは僕が守るんだ!』

「だって、シンジの心が汚されちゃうよぉ!」

『グッ!ウ、ウワァ〜ッ!』

「シンジ!シンジぃ!」

『負けない…、負けるもんか!さあ、覗けよ!ほら僕の過去ってこんなのなんだぞ!僕の性格ってこんなにゆがんでるんだ!

 すぐ謝るし、すぐ逃げるし、何でも人のせいにするし』

「シンジぃ…、もう…、やめてぇ、滅茶苦茶にされちゃうよぉ」

『人に嫌われたくないから顔色ばかり伺って…、自分で自分が嫌いなのに!』

『がんばって!二人とも!今レイが槍を持って上がったわ!あと32秒!』

『お兄ちゃん!お姉さん!もう少し!』

「シンジ、替わって!私が受ける!」

『駄目だ!アスカ!守るって決めたんだ!こんな、こんなイヤな僕を愛してくれる、大好きな人を!』

「そんなことない!シンジはイヤなヤツじゃないよ!私がそんなイヤなヤツ好きになるわけないじゃない!」

『アスカ、アスカ!』

『初号機、そこを退くんだ。命令だ』

『煩い!父さんは僕なんかどうでもいいんだろ!父さんが大事なのは、エヴァとそのパイロットなんだ!僕じゃない!』

 

 その時、レイが文字通り飛び出してきたわ。

 

『よくも…、お兄ちゃんとお姉さんを!』

 

 レイの投げた何とかの槍で、第15使徒・アラエルは殲滅されたわ。

 

 

 

 その1時間後、ネルフを揺るがす大事件が起きたの。

 

「惣流・アスカ・ラングレー、君には失望した。エヴァ弐号機パイロットの職を剥奪する」

 

 あの陰気な司令室に集められた3人のチルドレンとミサト、リツコの前で、碇司令が私に宣告したの。

 

「そ、そんなぁ…。私にはエヴァがすべてなの。お願い!私頑張るから…、なぁんてね」

「……」

「少し前の私ならそう言ってたでしょ〜ね。はん!好きにすれば」

「ああ、そうさせてもらう。さらに機密保持のため、惣流・アスカ・ラングレーの身柄を拘束し、基地内に監禁」

「父さん!」

 ヒゲ司令は同じ体勢のまま、眼だけをシンジに向けたわ。これまでのシンジならその目を見ただけでブルってしまったでしょうね。

「本気で言ってるの?アスカをエヴァから降ろすなんて」

「ああ、問題ない」

「それは…、父さんの計画に問題がないだけじゃないの?」

「……」

「人類補完計画、あ、これは父さんの計画とは違ったよね」

 司令の顔色が変わったわ。イスから立ち上がって、シンジを睨み付ける。

「お前…、どこでそれを」

「母さんだよ。エヴァの中で」

「ユ、ユイに…」

 狼狽えてる、狼狽えてる。いい気味。

「母さんは帰ってくる気はないってさ」

「な!」

「僕にそう言ったよ。未来は子供たちのためのものだって。だからもう子供たちを道具に使うな、とも言ってたよ」

「あ、あ…」

「副司令」

「……」

「副司令にも伝言が」

「聞こう」

「いい加減にそんなろくでなしの手伝いは止めて、ゼーレと対決できるように各方面と協力体制に入って下さい。それができるのはここではアナタだけですから、と」

「……」

「お前、嘘だな。そこの造反者と話を合わせて」

「わかった…」

「冬月!」

「碇…、もうこれまでだ。所詮無理な計画だったんだよ。この子たちを見ていると…、私にはもう耐えられん」

 あ、司令が拳銃を取り出したわ。映画じゃあるまいし、その展開は使い古されてるわよ。

「リツコ、レイをつれてこっちへ来い」

「いやよ」

「う…」

「無様ね。人類補完計画…。アナタから知らされていたのは、それだけだった。

 でもアナタの本当の目的は、愛する奥様との再会。私は利用されていただけ…。

 そんな私が今更どうしてアナタに協力しないといけないのかしら?」

「父さん。母さんはリツコさんとのことも知ってましたよ。だからこそ、会いたくないと」

「い、いや、それは、ユイのために」

「止めろ、碇。見苦しいぞ」

「煩い!レイ!来い!こっちへ来るんだ」

「いやです。アナタは私を道具として…、それどころか私の前の私にアナタは…」

「だ、黙れ!」

「父さん…。つい先程、この言葉使いたくないけど、他のレイはすべて処分しましたよ…」

 狼狽えた司令はぎこちない動きでモニターを操作したわ。

 そのモニターに映った巨大水槽には、あの無数のレイが漂っている姿は全く映ってなかったの。

「な、何!貴様、なんてことを!」

「父さん、もう諦めて下さい。それよりも、ゼーレの人類補完計画を潰さないと」

「ふ、ははは。できるものなら勝手にすればいい。できるものならな。

 ゼーレはもう日本国家や戦自にまでくい込んでいる。私のプランだけが人類補完計画を阻止することができるんだ!」

「サード・インパクトを起こして…?」

「シンジくん、それホント?」

「はい、ミサトさん。セカンド・インパクトを起こしたのもゼーレなんです。父さんはそのことを知っていて、むしろ積極的に隠す方へまわりました」

「死ね!」

 

 それは一瞬の出来事だったわ。

 

 私は黙ったまま、ずっとヒゲ司令の拳銃を見ていたの。

 錯乱した司令が銃口を向けるのは、リツコかレイ。

 まさか、実の子にとは思ったけど、何をしでかすか予想はできないからね。

 さすがは私の反射神経ね。銃口が向いたシンジをとっさに押し倒して、銃弾を避けたの。

 後で調べると弾道は、シンジの頭部を通過していたそうよ。

 本当に、あのヒゲ司令はひとでなしね。シンジも可哀想に。父親に殺されかけたんだから。

 ヒゲ司令が2発目を打つ前に、ミサトがアイツの肩を撃ち抜いたの。

 後で彼女に聞いたら、興奮して狙いが外れたそうよ。本当は心臓を狙ったんですって。

 アイツは即効、拘束されて独房に留置されたわ。

 恐れ入ったことに、肩の治療中に右手に使徒の一部(アダムだそうよ)が見つかったの。

 そっちも即時手術で、確保されたわ。

 

 アイツはその後の人類補完計画については一切口を噤んだの。

 だからこっちは副司令や加持さん、リツコの知っている情報を分析して対処するしかなかった。

 

 でもそれは大人の仕事。

 

 私たちは、副司令たちに後のことをお願いして、コンフォート17に戻ったの。

 

 シンジが心配だったから。

こんな現場にシンジを残すわけにはいかなかったの。

わかるでしょ。どんなに割り切っていても、アイツは父親なのよ。

あの後、シンジがこっそり泣いていたの、私は見てしまったから…。

 

 この役目だけは私がしなくちゃ…。

シンジの心を癒すのは、私の一番大事な役目なのよ。

 

 

 

 

 

平行世界 〜あの日、あの時に〜

  

Act.3 第15使徒襲来 その弐  

 

− 終 −

 

 

「平行世界」Act.4へ続く