もう一度ジュウシマツを

 

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「あなたが微笑むなら、行こう」


 

こめどころ       2004.8.25(発表)








「校長からの要請は、県大会初出場の惣流アスカさんの専任コーチとしても宜しくって事なんだってさ。
こんな事にわざわざ要請が出るって事は多分。」

「父さんの仕業だ。」「パパも噛んでるわね。」


わたしとシンジはほとんど同時に言った。
どうせ、あの二人のことだ、厳しい、しごきに近いような訓練がまってるに決まってる。なんてったってもう試合
まで何日も無いんだから。わたしは覚悟を決め武道場へ向かった。シンジの顔がこころなし緊張してる。まったく
こいつはいつまでも腰が定まらないというか、覚悟に欠けてるとこがあんのよね。
わたしのこと好きだって言ってくれた男の子。わたしもそのことはとても嬉しい。
もしかして、わたしのほうが先にシンジの事を好きになったのかもしれないしね。


でも、もう一つ本音を言えば『こうあってほしいわたしの恋人』と現実のシンジの間には落差がある。


『アスカは望みが高すぎるのよ』ってヒカリに言われた。あの子はこの頃柔道部の何とか言う子と仲がいい。
ヒカリみたいな文字通りの文武両道の才気溢れる子が、なんであんな冴えないのと一緒にいるのか、どうもよく
分からないから、尋ねてみた時のことだ。

『望みが高いって言うのとは違うわね、私たちは恋人をデパートで買うわけじゃないのよ。』

『それって、どういうこと?』

『アスカだって、碇を好きになった時は欠点を好きになったわけじゃないでしょ。碇のどこかいいところを
見つけたとか、何か心を動かされるような事がたった一つあったってだけじゃない?それが、嬉しかっただけ
じゃなかった?』


そうだっけ。あたしはシンジのジュウシマツを皆に分けたときの事を聞いて、とても嬉しいと思ったんだっけ。
もう良く憶えていないけど、その優しさとか、そう、今も机の奥にしまってある、あいつの拙い手紙とか。

そうだよね。それに、シンジは一体わたしのどこを好きになってくれたんだろう。

顔が綺麗とか。白人コンプレックスとか。ううん、綺麗っていったらレイの方がずっと綺麗な子だよね。
あの頃のあたしは、チビでガリで、真っ黒に日焼けして、ソバカスだらけだったもの。わたしの第一印象は
真っ黒な乱暴者のお転婆娘にしか過ぎないはず。レイは透けるような透明の肌に気高ささえ感じさせる銀の
髪をして、印象的な紅玉のような瞳をしてた。第一あいつは重症のシスコンだったじゃない。綺麗とか白人
コンプレックスとかにはあいつは無縁だわ。それを考えるとこっちが不安になってしまう。



わたしの事を好きだといってくれるシンジの目の光は強くて、わたしの心を貫き通す。
わたしの為に努力してくれるシンジ。大人しい、さして才能も無かったシンジが県大会に一緒に出るほどに
努力してくれた。それは中学時代から人知れず頑張ってたから。それをわたし知っている。警察に行き始める
ずっと前から。あいつはそれを当たり前だと思ってるからたいした事だと思っていないだけ。
だからこそ警察の厳しい訓練に耐えられたんだ。合宿のしごきにも耐えられた。わたしはシンジの力の伸び
に舌を巻いた。たった一夏で、こんなに強くなるなんてことがあるのかと。

それでも欲張りなわたしはまだシンジに不満だ。なんでこんなにと思うくらい。


「もっとしゃきっとしなさいよ!袖を取ったら直ぐに親指を内側、こう固めてっ。」

「もっとてきぱきやれないのっ!寝技をダラダラかけてるのなんか自殺行為よっ。」

「なんでそう鈍いのっ!もっと正確にすばやく払うッ。メリハリつけてっ。」

「そこっ、技の掛けっ、引付けが甘過ぎンのよっ!もっと引き落としてっ。」

「投げが甘いっ、受身をとらせるなっ!そんな裏投げが通ると思ってんのっ。」

「もっと低く飛び込んで、全体重を回転させてっ。同時に2点3点見てられないでどうするのよっ!」


――もっともっと、わたしがすがりつけるような、頼れるような男の子になって・・・


わたしはシンジに求める。
でもそれにシンジが応えてくれてる程、自分はシンジに応えている? 煩いわたしがいやになったりしない?
それでもわたしは叫ぶ、もっと強くなって、わたしを粉微塵にするくらい強く。







 武道場の畳の上で、わたし達の前に立ったミサトは、思いもよらなかったことを口にした。


「県大会に出場するのは女子1名、軽量級の尾鷲ヨリコさん、男子軽重量級1名碇シンジくん、混合無差別1名
アスカ惣流さんね。」


そう、一応僕もまた今回奇跡のように県大会に出場できたんだ。優勝した奴が練習で足を折り繰上げの出場と
いう情け無い出かたではあったけれどね。アスカと一緒に県大会に行けるという喜びの前には、カッコいいとか
悪いとかそんなことはどうでもいい事だった。


「それでは今日から試合当日まで7日間のスケジュールを発表します。今日、明日,明後日はせいぜい
軽いランニング程度以外は禁止。4日目武道場に集合してもらいます。4、5日目に試合当日のための
練習をします。6日目は移動日。
7日目が試合となります。それでは今から配るプリントをよく読んで頂戴。」

「えええぇぇっ!」


 試合までの僅か1週間のうち3日間を休みにするというのはどういうことなの?
一日だって無駄にできないのにさっぱり理解できないわよ。


「ハイ、押さえて押さえて。いい?」


ミサトは合宿以来僕らがオーバーワークになっている事を指摘し、一旦疲労を抜いて調整練習に入る事を
主眼に考えたと言う。


「オーバーワークって言ったって、何時もこんなふうにやって来たじゃない。いまさら。」

「アスカの言う事もわかるけど、まぁ、騙されたと思ってやって御覧なさい。ゆっくりと体温プラス3度
くらいのお風呂に長く入るのもいいのよ。」

「そんな事言ったってぇ。3日も。」

「3日も、じゃないわ。3日しかないというべきなのよ。そんなに言うならちょっとこっちにいらっしゃい。」

「なによぅ。」


ミサトはわたしが近づくと、いきなりポケットに手を突っ込んだまま身体を押しつけ、小外刈りを掛けてきた。
バタバタッとなりながらも、何とかバランスをとった。何とか?このあたしが幾ら不意にとは言え、簡単に
転びかけるなんて。


「次はこれよ。いつものアスカなら交わすのはチョロイでしょ。ウン?」


ポケットからミサトが取り出したのは鉢巻だった。それをあたしの目の上に押し付けてキュッと縛った。


「な、何するのよ。」

「簡単なことよ。あたしはあなたを転ばす。アスカは転ばされないよう我慢するというわけ。」

「ばっかみたい。幾ら目隠ししても、来るとわかっているんじゃやられっこ無いでしょ。」

「さあ、どうかしらね。」


目隠しをしても自信満々のわたしに対して、ミサトは鼻で笑って言った。


「じゃあ、わたしに負けたら言うこと聞く?それとも自信ないかしらね。」

「や、やってやろうじゃないっ!」

「女の約束よっ!」

「おうっ!」


そう言って身構えた。
あああ、もうわたしってどうしてこう乗せられやすいのかしらっ!


「始めっ!」


そう叫んだ瞬間ミサトは一歩踏み出し、その気配にわたしは一歩引いた。ミサトの足がすうっと伸びて
足に触れた。単純な小外刈りだった。普段なら簡単にそこを見ることも無く返しただろう。だが、


「あっ!」


かわした体が簡単にバランスを失った。わたしは一瞬空に浮き、畳の上に転がった。目隠しを引き毟った。


「こ、こんなのインチキッ。」

「どこが? わかったかしらん?アスカちゃん。」

「なんでっこうなるのよっ!」

「簡単なことよ。あなたたちは仲間内同士で練習を繰り返してる。皆が皆疲れているから技の切れが鈍ろう
が、スピードが落ちていようが、気がつかなかったということよ。見守っている周囲の人もね。
自分たちよりずっと優れた技巧を持っている人の様子が少々変に感じられても、それを指摘するのには
ためらいが有る。ましてアスカのように自信満々の子にそれが言えるかしら。」


ミサトの言葉から揶揄する調子が消え、静かにそう言った。わたしは畳の上にうずくまったままミサトを
見上げた。ミサトの伸ばした手を握ると引き上げられるようにして立たされた。完敗だわ。


「いいわね、シンジ君、アスカ、そして尾鷲さん。3人はゆっくり3日間休むこと。
その間は調整体操くらいにしておいてちょうだい。朝のランニングも散歩程度にすること。やる事が無ければ
9月末の実力試験の勉強でもしておくのね。」


ミサトの奴、その後わたしたちに念入りに柔軟体操と調整体操のやり方を教え込んだわ。くやしいけどその
運動は、きつかったけれど物凄く気持ちよくって、脂汗を流した後は爽快としか言いようが無かった。
こんなに身体に疲れが溜まっていたなんて。
そのあと、ミサトは両肩にかけてきた3つのクーラーバックをわたしたち3人に渡した。


「これはあたしたちのスポーツ生理学研究所で開発したサプリメントよ。生理体操をした後はこれを300mlほど
飲んでおいて頂戴。血流に乗った老廃物をすばやく排出させるための補助になるわ。では早速小さい方のボトル
ちょうど300あるからそれを飲んで。」

「ちょっと、変な薬とかはいって無いでしょうね。」

「大丈夫、大丈夫、多分。」

「多分ってのが気になるわねっ。」


あたしがそう言ってるのに、シンジはもうごくごくっと飲み干していた。


「あー、これけっこう美味しいや。」


そういう単純明快なところも・・・好きなんだけどさ、もう少し慎重になって欲しいな。





ぽってりぽってりと足音がしそうな打ち萎れての帰り道。肩に担いだ氷詰めサプリのバッグが重い。


「いいのかなあ、こんなことで。」

「いいわけないじゃにのっ!みんな、あのバスト女のいうことに丸め込まれただけじゃないよっ。」

「それで、一番丸め込まれたのが・・・」

「言わないでよっ。どうせあたしが一番はめられたのよっ!もうっ!」


思い出すと頭にくる。シンジはわたしの表情をチラッと見た。


「あっ、笑った!あんた今あたしのことみて笑ったでしょっ。」

「いや、笑ってなんかいないよ。」

「ウソッ。笑ったもんっ。馬鹿だなあって顔して笑ったもんっ!ひどーいっ!」

「ショウシンの乙女の御様子を見て笑ったりなんかしないよ。」


そう言って今度ははっきりと歯を見せて笑った。


「…い、今のは本当にはっきり笑ったじゃないよっ!」

「うん、今のは笑った。そういうムキになってるときのアスカの顔は可愛いから。」

「ばっ、馬鹿言うんじゃ無いわよ!」


そういうとバッグを肩から外してブンと振り回した。久しぶりだ。シンジにこんなこと言われるの。


「こいつっ、からかうんじゃないっ!」


男の子は体をかわして、ついっと2m程先に跳んで逃げた。


「ほら、ミサト先生に激しい運動はダメだって言われたでしょう。」

「そんなの、自分だってっ。こら、逃げるんじゃないわよっ。待てっ。」

「やだよ。それ結構重いんだから。あたったら痛いよ。」

「こういうときは、男は素直に殴られてればいいのよっ。」


シンジはへらへらっと笑い、少し先を逃げていく。その後をわたしはわめきながら追いかけた。
道行く人が笑う。きっと仲良しの2人がじゃれあってるように思ってるんだろう。全体的には
確かにほのぼのとした雰囲気だろうけど、違うわよ。わたし、ホントに怒ってるんだからねっ。
怒ってるのにどうしてか、笑ってる。


「こら、待てっ。」

「待つもんかっ。」


過激な運動はダメって言われるけど、ま、これは練習じゃなくて『日常』だからいいか。





 2日間の休暇が降って湧いた。


次の日の朝。日曜。シンジは何時も通りランニングの格好をしてわたしのアパートメントの前を通り過ぎた。


「おはよっ!シンジッ。」

「ああ、おはようアスカ。」

「今朝はどうする?真っ直ぐ公園に行って体操しましょうか。」

「うん、そのつもりだよ。」


公園の芝生の上で、手を繋いで向き合う。開脚して足の裏をつけ、背中が芝生につき、上体が脚の間に入るほどの
前屈や、側方屈伸を繰り返す。身体を捻り、内蔵筋までリラックスさせる。ミサトに習ったこの屈伸回転をすると
お腹の真ん中が温かくなる。そしてゆっくりと筋肉がほどけていく。指一本一本の先にまでゆっくりと意識を通す。
神経が通っているのを意識する。5分も続けると腰部から股関節、肩甲骨までが柔らかくなる。汗がにじみ出てくる。
そんな事を、ゆっくりゆっくり繰り返し、30分ほど経った。何キロも走ったようにたっぷりと体操着が汗を吸って
いる。
お尻のポケットに突っ込んできた、ミサトの特性サプリを飲む。その時素敵な事を急に思いついた。
サプリのおかげで頭の回転が復旧したかな?


「ねえ、ちょっと。」

「ん、何だい。」

「あのさ、久しぶりに映画でも見に行きたいな。」

「いいね。―ごめん、僕が誘わなくちゃだったね。」

「いいわよ、そんなこと。じゃ、つきあってくれんのね。」

「うん、何時に待ち合わせる?」


あたしはシンジと映画を見に行く約束をして一旦別れた。テンションを下げないように、明るいアニメ映画に。
家に帰ってからは、大急ぎでシャワー浴びたり服選んだりで大騒ぎした。


映画を見て盛り場をくるくる歩いて、ソフトクリームを公園で買って舐めながら歩く。
合宿で毎朝ランニングをしたせいでわたしの顔は随分日焼けしてる。シンジはその健康的なところがわたしらしい
って言ってくれてるからまぁいいかな。武道は美容には良く無いわね。でも公園ですれ違う女の子達の、ほっそり
したラインはあたしには無いもの。身長にあわせた9号の既成服なんか腕が入らないから、わたしのクロゼットは
有名なブランドのしゃれたやつは縁がない。ママが作ってくれた服と、男の子用のシャツばかりだ。スカートも
制服以外には数えるほどしか入っていない。
パパが注文服の店に作らせてくれた、特別な日に着るパーティー用のミニドレスくらいかな。

きちんと梳き上げた頭にした小さな髪飾りと襟元のネックレスやペンダントが唯一のおしゃれ。
高いヒールなんか履いて足をくじいたら大変だから、大抵はスニーカーかパンプスしか履けない。
今日だってスカートじゃなくて、ベージュのコットンパンツだ。そっけない格好だよね。
それでも、シンジはウインドウに映ったわたし達を見て、にこにこしながら言う。


「ねぇ、僕らってみんなにどう見えてるのかな。」


どうって、そこに写ってるのは男の子みたいな青いキャップを被った、赤毛の逞しい女の子と背の高い男の子。
どこをどう見たってごく普通の高校生にしか見えないカップルだ。


「ほら、皆がアスカのこと見てる。」


そんなことないよ。それはシンジの贔屓目だよ。シンジだけがそう思ってくれてるんだよ。
でも、シンジがそう思ってくれてるんだったら、わたしには何の不満も無い。

ジュウシマツが死んだ一件から、わたし達、なるべく会った時、そういう雰囲気にならないようにしてた。
自分たちが浮かれたてたせいで、掛け替えの無いものを失ってしまったことに心が痛んだから。
自分たちにとって、もっと大事なことは、まだ恋愛では無いと思ったから。背伸びする必要は無い。
わたし達には、まだまだ先が有る。でも今この瞬間守らなければいけないもの、今この瞬間目指しているもの。
そっちを優先しなければならないと思ったから。
その事は、別に話し合わなくたってわかった。わたしとシンジはその程度にはもう心が繋がっている。

風が吹いてわたしとシンジの上から花びらが落ちてくる。赤い花びら百日紅の鮮やかな色が、わたしとシンジの
白いポロシャツの上に落ちる。まだきつい陽射しにそれがよく映える。恋する一瞬は、只過ぎる1年より長い。
シンジと過ごす一瞬は無駄な100年も惜しくない刻。だからこそ待っていられる、あなたのことを。
ベンチに座り、ただ見交わすだけの青空の下でのデート。太陽のような笑顔で笑っているシンジがまぶしい。


「アスカ、いよいよ県大会だね。ここを突破すれば全国大会だ。」

「そうね。」

「一緒に全国大会に出よう。僕、頑張るよ。」

「わたしだって、必ず行って見せる。これは初めてのチャンスだもの。」

「僕にとっては最後のチャンスかもしれないけどね。」


またこれだもんな。シンジ、もっと自信持って。


「幸運だけじゃないわ。頑張りがそれを引き寄せたのよ。3位だったら回ってこなかったチャンスだもの。」


わたしは思わずシンジの手を硬く握り締めていた。


「そうだね、確かにそうかもしれない。」

「もっと自信もって。あなた、わたしのパートナーなんだよ。あたしと同じくらい、ううんそれ以上に強い。」


たちまちシンジは照れくさそうに頭(かぶり)を振る。


「とんでもないよ。アスカみたいに実力で勝ち取ったわけじゃないから。」


わたしはシンジの言葉を途中で遮ってはっきり言った。


「ううん、わたしだけじゃない、パパがそう言ってるのよ。シンジ君はこの夏合宿中に凄く強くなったって。
男の子はあるとき突然、一気に強くなる事が有る、シンジ君は今がまさにその時だって。」


シンジ、目を丸くしてる。自分の事って、ホントにわからないものなのね。そうよ、何ヶ月も伸びが無い時も
有る。まるで青竹が伸びるように、音を立てて伸びてるみたいに強くなっていくときってある。その時に一生
懸命やってた人は本当に伸びる。その時を外したかどうかこそが運というものかもしれない。だからこそ毎日
真面目に練習してる人がそのチャンスをものにして、強くなるのかもしれない。天分なんていうものは意外と
皆が思っているほどには影響しない。血がそうさせるなんていう話はそうそうないのよ。それは血ではなく、
毎日見ている、パパやママ、仲間や先生方の生き方の方がずっと影響するのと同じ。


「だから信じて。シンジは強くなった。本当に強くなった。それを一番感じてるのはわたしよ。わたしを信じて。」

「僕、アスカを信じるよ。」

「よろしい。やっぱりシンジは素直が一番よ。へッへ〜ん。」


わたしは自分でも100点満点を上げられるくらい、いい笑顔で笑えたと思う。シンジがわたしを見ている。
わたしもシンジを見つめる。夕方には帰ってきなさいって言われているけれど、少しでも長くこのベンチに
座っていたい。とりとめの無いおしゃべりがとても楽しかった。お昼も食べないうちに終ってしまう今日という日。


街路灯がともっている。メゾネットのアパートメント前で別れた。身体中が温かい思い。2階のポーチの壁から身を
乗り出すと、シンジはまだそこにいて、あたしを見上げ、手を振ってくれた。


「アスカ、全国に、かならず一緒に行こう。約束したよっ。」

「うんっ!」


目を閉じて、その時のイメージを思い描く。きっと行く、行ってみせる。絶対行く。シンジと一緒に。
片手を握って突き上げた。シンジも同じように突き上げてる。わたしたち、繋がっているみたいだと思った。
視線がぶつかって、あたしは微笑んだ。シンジも微笑んだ。長い影が四方に広がってる。


きっと行ける。あなたが微笑んでくれるなら。










第32話へつづく

『もう一度ジュウシマツを』専用ページ

 

 


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 勝負の前のひととき。
 
きっとあのウワバミは私たちにデートをさせるために…なぁんてわけないか。
 大会ではシンジにもがんばってもらわないとね。
 ううん、きっとシンジはがんばるから私も負けないように。
 相手に負けるんじゃなくて自分にね。
 ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、こめどころ様。

 

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