もう一度ジュウシマツを

 

− 33 −

「腹が減っては戦は出来ぬ」


 

こめどころ       2004.10.4(発表)









「アスカ、アスカ起きなさい。」

「え、うう〜もう朝なのぉ〜。」


目の前がぐらぐら揺れる。
ランニングをする日はちゃんと早くからぱっと目が覚めて起きられるのに、休む事が決まってる日は
なぜこんなに眠たいんだろう。ちゃんと昨日の夜は11時に寝たのに。


「何言ってるの、今日は大事な試合があるんでしょ。お父さん待ってるわよ。」

「あっ!――そうだ、試合っ!」


ママが出て行くのと入れ替わりに飛び起きたけど。何よ、外、まだ薄暗い?


「なによ〜まだ暗いじゃない。あ、あれ?」


何か聞こえる。雨音?ブラインドを上げると外は盛んに雨が降っている。あ、これで薄暗かったのか。
そうよね、試合の日はいつも快晴って決まってるのは漫画かアニメの世界だけよね。
ベッドからカーペットに転がり落ちてそれから立ち上がった。いつもの習慣なんだけど変な癖!
そしてドアを開けると大きな声で尋ねた。


「ママ〜、それで今一体何時なの?」


お味噌汁の匂いがぷんと廊下に香っていてお腹を刺激する。


「もう8時近いぞ、急ぎなさい。」


パパが答えた。「いそぎなさーい!」と10歳違いの弟も口真似してあたしを呼んでる。
身体を眠らせたままじゃ拙いわね。
わたしはバスルームに駆け込むとパジャマとインナーを脱ぎ捨てシャワーのカランを回した。
熱いシャワーが身体の上で弾ける。うん、この感じ。体調はすこぶる良さそう。
両腕に力こぶを作ってうんっ、と身体に力を入れる。よしっ、やるぞっ!

さて前にも言ったけれど、全県12ブロックから勝ち上がってきたあたし以外の11人の選手とシードの
4人のうち誰かと当たるわけだ。一体誰と当たることになるだろう。発表は会場に行かないとわからない。
とにかくノンシードのあたしは3回勝たないと決勝に出られない。4回勝ってやっと全国に進めるわけね。
県内一番の激戦区がこの学園都市地区。ライバルも多いから中学時代はなかなか県大会へ進めなかった。
ところが高等部ではうまい具合に全県に強豪高校が散るのよね。それでもシビアなんだけど中学よりはまし。
本気で柔道をずっとやりたい人の中には推薦で学園都市を離れる人も多いから。県外にいく人だっている。
逆も有るけどね。そんなわけで今日は高校になって初めての本格的公式試合ってわけよ。

朝食は柔らかい薄切りのラムとちしゃのサラダ。キャベツと卵のお味噌汁。ご飯を軽く食べていく。
重すぎてもダメ、軽すぎてもダメと言うわけよ。この辺が難しいのよね。まして開場11時、試合は
正午からなんて中途半端なのよね。ランチを取ってる暇が無いし、食べて直ぐ試合って言うのもねぇ。
だからママは小さめのサンドイッチを数を多くして作ってくれた。これなら空腹感を押さえるだけで
済むし、試合の間隔に応じて、その都度カロリーを取る事ができるので便利でしょ。


「どうだ、調子は。」

「ん〜、かなりいいみたいよ。良く眠れたし。」


そういえば昨日は夢も見ないで眠り込んでた。熟睡できるって事は体調がいいって事よね。
野菜ジュースとミルクを飲み干す。ぷはぁ。おいしいっ!


「その食べっぷりから見て万全て感じね。頑張ってきなさい。私も後から行くからね。」

「ぼくも行くからね。お姉ちゃん。」

「じゃあ、今日は家族全員集合ってわけね。開会式から一緒に行けばいいのに。」

「開会式の祝辞だなんだの間、この子がもたないんじゃ無いかと思って。騒いだりしたらいけないでしょ。」

「大丈夫よ。いい子だもんねー。」


そう言うと弟は目を丸くして大きくこっくりと肯いた。
弟は一年生に今年なったばかり。もう可愛いったらない。灰青色の瞳とブラウンの髪、少年らしいシルエット。
手足は大きいからこれからきっと大きくなるわね。パパだってあんなに大きいんだから。
あたしの方はもう伸びないだろうなと毎年思うけどスポーツをやっているせいか、まだ少しずつ伸びてるの。
夏休み明けには、ついに161cmになった。誰も気がつかなかったけどあたしには万歳もんよ!


「うんっ!僕だってもう1年生だから。騒いだりしないよ。」

「それより心配なのはパパの方よ。試合の途中でアスカ〜ッなんで叫ばないでよぅ?」

「大丈夫ちゃんと見張ってますって。」

「ママ、おねがいっ!」

「そりゃあないだろう?娘の応援してなにが悪いって言うんだ?」

「だって…恥ずかしいじゃない。とにかく応援禁止絶対禁止。パパの声大きいんだから目立ちすぎなのよ。」


――パパは少し残念そうというか悔しそうな顔をした。ちょっと可哀そうだったかな。
  さてッ、食べ終わったし。歯も磨きなおしたし、出かけるかぁ。!


「じゃあ行きましょうか。ねぇパパやっぱり皆で一緒に行きましょうよ。ママたちの準備も終ってるんだし。」

「そうだな、そうするか。」


あたしは柔道着とタオル、そしてお弁当の入ったスポーツバッグを肩に掛けた。





 やっぱり泊まらないで家からくればよかったな。僕がそう思ったのは朝食が余りにも貧弱だったからだ。
どこで売ってるんだろうと思うほど薄くて小さい鮭の切り身。キャベツばかりのサラダ。薄いポタージュ。
ハムだって向こうが透き通って見えるんじゃないかと思っちゃうくらい。スクランブルエッグはぼろぼろ。
朝粥は結構美味しいと思えたけど、何杯も食べるような物じゃないしこれは佃煮が美味しいだけだな。
なにしろ肝心な御飯が決していいお米ではない。水気が足りなくてパサパサしている感じだ。
父さんはいつでも9月になれば早出しの新米を買い込むので、ここ暫く美味しいご飯を食べていたため
なおさら舌が美食に慣れちゃったんだな。

でもこんなんで朝食1200円なんてぼり過ぎだ。尾鷲さんは家が遠いから仕方ないかもしれないけど、
僕のうちからはせいぜい1時間程度。乗り継ぎが悪くても1時間半。家で食べてから会場に来ればよかった。

――レイかリツコ母さんが気を利かして弁当を作って来てくれるといいんだけどなぁ。

しょうがないから朝粥の他に唯一美味しいと思えた牛乳を、コーヒーと混ぜたりして飲んでいた。
飲みながらゆっくり周囲を見回していると、結構高校生が多いように思う。
今日は柔道の大会しか無いからもしかしたら試合で当たるような人が大勢混じっているのかもしれない。

あそこの黙々と食べ続けている丸坊主の集団は北部の私立巌松高校の一団だ。先輩が食べ終わると後輩が
茶碗を受け取りに走ったりしてる。やっぱり私立の強豪は上下関係厳しいんだな。
うちも私立だけど学年がどうこうっていう上下関係はさほど無いから違和感を感じる。

こっちの4人の集団は県立湖南のジャージを羽織ってる。
確か湖南は惣流があたるノンシードの女の子がいるはずと思い出し、ちらちら見る。あのひげが先生だな。
大きな背の高い子と、がっちりした感じの機敏そうな子、そして多分一年生のおとなしそうな子。
多分あの子は軽量級だな。先輩の試合の見学か、もしかしたらマネージャーかもしれない。


「よっ、碇くん。おはよう。」


後ろからいきなり肩を叩かれた。合宿で一緒だったJ体育大付属のおっさん――いや、直本主将だった。


「直本さん! おはようございますっ。」

「おいおい、そんなに畏まるなよ。君らのところはもっとざっくばらんな学校だったろ。」

「いや、そんなことはないですよ、挨拶なんかは結構煩いです。」

「そりゃ、学校全体としてであって部活で先輩がむやみに威張ってるってのは違うだろ。」

「はぁ、それはそうですけど。」

「ほら、君の彼女の惣流さんと言ったかな、あの子なんかは俺の事『おっさんおっさん』て呼んでたんだぜ。」

「ええっ。そりゃひどい。済みません、あいつ口が悪くて…最初に憶えた日本語が下町だったみたいで。」


アスカが、というよりラングレーさんが、と言うべきなんだろうな。留学生かなんかだったって事はもしかして
父さんあたりの口調が移ったということも考えられるし。


「ま、確かに俺はおっさん顔だけどな。一年にOBの方ですかって言われたときはさすがにがっくりしたよ。」


苦笑しながら明るく笑う。僕は夏休みに『いい試合だった』と握手を求められた時の事を思い出した。
いい人だな。根っから前向きに明るい人なんだ。対戦する他の選手について情報交換をする。
僕が出場する軽重量級は60kg以上85kg未満。重々量級は85kg以上120kg未満だ。
それ以上は体重別無差別級ということになる。ちなみに軽量級は60kg未満ということになる。
直本さんは90kg以上あるから重々量級という事で僕とは当たる機会が無い。


「無差別級はさすがに大きな奴が多いな。今回女子が2名も県大会出場を決めて来たのは驚きだよ。」


アスカの事を思い出し、全体のスケールがあんなに大きな人達と、あの小柄なアスカとが戦うのかと、
今更ながらあの子の勇気に驚いてしまう。
159cmが160幾つになったところで大勢に影響は無い。体重が少し増えても同じ事だ。
彼女の武器はその圧倒的なスピードだ。適確な崩しと正確な技の切れ味があいつに勝利をもたらす。


「組み合わせは10時に張り出されるそうだ。君や惣流くんが誰と当たるか楽しみだな。」

「そうですね。直本さんも頑張ってください。」


背中がブルっと震えた。気がつくと額に汗が滲んでいる。お絞りで額を拭う。
具体的な試合の話を持ち出されて、全身の筋肉が反応し、やっと目を醒ましたように思えた。


「じゃあ、また会場でな。」


直本さんと別れ、ロビーに出ると、雨の中で前庭の芝生に陣取り、屈伸や柔軟をやっている人達がいる。
ヤッケを着て湖を取り巻くランニングロードをゆっくり走っているグループもある。
尾鷲さんとミサト先生は相変わらず起きてこない。
もう直ぐ8時半だというのに余裕綽々だな。身体を動かす必要はないと言ってたけど、こればかりは習慣に
近いのでむずむずする。犬が毎朝散歩に行きたがるようなものだ。
県大会の会場はこのホテルの正面3軒目の県立体育館の武道館。トラックが止まって中からいろいろな
式典のための道具が運び込まれていくのが見える。県知事が来るとか聞いてるけど、この事大主義は何とか
ならないものなのかな。まあ少なからず予算を貰ってるからしかたないのかな。その割にはいろいろと
昇段審査とか指定の選手用道着とかお金が掛かる。登録料なんて犬みたいだ。予防注射はいいんですか?
どうも皮肉っぽくなってるのは、いらいらしてる時の僕の癖だ。いけないいけない。平常心、平常心。
さて、そろそろ僕も着替えて少し歩き回ってみよう。ミサト先生には伝言を残していけばいいや。




ラングレー一家会場に到着。まだ早いと思ってたけれど結構人が多い。


「アスカ、組み合わせの発表はどうなってる。」

「ええと、もう発表されてるはずだけどなー」

「お姉ちゃん、あそこ。」


弟が指差す方向に人だかりがあった。ああ、あれが組み合わせ表だ。
割り込んで前に出ると、ちょうど混合無差別の前に出た。東会場のAコートの第2試合。
相手は…県立奥三峡高校の野苅谷芳樹。頭の中に入れたデータファイルを思い出す。3年生2段でたしか
昨年も出場して3回戦まで進んだ人だ。足技が得意なんだよね。奥三峡は県内でも一番山奥の風光明媚な
ところで林業が盛んなところ。きっと足腰が鍛えられてるんだろうな。この人に勝つと、お、ラッキー。
第一シードの人と隣の第一試合の勝者があたった勝者と三回戦になるのか。儲け儲け、体力温存できる。

次はもちろんシンジのでる男子軽重量級の組み合わせ。うわ、昨年の準優勝者第1シードと2回戦で
当たってる。あれ、1回戦はインターナショナルのシュナイダーじゃない。あの二人、縁あるわねー。


「アスカ、どうだ。どこと当たった。」

「県立奥三峡高校。」

「奥三峡の山猿か、一撃だな。」

「ちょっと変なこと言わないで!そこの選手だって一生懸命練習してきてるんだからっ。」

「お、わ、悪い。昔は互いにそんなこと言いあって闘志を高めたものなんだ。」


周囲の人たちが一斉に振り返った。
パパは慌てて、でっかい身体を小さくし、おろおろ言い訳した。


「人がどうであれ、そういうのはあたしは嫌いっ。柔道を汚すような言動を取らないで。」

「私もそう思うわ。これはお父様が悪かったですね。」

「あ、ミサト先生。」「葛城君。」


パパは身体を小さくしたままママに引っ張られて退場。もう最初ッから目立っちゃったじゃないのよ。


「あっ、あのっ!」

「はいっ?」


誰かが話しかけてきた。柔道着の胸に県立湖南の文字。


「今のやりとり、感動しました。そうですよねっ、学生柔道てもっと純粋な物ですよね。」

「は、はぁ。」

「野蛮で下品なああいう言動は、おかしいと思うんです。冗談じゃすまないって。」

「そ、そうよね、ははは。」

「わたしっ、惣流さんの言った事正しいと思います。断固支持です。これからも頑張ってください。」

「ありがと、うん、ありがとうね。」


あたしは笑顔を顔に貼り付けたまま、その場を脱出した。
自分の言ったことは正しいと思うけど、ああいう思い込みの強い人はちょっと怖いかなー。
それもこれもパパの時代外れの発言のせいよ。少し反省すべきだわっ。


「どうしたの、アスカ。」

「シンジじゃない。もう組み合わせ表見た?」

「見た見た。初っ端から3年生で、次はシードだよ。勝てるかな。」

「また弱気出すんだから。あんたなら勝てるわよ。シュナイダー君は合宿の時にも連勝したじゃないの。
負けたのはその前の話なんだから大丈夫よ。第一シードだって、優勝者じゃなくて準優勝者よ。勝目は
十分あるわ。」


背中をバシバシ叩いて励ます。シンジは「そうかな。」「そうだよね。」「がんばるよっ。」って
だんだん元気になって手を振りながら更衣室の方へ消えていった。

はぁ、疲れた。全くあいつをよいしょするのも大変だわ。男ってどうしてこう本番に弱いんだろう。
こうやって励ましてやるのも妻の大事な心がけよね。将来役に立つかなっと思ったとたん急に顔に火がついた。
やだもぅ、何考えてるんだろうあたし。馬鹿シンジはこれでよしっ、自分の準備をしなくちゃ。


「じゃあ、ママ、パパあたし着替えに行くから2階席のうちの学校のとこの近くにいてねっ!」

「お姉ちゃん、がんばって!」

「うん、頑張るぞ、弟よっ!」


なんか、試合前に色々あったんで気疲れしちゃった。急がないと開会式始まっちゃうじゃない。



 

 私が会場に弓道場の人たちと着いたのは11時15分前だった。高速で故障車があって渋滞したためだ。
そのうえ、会場の近くの駐車場は既に一杯になっていて大分離れた所に停める羽目になったせいだった。
応援の旗とかそういうものと人だけ会場に先に降ろしてマイクロバスの運転をしてくれた人だけ駐車場から
走って来る事になったのだけど、お兄ちゃんの応援に来てくれた人だけ濡らすわけにいかないと思い、
私も駐車場から一緒に走って戻った。
こういうのは合理的じゃないと思うけど、気が済まないことはしたくない。

2階の観覧席に上ると、正面にに大会旗と日章旗と県旗。学校ごとの校旗と応援旗が広い体育館のテラスに
ぐるりと取り巻くように並んでいる。
私達の前には旧地の塩と旧修永館の校旗と森の原校旗の3枚が並べられていた。
15校の選手が階級別(軽量級、中量級、軽重量級、重量級、無差別級の階級)に別れ入場してくる所だった。
と言っても森の原からは3人だけ。いたいた、お兄ちゃんとアスカちゃんと、少し小柄な女子選手。


「どうしたの?こんなに濡れちゃって。だいぶ外、雨が強くなってた?」


リツコ母さんが私を引き寄せてタオルで髪を拭いてくれた。アスカちゃんの一家も後方に控えている。
アスカちゃんのママとパパと弟が会釈をしてきた。それにぺこりと挨拶を返す。


「大丈夫。私が健康一番なの知っているでしょ。」

「まぁそれはそうだけど、ここ冷房強めだから乾くまでタオル被っていなさい。」


私を見つけてクラスの子達が駆け寄ってきたけど、足をとめて近寄ってこない。


「どうしたの?こっちに座りなさいよ。」

「で、でも〜。」


目線をたどるとお父さんを見ている。


「大丈夫よ、この人わたしのお父さんだから。」

「ええっ!」

「わぁ…すごい。」


どうせお父さんは悪人面よ。やさしくていいお父さんなんだけどなぁ。


「レイがいつもお世話になっている。レイの父です。」


珍しくお父さんが自分から口を開いた。しかし、浮かべた笑いでますます怪しくなった。
何とか横の席につかせると、お母さんが優しい笑顔で挨拶したのでやっと落ち着いたようだ。
お兄ちゃんもお父さんもほんとに世話が焼けると言うか。
弓道部の子たちは見慣れているため、怖れることなく真っ直ぐにやって来る。


「レイ、お兄ちゃんカチカチだね。両手両足一緒に出しそう。ふふっ。」

「惣流先輩って、夏休みの間に少し大きくなったんじゃない?あの二人その後どうなってんの?」


質問も遠慮会釈ない。クラスメートたちが悲鳴を上げる。


「ええ〜っ。碇先輩って惣流先輩とできてんのっ?」

「今更何言ってんのよ、有名な話じゃん。」

「聞いてないわよ〜。」

「ああもう、あなた達少し静かにしなさい。ほら挨拶が始まるわよ。」


リツコ母さんが言ってくれたのでやっと静かになった。でも、意外とお兄って人気あるのかなぁ。
前はアスカさんの事中心で聞かれたもんだけど、最近お兄が話題に上がるようになったもの。

大会委員長の挨拶、知事の挨拶、文部大臣の代理の挨拶、選手宣誓。式は滞りなく終った。
終了後5分もしないうちにアスカちゃんとお兄ちゃんが駆け戻ってきた。もう一人の尾鷲さんとかいう
人も葛城先生と一緒に戻ってきて、階段席の下のほうにすわった。


「ねぇ、何か作ってきてくれた?」


お兄ちゃんは開口一番そう言った。ホテルの朝御飯美味しくなかったんだね。
リツコ母さんは、心得たとばかりににっこり笑うとクーラーボックスを椅子から持ち上げて開いた。
中から小ぶりのお握りとか、マカロニポテトサラダとかチキンチューリップを取り出した。すごい。
さすがに手抜かりないのね。それをお兄にとって渡す。お兄ちゃんがかぶりつく。麦茶を飲む。


「それとこれをミサトに届けて頂戴。」


別の大きなパックを渡された。階段席の下で葛城先生が指をくわえてこっちを見てる。思わず吹いた。


「まぁ、あの人とも長い付き合いなわけよ。」

「了解。届けてきます。」


葛城先生は両手を合わせてそれを受け取って、お母さんに向かってさらに両手を合わせて伏し拝んだ。
この二人、どういう関係なのかしら。
見上げると、アスカちゃんも一家でお弁当を広げている。
ぱくぱくサンドイッチにかぶりついてる彼女が見えた。
そりゃ、腹が減っては戦が出来ぬとかいうけど、そんなに食べたら動けなくならない?







第34話へつづく

『もう一度ジュウシマツを』専用ページ

 

 


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 さあさあ、ついに来たわよ、決戦の朝。
 
私もシンジもちゃんと食べてる。
 少し前だったらシンジなんか喉に通らないところよね。
 こんなにシンジがたくましくなったのは、何の所為?
 ふふふっ、そんなの決まってんじゃんっ。
 わ、た、し、よ、私。
 私の愛の力に決まってんでしょ!
 いよいよ次回は試合?がんばるわよ、ねっシンジ!
 ホントに素晴らしい作品をありがとうございました、こめどころ様。

 

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